通勤災害の定義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/23 08:34 UTC 版)
労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡を通勤災害という(労働者災害補償保険法第7条1項2号)。通勤災害は、直接には使用者に補償責任はないが、勤務との関連が強いという判断の元、昭和48年の法改正により労災保険の適用が認められた。 「通勤」とは、労働者が就業に関し以下に掲げる移動を合理的な経路及び方法により、往復することをいい、業務の性質を有するものを除く。 住居と就業場所との往復「住居」として、労働者が居住して日常生活の用に供している場所と認められれば、単身赴任先の住居が認められ、さらに反復性や継続性(おおむね月1回以上の往復行為又は移動がある場合。以下同じ)が認められれば単身赴任先と帰省先の双方が住居として認められうる。また、長時間残業・新規赴任・転勤等の勤務上の事情や、交通事情、自然現象等の不可抗力的な事情により一時的に通常の住所以外の場所に宿泊するような場合には、やむをえない事情で就業のために一時的に住居を移していると認められるので(昭和48年11月22日基発第644号)、ホテルや病院、親族宅も住居として認められうる。逆に例えば、友人宅で麻雀をし、翌朝そこから直接出勤する場合等は、就業の拠点となっていないので、「住居」とは認められない。 「往復」とは、不特定多数の者の通行を予定している場所での往復をいう。したがって住居の敷地内又は専有部分内は対象とならない。例として、通勤時の玄関先での転倒による負傷が私有地内での事故を理由に不支給とされたものがある。 派遣労働者については、派遣元事業主または派遣先事業主の指揮命令により業務を開始し、または終了する場所が「就業の場所」となる。したがって、派遣労働者の住居と派遣元事業場または派遣先事業場との間の往復の行為は、一般に通勤となる(昭和61年6月30日基発383号)。 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動「厚生労働省令で定める就業の場所」とは、適用事業・暫定適用事業に係る就業の場所、特別加入者(通勤災害が適用されない者を除く)に係る就業の場所、及びこれらに類する就業の場所をいう。具体的な「就業の場所」とは、本来の業務を行う場所のほか、得意先から直接帰宅する場合の当該得意先、全員参加で出勤扱いとなる会社主催の運動会会場などが該当する。外勤労働者で特定区域を担当し区域内の数カ所の用務先を受け持って自宅との間を往復している場合、最初の用務先が業務開始の場所で、最期の用務先が業務終了の場所となる。 「他の就業の場所」(移動の終点となる就業の場所)は、労災保険の通勤災害保護制度の対象となる事業場に限る。これは、通勤災害に関する保険関係の処理は、終点たる事業場の保険関係で行うこととされるためである。 「他の就業の場所」から「厚生労働省令で定める就業の場所」への移動は、必ずしも「通勤」に該当するとは限らない。 1.の往復に先行し、又は後続する住居間の移動であって所定の要件に該当するもの転勤に伴い、やむをえない事情により配偶者、子、要介護状態にある父母・親族等と別居することとなった場合に、帰省先への移動に反復性や継続性が認められれば、単身赴任先と帰省先との間の移動が通勤と認められうる(平成18年3月31日基発0331042号)。実態等を踏まえ、就業日当日の移動、あるいは出勤前日・退勤翌日の移動は就業との関連を認めて差し支えないが、前々日以前・翌々日以後に行われた移動は交通機関の状況の合理的理由がある場合に限り就業との関連を認められる。 「通勤による」とは、通勤と相当因果関係があること、すなわち、通勤に通常伴う危険が具体化したことをいう。具体的には、通勤の途中で自動車にひかれた場合、電車が急停車したため転倒して受傷した場合、駅の階段から転落した場合、歩行中にビルの建設現場から落下してきた物体によって負傷した場合、転倒したタンクローリーから流れ出す有害物質により急性中毒にかかった場合等は該当する。一方、自殺や、被災者の故意による場合、怨恨をもって喧嘩を仕掛けるといった行為は通勤に通常伴う危険とは認められない(平成18年3月31日基発0331042号)。 「就業に関し」とは、移動行為が業務に就くため又は業務が終わったために行われるものであることをいう。所定の就業日に所定の就業場所で作業を行うことはもちろん、本来の業務でなくても全職員に参加が命じられ出勤扱いとなる会社主催の行事に参加する場合、事業主の命を受け得意先を接待する場合等も該当する。また、所定の就業時刻をめどに住居を出て就業場所に向かう場合はもちろん、早出、遅刻、早退、一時帰宅の場合でも対象となるが、私生活上の必要等で往復した場合は対象とならない。また労働組合活動等で、就業と通勤との関連性を失わせると認められるほど長時間(おおむね2時間超)の早出勤・遅退社も対象とならない。