動物の排泄物に由来
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/20 08:07 UTC 版)
動物由来の有機質肥料には動物の排泄物(主に乳牛、豚、鶏)を原料とするものがある。動物の排泄物を乾燥させただけのもの(動物の排泄物と称される)、発酵させたもの(動物糞堆肥)、および燃焼させて灰にしたもの(動物の排泄物の焼却灰)の3つは堆肥等特殊肥料に分類される。 (なお、当然の事であるが、動物の排泄物に由来する肥料は、その摂取物に依存した性質を持つ事になる。疾病予防のために硫酸銅等を摂取させられている動物の排泄物に由来する肥料は銅が多くなる(特に鶏については総排出腔からの排泄を行うので、体内に取り込まれた銅のうち尿から排出されるものが全て肥料中に入り込んでくる事から銅が多くなる傾向にある。)。またリンについて吸収効率の悪い飼料を与えられている場合は排泄物中のリンが多くなり(ただし、牛等の胃等での微生物発酵を用いての食物消化を行う反芻動物については、高いフィターゼ活性により植物・飼料中のリンが効率的に吸収されるようになっているのでその分リンについての排出が少なくなる。)、逆にリンの吸収効率の良い飼料を与えられている場合は排泄物中のリンが少なくなる。) 動物の排泄物 乾燥糞など。乾燥鶏糞:非常に多くの肥料成分を含む。哺乳類の産業動物と違い尿が総排出腔から出され、その成分の尿酸が肥料化されるので窒素成分について豊富である。肉用鶏の糞の窒素濃度は採卵鶏のそれよりも高い。土壌中では急速に分解されるため、ガス(アンモニアや硫化水素等)や、植物の根に害を及ぼす物質を発生させやすい。施用の際は、土壌と十分に混和させる点と、作付けの一か月前に行う点を注意しなければならない。また、施用量にも注意が必要で、過剰では肥料当たりが起こる。金属ミネラル分については石灰分が明確に多く、またナトリウムが他動物の排泄物由来の肥料に比べて多い。 鶏糞ペレット:鶏糞に水を加え、ペレット状に加工したもの。 乾燥牛糞 乾燥豚糞 乾燥馬糞 動物糞堆肥 動物の排泄物を原料に含み、これを堆積または撹拌し腐熟させたもの。基本的に特殊肥料であるが、凝集促進剤または悪臭防止剤を加えて脱水または乾燥したものは登録有効期間6年の普通肥料の屎尿汚泥肥料に指定されている。発酵の工程では一般に副資材が動物糞に混合される。この副資材におけるもっとも重要な役割は発酵の促進である。主におが屑や木質チップなどの木質系バイオマスが副資材に用いられる。副資材にはほかに戻し堆肥(水分調整などの目的で生糞尿に添加し再利用される堆肥)や食品廃棄物がある。鶏糞堆肥(発酵鶏糞):鶏糞堆肥は牛糞堆肥と比べて肥料成分、特にリン酸の含有量が高い。発酵鶏糞は発酵により窒素分が揮散しているため、乾燥鶏糞に比べて窒素分は少ない。加えて、肥効の発現が速い(植物が直接吸収できない尿酸がアンモニア態又は硝酸態に変化しているため。)。粗大有機物はほとんど含まれておらず、土壌物理性の改善効果は大いに期待できない。過剰に施用すると肥料当たりが起こる。以上のように、使用方法は化学肥料のそれに近い。島根県は野菜畑への施肥量として500kg/10aを推奨している。ただし、米Agricultural Research Service(ARS)は、副資材を大鋸屑としたとき、鶏糞堆肥は土壌改良材としての価値を有することを見出した。加えて、この堆肥には高い肥料効果があることが実証された。鶏糞堆肥と他の有機質肥料と化学肥料をそれぞれ施肥した綿圃場では、綿の収量は化学肥料条件と比べて鶏糞堆肥条件で12%増加した。ARSの研究者らは、鶏糞堆肥の従来の販売額相場$61/tに17$/tの価値を足し、総合$78/tの価値と評した。 鶏糞ペレット堆肥:鶏糞堆肥を成型機によりペレット状に成型したもの。成型機には乾式造粒型(ディスクペレッター)や円錐型(タブレット式)がある。ペレット化にはコストがかかるが、多くの利点がある。ペレット化前の堆肥(バラ堆肥)と比べて臭いが少なく、散布時に粉塵を引き起こさない。重量と容積ともに圧縮される。肥料効果と品質が均一化される。 