X68030
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/24 14:14 UTC 版)
1993年3月に発売されたX68030(エックス ろくはちまるさんまる)シリーズ(型名はCZ-500 / CZ-300シリーズ)は25MHzのMC68EC030を搭載したX68000の後継機種。名実ともに32ビットパソコンとなった。5インチFDDを装備するX68030 (CZ-500) と、3.5インチFDDを装備するX68030 Compact (CZ-300) の2機種が発売された。 X68000発売当初は、次のMC68020以上のMPUを積む32ビットパソコン化の際は、大幅なアーキテクチャの拡大と改良が予定された。そのために移植性に優れたCコンパイラが安価に提供され、うまく行けば、ユーザーは既存のプログラムを再コンパイルするだけで32ビットパソコンへとスマートに移行できるはずだった。アセンブラレベルであっても、互換性に優れた上位プロセッサの恩恵を受け、趣味としての充分な時間と労力の中で問題にならない程度の一部の書き換えで事は済むはずだった。しかし、MC68EC030の採用に留まり、かつ後述されるわずかな改良に留まった。旧X68000シリーズとのソフトウェア互換性も低く、実質はX68000のソフトウェアも動作可能である 68EC030パソコンであった。 主記憶は標準で4MBとなり、内蔵の専用メモリーソケットに12MBまで搭載可能だった。MC68030 / MC68EC030は4GBのメモリー空間を持つが、X68030ではX68000のアーキテクチャを引き継ぎ互換性の維持を優先した結果、このメモリー空間の12 - 16MBの領域にメモリーマップドI/OやVRAMが配置され分断された。このことにより、セグメントによる制限のないリニアアドレッシングが売りの68系コンピュータでありながら、インテルの86系16ビットコンピュータの「640KB / 768KBの壁」などと同様の状態を生み出すこととなった。 なお、X68030シリーズでは通常のDRAMではなく、より高速にアクセス可能な日立製作所製スタティックカラムモードDRAMが採用された。これによってシステムタイミング上ではページ間をまたぐアクセス(1ウェイト挿入)以外については0ウェイトでのメモリーアクセスが可能であった。市販PCでこのメモリーを標準搭載したのは本シリーズが事実上唯一であった。FPUソケットも用意され、PLCC版のMC68881や、より高速なMC68882を追加できるようになっていた。MPU周辺回路の特徴を挙げると、内部標準搭載メモリーの動作クロック向上かつ 32ビットバスへの接続の結果、従来よりも高速なアクセスが可能となった。一部の周辺 I/Oなどが従来より高速動作可能となった点で性能改善が見られた。また、DMAコントローラーに従来よりも高速なものが使用されていた。 その他の、特にこのパソコンのセールスポイントとなるべきグラフィックス回路は、X68000のものを踏襲したままとなった。よって旧来の 16ビットバスで接続され、アクセス時にオーバーヘッドが発生しやすく、高速化された MPUに追従し切れていないアンバランスな設計となっていた。 内蔵ハードディスクはどちらのモデルにもSCSIの2.5インチタイプのものを使用するようになっていた。 XVIのような動作クロックの切り替えスイッチはなく、起動時にキーボードのXF3~ XF5キーを押したままとすることでMPUの動作速度を旧機種と相当する速度から最高速度までの3段階(XF-3=10 MHz、XF-4=16 MHz、XF-5=25 MHz)に変更できるようになっていた。 バンドルされるDOSのHuman68kは先述のデバイスタイプ定義に伴う内部的な仕様の変更や、ネットワーク対応などを前提としたファイルシステムの拡張が施されたバージョン3.0となった。さらに、SX-Windowもバージョン3.0となり、ベクトルフォント対応などの機能強化と内部処理の高速化、それにテキストエディタ「シャーペン.x」の添付などにより実用性の向上が計られた。なお、X68030では従来のX68000用ソフトとの互換性維持のため、Fライン例外処理を行っている部分をAライン例外処理へ変更するなどの修正を実施した、Human68kバージョン2.15がROMに内蔵されており、上述のXFnキーとの組み合わせでフロッピーディスクから起動される、市販された全ての旧バージョンのHuman68kを自動判別して、ロード時に68030対応のHuman.sysと動的に差し替えると同時にCPUキャッシュの機能を停止するいう互換性向上機能が実装されている。 