エフエックス‐フォーマット【FX format】
読み方:えふえっくすふぉーまっと
FXフォーマット
35mmフルサイズ
(FXフォーマット から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/01 03:58 UTC 版)


35mmフルサイズは、デジタルカメラの固体撮像素子のサイズ規格のひとつの通称で、135フィルム(35 mmフィルム)を使用するカメラで広く用いられる24 mm × 36 mmに近い画面サイズを指す。単にフルサイズと称されることも多く、英語圏でも同様にfull-frameと略されることがある。
このサイズがフルサイズと呼ばれるのは、135フィルムがフィルムカメラにおけるデファクトスタンダードとなっており、デジタルカメラにおいても画角を35 mm判換算焦点距離で表現するのが一般的となっていることに起因する。実際には中判デジタルカメラなどよりサイズの大きい撮像素子を使用するカメラもあり、必ずしもフルサイズが最大の撮像素子ではない。
135フィルムがかつてライカに採用され全世界に広まったことから、このサイズの画面フォーマットをライカ判と呼ぶことがある。また、ニコンではFXフォーマットという名称を使用している。
このサイズの撮像素子と適合するレンズなどのカメラシステムを構築・製造するには莫大なコストがかかるため、プロフェッショナルおよびハイアマチュア向け一眼レフならびにミラーレス一眼カメラに採用されるにとどまっている。普及価格帯の一眼レフカメラやミラーレス一眼カメラでは、より小さい撮像素子を搭載する規格であるAPS-Cサイズが主流で、これは面積比でフルサイズの40 %前後となる。デジタルレンジファインダー・カメラでは、R-D1ではAPS-Cサイズが採用され、フルサイズのデジタルレンジファインダー・カメラは、2009年秋登場のM9が初となった[注釈 1]。なおコンパクトカメラには対角線長で12 mm未満の撮像素子が使われており、これは35 mmフルサイズの撮像素子(対角線長が43 mm)の面積比にしてわずか5 %程度の極めて小さな撮像素子である。
メリット
撮像面のサイズが、一般的な35mmフィルムを使用するカメラとほとんど同じであることから、同じ焦点距離のレンズを使用した場合の画角やボケ方がほとんど同一となるというメリットがある。35mmフィルムを使う一眼レフ・レンジファインダーがあまりにも広く普及したため、それらのレンズ交換システムの規格がデジタルカメラに引き継がれていることが多い。また、画角・ボケ方・焦点距離・絞りなどの相互の関係を習得している写真愛好家も多い。このような理由から、過去に35mmフィルムカメラを使ってきた層にとっては、35mmフルサイズの撮像素子を持つカメラこそ最も使いやすいカメラであり、フィルムカメラ時代のレンズの描写特性を生かすためには35mmフルサイズの撮像素子を使う必要があると主張されることがあった。
デジタルカメラの撮像素子の比較では、フルサイズのほうが撮影範囲が広くなる[1]のはいわずもがな、被写界深度が浅くなりボケ具合が大きくなるというメリットがある[2]。
また、同じ画素数の撮像素子で比較した場合、1画素あたりの受光面積がAPS-Cサイズ比で2.2倍と大きくなり、感度やS/N比の面で有利とされる。
デメリット
半導体素子は、その面積が大きくなると、一枚のシリコンウェハーから取れる数量が少なくなったり、歩留まりが悪くなる。そのため撮像素子の製造コストが高く、カメラ本体の高価格化に直結する。また、撮像素子の構造に起因するデジタルカメラ特有の周辺光量の低下がより強く出るため、テレセントリック性が高いレンズ設計が必要であるとされるが、マウント径の制限があるためレンズの焦点距離によっては設計が困難である。また、構造の関係から、カメラ本体が大型になり、重量も増大し、携帯性に劣る。
さらに、イメージサークルが相対的に大きいこともあり、所要の性能を持つレンズは同じ焦点距離であってもAPS-C向けと比べて大型で重量が増し、価格も高価格にならざるを得ない。それゆえカメラ本体だけでなく、システム全体が大型で重くなり、高価格になりがちである。なお、一部のミラーレス一眼専用のレンズではミラーレス一眼カメラのAF性能の向上により低照度でも使用できるようになっており、その恩恵としてレンズの開放絞りを小さくすることによって小型・軽量化を実現している。例えば超望遠レンズである一眼レフレンズ、キヤノンEF1200mm F5.6L USMの質量が約16.5kgあるのに対し、ミラーレス一眼専用で開放絞りが小さいRF1200mm F8L IS USMの質量は約3.34kgと13kg以上の軽量化がされている。
従来レンズの流用可否
レンズにおいては、従来のフィルム一眼レフと同等の条件での撮影が可能である反面、赤外線カットフィルターや、オプティカルローパスフィルタ、センサーのカバーガラス等の、フィルムカメラには存在しない光学素子の存在により収差が発生してしまうという問題がある。この収差は、光線の入射角度が大きい(センサー周辺部)ほど強く出る傾向がある。また、オプティカルローパスフィルターは光線の入射角度が大きい方が効果が強く出る。フィルム用に設計された明るいレンズや広角レンズの周辺部の像が著しく不鮮明になるのは、これらが主な原因である。