なお、日々雇用される者については、継続して同一の事業に就業しているような場合は、就業することが確実であり、その際の出勤は就業との関連が認められるし、また公共職業安定所等でその日の紹介を受けた後に紹介先へ向かう場合で、その場所で就業することが見込まれるときも、就業との関連を認めることができる。しかし公共職業安定所等でその日の紹介を受けるために住居から公共職業安定所等まで行く行為は、いまだ就職できるかどうか確実でない段階であるから、就業のための出勤行為であると言えない。 「合理的な経路及び方法」とは、社会通念上一般に通行するであろう経路、是認されるであろう手段をいう。会社に申請している通勤方法と異なる通勤方法であっても、それが通常の労働者が用いる方法であれば問題はない。通常利用することが考えられる経路が二、三ある場合は、そのいずれもが「合理的な経路」となる。他に子を監護する者のいない共稼ぎ労働者が託児所、親戚宅等へ子を預けるためにとる経路などは、そのような立場の労働者であれば当然就業のためにとらざるを得ない経路であるから、「合理的な経路」となる。一方、特段の合理的な理由のない著しい遠回りは「合理的な経路」とはならない。また経路は手段と併せて合理的なものであることを要し、交通禁止区域の通行、自動車運転免許を一度も取得したことのない者の自動車の運転、泥酔した状態での自動車の運転は「合理的」とは認められない。飲酒運転や、単なる免許証不携帯、免許証更新忘れ等による無免許運転は必ずしも合理性を欠くものとして取り扱う必要はないが、この場合においては諸般の事情を勘案し給付の支給制限が行われることは当然である(平成18年3月31日基発0331042号)。 なお、通勤経路の途中で通勤とは関係ない目的で合理的な経路を逸れた(「逸脱」)場合や、通勤とは関係のない行為を行った(「中断」)場合は、ささいな行為を行うにすぎない場合(トイレ、休憩、ごく短時間の飲食等)を除き、その時点で通勤とは認められなくなる(「逸脱・中断」から合理的経路・手段に戻ったとしても認められない)。ただし、逸脱・中断が日常生活上必要な行為で厚生労働省令に定められているものである場合又はやむをえない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱・中断の「後」について通勤災害として認められうる。なお、逸脱・中断の「間」における事故は、いかなる場合でも通勤災害にならない。「日常生活上必要な行為で厚生労働省令に定められているもの」とは、以下のとおりである。 日用品の購入その他これに準ずる行為具体的には、帰途で惣菜等を購入する場合、独身者が食堂に食事に立ち寄る場合、クリーニング店に立ち寄る場合などが該当する。さらに就業場所間移動の場合、次の就業場所の始業時間の関係から食事に立ち寄る場合や、図書館等で業務に必要な情報収集をする場合も含み、住居間移動の場合には長時間の移動の間に食事に立ち寄る場合やマイカー通勤のための仮眠をとる場合等も該当する(平成18年3月31日基発0331042号)。 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為各種学校における教育については、就業期間が1年以上であって課程の内容が一般的に職業に必要な技術(茶道・華道等の課程又は自動車教習所の課程もしくはいわゆる予備校の課程は、これに含まれない)を教授するものが該当する(平成18年3月31日基発0331042号)。 選挙権の行使その他これに準ずる行為 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為通常の診療のほか、人工透析等長時間を要する医療を含み、また施術所において柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等の施術を受ける場合も該当する(平成18年3月31日基発0331042号)。 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)(労働者災害補償保険法施行規則第8条第5号) 通勤による疾病については、労働者災害補償保険法施行規則第18条の4により、「通勤による負傷に起因する疾病その他通勤に起因することの明らかな疾病」と規定されている(業務災害とは異なり、具体的な項目の列挙はない)。 労災保険第2種特別加入者(いわゆる「一人親方」等)で以下のいずれかに該当する者は、通勤災害が適用されない。 自動車を使用して行う旅客又は貨物の運送の事業に従事する者 漁船による水産動植物の採捕の事業(船員法第1条に規定する船員が行う事業を除く)に従事する者 特定農作業・指定農業機械作業従事者 家内労働者及びその補助者 労災保険の任意適用事業所に使用される被保険者に係る通勤災害については、それが労災保険の保険関係成立の日前に発生したものであるときは、労災保険ではなく健康保険等で給付する。
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