ヤマドリ 分布と亜種

ヤマドリ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/17 14:08 UTC 版)

分布と亜種

日本の固有種であり、本州四国九州に生息する[2][5][6][7]。生息する地域によって羽の色が若干異なり、後述の5亜種に分けられている。

羽色は温度や湿度によって決定し(寒冷地の個体は羽色が薄く暖地の個体は羽色が濃くなる)、同地域でも南北で変異が生じるとする報告例もある[6]。一方で尾羽の形態や腰の白色斑は遺伝的要因が影響していると考えられている[6]。なお、これらの亜種の分布域は明瞭でないため、検討が必要とされている[15]

  • ヤマドリ(山鳥) S. s. scintillans (Gould, 1866)
別名キタヤマドリ(北山鳥)。
本州(北緯35度20分以北および島根県北部、兵庫県北部より北)に分布する[15]
細く短い尾羽を持ち、全身の羽色は淡色[6]。腰の羽毛は羽縁が白く、肩羽や翼の羽縁も白い[6]
基亜種アカヤマドリに対して色彩が異なることから、1866年にアメリカ合衆国のグールドにより別種として記された[4]
ウスアカヤマドリの雄
Syrmaticus soemmerringii subrufus
  • ウスアカヤマドリ(薄赤山鳥[2]S. s. subrufus (Kuroda, 1919)
本州(北緯35度20分より南の太平洋側、千葉県静岡県、三重県、和歌山県山口県)および愛媛県南部に分布するとされる[15]
尾羽は細い個体も太い個体もおり、全身の羽色は赤みがかる[6]。腰に白色斑が入り、肩羽や翼の羽縁がわずかに白い[6]
静岡県の採集標本から、黒田長禮により、1919年に別亜種として記された[4]
  • シコクヤマドリ(四国山鳥[2]S. s. intermedius (Kuroda, 1919)
兵庫県南部および中国地方鳥取県、島根県南部、岡山県広島県、山口県東部)と四国地方(香川県徳島県高知県)に分布するとされる[15]
細長い尾羽を持ち、全身の羽色はやや濃色[6]。腰の羽毛は羽縁が白く、肩羽や翼の羽縁がやや白い[6]
愛媛県の採集標本から、黒田長禮により1919年、別亜種として記された[4]
  • アカヤマドリ(赤山鳥[2]S. s. soemmerringii (Temminck, 1830)
九州北中部[6]福岡県佐賀県長崎県大分県から、熊本県北部、宮崎県北部)に分布するとされる[15]
太く長い尾羽を持ち、全身の羽色は濃色[6]。腰の羽毛に白色部がなく、肩羽や翼にも白色斑が入らない[6]
基亜種。長崎に滞在したシーボルトの収集標本に対し、1830年、オランダのテミンクによってヤマドリとして初めて記された[4]
九州中南部(熊本県南部、宮崎県南部、鹿児島県)に分布するとされる[15][16]。準絶滅危惧種[16]
太く長い尾羽を持ち、全身の羽色は濃色[6]。腰の羽衣が白く、肩羽や翼に白色斑が入らない[6]
東京帝国大学教授であった飯島魁の送った標本から、1902年にイギリスのドレッサーによって、飯島の名を種小名として記された[4]

種小名 soemmerringii は、ドイツの解剖学者ゼンメリング(Sömmerring)への献名である[2]

