JRAの調教助手・厩務員による持続化給付金不正受給疑惑
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/25 04:22 UTC 版)
「2021年の日本競馬」の記事における「JRAの調教助手・厩務員による持続化給付金不正受給疑惑」の解説
2月17日付のスポーツ報知などによると、国が新型コロナウイルスによる経済対策として行っている持続化給付金について、JRAのトレーニングセンターで働く調教助手や厩務員らに「新型コロナウイルスの影響がないのに不正に受給した疑いがある」として、国会で追及された。調教助手らに申請を指南したのは大阪市の男性税理士で、担当馬がレースで獲得した賞金に応じて得られる進上金がコロナ禍の影響で減少したとして、持続化給付金を申請し、受け取ったというもの。共同通信によると、男性税理士は「厩舎関係者は満額(100万円)が給付される可能性が高い」と記した案内文を送り、調教助手らを勧誘していた。2月18日付のデイリースポーツによると、勧誘には複数の税理士が関与しているとみられ、仲介者を通じた直接勧誘のほか、電話やメール、無料通信アプリ「LINE」を利用したものもあったという。「受給者は100人以上」と証言する調教助手もおり、総額で1億円を超える可能性もあるとしている。2月23日付の共同通信によると、栗東トレーニングセンターで働く調教助手ら12名が、労働組合の顧問税理士を務めている京都市の男性税理士に相談し、受給していたことが判明。11人は既に返還済みか、返還の意向を示している。大阪市の税理士は勧誘した受給者から受給額の7 - 10%の「成功報酬」を得ていた一方、京都市の税理士は「手数料は受け取っていない」としている。2月25日付の共同通信などによると、スポーツニッポン新聞社大阪本社編集局レース部で競馬を担当していた男性記者が勧誘に関与していたことが社内調査で判明。大阪市の男性税理士とは知人とみられ、「税理士から紹介してほしいといわれ、10人以上紹介した」と説明している。同社は25日付紙面やホームページで「当社にまったく関係のない業務であり記者倫理を逸脱した行為である。さらに調査を行い適切に対処する」とのおわびを掲載した。2月26日付のスポーツ報知などによると、受給者に調教師も含まれていることが2月25日に判明。3月4日付の日刊スポーツによると、受給した調教師は10人以上だという。日本調教師会は2020年11月に「受給しないように」との通達を出していたが、調教師にも受給者がいることが明らかになった。受給した調教師は個人事業主ではなく、厩舎の財務関係を管理する事務所の名義で中小法人として書類を申請し、最大200万円を受給したとみられる。時事通信によると、2020年の中央競馬のレース数は過去最高で、賞金の減額もなかった。日本調教師会も「中央競馬の中止はなく、経済的な影響は全くない」とした。2月28日付のデイリー新潮によると、指南役とされる大阪市の男性税理士はJRAの馬主でもあり、法人の事業のひとつとして「競馬関係者サポート」を謳っていたほか、勧誘文書には「受給後の不正受給調査への対応も含みます」との文言も記されていたという。調教助手や厩務員が加入する労働組合の関係者が、別の税理士に勧誘文書を見せたところ「距離を置いたほうがいい」と助言されたが、男性税理士を信頼していた一部の厩舎スタッフは聞き入れなかったという。税理士を介して給付金を受給したJRA関係者の1人は「顧客になれば成功報酬を10%から7%にすると誘われた」と証言している。 この件について、農林水産大臣の野上浩太郎は2月17日の衆議院予算委員会で、JRAに対し事実関係を把握するよう指示したことを明らかにし、「競馬への信頼を確保するため、不正受給があれば返還させるなど厳正な対応を取るよう指示した」と答弁。同委員会にはJRA理事長の後藤正幸も出席し、日本調教師会に調査を要請したと説明。日本調教師会会長の橋田満はコメントを発表し、事態の究明と厳正な対応を行うとした。後藤は3月1日の衆議院予算委員会にも出席し、「中央競馬の賞金に由来する収入については、感染症の影響は極めて限定的だ」と述べたものの、調教助手らに受給資格があるかについては言及を避けた。2月18日付のデイリースポーツによると、JRAは遅くとも2020年秋までに不正が行われていた可能性を把握していたというが、「調教助手らは調教師に雇われているため、管理監督する立場にない」などとして、独自調査や業界団体への調査要請はしていなかった。JRAは2月18日に日本調教師会の役員と協議し、JRAが各調教師に対して、厩舎スタッフによる受給の有無を19日にメールで確認するよう要請。