経
★1a.経が人を救う。
『宇治拾遺物語』巻6-5 谷に落ちた男が、『観音経』を唱えて「助け給え」と念ずる。経文の「弘誓深如海」のあたりを読む時、谷底から大蛇が現れて、男の傍へ這って来る。男は大蛇の背に刀を突き立て、それにすがって岸の上へ登る。帰宅して、常に読誦する『観音経』を開くと、「弘誓深如海」の所に刀が突き立っていた〔*『古本説話集』下-64話に同話。『今昔物語集』巻16-6・『大日本国法華験記』下-113話の類話では、経軸に刀が立つなどの小異〕。
『今古奇観』第14話「宋金郎団円破氈笠」 宋金は両親の死後、旧知の劉家の婿となるが、肺病になったため荒地に捨てられる。老僧が現れ『金剛般若経』の巻物を宋金に授けて姿を消し、宋金が教えに従って経文を唱えると、たちまち病気は治る。
『今昔物語集』巻14-42 左大将常行は百鬼夜行に出会い、鬼に捕らえられそうになるが、襟首に尊勝陀羅尼が縫いこんであったため、鬼は近づけず退散する。
『太平記』巻3「赤坂の城軍の事」 赤坂城を脱出する楠木正成が、敵の弓で近距離から臂を射られた。ぐさりと臂の関節に突き刺さったような衝撃があったが、不思議なことに矢がはね返って、正成は身に傷を負わずにすんだ。後で見ると、膚守りとして入れておいた『観音経』の「一心称名」の偈の所に、矢の尖端が留まっていた。
*海へ落とされても沈まなかった→〔袋〕5bの『宇治拾遺物語』巻10-10。
『今昔物語集』巻6-38 震旦の男が『維摩経』を書写して病気を治し、20年の寿命を得、また冥土の父母の苦を救った。
『今昔物語集』巻6-47 27歳の時、占者から「短命である。31歳を過ぎることはない」と言われた張李通は、『薬師経』1巻を書写して30年寿命が延びた。
『今昔物語集』巻6-48 13歳の童児が命の終わるはずの日に、僧が『寿命経』を転読するのを聞いて、70余歳の命を得た。
『今昔物語集』巻7-8 震旦の男は、『大品般若経』をそれと知らずにわずか3行書写しただけで、83歳の長寿を得た。
『法華経』「常不軽菩薩品」第20 すべての人々を敬い拝んだ常不軽菩薩が死期を迎えた時、虚空から法華経の20千万億の偈が聞こえた。それを聞き会得した常不軽菩薩は六根清浄の身となり、寿命が2百万億那由佗歳まで延びた。
『今昔物語集』巻7-2 唐の高宗の時代、1人の書記生が病死して冥府へ赴いたが、1日2夜を経て蘇生した。彼は生前に高宗の勅命で『大般若経』10巻を書写したことがあり、それを知った閻魔大王が彼を放免したのだった。自分の意志からでなく、国王の命令で経の1部を書写しただけでも、このような功徳がある。
『宝物集』(七巻本)巻7 唐の長安に、1人の盲人がいた。彼は聾唖者でもあったから、仏像も見えず、経論も聞こえず、法文を誦することもできず、まったく仏法を知らなかった。ある人が盲人を憐れみ、両手を取り合わせて『法華経』を拝ませたことがあった。盲人には、何のことだかわからなかった。やがて盲人は病死したが、閻魔王が「この人は『法華経』を拝んだ人だ」と言って、すぐ現世へ帰した。蘇生後、盲人は眼が開き、耳が聞こえ、ものを言うことができるようになった。
★2.前世で経典の文字を喰ったり焼いたりした報いを、現世で受ける。
『天狗の内裏』(御伽草子) 浄土にいる父源義朝が、13歳の義経(=牛若丸)に前世と将来を教える。義経は前世で鼠だった。源頼朝・北条時政・梶原景時は、前世で頼朝(らいてう)・時政(じしゃう)・景時坊(けいじばう)という聖だった。鼠が、聖の持つ経典の文字を喰ったので、景時坊はこれを憎んだ。それゆえ現世で義経は、梶原景時から讒言され兄頼朝に討たれて、32歳で死ぬ運命なのである。
