しゃかい‐せいぶつがく〔シヤクワイ‐〕【社会生物学】
社会生物学
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社会生物学(しゃかいせいぶつがく、英語: sociobiology)は、生物の社会行動が自然選択の元でどのように進化してきたか、行動の進化的機能を扱う生物学の一分野である[1]。エドワード・オズボーン・ウィルソンの『社会生物学』(1975)によって創始されたが、いわゆる社会生物学論争に巻き込まれたため、「社会生物学」の名称を忌避して、「行動生態学」などの名前を用いる研究者も多い。遺伝子の視点から生物の行動を数学的(ゲーム理論など)に解析し、構築された仮説は実験やフィールドワークによって検証される。研究手法は集団遺伝学に基づいているが、動物の社会行動を進化的に論じる事を可能にする理論とともに発展したため、動物行動学とも密接な関わりを持つ。行動生態学、進化生態学などの言葉もあるが、本項では同じものとして扱う。定義については以降の定義の節を参照のこと。一部の研究者は行動に関わる遺伝子の特定や分子メカニズムに注目し、隣接領域として分子行動学、行動遺伝学を形成しつつある。また分子生態学とも密接に関連する。
- ^ Alcock,John Animal Behavior 2001. Sinauer, Sunderland
- ^ アモツ・ザハヴィ『生物進化とハンディキャップ理論』p198
- ^ ウリカ・セーゲルストローレは、このように単純に段階付けていない。(2005)『社会生物学論争史』(1)(2)垂水雄二訳、みすず書房。
- ^ ウリカ・セーゲルストローレ『『社会生物学論争史』、ラムズデンとウィルソン『精神の起源について』第2章「社会生物学論争」pp.56-66.
- ^ たとえば、U.セーゲルストローレ『社会生物学論争史』2(p.401)、バーバート・ギンタス『ゲーム理論による社会科学の統合』NTT出版、p.356.
- ^ a b ラムズデンとウィルソン『精神の起源について』p.66.
- ^ ラムズデンとウィルソン『精神の起源について』pp.66-68.
- ^ ラムズデンとウィルソン『精神の起源について』pp.68-75.
- ^ John Ziman (Ed.) Technological Innovation as an Evolutionary Process, Cambridge University Press,2000, p.9
- ^ 伊谷純一郎「霊長類社会構造の進化」『霊長類社会の進化』平凡社、1987年。第8章、p.209.
- ^ 伊谷純一郎「霊長類社会構造の進化」『霊長類社会の進化』平凡社、1987。第8章、p.301.
- ^ 黒田末寿『人類進化再考/社会生成の考古学』以文社、1999。
- ^ 伊谷純一郎「社会行動を作る行動」『霊長類社会の進化』平凡社、1987。第5章、pp.224-225. 黒田末寿『人類進化再考/社会生成の考古学』以文社、1999。pp.64-65. p.152.
- ^ E.O.ウィルソン『知の挑戦』角川書店、2002.特に第七章「遺伝子から文化へ」
- ^ 音喜多信博 2008 「文化的進化の自律性と倫理 : E・O・ウィルソンの「還元主義」に抗して」『金城学院大学キリスト教文化研究所紀要 』11: 21-35.
社会生物学
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詳細は「社会生物学」を参照 社会生物学はおそらく古典的な社会進化論から最も遠い位置にいる。これはE.O.ウィルソンの1975年の著書『社会生物学:新たな総合』によって提案された。ウィルソンは生物学の中心的な理論であるネオダーウィニズムを社会科学分野に援用し、ヒトの社会的な習性、例えば利他主義や攻撃性、愛情などを説明しようと試みた。それによってウィルソンは20世紀でもっとも大きな科学的論争の一つを引き起こした。 社会生物学者は、ヒトは社会文化的進化と生物学的進化、双方の産物であるという二重相続理論に賛成した。それぞれの要因は個別の選択メカニズムと伝達様式(生物学的には遺伝子であり、文化的進化の単位はしばしばミームと呼ばれる)を持つ。DITとは別にミームを研究するミーム学というのもあるがとDITにはミームに遺伝的形質を認めるか、認めないかなどの多少の差異がある。このアプローチは文化の変容に影響を与える文化の「伝達メカニズム」と「選択圧」に注目している。 社会文化進化のこのバージョンは20世紀初期から中期の古典的な社会進化モデルとの共通点がほとんど無い。このアプローチは一部の文化人類学者、心理学者、自然人類学者が受け入れた。「現代の進化的総合」としても知られるネオダーウィニズムは、一般にチャールズ・ダーウィンの自然選択による進化の理論とグレゴール・メンデルの遺伝学を基礎とした数学的な集団遺伝学の結合を意味している。 基本的にネオダーウィニズムは二つの重要な発見の結びつきを明らかにした。