逃走
★1.ものを投げ捨て、追っ手がそれを拾ううちに遠くへ逃げる。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第9章 メディアはイアソンを助け、黄金の羊皮を取って、アルゴ号でコルキスを脱出する。メディアの父アイエテス王がこれを追跡する。メディアは一緒について来た弟アプシュルトスを殺し、八つ裂きにして海に投じる。アイエテス王が子供の死体を拾い集めているうちに、アルゴ号は遠くへ去る。
『平治物語』中「義朝敗北の事」 敗戦して落ち行く源義朝一行を、比叡西塔の法師たちが待ち伏せる。斉藤実頼が一計を案じ、「武具を与えるゆえ、身を助けよ」と請うて兜を投げる。法師たちが我先に兜を取ろうと走り騒ぐところを、義朝以下30余騎が蹴散らして駈けぬけた。
『和漢三才図会』巻第14・外夷人物「狗国」 狗国の人の妻は、みな人間である(*→〔犬婿〕7)。昔、人間世界へ帰ろうとする妻が、箸10余双を持って狗国を出た。妻は逃げ走りながら、10余里ごとに1箸ずつ、道に落として行った。狗は家物を見ると、必ずくわえて家に持ち帰る習性があるからである。狗は追いつくことができず、妻は無事に応天府(南京)へ帰り着いた。
『古事記』中巻 ホムチワケノミコ(垂仁天皇とサホビメの子)が、ヒナガヒメと一夜婚をした。ところが、美しいヒナガヒメの姿をかいま見ると、その本体は蛇であったので、ホムチワケノミコは恐れて逃げた。ヒナガヒメは海上を照らし、船に乗って追って来た。ホムチワケノミコはいよいよ恐れ、山に逃げ上った。
『道成寺縁起』 紀伊国牟婁郡の清次の庄司の嫁が熊野参詣の美男僧に恋着し、その後を追う。日高川の渡し守りが乗船を拒んだので、女は衣を脱ぎ捨てて大毒蛇となり川を渡る。僧は道成寺に逃げこんで鐘の中に隠れるが、女の化身の大蛇は鐘に巻きつき、火焔で僧を焼き殺す。
*女が龍と化して、美男僧を追う→〔龍〕2bの『華厳宗祖師絵伝』「義湘(ぎしょう)絵」。
*男が、女の正体が蛇であると知って逃げまわる→〔雨宿り〕3の『雨月物語』巻之4「蛇性の婬」。
『牝犬』(三島由紀夫) 大学生の繁は、四十女の章子のアパートに同棲し、学費も生活費も面倒を見てもらっていた。繁は章子の愛を鉄格子のごとく感じ、アパートを抜け出して、ホステスの明美、吝嗇な伯父一家、喫茶店員の少女和子のもとへと、逃れて行く。しかしどこまでも章子は追って来る。章子が、繁の吸う外国煙草の函を和子に託した、と知って繁は胸騒ぎを覚え、アパートに戻る。章子は死んでいた。
『なぜ神々は人間をつくったのか』(シッパー)第7章「最初に男がいなかった場合」 女たちに追われる男が(*→〔釣り〕2c)、必死に走りながら、バナナの木を切り倒して道をふさぎ、女たちに追いつかれないようにする。しかし、あきらめない女が1人いて、とうとう男に追いつき、彼を夫にした。世界の人間はすべて、この2人から生まれた(インド北東部、モクルム族)。
『ひとごろし』(山本周五郎) 福井藩のお抱え武芸者が、藩公の小姓を斬って他国に逃亡する。藩公が上意討ちを命じ、臆病者の若侍が武芸者を追う。若侍は武芸者に追いつくと、「人殺し。皆さん、そいつは人殺しですよ」と叫んでは逃げる。それを聞いて、通行人も茶店や宿の者たちも皆逃げるので、武芸者は休むことができず疲労困憊し、腹を切ろうとする。若侍はそれを止め、武芸者の髻をもらって首の代わりとする。
★5.集団の逃走。