調教師会は回答を集約し、報告する見通しとなった。美浦と栗東の約2500人に24日締め切りで調査を行った結果、給付金を受け取っていたと回答したのは130人以上で、総額は1億円前後に上るとみられる。日本調教師会は申請や受給を認めた調教助手らに対し経緯などを尋ねる追加調査を実施したほか、JRAも自ら実態調査を行うことが明らかになった。また、地方競馬全国協会も農林水産省から注意喚起を受け、2月19日付で全国の地方競馬主催者に文書で調査を要請した。JRAは3月6日に中山競馬場と阪神競馬場で記者説明会を行い、騎手13人・調教師19人を含む計165人が受給、総額で1億8983万9222円に上っていたことを明らかにした。49人は既に返還済みで、114人が返還予定。JRA理事長の後藤は「あってはならないことであり、中央競馬の信頼に関わる問題となったことについて、お客様ならびに社会の皆様に心よりおわび申し上げます」とのコメントを発表。内閣官房長官の加藤勝信は3月8日の記者会見で「極めて遺憾」とコメントしたほか、農林水産大臣の野上も9日の閣議後に行われた記者会見で「極めて遺憾」とコメントし、JRAに対し「競馬に対する国民の信頼回復に取り組むよう指導していきたい」と述べた。JRAは3月12日に追加で厩舎従業員1名が申請・受給していたことを明らかにし、先に発表済みの調査結果について日本調教師会と連携して検証を行っていることを発表した。JRAは4月10日に2回目の調査結果報告説明会を中山競馬場と阪神競馬場で開き、再調査の結果受給者は4人増の169人に上ったことを明らかにした。166人は返還手続きが済んでおり、96人が返還を済ませているとした。また、JRAは同日、日本調教師会や日本騎手クラブとともに計170人を出勤停止や戒告、厳重注意の処分にしたと発表した。しかし、勧誘を指南した男性税理士に対しての処分などは行われず、関与した厩舎関係者の実名も伏せられたJRAなどの対応について、一部の調教師が「甘い」と語ったほか、デイリースポーツも「大甘裁定」と評した。日刊スポーツは「持続化給付金が2020年にできたばかりの制度のため、不正受給等に対する競馬関係法規の整備がなされておらず、無力だった」と評している。JRA理事長の後藤は4月19日に行われた定例会見の冒頭で「厩舎関係者による持続化給付金申請、受給につきましては、社会の皆さま及び日頃から中央競馬にご参加いただいているお客様の信頼を損ねる問題になったものと認識しております。JRA理事長として中央競馬サークルを代表し、心よりおわび申し上げます」と述べ、陳謝した。JRAは今後同種の問題が発生した場合に備え、関連規約等の改正を検討していることを明らかにした。社会常識を逸脱した行為で中央競馬の信頼を損ねた場合、馬主も処分の対象とするように規約等を改正する方針。JRAは7月16日に、関係者全員の給付金返還が完了したことを確認したと発表した。 指南役とされる大阪市の男性税理士はデイリースポーツの取材に対し2月18日にFAXで回答し、「弁護士を加えて行った再精査の結果、改めて適正な手続きであったことを確認しております」としたうえで、「不正受給疑惑なるものと当法人を安易に結びつけるような報道は厳に慎んでいただきたい」とした。デイリー新潮の取材に応じた顧問弁護士は「『不正受給』という報道は正確ではない」とし、文書の作成や配布も認めたうえで「文書を配ったのは契約者などごく一部だったが、横のつながりで拡散したことを報道で騒動になってから把握した」とした。男性税理士の代理人弁護士は日刊スポーツの取材に対し「報酬は全て実際に申請手続きをした行政書士に渡していた」とし、税理士法人としては利益を得ていなかったと主張している。また、京都市の男性税理士は共同通信の取材に対し「コロナの影響を受けたと各自が判断すれば申請は問題ないのではないか」「影響の度合いは我々が計り知れない部分もある」と答えた。大阪市の男性税理士は3月8日に「道義的観点で世間から厳しい意見が寄せられ、中央競馬に関係する方々の社会的信頼を損なうことになった責任は痛感している」旨の文書をJRAと調教師会へ送付したうえで、馬主で構成される諸団体の役員職すべてについて辞表を提出した。関与した114件は全て返還済み、または返還手続き中で、報酬は申請者に返還したという。 スポーツニッポン新聞社は4月29日、勧誘に関与していた記者を4月28日付で出勤停止の懲戒処分にし、2月25日付でレース部から異動、関西競馬記者クラブも退会したことを発表した。
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