名詞クラス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/09/03 09:42 UTC 版)
バントゥー諸語の研究で「名詞クラス(類)」という用語は比較言語学や言語学の他の分野で言う文法的性を指すのにしばしば用いられる。以降はいずれの用語も用いることがある。 ガンダ語の名詞クラスがいくつあるかについては異論がある。ある研究者は単数と複数を別なクラスに分けるが、単複の区別をクラスとは別な文法的性として扱う者もいる。単数・複数を分ける方法では17クラスに分類され、単数を性とする方法では複数形が同一となる対が二つあり、一つのクラスでは単複の区別がないので10クラスとなる。 単数・複数を文法的性とする方法はバントゥー諸語以外の研究とも矛盾がない。例えばドイツ語には男性、女性、中性の3性があり、単数、複数と二つの数がある。男性単数と男性複数の文法的・意味論的な関係を度外視し、両者を全体で6つのクラスのうち二つの別々なクラスとして扱うことは可能である。この場合、数は性とは区別され、3性と二つの数があることになる。同じ方法をガンダ語に適用すると10個の名詞クラスが数えられ、そのうち9つは独自の単数形と複数形を持つ。ガンダ語の議論では通常この方法が用いられる(バントゥー諸語全体では異なる)。 以下の表はこれまでの研究で用いられてきたガンダ語の10クラスをバントゥー祖語の名詞クラスと対比したものである。バントゥー祖語の「包含複数クラス」(polyplural class, 二つ以上の単数クラスの複数形として兼用される)である第6類と第10類は別なクラスとして扱っている。 ガンダ語のクラス数バントゥー祖語のクラスI 単数 1, 1a 複数 2 II 単数 3 複数 4 III 単数 9 複数 10 IV 単数 7 複数 8 V 単数 5 複数 6 VI 単数 12 複数 14 VII 単数 11 複数 10 VIII 単数 20 複数 22 IX 単数 15 複数 6 X (区別なし) 13 多くの言語と同様、クラスによる名詞の分布は恣意的だが、おおまかなパターンはある。 第I類は主に人間だが、ここに含まれる無生物名詞がある。musajja「男」、kaawa「コーヒー」 第II類には様々な種類の名詞が入るが、具象名詞の多くは長い物や筒状の物である。ほとんどの木はこの類に属する。muti「木」 第III類にも様々な種類の名詞が含まれるが、動物の多くはこれに入る。mbwa「犬」 第IV類には無生物の物が含まれるが、このクラスは非人称の it に相当するものにも使われる。ekitabo「本」 第V類は主に大きな物や液体であり(すべてではない)、大きな物を表す名詞を作るのにも使われる。ebbeere「胸」、lintu「巨人」(muntu「人」より) 第VI類には主に小さな物が含まれ、小さな物を表す名詞や形容詞に由来する抽象名詞、(複数形で)否定の動詞由来の名詞や国の名前を作るのにも使われる。kabwa「子犬」(mbwa「犬」より)、kanafu「怠惰」(munafu「怠惰な」より)、bukola「無為」(kukola「する、行う」より)、Bungereza「イギリス」(Mungereza「イギリス人」より) 第VII類には言語名を含む様々な名詞がある。Oluganda「ガンダ語」、Olunzugu「英語」(muzungu「ヨーロッパ人、白人」より) 第VIII類は、あまり用いられないが侮蔑的な意味を持つ名詞を作るのに使われる。gubwa「駄犬」(mbwa「犬」より) 第IX類は主に不定形や肯定の動詞由来の名詞に使われる。kukola「行為、すること」(動詞 kola「する、行う」より) 第X類は単数・複数の区別がなく、「しずく」や「大事な物」のような質量名詞に使われる。tuzzi「水滴」(mazzi「水」より)、tubaka「睡眠」 名詞が属するクラスは通常接頭辞から決定される 第I類 - 単数 (o)mu-, 複数 (a)ba- 第II類 - 単数 (o)mu-, 複数 (e)mi- 第III類 - 単数 (e)n-, 複数 (e)n- 第IV類 - 単数 (e)ki-, 複数 (e)bi- 第V類 - 単数 li-, eri-, 複数 (a)ma- 第VI類 - 単数 (a)ka-, 複数 (o)bu- 第VII類 - 単数 (o)lu-, 複数 (e)n- 第VIII類 - 単数 (o)gu-, 複数 (a)ga- 第IX類 - 単数 (o)ku-, 複数 (a)ma- 第X類 - (o)tu- 接頭辞が重複する場合がいくつかある。第I類と第II類の単数(どちらも mu-)、第III類の単数と第III類、第VII類の複数(n- で始まる)、第V類と第IX類の複数(ma-)である。しかし名詞の接頭辞が同じであっても他の接頭辞が異なる場合が多いので本当に多義的になることは稀である。例えば omuntu(第I類)「人」と omuntu(第II類)「座席」という名詞が `Omuntu ali wano'「その人はここにいる」、`Omuntu guli wano'「座席はここにある」という文にある場合、名詞の接頭辞が同一であっても動詞の接頭辞が a-(第I類)、 gu-(第II類)と異なるので混同は起き得ない。