《行く》の尊敬語
「行く」の尊敬語表現
尊敬語は目上の人に対して、相手を高めて敬意を表す表現です。動詞の「行く(ゆく)」には、「向こうまたは目的地に向かって移動する」という意味があります。「(時間や水などが)流れる」「死ぬ」「物事をする」などの意味も持ちます。補助動詞として使う場合は、他の動詞と併せて「走って行く」などという使い方をします。「ゆく」は「いく」と表現されることもあります。「いく」は話し言葉的な印象になるので、文章では「ゆく」を使うのが一般的です。促音便になるときは「ゆく」ではなく「いく」を使って、「いって」「いった」となります。主な「行く」の尊敬語としては、「行かれる」「いらっしゃる」「おいでになる」があります。「行く」はカ行五段活用する動詞で、「行かれる」は「行く」の未然形に軽い尊敬を表す助動詞「れる」がついたものです。尊敬語としてはやや尊敬の度合いが低くなるので近い立場の、改まった関係ではない人に対して使うのが無難です。3つの中では、「おいでになる」がもっとも尊敬度の高い表現となります。
「いらっしゃる」「おいでになる」は「来る」の尊敬語でもあるので、状況や文脈から意味を理解するようにしましょう。「お行きになる」も文法上問題のない尊敬語として捉えることができますが、相手に違和感を与えることがあるため「いらっしゃる」「おいでになる」といった適切な尊敬語を使う方がよいといえます。
「行く」の尊敬語の最上級の表現
尊敬語の最上級の表現は最高敬語です。天皇や皇族、国王や王族に対してのみ使います。「行く」の最高敬語である「行幸(ぎょうこう)」は、天皇が外出されるときに使います。皇后と一緒のときは「行幸啓(ぎょうこうけい)」といいます。皇太孫までを含めた皇族の外出は、「行啓(ぎょうけい)」です。「行く」を「死ぬ」という意味で使うときは、天皇、上皇、皇后、皇太后、太皇太后の死に際しては「崩御(ほうぎょ)」を使います。その他の皇族の場合は「薨去(こうきょ)」です。
「行く」の尊敬語のビジネスメール・手紙での例文
ビジネスの場面では顧客や取り引き先を、年齢や役職に関係なく目上として扱います。自分や上司、同僚など身内のことを取り引き先などに伝えるときは、尊敬語ではなく謙譲語の「参ります」や「伺います」を使いましょう。「いらっしゃる」を使ったビジネスメールや手紙では、「先日いらっしゃった研修旅行の写真ができ上がりましたので、お送りいたします」などのように使います。「おいでになる」を使うと「来週の研修旅行には、おいでになりますか」のようになります。同僚への社内メールであれば、「出欠の返信がないようですが、来週の研修旅行には行かれますか」でもよいでしょう。
「行く」を上司に伝える際の尊敬語表現
上司といっても様々です。親しい直属の上司なら「来週の出張には、どなたと行かれますか」でも問題ないでしょう。あまり親しくない部署の違う上司や、頻繁には姿を見かけることのないほど立場が上の上司なら「先日いらっしゃった出張の、資金前渡の精算の件で参りました」「次回の月例会には、おいでになりますか」など、「いらっしゃる」や「おいでになる」を使うのが適切です。「行く」の尊敬語での誤用表現・注意事項
「いらっしゃる」の誤用としては、「いらっしゃられる」があります。「いらっしゃられる」は「行く」の尊敬語の「いらっしゃる」と、軽い尊敬を表す助動詞の「られる」からできています。尊敬を表す言葉が重なっているので、二重敬語となり間違いです。「おいでになる」を「おいでになられる」とするのも、「いらっしゃられる」と同様の誤りです。どちらも誤用の頻度が高いので、尊敬の念を表そうとするあまり尊敬の意味のある言葉を2つ重ねて使わないように注意しましょう。
謙譲語の「参る」を、尊敬語と認識する間違いもあります。謙譲語は自分を下げて相手を立てる敬語なので、「社内会議には、部長が参られました」ではなく「部長がいらっしゃいました」などとするのが正しい使い方です。