『今昔物語集』巻14-13 入道覚念は『法華経』を読誦していたが、経の中の3行の文章だけはどうしても覚えられず、読むことができなかった。ある夜の夢に老僧が現れ、「汝は前世で衣魚(しみ)であり、『法華経』の巻物の中に巻き込められて、3行の文章を喰ってしまった。だから覚えられないのだ」と教えた。
『日本霊異記』上-18 生来聡明な修行者が、8歳以前に『法華経』をすべて読誦することができたが、1文字だけどうしても覚えられなかった。20歳を過ぎてもなお、覚えられなかった。ある夜の夢で彼は、「前生に燈火で経文の1文字を焼いてしまったため、その文字を覚えられないのだ」と、教えられた。
『神道集』巻8-49「那波八郎大明神の事」 大蛇の餌食にされる姫の身代わりに、宮内判官宗光が贄棚に上り『法華経』を唱える。大蛇は涙を流し「経聴聞の功徳で悪心が消えた」と礼を述べて去る。
『まつら長者』(説経)5段目 松浦長者の娘さよ姫が、大池の大蛇の千人目の生贄になる。彼女の読誦する『法華経』を聴聞した大蛇は、12の角と1万4千の鱗が落ち、女体となって「大蛇の苦を逃れ成仏得脱を得た」と礼を述べる。
『仮名手本忠臣蔵』4段目「判官切腹」 塩冶判官は切腹し絶命した後も、九寸五分(くすんごぶ)の刀を右手に固く握りしめて放さない。大星由良之助が「南無阿弥陀仏」を唱えながら判官の右手を撫でさすると、ようやく掌が開いて刀を放す。
『是楽(ぜらく)物語』(仮名草子) 山本友名の愛人「きさ」は、瀬田の橋から身を投げた。瀬田の橋の下は深い淵で、龍宮界の城門がある、と聞いたからである。「南無妙法・・・・」と唱えつつ飛び込み、「・・・・蓮華経」は水の底から聞こえた。
『南総里見八犬伝』第2輯巻之1第12回 伏姫を背に乗せて富山に入った八房は、情欲をもって伏姫を見つめ喘いでいた。しかし伏姫が法華経を読誦するのを百日余り聞くと、八房の情欲は消えた。
『今昔物語集』巻12-7 天平勝宝4年(752)、東大寺の大仏開眼供養の日、聖武天皇は夢告にしたがって、その朝最初に通りかかった鯖売りの翁を、法会の読師に任命した。法会が終わると翁は忽然と姿を消し、彼が持っていた笊の中の鯖は、『華厳経』80巻に変わった。天皇は、翁が仏の化身だったことを悟り、礼拝した。
『日本霊異記』下-6 衰弱した師僧に食べさせるために、弟子が魚8尾を買う。魚を入れた櫃から魚の汁が垂れるので、信徒たちが咎めるが、櫃を開けると中は『法華経』8軸に変わっていた。
『西遊記』百回本第98回 三蔵法師一行は大乗経典を求め、14年かけて天竺雷音寺の釈迦如来のもとにたどり着く。しかし手土産を用意して来なかったため、阿難と迦葉が文字の書いてない白紙の経巻を授ける。燃燈古仏がそのことを教えたので、三蔵は、托鉢用の紫金の鉢を阿難に献上し、有字の真経5千48巻を得る。
『和漢三才図会』巻第66・大日本国「常陸」 ある家に一夜の宿を請うた親鸞は、断られて門前の石を枕に臥した。その夜、家主の夢に老僧が現れ、「阿弥陀如来が門前におられるのに、どうして饗応せぬのか」と咎める。家主が門外を見ると、1人の僧が石の上に臥しており、その呼吸はみな称名であった。家主は僧(親鸞)を招き入れて厚くもてなし、その弟子となる。家は寺(枕石寺)になった。
*牛の鳴き声が、読経に聞こえる→〔動物音声〕1bの『古今著聞集』巻20「魚虫禽獣」第30・通巻701話。
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