ヤマドリ ヤマドリの概要

ヤマドリ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/17 14:08 UTC 版)

ヤマドリ
ヤマドリの亜種であるキタヤマドリ
S. s. scintillans
保全状況評価[1]
NEAR THREATENED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
: キジ目 Galliformes
: キジ科 Phasianidae
: ヤマドリ属 Syrmaticus
: ヤマドリ S. soemmerringii
学名
Syrmaticus soemmerringii
Temminck, 1830
和名
ヤマドリ
英名
Copper Pheasant
亜種
  • ヤマドリ S. s. scintillans
  • ウスアカヤマドリ S. s. subrufus
  • シコクヤマドリ S. s. intermedius
  • アカヤマドリ S. s. soemmerringii
  • コシジロヤマドリ S. s. ijimae

形態

雌(左)と雄(右)

雄は全長約125cm[5]、翼長20.5-23.5cm[6]。雌は全長約55cm[2][6][7](52.5cm[8]) 、翼長19.2-21.9cm[9]。体重は雄0.9-1.7kg (0.943-1.348kg[10]) 、雌0.7-1kg[6] (0.745-1.000kg[10]) 。は雄のほうがかなり長く、尾長は雄が41.5-95.2cm、雌が16.4-20.5 cm[9]。尾羽の数は18-20枚[6](16-20枚[10])。雄の羽色は極彩色のキジと異なり、金属光沢のある赤褐色を呈する。およそ頭部の色が濃く、胴体から脚にかけて薄くなる傾向があるが、その程度は亜種により異なる。よく目立つ鱗状の斑紋がある。目立つ冠羽はないが、興奮すると頭頂の羽毛が逆立ち冠状に見えることもある。顔面にキジ同様赤い皮膚の裸出部がある。雄の尾は相対的にキジよりも長く、黒、白、褐色の鮮やかな模様がある。雄は脚に蹴爪を持つ。雌の羽色は褐色でキジの雌に似るが、キジの雌より相対的に尾が短い[9]

生態

和名の「ヤマドリ」は山地に生息することに由来する[2]。主に標高1500メートル以下の山地森林や藪地(灌木叢林)などに生息し[10]渓流の周辺にあるスギヒノキからなる針葉樹林や、下生えがシダ植物で繁茂した環境を好む[7]。冬季には群れを形成する[7][5]

食性は植物食傾向の強い雑食[11]、植物の葉、果実種子、果物、山菜、昆虫クモ甲殻類、陸棲の巻貝ミミズなどを食べる[7][5][6]

鳴くことはまれだが、繁殖期になると雄は翼を激しく羽ばたかせ、非常に大きな音を出す(ドラミング母衣〈ほろ〉打ち)ことで縄張りを宣言するとともに、雌の気を引く[12]。また、ドラミング(ほろ打ち)の多くは近づくものに対する威嚇であるともされる[4]

木の根元などに窪みを掘り、木の葉や枯れ草、羽毛を敷いた直径20cm、深さ9cmに達する巣に、4月から6月にかけて6-12個(7-13個[9])のを産む[7][6]。卵は長径4.8cm(4.4-5.15cm[9])、短径3.5cm (3.3-3.65 cm[9]) で、殻は淡黄褐色[6]。雌のみが抱卵し、抱卵期間は24-25日[5]

婚姻形態は一夫多妻であると推定されていたが、実際は一夫一妻であることが三重県津市獣医師によって突き止められた[13]

丸猶丸ほか (1968) によれば、48個体の飼育環境下での産卵数は5-40個、産卵期間は10-97日と個体差が大きかったとしている[14]。また、繁殖適齢期は3-4歳。雌雛の発生は雄雛よりも多いと報告されている[14]


