集団的自衛権 集団的自衛権の概要

集団的自衛権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/15 09:45 UTC 版)

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沿革

冷戦期のヨーロッパにおける勢力図。
青が北大西洋条約機構(NATO)加盟国。
赤がワルシャワ条約機構加盟国。

集団的自衛権は、1945年に署名・発効した国連憲章の第51条において初めて明文化された権利である[1][4]。憲章第51条を以下に引用する。

この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。 — 国連憲章第51条

上記のように国連憲章には「固有の権利」として規定されたが、個別的自衛権(自国を防衛する権利)は同憲章成立以前から国際法上承認された国家の権利であったのに対し、集団的自衛権については同憲章成立以前にこれが国際法上承認されていたとする事例・学説は存在しない[1]

1944年にダンバートン・オークス会議において採択され、後に国連憲章の基となったダンバートン・オークス提案には、個別的または集団的自衛に関する規定は存在しなかった[1][5]。しかし、後に国連憲章第8章に定められた“地域的機関”(欧州連合アフリカ連合などの地域共同体のこと)による強制行動には、安全保障理事会による事前の許可が必要とされることとなり、常任理事国の拒否権制度が導入されたことから常任理事国の拒否権発動によって地域的機関が必要な強制行動を採れなくなる事態が予想された[4]。このような理由から、サンフランシスコ会議におけるラテンアメリカ諸国の主張によって、安全保障理事会の許可がなくても共同防衛を行う法的根拠を確保するために集団的自衛権が国連憲章に明記されるに至った[1][4]

冷戦期には、集団的自衛権に基づいて北大西洋条約機構(NATO)やワルシャワ条約機構(WTO)といった国際機関が設立され、集団的自衛を実践するための共同防衛体制が構築された[4]。しかし冷戦が終結すると、ワルシャワ条約機構は解体されるなど、このような集団的自衛権に基づく共同防衛体制の必要性は低下していった[4]

権利の性質

個別的および集団的自衛権行使の要件
要件 個別的 集団的
必要性
均衡性
攻撃を受けた旨の表明
援助要請
ニカラグア事件判決によると、で示した要件のうちいずれかひとつでも満たさない場合には正当な自衛権行使とは見なされない[6][7][8]

国家の自衛権は、国際慣習法上、すでに19世紀には、自らの権利その他の利益に対する重大な損害を排除するために取ることのできる正当な手段として認められていたといわれるが、主権国家の権利として容認されていたこの自衛権とは、国連憲章にいうところの個別的自衛権である。20世紀、特に第一次世界大戦以降は、この自衛権の行使は次第に、不正な侵害の全てに対してではなく、武力攻撃による権利・利益の侵害に対処する場合に限定して容認されるようになっていき、国連憲章に至ったとされる[9]。個別的自衛権は国連憲章成立以前から認められた国家の慣習国際法上の権利であり、上記の国連憲章第51条において個別的自衛権を「固有の権利」としているのはこの点を確認したものである[10]

このように個別的自衛権が国際法上も長い伝統を有する概念であるのに対して、集団的自衛権は、国連憲章に現れるまで、国際慣習法上の権利としては論じられたことがないものであった。こうした新たな権利が個別的自衛権と並んで国家の「固有の権利」と位置づけられるに至った背景には、国連憲章第53条において、加盟国が地域的取極に基いて強制行動を取るためには安全保障理事会の許可を得なければならない旨が定められたことに対して、ラテンアメリカ諸国が強い反発を見せたことがあるとされている[11]

集団的自衛権が攻撃を受けていない第三国の権利である以上、実際に集団的自衛権を行使するかどうかは各国の自由であり、通常第三国は武力攻撃を受けた国に対して援助をする義務を負うわけではない[1]。そのため米州相互援助条約北大西洋条約日米安全保障条約などのように、締約国の間で集団的自衛を権利から義務に転換する条約が結ばれることもある[1]。国際慣習法上、相手国の攻撃が差し迫ったものであり他に選択の余地や時間がないという「必要性」と、選択された措置が自衛措置としての限度内のものでなければならないという「均衡性」が、国家が合法的に個別的自衛権を行使するための条件とされる[10][12]

1986年、国際司法裁判所ニカラグア事件判決において、集団的自衛権行使のためには上記のような個別的自衛権行使のための要件に加えて、武力攻撃を受けた国がその旨を表明することと、攻撃を受けた国が第三国に対して援助要請をすることが、国際慣習法上要件とされるとした[12][8]。第三国の実体的利益に対する侵害が存在するか否かという点を要件とするかについては現在も意見の相違がある[1][12]。つまり、第三国の実体的利益に対する侵害が集団的自衛権行使の要件として必要とする立場では第三国も攻撃を受けた国と同様に単独で個別的自衛権を行使できる場合にしか集団的自衛権行使は認められないとするのに対し、第三国の実体的利益に対する侵害が要件として不要とする立場では集団的自衛権は攻撃を受けた国の武力が不十分である場合に国際平和と安全のため行使される共同防衛の権利であり、第三国の実体的利益への侵害は無関係であるとする[2][12]。ニカラグア事件国際司法裁判所判決もこれらのうちいずれの見解を採用したものであったのか明確ではない[12]


  1. ^ a b c d e f g h 筒井、176頁。
  2. ^ a b 山本、736頁。
  3. ^ 安田、225頁。
  4. ^ a b c d e 杉原、459頁。
  5. ^ 筒井、235頁。
  6. ^ 杉原、456頁。
  7. ^ 杉原、460頁。
  8. ^ a b “Military and Paramilitary Activities in and against Nicaragua (Nicaragua v. United States of America), Merits, Judgment” (英語、フランス語) (PDF). ICJ Reports 1986: pp.77-78,95,110-113. http://www.icj-cij.org/docket/files/70/6503.pdf. 
  9. ^ 山本、733頁。
  10. ^ a b 山本、732頁。
  11. ^ 国際法学会 2005, pp. 453.
  12. ^ a b c d e 杉原、459-460頁。
  13. ^ 米議会調査局報告書, pp.23-27
  14. ^ 森田(2005)、137頁
  15. ^ 豊下楢彦古関彰一『集団的自衛権と安全保障 』岩波新書、2014年。ISBN 978-4-00-431491-2p139-140
  16. ^ 米議会調査局報告書, p.27
  17. ^ 米議会調査局報告書, p.27 "Perhaps as a consequence of these developments, declarations of war have fallen into disuse and are virtually never issued in modern conflicts."
  18. ^ Waging war: Parliament’s role and responsibility”. 貴族院 (イギリス). p. 7 (2006年7月26日). 2014年9月29日閲覧。 “The United Kingdom has made no declaration of war since that against Siam (modern Thailand) in 1942, and it is unlikely that there will ever be another.(英国は1942年にシャム、現在のタイ王国に対してを最後に宣戦布告を行ったことはなく、また今後もおそらく行うことはない。”
  19. ^ a b 森田(2005)、137頁。
  20. ^ a b c d 森田(2005)、139-141頁。
  21. ^ a b c d 森田(2005)、154-156頁。
  22. ^ 森田(2005)、137-139頁。
  23. ^ 松葉真美 2009, pp. 93-97.
  24. ^ a b 松葉真美 2009, p. 97.
  25. ^ 松葉真美 2009, p. 93.
  26. ^ 松葉真美 2009, p. 95.
  27. ^ 松葉真美 2009, pp. 94-95.
  28. ^ 松葉真美 2009, pp. 91-93.
  29. ^ 阪田雅裕 2013, p. 52.
  30. ^ a b 山本、737-739頁。


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