すなわち進化のメカニズム(選択)と進化の単位(遺伝子)である。社会生物学は生物学への強い依存のためにしばしば生物学と社会学分野の支流と見なされる。しかしそれは動物行動学、進化学、動物学、考古学、集団遺伝学そのほか非常に多くの科学分野の技術や知識を取り入れている。人間社会の研究の分野で、社会生物学は人間行動生態学および進化心理学に密接に関連している。社会生物学者は遺伝子の役割は非常に複雑で、遺伝子と環境の相互作用はしばしば予測できないと述べる。しかし社会生物学は遺伝子だけで人間の特定の行動を説明しようとしているという批判を伴って未だに論争の的になる。人間の行動に遺伝子が果たす役割について論じることを批判した近年のもっとも著名な科学者はリチャード・ルウォンティンとスティーヴン・ジェイ・グールドであり、20世紀初頭にはフランツ・ボアズがいた。 進化心理学の高まりのために、文化の適応と選択の原理を集団遺伝学の数学的原則を用いてモデル化しようとする別の一派が過去25年の間に姿を現した。この一派はUCLAのロバート・ボイドとUCデービス校のピーター・リチャーソンによって開拓され、ウィリアム・ウィムサットによって拡張された。ボイドとリチャーソンの著書『Culture and the Evolutionary Process(1985)』は非常に高度な数学を用いて文化の変容を説明しており、後にもう少し一般向けに『Not by Genes Alone(2004)』が発表された。ボイドとリチャーソンの視点によれば、文化的進化は生物学的進化とは異なる次元に存在する。二つは関連があるけれども、文化的進化は生物学的進化よりもダイナミックで、急速で、人間の社会に影響力がある。
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社会生物学
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W.D.ハミルトンの血縁選択の研究は社会生物学(行動生態学)の登場に寄与した。利他的行動の存在はダーウィンの時代から進化理論からは説明が困難であると考えられていた。1964年の論文はこの問題の解決を大きく前進させた。昆虫における真社会性(繁殖しない個体の存在)だけでなく、様々な利他的行動を血縁選択説は説明できる。利他的行動を説明する理論はさらに続いた。そのうちいくつかは(進化的に安定な戦略、互恵的利他主義)はゲーム理論に由来する。1975年にE.O.ウィルソンは影響力があり、非常に論争的でもある著作『社会生物学:新たなる総合』を出版した。その本でウィルソンは進化理論が人間も含む多くの動物の利他的な振る舞いを説明できると論じた。スティーヴン・ジェイ・グールド、リチャード・ルウォンティンを含む批判者は、社会生物学が人間の行動に関する遺伝的要因の影響を誇張していると批判した。またその主張はイデオロギー的偏見を含んでおり科学ではないと批判した。そのような批判にもかかわらず社会生物学の研究は続いた。1980年代以降のダーウィン・メダルとクラフォード賞生物科学部門の受賞者の半分以上がこの分野の研究者で占められる。 この分野の研究者の一部は行動に関わる遺伝子へ目を向け、分子生物学との交流を促した。その結果、生物の社会行動の分子的基盤を解明する分子生態学という新たな分野の誕生に繋がった。
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社会生物学
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「エドワード・オズボーン・ウィルソン」の記事における「社会生物学」の解説
ウィルソンは『社会生物学』を著し、それを「あらゆる社会行動の生物学的基盤の体系的な研究」と定義し、1970年代までの個体群生態学、集団遺伝学、動物行動学の知識を統合した「新たな総合(New Synthesis)」と位置づけた。そして社会性昆虫の行動を説明するために用いられた進化的理論を、ヒトを含めた動物の社会的行動の理解にも適用し、社会生物学を新たな科学の分野として成立させた(「新たな総合」には人類学や社会学と生物学との統合の意味も込められていた)。ジョン・メイナード=スミスは彼の著書を「貴重な要約(にすぎない)」とのべ、リチャード・ドーキンスは前時代的な総合と呼んだ(ウィルソンはドーキンスと違って血縁選択説を群選択に含めており、また進化ゲーム理論を強調しなかった)が、自分には欠けている生態学的な視点と豊富な例証に満ちていると述べた。ウィルソンがこの分野に果たした理論的貢献は小さいが、他の研究者が行った関連する膨大な研究をまとめあげ、新たな分野がここにあると宣言することで潜在的な理論家たちを結集させた。そしてこの分野を巡る論争で中心的な役割を果たし続け、成立に貢献を果たしたと見なされるようになった。
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