シク教 シク教の概要

シク教

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/17 14:50 UTC 版)

アムリトサル黄金寺院
アムリトサルの黄金寺院とシク教徒

総本山はインドのパンジャーブ州アムリトサルに所在するハリマンディル(ゴールデン・テンプル、黄金寺院)。寺院の周辺には大理石の板が敷き詰められていて寄進者の名前が刻印されている。経典は『グル・グラント・サーヒブ』と呼ばれる1430ページの書物であり、英語に翻訳され、インターネットでも公開されている。

『グル・グラント・サーヒブ』の“グル”、“グラント”、“サーヒブ”という言葉は、それぞれ“師匠”、“書物”、“様”を意味している。シク教団第10祖グル・ゴービンド・シングには4人の息子がいたが、ムガール帝国との戦いで殺され子孫がいなくなり彼の遺言で経典『グラント・サーヒブ』をグルにするようにと言ったのでこの名になった。

キリスト教イスラム教ヒンドゥー教仏教に次いで世界で5番目に信者の多い宗教で、約2400万人の信者がいる。印僑として欧米諸国や東南アジアで暮らすシク教徒も多い[1]。少数だが、日本にもコミュニティが存在する。

教義

シク教の教義は宗教家であるグル・ナーナクによる『グル・グラント・サーヒブ』のほかそのなかに含まれる『ジャブジー』『アーサー・ディー・ヴァール』などの詩歌によって伝えられており、敬虔な教徒は毎日これらを朗踊する。グル・ナーナクはその作品を通じて、真の宗教は儀式や形式といった表面的なものへの執着を超えたところにあるとし、「イク・オンアカール (ik onakar)」(は一つである)というメッセージを繰り返すことで神の不可分性を説いている[2]

神には色々な呼び名があり、それぞれの宗教によって表現のされ方の違いはあるが諸宗教の本質は一つであるとし、教義の上では他宗教を排除することはない。イスラム教のようなジハード努力)も説いていない。但し、他宗教への批判を全くしないのではなく、ナーナクは、ヒンドゥー・イスラム両教の形骸化、形式、儀式、慣行、苦行は批判をしている。その一方で、「聖典に帰れ」と主張しており、宗教家・聖書解釈家によってつくられた二次宗教から離脱し、本来の教えに立ち帰るべきだとの信念を持っている。

シク教徒は常に神の本質および存在(ナーム)を思い起こし、家庭生活に結びつけることを要求される[2]儀式偶像崇拝苦行ヨーガハタ・ヨーガの意味)、カースト出家迷信を否定し、世俗の職業に就いてそれに真摯に励むことを重んじる。戒律は開祖の時はなかったが、第10代グル・ゴーヴィンド・シングによってタバコアルコール飲料麻薬が禁止された。肉食は本人の自由に任されている。寺院での食事は菜食主義者に敬意を表して肉は供されない。

シク教の最終目標は、輪廻転生による再生を繰り返した末に、神と合一するムクティである。ムクティに至れるかどうかは他人への奉仕とグルの恩寵にかかっており、ムクティと個人の性やカーストは無関係とされている。人の一生を精神の超越への行程と考えるヒンドゥー教に対し、自分の事ばかり考える人間は5つの煩悩(傲慢、欲望、貪欲、憤怒、執着)に負けてしまうため、真のシク教徒は一生を常にグルに向け、神を真実の師(サット・グル)として仰ぐ[2]

教祖ナーナクが他宗教の影響をどれだけ受けたかという問題は、現在に至るまで議論が続いている[2]。ナーナクはヒンドゥー教と同様に輪廻転生を肯定しているが、カーストは完全否定している。これにはイスラームの影響もあると考えられている。この見解には宗教改革カビールラヴィダース英語版の影響と、北インドのイスラーム神秘主義であるスーフィズムの影響が考えられる。カビールの生没年ははっきりしていないが、1440年誕生1518年死亡説をとるなら、カビールおよびナーナクの両人の接触はあったとも考えられる。

思想の系譜としては、初めにラーマーヌジャがいて、その孫弟子にラーマーナンダが、その弟子にカビールがおり、その影響を受けたのがグル・ナーナクということになる。

宗派

特に重要な宗派として、以下の4つが挙げられている[3]

ニランカーリー英語版 (Nirankari)
19世紀に起きた宗教改革運動に起源を有する。運動を始めたダヤル・ダースは、瞑想の重要性を説き、パンジャブ地方北西部で勢力を拡大した。他のシク教徒と異なり、カールサーを支持しない。シク教の経典に基づいた、誕生や結婚、死にまつわる儀式の標準化に大きな貢献をした。
アカンド・キールタニ・ジャタ (Akhand Kirtani Jatha)
20世紀の初めに現れた。「ケスキ」という小さなターバンをかぶっている。「キールタン」(讃美歌のようなもの)に重きを置いている。
ナームダーリー (Namdhari)
19世紀に誕生した厳格な宗派で、神の名を繰り返し唱えること以外のいかなる宗教儀式も行わない。頭にターバンを巻くという特徴的なスタイルを導入した。また、カールサーのメンバーとしてのアイデンティティーを強調している。他の宗派の人間とは結婚しない。
3HO (Healthy, Happy, Holy Organization)
1971年アメリカで設立。女性にもターバンの着用を義務付けている。信者の大半は白人のアメリカ人で、瞑想とクンダリニー・ヨーガを重視している。クンダリニー・ヨーガはヒンドゥー教のものであり、シク教の教義にはない。異端と見る者もいる。

  1. ^ a b (世界発2019)シーク教の巡礼道、印パに新たな火種: パキスタン側へ4キロ、ビザ不要」国際面、『朝日新聞』(朝日新聞デジタル)、2019年1月10日、朝刊。2019年1月16日閲覧。「■着工式に独立派リーダー、インドは「策謀だ」」
  2. ^ a b c d e f g ネズビット 2006, pp. 66–71.
  3. ^ Sikhism - Sects and other groups - Encyclopædia Britannica
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  52. ^ 印パ、「回廊」建設工事開始”. 共同通信社 (2018年11月29日). 2019年1月16日閲覧。
  53. ^ 京都新聞2020年1月26日朝刊


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