牛糞堆肥:牛糞堆肥の特性は、畜産牛が牧草や、繊維質の多い粗飼料を食すことに由来する。他の畜種由来の堆肥と比較して窒素分やリン分は少ないが、肥料の三要素のバランスが良いとされている。石灰はやや少ないが、ナトリウム、塩素、珪酸の含量が高い。電気伝導度(EC)は低く、C/N比は鶏糞や豚糞より高い。緩効性であり、土づくり資材として作付けの一月前に施用される。長期間にわたって持続的に肥料成分を供給する。乳牛の糞を原料とした場合、和牛のそれと比べて肥料成分は高い。島根県によると、牛糞堆肥は基肥としての利用に有利であり、野菜畑には基肥として2t/10a程度施用されることが望ましい。使用上の注意として、牛の飼料には雑草種子が混入している場合があり、発酵が不十分であると、牛糞に紛れていた雑草種子が発芽する。発酵熱による雑草種子や寄生虫卵の死滅には70〜80度程度の温度が必要とされる。腐熟が不十分であると、例えば雑草のメヒシバは50度未満の発酵熱でも96%発芽する。このため、完熟堆肥が用いられる。 豚糞堆肥:多くの場合、窒素分やリン酸といった肥料成分は牛糞堆肥より多く、鶏糞肥料より少ない。炭素量は牛糞堆肥と同程度であり、C/N比はより小さい。ECは牛糞堆肥より大きい。繊維質は牛糞堆肥よりも少なく、比較的微生物に分解されやすい。しかし、鶏糞肥料と比べて緩効性が高い。畑地への施用量は300-500kg/10aが推奨されている。過剰に施用すると肥料当たりが起こる。 馬糞堆肥 動物の排泄物の焼却灰 動物の排泄物または堆肥を焼却した後に得られた灰。焼却により有機物は完全に熱分解されており、焼却灰中に水分や炭素は全く存在せず、窒素成分もほとんど含まれていない。リンと加里は焼却前から濃縮されており、それらの供給源として利用される。灰分を多く含むため、塩基性を示す。 鶏糞焼却灰(鶏糞灰):小林ら(2013)によると、鶏糞灰中には牛糞灰中よりもリン酸の全濃度とク溶性濃度、および加里の全濃度が高い。リン酸の肥効率は熔成リン肥や過リン酸石灰と同程度である。青森農林総研によると、鶏糞灰は銅を300ppm以上含む。 牛糞焼却灰(牛糞灰):小林ら(2013)によると、鶏糞灰中よりもリン酸濃度は低いが、牛糞灰で育てた小松菜の乾燥重量およびリン酸吸収量は鶏糞灰で育てたものよりも同等以上であった。過リン酸石灰で育てたものよりも乾燥重量が、熔成リン肥で育てたものよりもリン酸吸収量とリン肥効率は有意に高かった。牛糞灰中のリン酸はほとんど可給態であると考えられ、リン酸化学肥料の代替となり得る。 炭化動物糞 炭化鶏糞:土壌改良材として使用される。窒素を2-3%含むが、この窒素分は無機化せず作物へと供給されない。リン酸は9%ほど含まれ、主に遅効性である。加里は8%ほどあり、遅効性と速効性の両方が存在する。亜鉛を600ppm以上含む。10a当たり300kg程度の施用では、土壌での亜鉛の蓄積量は少なく亜鉛の過剰害の心配はない。 加工家禽糞肥料 家禽の糞で、農林水産省告示第284号で指定される工程で加工されたものは加工家禽糞肥料と呼ばれ、登録有効期間6年の普通肥料として扱われる。水分は20%以下で、窒素全量およびリン酸全量をそれぞれ2.5%以上並びに加里全量を1.0%以上含む。硫酸等を混合して火力乾燥したもの。 加熱蒸煮した後に乾燥したもの。 熱風乾燥および粉砕を同時に行ったもの。 発酵乾燥させたもの。 グアノ 海鳥の排泄物や死体が風化・堆積して生成されたもの。窒素質グアノ : 比較的多量の窒素分を含有するグアノ。登録有効期間3年の普通肥料に分類される。窒素質グアノは、雨量が少ない高温多照の乾燥地帯(ペルー、チリ、アルゼンチンなど)、土壌の窒素が流亡しない条件で生じる。 リン酸質グアノ:降雨により流出した海鳥の排泄物中の成分のうち、リン酸分だけが母岩の炭酸石灰と作用して生じた難溶性のリン酸三石灰が堆積したもの。特殊肥料である。 バットグアノ;蝙蝠の排泄物と死体が堆積したもの。リン酸が多い。特殊肥料である。 尿素 動物から調達された尿素や尿素ホルムアルデヒドは有機農業に適している。
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