なお、一部の高級機でオプティカルローパスフィルターとして高価なニオブ酸リチウムを採用しているのは、ニオブ酸リチウムの強い複屈折性を生かすことでオプティカルローパスフィルターの厚みを抑え、フィルム用のレンズを使った場合の収差の発生を少しでも抑えようとするためである。逆に言えば、安価な水晶をオプティカルローパスフィルターとして採用した場合、フィルム用のレンズとの組み合わせでは収差が大きくなる。
また、フィルムカメラ用のレンズは射出瞳(exit pupil)の位置がまちまちで、マイクロレンズ(撮像素子上にある超小型レンズ)が想定する位置にあるとは限らない。このため多くのレンズで周辺光量の低下が発生する。
デジタル専用設計レンズとは、これらの光学素子の存在や、撮像素子の特性を前提として設計されたものである。収差が最適にコントロールされたレンズ設計をするためには、本来、それらの光学素子が規格化されている必要があるが、機種によってまちまちなのが実状である。そのため、デジタル専用設計レンズであっても、想定と異なる光学素子が搭載されたカメラと組み合わされた場合、収差が設計どおりに収束しない場合もある。また、マウント径の制限により、射出瞳を理想的な位置に配置することができず、周辺光量の低下を十分にコントロールできない場合もある。
以上の理由により、フィルムカメラ用のレンズをそのまま使った場合でも、実際には期待通りの結果を得られるとは限らない。また、フィルムからデジタルへの移行を考えた場合、撮像素子のサイズよりも他要素の影響が大きいため、クリアかつシャープな描写を望む分には、必ずしもフルサイズにこだわる必要はないという意見もある。
今後の展開
従来はセンサ製造のコストが高く、定価60 - 100万円ほどの価格でプロ向けの製品にのみ採用されたが、ステッパーの改良により露光回数を2回に減らしたり、水晶のローパスフィルタを採用するなど、センサー周辺の製造コストを大幅に削減し、20万円前後のハイアマチュア向け製品を発売できるまでになっている。かつてはAPS-Hサイズまで一回で露光できるステッパーを保有するキヤノンとコダックのみがフルサイズの製造コストを下げることが可能だった。他社では、製造に3回以上の露光が必要となる。よって、この2社からの供給を受けない限り、他社から35mmフルサイズが出てくる可能性は低いと考えられていた。
ところが、2007年8月23日にニコンが、自社開発の35mmフルサイズCMOSイメージセンサを搭載したD3を発表し、2007年11月30日に発売した。
また、ソニーは2008年1月30日、35mmフルサイズで有効2481万画素と高速読み出し(6.3フレーム/秒 - )を実現したデジタル一眼レフカメラ向けCMOSイメージセンサの開発に成功したと発表。2008年10月23日に35mmフルサイズを搭載したαシリーズのフラッグシップ機としてα900を発売した。さらに2012年9月12日には、世界で初めて35mmフルサイズCMOSセンサを搭載したコンパクトデジタルカメラ、サイバーショットDSC-RX1を発表した[3]。
脚注
注釈
- ^ ちなみにM8とM8.2はAPS-Hサイズ。
出典
関連項目
参考リンク
FXフォーマット
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/09 09:54 UTC 版)
「ニコンのデジタル一眼レフカメラ製品一覧」の記事における「FXフォーマット」の解説
D700(2008年7月25日発売、FXフォーマット) - D3と同様の「FXフォーマット」と呼ばれる12.1メガピクセル24×36mmCMOSを採用。ファインダー視野率95%、連写スピードは5コマ/秒(バッテリーグリップ装着時は8コマ/秒)であるが、スペック上の多くの部分でD3に匹敵した能力を備えており、それでいて小型化(D300に近いサイズだが重さは160g程度重い)と低価格化を実現している。マグネシウム製ボディ。 D800(2012年3月22日発売、FXフォーマット)‐ D700のフルモデルチェンジ版(後継機ではない)。登場時現在では世界最高画素数となる「FXフォーマット」36.3メガピクセル24×35.9mmCMOSセンサーを採用。測光センサーやフォーカスポイント等の機能は一部D4と同等である。コンパクトフラッシュのほか、SDメモリーカードにも対応。 D800E(2012年4月12日発売、FXフォーマット) - D800に搭載されている光学ローパスフィルターを除去し、レンズからの光をより直接的に撮像素子へと導き、解像感を高めた派生モデル。偽色やモアレが発生しやすい場面はあるが、D800と比較しより解像力の高い画像とすることが可能。それ以外の機能・性能はD800と同一。 D600(2012年9月27日発売、FXフォーマット)‐「FXフォーマット」の廉価版モデル。登場時点ではFXフォーマット機種で最小・最軽量。24.3メガピクセル24×35.9mmCMOSを採用。カードスロットはSDメモリーカードのダブルスロット。