長者
★1a.貧しい男が長者になる。
『炭焼き長者』(昔話)「初婚型」 縁遠い娘が、占い師から「お前は、遠い田舎にいる炭焼き五郎という人と縁が結ばれている」と教えられ、炭焼き五郎の小屋を訪ねて嫁になる。五郎は、嫁の持つ小判を見て、「こんなものは炭窯のそばにごろごろあって、毎日掻きのけるのに骨が折れる」と言う。嫁が見に行くと、窯のまわりは小判の山だった。嫁は小判の値打ちを五郎に教え、2人はりっぱな屋敷を建てて栄華な暮らしをした(鹿児島県薩摩郡下甑村手打)→〔宝〕10a。
『文正草子』(御伽草子) 常陸国に住む身分低い文太は、塩屋に奉公して薪を取る仕事をし、塩竈2つを与えられて塩を焼く。文太の塩は美味でよく売れ、文太は長者となって名も「文正つねおか」と改める。後に、文正(文太)の娘の1人は入内し、1人は関白家に嫁ぎ、文正自身は大納言になって百歳の長寿を保った。
『藁しべ長者』(昔話) 金持ちが貧しい男に、「藁しべ1本をもとでに長者になれたら娘をやろう」と言う。男は藁しべを、芭蕉葉・味噌・剃刀・脇差と次々に交換し、脇差を殿様に売って大金を得、金持ちの娘を嫁にもらう(長崎県壱岐郡志原村。*他にも、小刀で鱶(ふか)を殺して船主から米俵をもらう・刀が大蛇を斬って殿様から千両もらう、などいろいろな形がある。*→〔交換〕4の『今昔物語集』巻16-28が文献にのる古形)。
*貧しい粉ひきの息子が猫の助力で侯爵になる→〔遺産〕2の『長靴をはいた猫』(ペロー)。
*貧しい少年が猫を売って大金持ちになる→〔売買〕1の『ウィッティントンと猫』(イギリス昔話)。
*貧しい男が鼠1匹を資本に大金持ちになる→〔交換〕4の『カター・サリット・サーガラ』。
『ジャイアンツ』(スティーブンス) テキサスの大牧場主ベネディクト家に、東部から美しい娘レズリーが嫁いで来る。牧場で働く貧しい青年ジェットは、レズリーを憧れの目で見る。ジェットは牧場内の僅かな土地を与えられ、そこに石油を掘り当てて、大金持ちになる。20年ほど後、初老の億万長者となったジェットは、豪華なホテルを建て、落成パーティーに、各界の名士たちとともにベネディクト一家をも招く。ジェットは酔いつぶれ、客たちへの挨拶もできず、誰もいなくなった会場で1人、レズリーへの思いを語り続ける。
★2a.長者の家が没落する。
『しんとく丸』(説経) 河内の国高安の郡の信吉(のぶよし)長者は、四方に4万、八方に8万の蔵を持っていた。しかし息子しんとく丸が盲目の癩病者となったのを、後妻の言にしたがって捨てた報いで、信吉長者自身も盲目になり、身内にも逃げられて、物乞いをする身の上になった〔*後に信吉はしんとく丸に再会し、開眼する〕。
福田の森の伝説 洞川の村に福田という長者がいたが、他村の生まれゆえ、村づきあいをしてもらえなかった。飢饉がおこると、いくら金があっても誰も食物を分けてくれず、長者一家は飢えて死に瀕する。やむなく有り金すべてを壺に入れて山に埋め、「朝日さすみつ葉うつぎのその下に小判千両のちの世のため」と石に彫り込んで、家内の者は小判をくわえて死んだ。その地が今の福田の森である(奈良県吉野郡天川村洞川)〔*→〔願い事〕3の『変身物語』巻11(ミダス王)や、→〔二者択一〕1の産女(うぶめ)の伝説と同類の物語〕。
枡伏せ長者の伝説 貧しい男が長者になるが、有縁無縁の人々がむらがって物を乞うので、男は煩わしがり、「昔の貧しい生活が良かった」と考える。旅人が「1升枡を池で洗って伏せ、枡の底を叩けば、お金をなくすことができる」と教える。そのとおりにすると男はたちまち貧乏になり、飢え死にしてしまった(愛媛県松山市)。