MC68EC030はソケットによって実装されており、ユーザがより高速な33MHz版のMPUに差し替えたり、MMUを内蔵するMC68030に換装することが可能となっており、交換された場合、起動時にMMUの存在が認識、表示されるようになっている。後に、MC68040や、MC68060を搭載するためのアクセラレータが他社から発売された。クロック変更のためのパターンが基板上に記されている、起動時の POST表示にてで定格よりも高速な動作クロック周波数や標準では搭載されていないMMUの有無が自動判別されて表示される機能も組み込まれ入れていた。専門誌である『Oh!X』では発売と同時により高速な速度で駆動させるための改造記事が公開されていた。 FPUが通常のPGA版ではなくPLCC版とされたのは、当時このタイプのMC68882がMacintosh LCシリーズなどでサポートされており、店頭での入手が容易だったことに配慮されたためだったという。もっとも、このFPUは標準OSであるHuman68k上ではソフトウェアによる浮動小数点演算ドライバであるfloat2.xと共通のAPIでアクセスするfloat4.x経由でのアクセスとなったためオーバーヘッドがあった。 後に、16MB以上の空間にSIMMメモリを増設するボードが他社から発売され、これとMC68030のMMUを活用しハイメモリ空間にメインメモリを配置することも可能となった。なお、Human68kバージョン3.0でのプログラミングでは16MB以上のメモリー空間は、予約済み領域とされアドレスの上位1バイトはゼロで埋めることが要求されている。これは、将来16MBを超えるメモリー空間を利用する際に互換性を確保するためであった。 FPUのオーバーヘッドの問題も FPUを直接使用するようにプログラムされたプログラムが発表されるようになって、その問題は解決されていった。 5インチモデルの筐体のマウンタの取り付け位置はXVIなどと共通になっているため、XVI用のマウンタを保守パーツで購入するか、X68030用のものは穴を開けることで3.5インチのHDDも固定することが可能である。ただし、電源や、信号ケーブルのピッチなどが異なるため、別途変換するなどして配線する必要がある。 SCSIインターフェイスは電気的にはSCSI 1規格準拠のままだったが、CCS (Common Command Set) の制定によりソフトウェアレベルでの互換性確保が可能となり、またデバイスタイプが明確に定義されたことから、従来はデバイスタイプをドライブの側でHDD互換としなければブートできなかった、光磁気ディスクドライブなどのリムーバブルメディアからのOSブートがサポートされた。 従来機との互換性については前述の互換機能をもってしても起動すらままならなかったり 動作中に異常終了するなど正常に動作せずパッチ適用など大幅な修正が必要なソフトが多く、この機種を購入するユーザーはたいていは旧機種である X68000を所有していたことから、わざわざ互換性の乏しいこの機種で X68000用のソフトウェアを実行させるよりも、本来のX68000で実行する、というケースがほとんどだった。 また、このパソコンのMPUをMC68030に差し替えることでMC68030が内蔵するMMUにより本格的な仮想記憶に対応したNetBSD等のUNIX互換OSも有志の手で移植された。 このようにある程度の盛り上がりを見せたが、当時既に68000系プロセッサの優位性は、MIPSアーキテクチャなど高性能なRISCの台頭で失われており、さらに80386から始まったインテル製の32ビットプロセッサファミリーとの競合でも不利になりはじめていた。実際に、かつて68000系MPUを採用したEWS等では80386や80486との差別化をより決定的にできるRISCプロセッサへの移行が進んでおり、AppleのMacintoshなど68000系のMPUを採用する機種では、前月にMMU内蔵のMC68030 25MHzと4MBのRAM・HDDを搭載したMacintosh LC IIIがより安く発売されたり、本体基本価格をかなり高く設定できる業務用の上位機種には、より高速なMC68040が搭載されていた。つまり個人がホビー用途として購入できる価格帯に、メーカー標準出荷状態で68000系MPUの最新のものを搭載することはコストの問題から事実上不可能だった。最終的にはきわめて特殊なパソコンとなり、価格も高価であったことから販売が振るわず、X68000シリーズは終焉を迎えることとなった。
※この「X68030」の解説は、「X68000」の解説の一部です。
「X68030」を含む「X68000」の記事については、「X68000」の概要を参照ください。
- X68030のページへのリンク