連写スピードは5.5コマ/秒。別売ワイヤレスモバイルアダプターを用いた、スマートデバイスとの双方向通信可能。発売後、黒い粒が吹き出るという不具合が多数報告されたため、改良版のD610が発売される。しかし、D600ユーザーからの苦情は止まらず、ニコンの対応も後手後手に回る。 2014年2月には、アメリカ合衆国では集団訴訟を起こされ、結局この問題に対しては、無償で無期限の保証を行うことになった。事実上、製品の欠陥を認めた形ではあるが、リコールは行っていない。 さらに、2014年3月15日の世界消費者権利デーには、中華人民共和国の国営放送である中国中央電視台で暴露され(3・15晩会)、中華人民共和国政府より回収命令が出され、中華人民共和国での販売停止に追い込まれる。 なお、黒い粒が出る現象が起きていない機種でも、サービスセンターに持って行けば、メーカー保証期間外でも、無償で改良を施してもらえる。 D610(2013年10月19日発売、FXフォーマット)‐ D600のマイナーチェンジモデル。24.3メガピクセル24×35.9mmCMOSを採用。連写スピードは6コマ/秒にアップ、さらに静音モードでの連写も3コマ/秒で可能。別売ワイヤレスモバイルアダプターを用いた、スマートデバイスとの双方向通信可能。 D810(2014年7月17日発売、FXフォーマット)- D800の後継機種。3635万画素24×35.9mmCMOSを採用。ローパスフィルターは非搭載のため光学的には実質的にD800Eの後継機となる。画像処理エンジンはEXPEED 4を使用、先に同エンジンを搭載したモデル同様最大常用ISO感度が12800にアップするだけでなく、撮像素子の各画素が蓄積可能な光の情報量を2/3段分増やすことで、階調性を損なうことなくベース感度ISO 64を達成した。D800/D800E同等の高画素ゆえに発生する機構ブレの影響を低減するために、駆動機構、ミラーバランサーを新設計。また、レリーズモードをMUP(ミラーアップ撮影)に設定しているときには、メカニカル先幕シャッターを電子先幕シャッターに切り換え、先幕の働きを撮像素子で代用する撮影を可能とした。 D750(2014年9月25日発売、FXフォーマット)- D610とD810の中間にあたる新モデル。2432万画素24×35.9mmCMOSを採用、ローパスフィルターは搭載。画像処理エンジンはEXPEED 4を使用、先に同エンジンを搭載したモデル同様最大常用ISO感度が12800にアップ。重量と基本的なインターフェースはD610に準ずるが、測光(91000分割RGBセンサー)とAF機能(51点AF)はD810に準ずるだけでなく、AFセンサーは-3EVの暗さでも対応し上位機種を凌駕する性能も有する。マグネシウム合金の面と、炭素繊維複合材の面を併用したモノコック構造の採用と、内部構造のレイアウトからゼロベースで刷新することにより、ボディーの大幅な薄型化を実現し、深いグリップによる確実なホールド感を確保した。FXフォーマットモデルでは初となるチルト式液晶、Wi-Fi機能、スペシャルエフェクト機能も搭載している。 D850(2017年9月8日発売、FXフォーマット)- D810の後継機種。4689万画素35.9×23.9mmサイズの裏面照射型CMOSセンサーを採用。画像処理エンジンはD5と同じEXPEED 5を使用。裏面照射型とすることで高画素化しながらも最高感度ISO 25600としている。またベース感度ISO 64としている。連写はボディ単体で7コマ/秒、D5と同じマルチパワーバッテリーパック MB-D18を使用することで9コマ/秒とする。D5を超える倍率約0.75倍の光学ファインダーを新搭載した。内蔵フラッシュは廃止。発売開始以来世界的な品薄が続いており、DLシリーズの発売中止や1000人以上の希望退職者などで経営が危ぶまれていたニコンの業績の回復に寄与した。「総合的なバランスの良い、完成度の高いカメラ」として、2018年のカメラグランプリ「カメラ記者クラブ賞」と「あなたが選ぶベストカメラ賞」をダブル受賞した。 D780(2020年1月24日発売、FXフォーマット)- D750の後継機種。2450万画素・画像処理エンジンEXPEED 6採用。1/8000秒シャッター・Wi-Fi(無線LAN)・Bluetooth内蔵。内蔵フラッシュは廃止。裏面照射型CMOSセンサーを採用し、最大常用ISO感度が51200にアップした。また、ファインダー撮影ではD5のAFアルゴリズムを最適化したというオートエリアAFの被写体検出性能が高められ、ライブビュー撮影時においてはニコンの一眼レフカメラとして初となる273点像面位相差AFを搭載したコントラストAFとの自動切換によるハイブリッドAFシステムや、タッチパネルモニターを採用し、特にライブビュー撮影時の使い勝手やAF性能の向上が図られた。動画撮影は、フルフレームでの4K UHD、フルHD、HD動画に対応。音元出版が主催する「デジタルカメラグランプリ2020 SUMMER」「デジタルカメラグランプリ2021」において「総合金賞」を受賞した。
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