一方、「取り引き先へは、何時に参られますか」は謙譲語として正しい使い方です。この場合には、立てるのは上司ではなく取り引き先になるからです。
配偶者や両親など身内のことを他者に話す場合「結婚式には、父母がおいでになりました」などのように、身内に対して尊敬語を使うのは間違いです。ビジネスシーンでは係長に対して「社内会議には、課長がいらっしゃいました」は正解ですが、部長に対して「課長がいらっしゃいました」は微妙です。一般的には、部長は課長よりも役職が上なので「課長が参りました」と謙譲語を使います。自身が課員であれば、課長は身内だからと考えることもできます。しかし課長を立てることで、さらに上の立場にいる部長も立てることになるとする考え方もあります。気になるようなら「いらっしゃる」や「おいでになる」よりも尊敬の程度の低い「行かれる」を使って「課長が行かれました」というとよいでしょう。取り引き先などに対しては、相手が新入社員だったとしても「課長が参りました」などと謙譲語を使います。
「行く」の尊敬語での言い換え表現
「行く」の尊敬語での言い換え表現は、「いらっしゃる」「おいでになる」「行かれる」を相互に言い換えることができます。「死ぬ」の意味の尊敬語は、「逝去する」です。従って身内には使えません。一般的には「逝去される」として使います。尊敬語での言い換えは、「お亡くなりになる」です。
「行く」の敬語表現
目上の人がどこかに出向くことを、「行く」と表現するのは日本語として不適切です。「行く」という言葉には、動作の主体となる人への敬意が含まれていないため、「行く」とそのまま表現すると、目上の相手に対して失礼にあたります。そこで、目上の人の「行く」という行為を表現する時には、相手に敬意を示せる尊敬語に置き換えることが必要です。目上の人が「行く」ことを表す敬語表現としては、「いらっしゃる」や「おいでになる」が一般的です。どちらも、目上の相手の「行く」という動作を高めることで敬意を表すことができる尊敬語の表現で、ビジネスシーンでも頻繁に使われています。「〜へいらっしゃいますか」「〜においでになるのですね」とさまざまなフレーズで用いることができ、やわらかい丁寧な言い回しによって、相手を敬う気持ちが十分に伝わる表現です。
「行く」の敬語には、尊敬の助動詞「れる」を組み合わせた「行かれる」という尊敬語もあります。正しい敬語ではありますが、簡易的な表現のため、敬意の度合いがやや低い印象のある言葉です。そのため、「行く」を尊敬語に置き換える場面では、「行かれる」よりも、「いらっしゃる」や「おいでになる」が使われることが多くなっています。
「行く」の敬語の最上級の表現
「行く」の尊敬語には、「お出ましになる」という特別な言い回しもあります。「お出ましになる」には、「身分の高い人がよそへ出向くこと・出席すること」という意味があり、「お出ましになりました」「お出ましいただく」などと丁寧に言い換えることも可能です。大和言葉の美しいフレーズで、目上の人の「行く」という動作に高い敬意を払える最上級の敬語表現と言えるでしょう。ただし、日常生活ではあまり耳にすることのない改まった表現なので、たとえ目上の人であっても、使う相手によっては大袈裟で不自然だと受け取られる場合もあります。「お出ましになる」は、格式が高い家柄の人や重要な役職に就いている人など、最上級の敬語表現が相応しい身分の人に対して使うようにしましょう。
「行く」の敬語のビジネスメール・手紙での例文
「明日の展示会には、何時頃行かれますか」「A社に行かれる時には、同行いたします」「来週、出張で大阪にいらっしゃると伺いました」「本日のパーティーにいらっしゃるのであれば、○○様によろしくお伝えくださいませ」「次のご旅行は、どちらにおいでになるのでしょうか」「来週の食事会には、おいでになりますか」「家元がお出ましになる際には、是非ともお知らせくださいますようお願い申しあげます」「次回の全社会議には、会長にお出ましいただくことになりますので、何卒よろしくお願いいたします」「行く」を上司に伝える際の敬語表現