交雑

野生状態でキジとの交雑が生じる[17]が、交雑個体に対し科学的な分析を行った文献記録は少なく[18]、繁殖力の有無等は明かでは無い。


  1. ^ The IUCN Red List of Threatened Species
    • BirdLife International 2012. Syrmaticus soemmerringii. In: IUCN 2012. IUCN Red List of Threatened Species. Version 2012.1.
  2. ^ a b c d e f g h i j 安部直哉(解説)、叶内拓哉(写真)『山溪名前図鑑 野鳥の名前』山と溪谷社、2008年、330-331頁。ISBN 978-4-635-07017-1 
  3. ^ 日外アソシエーツ 編『難読誤読 鳥の名前 漢字よみかた辞典』日外アソシエーツ、2015年、20・69-70・75頁。ISBN 978-4-8169-2558-0 
  4. ^ a b c d e f g 川路則友「見られそうで見られないヤマドリ」『BIRDER』第27巻第1号、文一総合出版、2013年1月、34-35頁。 
  5. ^ a b c d e C.M.ペリンズ、A.L.A.ミドルトン 編「日本における繁殖鳥リストI」『動物大百科7 鳥類I』黒田長久監修、平凡社、1986年(原著1984年)、184頁。ISBN 4-582-54507-6 
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 黒田長久、森岡弘之監修『世界の動物 分類と飼育10-I(キジ目)』(東京動物園協会、1987年)pp.113-114、p.177
  7. ^ a b c d e f 環境庁 『日本産鳥類の繁殖分布大蔵省印刷局、1981年
  8. ^ 高野伸二『フィールドガイド日本の野鳥』(増補改訂新版)日本野鳥の会、2015年(原著1982年)、196頁。ISBN 978-4-931150-62-1 
  9. ^ a b c d e f 高野伸二『カラー写真による 日本産鳥類図鑑』学校法人東海大学出版会、1981年、248-249頁。 
  10. ^ a b c d 清棲幸保『日本鳥類大図鑑 II』(増補改訂版)講談社、1978年、753頁。 
  11. ^ 小笠原暠「冬期のキジとヤマドリの生息環境と食性について」『山階鳥類研究所研究報告』第5巻第4号、山階鳥類研究所、1968年、351-362頁、doi:10.3312/jyio1952.5.4_351 
  12. ^ 春の山林に響く 100ヘルツの重低音”. National Geographic. 連載: 日本だけの翼. ナショナル ジオグラフィック協会. 2021年6月20日閲覧。
  13. ^ ヤマドリ、実は「一夫一妻」 津の獣医師が発見”. CHUNICHI Web. 中日新聞 (2012年3月7日). 2012年3月7日閲覧。[リンク切れ]
  14. ^ a b 丸猶丸、一戸健司、斉藤臨、平林忠「ヤマドリ (Phasianus soemmerringii scintillans) の増殖に関する研究 I. 人工授精による繁殖成績」『日本家禽学会誌』第5巻第2号、日本家禽学会、1968年、96-101頁、doi:10.2141/jpsa.5.96 
  15. ^ a b c d e f 日本鳥学会(目録編集委員会) 編『日本鳥類目録』(改訂第7版)日本鳥学会、2012年、3-4頁。ISBN 978-4-930975-00-3 
  16. ^ a b 環境省 自然環境局 生物多様性センター:絶滅危惧種情報(動物)- コシジロヤマドリ -
  17. ^ 蜂須賀正氏キジとヤマドリの雜種について」『鳥』第13巻第62号、日本鳥学会、1953年、40-43頁、doi:10.3838/jjo1915.13.62_40 
  18. ^ 風間辰夫「キジ科鳥種の雑種の増殖と識別について」『日本鳥類標識協会誌』第26巻第1号、日本鳥類標識協会、2014年、11-12頁、doi:10.14491/jbba.00052 
  19. ^ a b c d [Dream]日立移住 ヤマドリ繁殖挑戦/忘れられない味 育てたい東京新聞』夕刊2024年6月8日1面(同日閲覧)
  20. ^ 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行規則(平成十四年環境省令第二十八号)”. e-Gov法令検索. 環境省 (2019年12月14日). 2020年8月13日閲覧。
  21. ^ 丸猶丸、一戸健司ほか「ヤマドリ, キジの人工授精に関する研究」『日本家禽学会誌』第3巻第2号、日本家禽学会、1966年、83-87頁、doi:10.2141/jpsa.3.83 
  22. ^ a b 猟鳥増殖事業 群馬県猟友会
  23. ^ 第11次鳥獣保護管理事業計画 静岡県 (PDF)
  24. ^ a b 養殖ヤマドリ放鳥後のテレメトリー調査 東京都 (PDF)
  25. ^ 日本キジ・ヤマドリ養殖センター
  26. ^ 川路則友、山口恭弘、矢野幸弘「栃木県において野外個体群の回復のために放鳥されたヤマドリの運命」『山階鳥類研究所研究報告』第34巻第1号、山階鳥類研究所、2002年、80-88頁、doi:10.3312/jyio1952.34.80 
  27. ^ 大津正英「テンの冬期の食性」『日本応用動物昆虫学会誌』第16巻第2号、日本応用動物昆虫学会、1972年、75-78頁、doi:10.1303/jjaez.16.75 
  28. ^ 広辞苑』第五版「山鳥」の項
  29. ^ 東洋大学民俗研究会『南部川の民俗 ―和歌山県日高郡南部川村高城清川村―』昭和55年度号(1981年)474頁
  30. ^ 長沢利明「塩原の民俗知識および俗信」『常民文化研究』通巻12号(常民文化研究会、1988年)8頁
  31. ^ 臼井健二「八面大王と穂高の地名」『信濃路のエンジョイライフ』1980年10月


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