婚姻障害事由の不存在
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/16 23:52 UTC 版)
婚姻には民法に規定される婚姻障害事由(731条から737条)が存在しないことが必要である。婚姻障害事由のうち、民法731条から736条までの規定に違反した婚姻は「不適法な婚姻」として、法定の手続に従って取り消しうる(744条)が、737条違反については誤って受理されると、もはや取り消し得ない(後述)。 婚姻適齢 日本においては明治31年に男性は17歳、女性は15歳以上と定められたが、女性の年齢については医学的・社会的な要因を考慮して設定されたとされる。昭和22年の民法改正により1歳引き上げられ、男性は18歳以上、女性は16歳以上となった(731条)。令和4年の成人年齢改正により男女とも18歳以上となった。 婚姻適齢に達しない場合は婚姻障害事由となり、744条により取り消しうる(不適齢者の取消しについては745条に定めがある)。ただし、実際には当事者が婚姻適齢に達しているか否かは、戸籍の記載から明らかであるので、誤って届出が受理された場合や戸籍上の生年月日が誤って記載されていた場合などに成立するにすぎない。 日本では婚姻適齢につき男女間で2歳の差があり、これは女性のほうが成熟が早く、統計的に平均初婚年齢が女性のほうが若い点などを考慮したものとされるが、これが現代においても合理的と評価できるかは疑問とされていた。婚姻適齢につき「民法の一部を改正する法律案要綱」(平成8年2月26日法務省法制審議会総会決定)では、男女ともに満18歳とすべきとしており、2009年7月の法制審議会の部会は、男女ともに18歳に統一すべきとの最終答申が報告された。 婚姻適齢に達した未成年者は婚姻できるが、未成年者の婚姻には父母の同意が必要である(737条)。未成年者は婚姻により私法上において成年者として扱われる(753条)。通説によれば、この成年擬制の効果は年齢20歳に達する前に婚姻を解消した場合であっても失われないとされているので、初婚の解消後に再婚する場合には親の同意は必要とされない。 未成年者の婚約については、未成年者(婚姻適正年齢外)であるからといって結婚をする約束(婚約)は無効にはならないという判例(大判大8・4・23民録25輯693頁)もあるため、高校生同士が結婚の約束をしていたことが証明されるに至った場合には、法的効力をもつ婚約となることがありうる。 2018年(平成30年)6月13日、成人年齢を現行の20歳から18歳に引き下げる改正民法が第196回国会で成立した。この中には、女性が結婚できる年齢を現行の16歳から18歳に引き上げる内容も盛り込まれ、男性と統一された。これにより、2022年(令和4年)4月1日から、日本では結婚できるのは「成人」のみとなり、親の同意は不要となる。ただし、2022年3月31日現在で16歳以上である未成年者の女性は改正前と同様に、親の同意があれば結婚が可能。法務省民事局によれば、例外規定として18歳未満で女性が妊娠した場合に結婚を認める案が検討されたが、法の趣旨に反するとして盛り込まれなかった。 重婚の禁止 配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない(732条)。一夫一婦制をとり多婚制を否認する趣旨である。本条は実質上の一夫一婦制をも志向するものではあるが、732条の「配偶者」は法律上の配偶者を意味し内縁など事実上の婚姻を含まない。 重婚が生じる場合としては、 誤って二重に届出が受理された場合 後婚の成立後に前婚の離婚が無効あるいは取り消された場合 失踪宣告を受けた者の配偶者が再婚した後に失踪宣告が取り消された場合 認定死亡あるいは戦死公報による婚姻解消ののち残存配偶者が再婚した後に前の配偶者が生還した場合 失踪宣告を受けた者が実は生存していて他所で婚姻した後に失踪宣告が取り消された場合 内地と外地とでそれぞれ婚姻した場合 があるとされる。失踪宣告の取消しなどにおける善意再婚者(重婚の事実を知らなかった者)の保護については問題となる(失踪宣告の取消しの場合について多数説は民法32条1項準用により後婚の当事者が善意であれば前婚は復活せず重婚は生じないとする。失踪宣告も参照)。 重婚を生じた場合、後婚については本条により取消原因となるほか、前婚については離婚原因(770条1項1号・5号など)となる。なお、悪意(故意)による重婚は重婚罪(刑法184条)を構成し処罰される(相婚者も同様に処罰される)。 再婚禁止期間 女性は前婚の解消または取消しの日から100日を経過した後でなければ、再婚をすることができない(733条1項)。この期間は再婚期限、待婚期間、寡居期間とも呼ばれる。女性が再婚する場合において生まれた子の父性の推定が重複して前婚の子か後婚の子か不明になることを防ぐ趣旨である(最判平7・12・5判時1563号83頁)。 かつて、再婚期間は6か月とされていたが、「民法の一部を改正する法律案要綱」(平成8年2月26日法制審議会総会決定)では6か月から100日に短縮すべきとしていた。