社会生活と出身成分
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/13 16:52 UTC 版)
北朝鮮では、食糧の配給量が出身成分に応じて細かく異なるなど社会生活と出身成分は密接なかかわりを有している。また、出身成分が動揺階層や敵対階層とされた人びとに対しては、徹底的に差別し抑圧する恐怖政治の仕組みが作動する。罪もない数多くの人びとが、この法令によって左遷、追放、投獄、処刑されてきた。 韓国への亡命者は、その多くが自身も「出身成分」が問題とされたと証言している。韓国への亡命者の多くは「核心階層」ではなかった人びとである。 「脱北者」の最初の事例として知られる、1987年1月のズ・ダン号事件では、清津市の医師であった金萬鉄ら彼の一族11名を乗せたズ・ダン号が福井新港へと漂着したが、彼らは亡命の意思表示を行い、その理由として「出身成分の低さから来る差別」と「貧困」を掲げた。金萬鉄は韓国への亡命を果たしたのち、1987年夏に『悪夢の北朝鮮』(柴田穂・全富億訳、光文社)を著して話題となった。 『月刊朝鮮』が脱北した元北朝鮮住人に行った取材によれば、芸術学校の試験を受けて合格し、合格通知は送られてきたものの入学通知書が送られて来なかったので、教師に聞いても要領を得ず、家族に話したところ、母方の祖父が地主だったので、結局、大学進学をあきらめて溶接工になったという青年の事例、逆に社会安全部警察の高級軍官の子弟だったので首尾よく金策空軍大学に合格した青年の事例など、憲法上は無階級社会を謳いながらも北朝鮮社会が完全な階級社会であることが判明した。金策空軍大学に合格した生徒によれば、彼は学校の政治部校長の推薦がなければ本人がいくら努力しても試験すら受けることができないので、これといって際立ったものもなかった自分は大学進学など夢にも思わず、半分ふざけて第一志望「人民軍」、第二志望「食糧料理専門学校」、第三志望「高等経済学校」とアンケートに書いたら、推薦を受けて三大大学(金日成総合大学、金策空軍大学、教員大学)の一つに合格したという。彼によれば、三大大学に合格するには学校での成績は関係なく、最も重要なのが「出身成分」、次に「健康と党のために働ける能力」、最後が「学業成績」だという。 ただし、海外留学などに際しては、成分のよさだけを基準に選抜すると、世論の悪い反応を呼び起こすこともいくらかは考慮されることがあるという。元駐英北朝鮮大使館公使で、2016年に韓国に亡命した太永浩は、そうした配慮によって、1976年、幹部の子弟でもないにもかかわらず少年留学生に選ばれた一人である。
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