  1. ^ The IUCN Red List of Threatened Species
    • BirdLife International 2012. Syrmaticus soemmerringii. In: IUCN 2012. IUCN Red List of Threatened Species. Version 2012.1.
  2. ^ a b c d e f g h i j 安部直哉(解説)、叶内拓哉(写真)『山溪名前図鑑 野鳥の名前』山と溪谷社、2008年、330-331頁。ISBN 978-4-635-07017-1 
  3. ^ 日外アソシエーツ 編『難読誤読 鳥の名前 漢字よみかた辞典』日外アソシエーツ、2015年、20・69-70・75頁。ISBN 978-4-8169-2558-0 
  4. ^ a b c d e f g 川路則友「見られそうで見られないヤマドリ」『BIRDER』第27巻第1号、文一総合出版、2013年1月、34-35頁。 
  5. ^ a b c d e C.M.ペリンズ、A.L.A.ミドルトン 編「日本における繁殖鳥リストI」『動物大百科7 鳥類I』黒田長久監修、平凡社、1986年(原著1984年)、184頁。ISBN 4-582-54507-6 
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 黒田長久、森岡弘之監修『世界の動物 分類と飼育10-I(キジ目)』(東京動物園協会、1987年)pp.113-114、p.177
  7. ^ a b c d e f 環境庁 『日本産鳥類の繁殖分布大蔵省印刷局、1981年
  8. ^ 高野伸二『フィールドガイド日本の野鳥』(増補改訂新版)日本野鳥の会、2015年(原著1982年)、196頁。ISBN 978-4-931150-62-1 
  9. ^ a b c d e f 高野伸二『カラー写真による 日本産鳥類図鑑』学校法人東海大学出版会、1981年、248-249頁。 
  10. ^ a b c d 清棲幸保『日本鳥類大図鑑 II』(増補改訂版)講談社、1978年、753頁。 
  11. ^ 小笠原暠「冬期のキジとヤマドリの生息環境と食性について」『山階鳥類研究所研究報告』第5巻第4号、山階鳥類研究所、1968年、351-362頁、doi:10.3312/jyio1952.5.4_351 
  12. ^ 春の山林に響く 100ヘルツの重低音”. National Geographic. 連載: 日本だけの翼. ナショナル ジオグラフィック協会. 2021年6月20日閲覧。
  13. ^ ヤマドリ、実は「一夫一妻」 津の獣医師が発見”. CHUNICHI Web. 中日新聞 (2012年3月7日). 2012年3月7日閲覧。[リンク切れ]
  14. ^ a b 丸猶丸、一戸健司、斉藤臨、平林忠「ヤマドリ (Phasianus soemmerringii scintillans) の増殖に関する研究 I. 人工授精による繁殖成績」『日本家禽学会誌』第5巻第2号、日本家禽学会、1968年、96-101頁、doi:10.2141/jpsa.5.96 
  15. ^ a b c d e f 日本鳥学会(目録編集委員会) 編『日本鳥類目録』(改訂第7版)日本鳥学会、2012年、3-4頁。ISBN 978-4-930975-00-3 
  16. ^ a b 環境省 自然環境局 生物多様性センター:絶滅危惧種情報(動物)- コシジロヤマドリ -
  17. ^ 蜂須賀正氏キジとヤマドリの雜種について」『鳥』第13巻第62号、日本鳥学会、1953年、40-43頁、doi:10.3838/jjo1915.13.62_40 
  18. ^ 風間辰夫「キジ科鳥種の雑種の増殖と識別について」『日本鳥類標識協会誌』第26巻第1号、日本鳥類標識協会、2014年、11-12頁、doi:10.14491/jbba.00052 
  19. ^ a b c d [Dream]日立移住 ヤマドリ繁殖挑戦/忘れられない味 育てたい東京新聞』夕刊2024年6月8日1面(同日閲覧)
  20. ^ 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行規則(平成十四年環境省令第二十八号)”. e-Gov法令検索. 環境省 (2019年12月14日). 2020年8月13日閲覧。
  21. ^ 丸猶丸、一戸健司ほか「ヤマドリ, キジの人工授精に関する研究」『日本家禽学会誌』第3巻第2号、日本家禽学会、1966年、83-87頁、doi:10.2141/jpsa.3.83 
  22. ^ a b 猟鳥増殖事業 群馬県猟友会
  23. ^ 第11次鳥獣保護管理事業計画 静岡県 (PDF)
  24. ^ a b 養殖ヤマドリ放鳥後のテレメトリー調査 東京都 (PDF)
  25. ^ 日本キジ・ヤマドリ養殖センター
  26. ^ 川路則友、山口恭弘、矢野幸弘「栃木県において野外個体群の回復のために放鳥されたヤマドリの運命」『山階鳥類研究所研究報告』第34巻第1号、山階鳥類研究所、2002年、80-88頁、doi:10.3312/jyio1952.34.80 
  27. ^ 大津正英「テンの冬期の食性」『日本応用動物昆虫学会誌』第16巻第2号、日本応用動物昆虫学会、1972年、75-78頁、doi:10.1303/jjaez.16.75 
  28. ^ 広辞苑』第五版「山鳥」の項
  29. ^ 東洋大学民俗研究会『南部川の民俗 ―和歌山県日高郡南部川村高城清川村―』昭和55年度号(1981年)474頁
  30. ^ 長沢利明「塩原の民俗知識および俗信」『常民文化研究』通巻12号(常民文化研究会、1988年)8頁
  31. ^ 臼井健二「八面大王と穂高の地名」『信濃路のエンジョイライフ』1980年10月


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