上司の「行く」という動作を表現する時には、「いらっしゃる」や「おいでになる」など、しっかりと敬意が伝わる尊敬語を使うのが妥当です。日頃から優しく接してくれるフレンドリーな上司であっても、ビジネスの場において、「〜に行きましたか」「〜に行くのでしたら」などの敬意を省いた表現を使うのは控えるようにしましょう。また、目的やシチュエーションに会わせて、「お出掛けになりますか」「足を運ばれたのですね」などと、類似した意味を持つ別の尊敬語を使っても問題はありません。定型の敬語だけに拘らずに、会話の自然な流れや状況を考慮した最適な敬語表現を使うことが、上司との円滑なコミュニケーションにもつながるでしょう。
「行く」の敬語での誤用表現・注意事項
「行く」の尊敬語として、尊敬表現の「お〜なる」を組み合わせた「お行きになる」という表現もあります。しかし、「行く」の尊敬語として「いらっしゃる」や「おいでになる」が定着していることから、「お行きになる」という敬語が使われることはほとんどありません。文法上の間違いはありませんが、耳慣れない表現に違和感を感じる人も少なくないので、ビジネスシーンにおいても使わない方が無難でしょう。また、「いらっしゃる」や「おいでになる」を使う時に、なるべく丁寧に言おうとして、「いらっしゃいますでしょうか」「おいでになりますでしょうか」と表現するのは不適切です。丁寧語+丁寧語の二重敬語となり、マナーに反する敬語表現とされています。同様に、「いらっしゃられますか」「おいでになられますか」も、尊敬語+尊敬語の二重敬語となり、日本語として誤った表現です。敬語が重なったくどい言い回しを不愉快に感じる人もいるので、緊張した時などに言い間違えることのないよう、日頃から正しい敬語表現を心掛けましょう。
「行く」の敬語での言い換え表現
行かれる行かれます
行かれますか
行かれました
行かれましたので
行かれましたか
いらっしゃる
いらっしゃいます
いらっしゃるので
いらっしゃるのであれば
いらっしゃるのでしょうか
いらっしゃいますか
いらっしゃった
いらっしゃいました
いらっしゃいましたので
いらっしゃいましたか
おいでになる
おいでになります
おいでになりますので
おいでになりますか
おいでになるのでしょうか
おいでになった
おいでになりました
おいでになりましたので
おいでになりましたか
お出ましになる
お出ましになりますので
お出ましになった
お出ましになりました
お出ましになりましたので
お出ましいただく
お出ましいただいた
お出ましいただいたので
お出ましいただけますか
《行く》の尊敬語
「行く」の尊敬語表現は「いらっしゃる」など3つ
「行く」の尊敬語表現は「行かれる」と「いらっしゃる」、そして「おいでになる」の3つです。そもそも尊敬語とは、相手のアクションに対して相手を高め、敬うために使うものです。あくまで対象は相手、それも目上の人を対象に使用する敬語だと理解しておくと間違いありません。「行かれる」は、「行く」に尊敬を表す「れる」をつけたものです。とても使いやすい尊敬語ですが、他の尊敬語と比較すると少し敬意が下がる印象があります。「いらっしゃる」は「行かれる」よりも尊敬の度合いが高い敬語で、「行く」の他に「来る」と「いる」の尊敬語でもあるのが特徴です。「行く」の場合は「京都へはいらっしゃいますか」と使いますし、「来る」なら「何時ごろいらっしゃいますか」です。「いる」の場合は「~さんはいらっしゃいますか」となります。「おいでになる」は、3つの中で一番尊敬度の高い敬語です。「おいでになる」もまた、「行く」と「来る」そして「いる」の3つの意味を持つ尊敬語です。それぞれの例文は「行く」が「どちらまでおいでになりますか」で、「来る」が「こちらまでおいでになりますか」そして「いる」が「昨日までおいででした」となります。「行く」の尊敬語での誤用表現と注意事項