2015年(平成27年)12月16日最高裁判所大法廷判決は、同項が100日を超えて再婚禁止期間を定めていることについて憲法14条1項、24条2項に違反すると判示。違憲判決を受けて離婚後100日を経過した女性については婚姻届を受理する法務省通知が出され、2016年6月1日に民法の一部を改正する法律案が国会で可決成立し条文上も100日となった。 本条の趣旨から、父性の推定の重複という問題を生じない場合には733条1項の適用は排除される。女性が前婚の解消または取消しの後に出産した場合には1項の適用はなく、さらに2016年の改正により女性が前婚の解消または取消しの時に懐胎していなかった場合にも医師の証明書があれば再婚禁止期間中でも婚姻届は受理されることとなった(733条2項)。 再婚禁止期間についてはDNA鑑定等による父子関係の証明方法もあることから、本条の合理性そのものを疑問視する733条廃止論もある。ただし、772条をそのままにして本条を廃止すると父性推定が重複する場合には判決や審判によって父が確定されるまで法律上の父が未定という扱いになるとして、再婚禁止期間を廃止する場合には一定の立法上の措置が必要との論もある。なお、2016年の民法改正においても改正法の施行から3年後をめどに制度の見直しを検討することが付則に盛り込まれている。 近親者間の婚姻の禁止優生学上また倫理上・道義上の見地から一定の親族間での婚姻は認められない。 直系血族又は三親等内の傍系血族の間の婚姻の禁止 直系血族の間では婚姻をすることができない(734条本文)。非嫡出子は父からの認知がない限り法律上の父子関係を生じないが、その関係上、父と未認知の娘との間の婚姻については、認知がない以上は法律上の親子関係にないため本条の適用余地はないとする説(法律的血縁説)と実質的な直系血族である以上は婚姻は認められないとする説(自然血縁説)が対立する。なお、養子縁組前に養子が出生した子と養親とは親族関係にないため(判例として大判昭7・5・11民集11巻1062頁)、本条の適用はない。 三親等内の傍系血族の間についても婚姻をすることはできない(734条本文)。 ただし、養子と養方の傍系血族との間の婚姻は許される(734条但書)。養子の実子と養親の実子の間の婚姻については学説に対立がある。 直系姻族間の婚姻の禁止 直系姻族の間では婚姻をすることができない(735条前段)。728条又は817条の9による直系姻族関係終了後も同様とされる(735条後段)。 養親子等の間の婚姻の禁止 養子若しくはその配偶者又は養子の直系卑属若しくはその配偶者と養親又はその直系尊属との間では、729条の規定により親族関係が終了した後でも、婚姻をすることができない(736条)。養子またはその縁組後に出生した直系卑属と養親またはその直系尊属の配偶者との間(婚姻していた当事者にあっては婚姻が解消されている場合に限る)においては離縁後においても婚姻が禁止されるか否かについて学説には対立があるが、実務は婚姻障害にあたらないとする(昭28・12・25民事甲2461号回答)。 未成年者の婚姻についての父母の同意 未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない(737条1項)。父母の一方が同意しないとき、父母の一方が知れないとき、死亡したとき、又はその意思を表示することができないときは他の一方の同意だけで足りる(737条2項)。 親権を辞任・喪失している父母の同意権については学説に対立があるが、父母の同意は親権と無関係であるとして実務は同意権を有するものとしている(昭33・7・7民事甲1361号回答、昭24・11・11民事甲2631号回答)。また、実父母と養父母とがいる場合に実父母の同意が必要か不要かをめぐっても学説に対立があるが、実務は養父母のみを同意権者とする(昭24・11・11民事甲2641号回答)。 父母の同意がない場合には婚姻障害事由に該当することとなり婚姻届は受理されないが、婚姻障害事由のうち本条違反は取消原因として挙げられていないため(744条)、誤って受理されるともはや取り消し得ず有効な婚姻となる(通説・判例)。したがって、この父母の同意は厳密には婚姻成立要件ではなく届出受理要件ということになる(最判昭30・4・5裁判集民18巻61頁)。 本条については解釈上の問題点も多く、立法論としては法定代理人の同意とすべきとの案、同意に代わる家庭裁判所の審判も認めるべきとの案、本条そのものについて削除すべきとする案などがあった。 この点に関しては上記の「婚姻適齢」の項にある通り、2022年4月に成人年齢の18歳への引き下げと女性の婚姻適齢の18歳以上への引き上げに伴い、737条の削除、および経過措置ののち2024年4月から婚姻が可能な者が18歳(成人)以上のみとなり考慮する必要がなくなった。
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