存立危機事態
そんりつきき‐じたい【存立危機事態】
存立危機事態
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/05/07 02:56 UTC 版)
存立危機事態(そんりつききじたい)とは、2015年に平和安全法制の一環として制定された事態対処法によって定義される、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされる事態である[1]。日本の国内法において、集団的自衛権の発動による武力の行使が可能になる事態とされる[2]。
概要
定義
事態対処法第2条第4項によって、以下のように定義される。
我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態 — 事態対処法第2条第4号
これは、武力を用いた対処をしなければ、日本が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな事態であるとされる[3]。
対処措置
存立危機事態に際しては、内閣総理大臣は自衛隊に対して防衛出動を命ずることができる[4]。防衛出動を命ずるにあたっては、原則として国会の事前承認が必要であるが、特に緊急の必要があり事前に国会の承認を得るいとまがない場合は事後承認でよい[5]。防衛出動を命じられた自衛隊は、武力行使の新三要件を満たす場合に限り、武力の行使ができる[6]。
その他に、以下のような対処措置が可能となる。
- 米軍等行動関連措置法に基づく行動関連措置
- 外国軍用品等海上輸送規制法に基づく海上輸送規制
手続き
存立危機事態に至ったときは、政府は次の事項を定めた対処基本方針を閣議決定し、国会の承認を求めなければならない[7]。
- 対処すべき事態に関する事項
- 事態の経緯、事態認定の前提事実など
- 日本国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がなく、武力の行使が必要であると認められる理由
- 存立危機事態への対処に関する全般的な方針
- 対処措置に関する重要事項
議論
集団的自衛権行使の可否
本条文は2026年現在、2014年7月の閣議決定を前提として[9]、集団的自衛権による武力行使が可能な場合を規定しているものとされている[10]。すなわち、日本が直接攻撃を受けていない場合においても、密接な関係にある他国が攻撃を受け、政府が存立危機事態と認定した場合、集団的自衛権を行使できるものとされる[11]。
一方、2024年に立憲民主党(当時)の枝野幸男は、2014年の閣議決定を前提とした解釈(法解釈)において安保法制は違憲であり、本条文(存立危機事態)は、個別的自衛権は合憲とする根拠である砂川判決が個別的自衛権の要件として挙げる「我が国に対する急迫不正の侵害があること」の範囲内で解釈可能、すなわち本項は集団的自衛権を定めたものとしてでなく、存立が脅かされる場合における個別的自衛権を定めたものとして解釈可能なものであると主張している[12]。
認定の判断基準
存立危機事態の認定に関しては、基準の曖昧さや拡大解釈の懸念も指摘される[13]。一方で、どのような場合が「存立危機事態」にあたるかについては、具体例を挙げないことで「あいまい戦略」として抑止力を強化しているとの指摘もある[14]。
存立危機事態に該当しうる事例にとして、政府はこれまでに以下の場合を挙げている。
- ホルムズ海峡の地域で紛争が発生し、機雷が敷設され、石油の供給不足で国民生活に死活的な影響が生じる場合[15]。なお、政府が想定しているのは、「機雷が敷設された後、事実上の停戦状態となり、戦闘行為はもはや行われていないが正式停戦が行われず、遺棄機雷とは認められないようなケース」とされる[16]。
- 日本の近隣で紛争が発生し、日本に危機が差し迫ってくる可能性がある場合に、警戒にあたる米艦が公海上で攻撃を受けた場合[17]。
- 台湾有事に際して、台湾に対して武力攻撃が発生し、戦艦(広義)によって海上封鎖が行われ、その海上封鎖を解くために米軍が来援するのを防ぐためにさらに武力行使が行われるといった事態が想定される中で、戦艦を使って武力の行使が行われた場合[18]。
それに加えて政府は、「国連憲章上、武力攻撃の発生が自衛権の発動の前提となることから、仮にある国が何ら武力攻撃を受けていないにもかかわらず違法な武力行使を行うことは国際法上認められていない」とし、「我が国が自衛権を発動してそのような国を支援することはない」としている[19]。
台湾有事をめぐる議論
脚注
- ↑ 事態対処法第2条第4項。
- ↑ “[ニュースQ+]存立危機事態とは? 自衛隊の武力行使可能に…高市首相発言で中国反発”. 読売新聞オンライン (2025年11月16日). 2025年11月18日閲覧。
- ↑ 2014年7月14日衆議院予算委員会、横畠裕介内閣法制局長官答弁。
- ↑ 自衛隊法第76条第1項第2号。
- ↑ 事態対処法第9条第4項。
- ↑ 『令和7年版防衛白書』第II部第5章第2節。
- ↑ 事態対処法第9条。
- ↑ 事態対処法第10条。
- ↑ “集団的自衛権行使容認閣議決定後10年を迎えるにあたって改めて違憲であることを確認する会長声明|東京弁護士会”. 東京弁護士会(法律相談・弁護士相談等). 2025年11月18日閲覧。
- ↑ “「存立危機」高市首相の認識に危うさ 台湾有事巡る発言撤回せず 事態認定に高い壁/邦人保護にリスクも:北海道新聞デジタル”. 北海道新聞デジタル. 2025年11月18日閲覧。
- ↑ “高市首相、台湾有事「存立危機事態になりうる」 武力攻撃の発生時:朝日新聞”. 朝日新聞 (2025年11月7日). 2025年11月18日閲覧。
- ↑ “立憲民主党の枝野幸男前代表の回答(全文):朝日新聞”. 朝日新聞 (2024年9月20日). 2025年11月18日閲覧。
- ↑ “読む政治:台湾有事で「存立危機事態」、どう判断? 高市首相答弁に残る曖昧さ”. 毎日新聞. 2025年11月18日閲覧。
- ↑ “新聞ですら間違えた「台湾問題」に対する日本政府の立場。「日本は台湾を中国の一部と認めている」と思い込む人たちの課題”. 東洋経済オンライン (2025年11月18日). 2025年11月18日閲覧。
- ↑ 第186回国会 衆議院 予算委員会 第18号 平成26年7月14日 安倍晋三首相答弁。
- ↑ 第189回国会 参議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第20号 平成27年9月14日 安倍晋三首相答弁。
- ↑ 第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第3号 平成27年5月27日 安倍晋三首相答弁。
- ↑ 第219回国会 衆議院 予算委員会 第2号 令和7年11月7日 高市早苗首相答弁。
- ↑ 第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第4号 平成27年5月28日 安倍晋三首相答弁。
関連項目
- 重要影響事態 - 存立危機事態 - 武力攻撃事態
- 武力行使の三要件
- 高市早苗による台湾有事発言
外部リンク
- 存立危機事態のページへのリンク