『まつら長者』(説経)初段 大和国壺坂の松浦長者京極殿は、8万宝の宝に飽き満ち、高麗・唐土まで知られる大長者だった。しかし、妻と4歳の1人娘さよ姫を残して病死し、1代で作った財産だったので、たちまち貧者の家となってしまった→〔身売り〕4。
*長者の息子が貧乏になる→〔心中〕7aの『法句譬喩経』巻4「喩愛欲品」。
『神道集』巻6-33「三島大明神の事」 伊予の国の長者・橘朝臣清政は四方に4万の蔵を立て、朝は5百人の侍女、夕は3千人の女官が世話をした。清政は、大和の長谷寺の十一面観音に、全財産と引き換えに子授けを願い、奥方が美しい若君(=玉王)を産んだ。しかし4万の蔵からは宝が消え、数万人の家来も去って行った。清政夫婦と若君は、山の木の実や磯のわかめを取って、命をつなぐことになった。
*逆に、子供の身体と引き換えに、天下を取ることを願う→〔交換〕3gの『どろろ』(手塚治虫)。
『小原庄助さん』(清水宏) 大地主だった杉本左平太は、時世の変化のため財産を相当減らしたが、昔どおり朝寝・朝酒・朝湯の暮しを続け、「小原庄助さん」と呼ばれていた。庄助さんは「他人に損かけるより、自分が損した方がいいさ」と言って、村人たちの世話をした。やがて庄助さんの富も底をつき、家屋敷を売り払うことになる。庄助さんは「一から出直そう」と、新天地を求めて、妻と一緒に村を出て行く〔*映画の終わりには、『終』でなく『始』というエンドマークが出る〕。
★3a.長者の財力。
『うつほ物語』「吹上」上 紀伊国牟婁郡の長者・神南備種松は、莫大な財宝の持ち主だった。彼は外孫の涼に、国王にも劣らぬ暮らしをさせるべく、吹上の浜に四面八町の広大な邸を造営した。3重の垣に2つの陣を据え、東の陣の外には春の山、南の陣の外には夏の陰、西の陣の外には秋の林、北には冬も枯れぬ松の林を設けた。
『だんぶり長者』(昔話) 奥州のだんぶり長者は、とほうもない大金持ちだった。屋敷には3千人の家来がおり、1日に百石のご飯を炊いた。米をといだ白水が米代川(よねしろがわ)へ流れ出たので、今でも米代川は白く濁っている。だんぶり長者は子宝にも恵まれ、美しい姫君があって、後に都の尊い方のお妃になった(秋田県鹿角郡)。
『今昔物語集』巻1-31 須達長者は貧窮時代に釈尊に供養し、その功徳でたちまち370の蔵に七宝が満ちた。長者は、ギダ太子が所有する東西10里・南北7百余歩の景勝地に、厚さ5寸の黄金を敷きつめ、これを対価としてその土地を買い取り、釈尊と弟子たちのために祇園精舎を建立した。
『遠野物語拾遺』133 昔、上郷村に、「仁左衛門長者」という長者と、「羽場(はば)の藤兵衛」という長者がいた。ある時、羽場の藤兵衛が「おれは米俵を横田の町まで並べて見せる」と言うと、仁左衛門長者は「そんだら、おれは小判を町まで並べて見せよう」と言った〔*しかし後に仁左衛門長者は没落した〕。
『空飛ぶトランク』(アンデルセン) 昔、お金持ちの商人がいて、町の大通り全部と、おまけに小さな横町まで、銀貨を敷きつめることができるほどだった。しかしそんなことはせず、もっと違ったお金の使いみちを知っており、1シリング出すと1ダラーに増えて戻って来るのだった〔*やがて商人は死に、息子は短期間で遺産を使い果たしてしまった〕→〔飛行〕3。
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