『駅馬車』(フォード) 賭博師・銀行頭取・産婦・医師・脱獄囚リンゴキッドなど、総勢9人の乗った駅馬車が、アリゾナからニューメキシコまで、大平原を疾走する。アパッチインディアンが襲いかかり、駅馬車は応戦しつつ逃げる。リンゴキッドが馬車の屋根の上から、インディアンたちをねらい撃つ。やがて弾丸が尽き、もはやこれまでと思われた時、騎兵隊が救援に駆けつける。
『勧進帳』 源義経は兄頼朝と不和になり、身に危険が迫ったため、弁慶など少数の家来とともに、都を脱出する。彼らは山伏姿に変装し、北陸道を北へ進む。加賀国・安宅関で、関守の富樫左衛門に疑われたので、弁慶は、義経を「荷物運びの強力(ごうりき)だ」と偽り、金剛杖で打ちすえる。富樫左衛門は、山伏たちが義経一行であることを察知しつつも、通行を認める。義経一行は藤原秀衡を頼り、奥州・平泉へ下って行く。
『史記』「孟嘗君列伝」第15 孟嘗君は、犬の真似をして泥棒をする部下や鶏の鳴き真似をする部下の助けで難を逃れ、函谷関を抜けて秦の国から脱出する。
『今昔物語集』巻28-42 有明月の光が家にさしこんで自分の影が映るのを見た妻が、童髪の盗人がいるものと誤り、夫に知らせる。夫は太刀を持って行くが、自分の影を見て、「太刀を抜いた盗賊がいる」と思い、恐れて逃げ戻る。
『パンチャタントラ』第5巻第11話 羅刹が、美しい娘をさらおうと、毎夜やって来る。娘は魔除けの枕のおかげで無事だったが、夜になると羅刹が来るので「ヴィカーラ(『夕方』という意味)が怖い」と、侍女に言う。それを羅刹は立ち聞きし、「ヴィカーラという悪者が、娘を狙っているのだ」と誤解する。羅刹が馬に変身している時に、馬盗人が来て羅刹の上に乗る。羅刹は「ヴィカーラが俺を殺しに来たのだ」と恐れ、馬盗人を乗せたまま走り出す。
『古屋の漏り』(昔話) 「虎狼よりも古屋の漏り(=雨漏り)がこわい」と爺婆が語るのを聞いて虎狼が驚き恐れていると、馬泥棒が来て、虎狼を馬と間違えて背中に乗る。虎狼は「古屋の漏りに襲われた」と思い、あわてて逃げ出す(熊本県阿蘇郡)→〔尾〕4。
『平家物語』巻5「富士川」 治承4年(1180)10月23日。源平両軍が、明日は富士川で矢合わせ(=開戦)と定めて、対峙していた。夜半に、富士の沼(=浮島沼)に群れいる多くの水鳥どもが、何に驚いたのか一斉に飛び立った。その羽音が大風や雷(いかづち)のように聞こえたので、平家の人々は、「源氏が大軍で押し寄せてきた」と誤解し、陣を捨ててわれ先にと逃げ去った→〔周回〕4。
*→〔偶然〕1bの『鼠経』(昔話)・〔茶〕3の朝茶の由来の伝説・〔見間違い〕2の『ブレーメンの音楽隊』(グリム)KHM27・〔宿〕3eの『エプタメロン』(ナヴァール)第4日第4話。
『空腕』(狂言) 臆病なくせに腕自慢をする太郎冠者が、夜、町はずれへ使いに行かされる。途中、棒杭や松並木を人と間違えておびえ、「命ばかりは」と懇願し、様子を見に来た主人に背中をたたかれて気絶する。やがて目覚めた太郎冠者は、「ここは冥途か」と思う。
『徒然草』第89段 法師が夜ふけに1人で帰宅する途中、小川のほとりで何物かにとびつかれる。法師は「これが噂に聞く恐ろしい猫またか」と腰を抜かし、悲鳴を上げる。実はそれは、法師の飼い犬が暗闇の中で主人を見つけ、とびついたのだった。
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品詞の分類
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