同じことは第III類の単数と複数にも当てはまる。`Embwa elya'「犬(単数)が食べている」、 `Embwa zilya'「犬(複数)が食べている」。 実際、第III類と第VII類の複数、第V類と第IX類の複数ではみな接頭辞が同じである(名詞、動詞、形容詞などで)。 第V類では名詞の接頭辞が他のクラスとはやや異なる使い方をする。単数名詞の接頭辞 eri- は、それに伴う語幹最初の子音が重子音になるとともにしばしば e- と縮約される。これは語幹が非鼻音の子音一つで始まる場合、また鼻音の後ろに長母音、非鼻音の子音と続く鼻音で始まる場合(鼻音化語幹という)に起こる。例えば、 eggi 「卵」、複数 amagi(語幹 gi より) eggwanga「国」、複数 amawanga(鼻音化語幹 wanga より。w が重子音になると ggw になる) ejjinja「コオロギ」、複数 amayinja(鼻音化語幹 yinja より。y が重子音になると jj になる) 他の語幹には縮約されない接頭辞が使われる。 erinnya「名前」、複数 amannya(語幹 nnya より) eriiso「目」、複数 amaaso(語幹 yiso より) eryanda「電池」、複数 amanda(語幹 anda より) 接頭辞が着かない名詞もあり、それが属するクラスを示す形式はない。 第I類 - ssebo「男性」、nnyabo「女性」、Katonda「神」、kabaka「王」、kyayi(または caayi)「茶」、kaawa「コーヒー」 第III類 - kkapa「猫」、gomesi「ゴメシ」(東アフリカの女性が着る衣装) ガンダ語では、形容詞、動詞、一部の副詞、所有形容詞、特殊な形式を持つ接続詞は屈折して名詞と一致する。
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名詞クラス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/12 05:57 UTC 版)
「ニジェール・コンゴ語族」の記事における「名詞クラス」の解説
ニジェール・コンゴ語族の特徴には名詞クラスがあり、すべての言語に少なくとも名詞クラスの痕跡が見られる。
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名詞クラス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/14 15:03 UTC 版)
バントゥー諸語全体の特徴でもあるが、名詞はいくつかの部類に分類され、部類ごとに特定の接頭辞が付く。その部類を名詞クラスと称する。さらにどの部類の名詞を形容するかによって形容詞が変化し、どの部類の名詞を主語あるいは目的語にするかによって動詞が変化する。このため、文脈上明らかな場合は 主語や目的語を省略できる。 Meinhof systemに則って単数と複数を別々に数えるなら、祖語には22クラスあったとされ、ほとんどのバントゥー諸語が少なくともそのうち10クラスを有している。スワヒリ語には16クラスあり、うち6クラスが単数名詞、5クラスが複数名詞、1クラスが抽象名詞、1クラスが動詞の不定詞(名詞的な扱い)、3クラスが場所を主として示す。 クラス接頭辞単数意味複数意味1, 2 m-/mu-, wa- mtu 人 watu 人(複数) 3, 4 m-/mu-, mi- mti 木 miti 木(複数) 5, 6 Ø/ji-, ma- jicho 目 macho 目(複数) 7, 8 ki-, vi- kisu ナイフ visu ナイフ(複数) 9, 10 Ø/n-, Ø/n- ndoto 夢 ndoto 夢(複数) 11 u- ua 花 14 u- utoto 子供であること 単数がm-、複数がwa-で始まる名詞は「生物」、とくに「人」を示す(例:mtu(人)・watu(複数)、mdudu(虫)・wadudu(複数))。 単数がm-、複数がmi-で始まる名詞は「植物」を示すことが多い(例:mti(木)・miti(複数))。動詞の不定詞はku-で始められる(例:kusoma(読む))。それ以外のクラスは区分が複雑である。単数がki-、複数がvi-で始まる名詞は、しばしば工具などの「人工物」を示す。このki-/vi-交替は、語根がki-で始まる外来語にまで適用される(例:kitabu(本、アラビア語のkitābに由来)→vitabu(複数))。このクラスは「言語」も示し(例:Kiswahili(スワヒリ語))、指小辞としても使われる。かつてのバントゥー語では別々だったクラスが合流したものである。u-で始まる名詞はたいてい抽象名詞を示し、複数はない(例:utoto(子供であること?))。n-やm-または接頭辞なしで始まり、単複同形のクラスもある。単数がji-または接頭辞なし、複数がma-で始まるクラスは、しばしば指大辞(英語版)として使用される。
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