「行く」の尊敬語の誤用表現は、使う対象を間違えたときに発生します。尊敬語は相手の行為に対して使うものであり、自分や自分の関係者に使うのは誤用です。よく見られるのが、「はい、社長はこれからそちらまでいらっしゃいます」のように、社内の上役に使ってしまうケースです。これでは会話の相手よりも、自社の社長の方を敬っている印象を与えてしまいます。この場合なら、「行く」の謙譲語である「参る」を使うのが適切です。「行く」の尊敬語を使う際の注意事項は、先ほどご紹介した「いらっしゃる」と「おいでになる」にそれぞれ含まれる、3つの意味ごとの使い分けです。「行く」と「来る」は正反対の行動なので、特に気をつけましょう。「行く」の尊敬語での言い換え表現
「行く」の尊敬語には言い換え表現がいくつかあります。「行く」の丁寧語は、助動詞の「ます」をつけた「行きます」です。「そちらへ行く」よりも丁寧な表現で、目上の人にも一応使えます。ただし取引先の相手などには、他の敬語の方が適しています。「行く」の謙譲語は「参る」と「伺う」の2つです。「参ります」や「伺います」、「お伺いします」のように使います。へりくだり、相手に敬意を表するときに使用するのが謙譲語です。行き先が取引先など、相手の立場が目上の場合には「伺います」を、話し相手を立てる場合には「参る」を使い分けるのが基本です。「ただちに御社にお伺いします」や、「私がこれからそちらに参ります」などがその具体例となります。また、「行く」自体の言い換え表現には「赴く」と「出向く」があります。《行く》の尊敬語
「行く」の尊敬語表現
「行く」の尊敬語は、特定形を用いて表現する場合と、一般形を用いて表現する場合との二通りの言い方ができます。特定形とはあらかじめ決まった言葉だけに用いることのできる敬語表現で、「言う」を「おっしゃる」、「する」を「なさる」、「食べる・飲む」を「召し上がる」、「くれる」を「下さる」というような表し方を指して言います。そして、このように特定形を用いて「行く」を表すと「いらっしゃる」「おいでになる」などとなります。いっぽう、一般形とは広くいろいろな言葉に適用できる一般的な語形を用いて表した敬語表現です。よく見られる形として「お(ご)…になる」「(ら)れる」「…なさる」「ご…なさる」などがあります。この一般形を用いて表わせば「行く」は「お行きになる」「行かれる」などとすることができます。「行く」の尊敬語での誤用表現・注意事項
「行く」の尊敬語を使った敬語表現は「いらっしゃる」「おいでになる」「お行きになる」「行かれる」などと表すことができますが、注意すべき点もあります。それは二重敬語とならないように気を付けることです。敬語を使う場合、相手を敬おうという気持ちが高まりすぎると複数の敬語を重ねてしまう場合がありますが、一つのセンテンスに同種の敬語を二つ以上使用するのは文法的に禁じられています。たとえば「本日の会議は社長もおいでになられます」としてしまうと、「おいでになる」に「られる」という尊敬語が二つ並んだ二重敬語となってしまいます。これは、敬意を示したつもりでも慇懃無礼として捉えられかねない誤った用法ですので、使用する際は十分に気を付けなくてはなりません。また文法的な誤りではなく語感の問題ですが、一般形の「お行きになる」「行かれる」はビジネスシーンなど公的な場にはそぐわない印象を与えます。「行かれる」の「れる」には尊敬の他に可能の意味もあり、混同して文脈がとりづらいという難点もあります。「行く」の尊敬語としては、やはり特定形の「いらっしゃる」「おいでになる」を使用した方が無難でしょう。「行く」の尊敬語の言い換え表現
「行く」の尊敬語、「いらっしゃる」「おいでになる」を他の敬語で言い換えた場合は「おでましになる」「お運びになる」「おみえになる」「おこしになる」などを挙げることができます。「おや外出とは珍しい。どちらへお運び(おみえ・おこし)ですか」などと使います。これらは「いらっしゃる」「おいでになる」などと同様に、「行く・来る」の両義を持つ言葉です。とはいえ使用例としては断然「来る」の意味で用いられるケースが多く、「行く」の尊敬語としてはそれほど多用される表現ではありません。- 《行く》の尊敬語のページへのリンク