外務省時代
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大学院修了後はチェコスロバキアのプラハのカレル大学に留学し本格的にフロマートカに関する研究をするという希望を持っていたが、フロマートカは反ソ主義的な神学者であり、フロマートカの研究を冷戦下であり、「科学的無神論」を国是とするチェコスロバキアで行うことは事実上不可能であったため一度は断念した。しかし、外務省職員(専門職)になればチェコ語研修を名目にチェコスロバキアに行けると考え、1985年4月にノンキャリアの専門職員として外務省に入省(2度目の外務省専門職試験受験で合格した)。しかし、外務省から指定された研修言語は希望していたチェコ語ではなくロシア語であり、5月に欧亜局(2001年1月に欧州局とアジア大洋州局へ分割・改組)ソビエト連邦課に配属された。なお、当時のソ連課長は野村一成、首席事務官は宮本雄二(後の駐中国大使)であった。 1986年夏にイギリス・ロンドン郊外ベーコンズフィールドの英国陸軍語学学校(Defence School of Languages)で同期の武藤顕(キャリア、2014年から欧州局大使)と共に英語やロシア語を学んだ後、1987年8月末にモスクワ国立大学言語学部にロシア語を学ぶため留学した。その中で哲学部科学的無神論学科の講義にも参加するようになった。当時のソ連では「科学的無神論」という国是からキリスト教や各宗教に関する研究を行っていた。例として、「キリスト教終末論の諸類型とその階級的特質」、「啓蒙主義思想に対するプロテスタント神学者の批判とその問題点についての検討」、「ニコラウス・クザーヌスの全一性概念に対する批判的検討」、「ブルトマンによる聖書の脱神話化仮説の学説史的意義とその批判」、「解放の神学とカトリック教会の教権制度の矛盾」など、同志社大学で学んだキリスト教を社会主義の立場から批判、検討するような内容が多かった。ちょうど1988年のロシア正教導入1000年紀にもあたっていたこともあり、ソ連では宗教への理解が進んでいた時期でもあった。またロンドンでは、亡命チェコ人の古本屋店主夫妻とも親しくなり、当時チェコスロバキアなど東欧諸国では一般での発売や閲覧が禁止されていた神学や宗教関係の書物を手に入れることもできた。当時チェコスロバキアなどの東欧社会主義国は外貨節約のため、国内では流通させたくない神学関係や反共的な書物を、西側諸国の最新の科学技術の書物や辞書・辞典と物々交換していた。その亡命チェコ人古本店主は、その物々交換の窓口であったとされる。そのチェコ人店主は、元々はBBCのチェコ語アナウンサーだったが、引退後は社会主義国から救い出した書籍をアメリカ合衆国議会図書館やイギリスの大英博物館(大英図書館)、オックスフォード大学やケンブリッジ大学などに納品することで生計を立てていた。妻はケンブリッジ大学でチェコ語の教師をしていた。 1988年から1995年まで在ソ連・在ロシア日本国大使館に勤務し、1991年の8月クーデターの際、ミハイル・ゴルバチョフ大統領の生存情報について独自の人脈を駆使し、東京の外務本省に連絡する。アメリカよりも情報が早く、当時のアメリカ合衆国大統領であるジョージ・H・W・ブッシュに「アメイジング!」と言わしめた。また、国会議員としてロシアを訪れていた参議院議員猪木寛至に便宜を供与したこともあり、現在でも親交は続いている。この時期、佐藤はソ連科学アカデミー(現・ロシア科学アカデミー)民族学人類学研究所にも「学位論文提出権有資格者」と認められ、研究員として正式に出入りすることを許されており、市中には出回っていないソ連の民族問題に関する書籍も図書館で自由に読めた。 日本帰任後の1998年には、キャリア扱いに登用され、国際情報局分析第一課主任分析官となる。課長補佐級、佐藤のために急造されたポストとされるが、政府は正式に否認している。しかし、佐藤以後にこのポストに就いた人間はいない。内閣総理大臣橋本龍太郎とロシア連邦大統領ボリス・エリツィンのクラスノヤルスク会談に基づく2000年までの日露平和条約締結に向けて交渉する。また「チェルノムイルジン首相更迭」や「エリツィン大統領辞任と後継者プーチン」等の情報を正式発表前にいち早くつかみ、日本外交政策に貢献した 外務省勤務のかたわら、モスクワ大学哲学部に新設された宗教史宗教哲学科の客員講師(弁証法神学)や東京大学教養学部非常勤講師(ユーラシア地域変動論)を務めた。また、雑誌『世界』(岩波書店)の「世界論壇月評」担当など論壇への寄稿に加え、フロマートカの自伝の翻訳出版(1997年)、『福音と世界』『基督教研究』といった雑誌に執筆するなど、神学方面の学問的活動も行っていた。
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