神出病院虐待事件(2020年)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/06 16:54 UTC 版)
「神出病院」の記事における「神出病院虐待事件(2020年)」の解説
入院中の男性患者同士でキスをさせたり、トイレで水をかけたり、患者の頭にテープを何重にも巻き付けたりしたなどとして、看護助手(27歳)と看護師5人(26~41歳)が準強制わいせつ容疑、暴力行為等処罰法違反の疑いで兵庫県警に2020年3月24日、逮捕された。被害者は当時50~70代の患者3人で、いずれも重度の精神疾患があった。看護助手のスマートフォンには患者を虐待する様子を映したとみられる動画約30本が保存(男性患者同士で性器をくわえさせるなど30本以上の虐待動画が見つかった)されていた。動画には“やべえ”“やめとけ”などと笑いながら話す容疑者らの声も収められており病室の床や別の患者の体に塗ったジャムのようなものをなめさせる様子も撮影されていた。また男性患者を病室の床に寝かせ、落下防止柵付きのベッドを逆さまにして覆いかぶせたりもしていた。6人は無料通信アプリ「LINE」で、こうした動画を共有していた。容疑者らは「患者のリアクションが面白くてやった」と供述。警察は少なくとも1年以上、虐待が続いたとみている。この事件のように6人もの病院職員が虐待に関与するケースは極めてまれであり、社会に衝撃を与えた。 2020年6月23日、神戸地方裁判所で逮捕・起訴された6人の看護職員のうち2人の裁判で、監禁の罪に問われているT被告(33歳)、準強制わいせつの罪に問われているF被告(33歳)に対する初公判が開かれた。2人は起訴内容を認め、検察はT被告に対して、「看護師らによる衝撃的な事件が社会に与えた影響は大きく、逆さにしたベッドに閉じ込めるなど悪質で、ベッドは崩れる危険性があり命をも脅かす行為だ」として懲役1年6か月を求刑。F被告に対しては「患者に無理やり性的な行為させるなど人格を踏みにじる卑劣な行為だ」として懲役3年を求刑した。 2020年7月2日(報道) - 神戸市は、年1回精神科の病床がある市内の14の病院に立ち入り調査を行っており、NHKが神出病院の結果について情報公開請求を行ったところ、事件が発覚する前の2015年度から昨年度までの5年間に、患者の身体拘束や部屋を隔離した記録を適切につけていなかったり、入退院の届けの提出期限を守っていなかったりするなど、毎年、ずさんな運営があったとして指導や指摘を受けていたことがわかった。病院側は、指摘を受けるたびに「改善した」と報告していたが、市はこれまでの立ち入り調査で虐待事件を防げなかったことを重く見、2020年度から14のすべての病院について、調査での患者や職員への聞き取りの時間を倍にするほか、病院職員に市の内部通報窓口を周知するなど、再発防止に取り組むとしている。 2020年7月8日、神戸地方裁判所は、監禁の罪に問われた元看護師の男(T被告・33歳)に、懲役1年6月、執行猶予3年(求刑懲役1年6月)を言い渡した。判決などによると、男は元看護助手の男(27歳)らと共謀し、2019年9月25日夜、病室で布団に寝かせた男性患者(63歳)の上から、逆さにした医療用ベッドを覆いかぶせ、約25分間閉じ込めた。裁判所は量刑理由で、元看護師の男が犯行を主導していないと認めた一方で、男性患者を笑いものにする行為に対して「卑劣で恥ずべきこと」と非難した。7月15日、準強制わいせつ罪に問われた元看護師の男(F被告・33歳)に懲役3年、執行猶予4年(求刑懲役3年)を言い渡した。裁判所は「共犯者の犯行を見聞きし、『面白そうだ』という理由から加わった。人間の尊厳を踏みにじる卑劣な行為」と指摘。男が「一生、看護師の仕事をしない」と誓った点などから執行猶予を付けた。 2020年8月3日 - 兵庫県弁護士会や精神障害者の家族や支援者で作るあわせて6つの団体の代表者が神戸市役所を訪れ、「再発防止のためには刑事処分だけでは不十分で背景や原因を調査すべきだ」として、外部の有識者による第三者委員会を設置し、原因を徹底的に究明することや、病院に対し精神保健福祉法に基づき従来の指導よりも厳しい改善命令などを行うよう求める要望書を市健康局長に手渡した。 2020年8月7日、暴力行為法違反と暴行の罪に問われた元看護師の男(S被告・42歳)の初公判が、神戸地方裁判所で行われた。男は起訴内容を認め、検察側は「弱者を虐げる卑劣な行為で、患者の受けた肉体的、精神的苦痛は大きい。また、看護師に対する信頼を損わせ、社会に与えた影響も大きい」などとして、懲役1年6月を求刑し、弁護側は「被告の立場は従属的で、真摯に反省している」などとして、執行猶予付きの判決を求めて即日結審した。判決は25日。8月25日、神戸地方裁判所は男に懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。 2020年8月27日、入院患者3人を虐待したとして、準強制わいせつや暴行などの罪に問われている元看護助手で今回の虐待事件の主犯格の男(W被告・27歳)の初公判が神戸地方裁判所で開かれ、元男性看護助手は起訴内容を認めた。検察側はW被告が2017年春から閉鎖病棟の担当となり、周囲の看護師らが患者らを怒鳴ったり、車椅子ごと後ろに倒すなどの暴行を加えたりするのを見て、虐待を始めたと指摘。2018年ごろからは虐待中の動画を撮影し、楽しむために同僚らと共有していたことを明らかにした。9月28日、神戸地方裁判所で開かれた論告求刑公判で、検察側はW被告に懲役7年を求刑した。弁護側は、被告は主導する立場になかったと反論し「検察側の求刑は重すぎる」と主張した。被告人質問で検察側が主犯格の認識を問うと、元看護助手は「分からない」と答え、虐待行為を始めた理由については「患者が言うことを聞かず、いらいらしてやった」と供述した。10月12日、神戸地方裁判所はW被告に懲役4年の実刑判決を言い渡した。 2020年8月31日、準強制わいせつや暴行罪などに問われた元看護師の男H被告(27歳)、T被告(35歳)の初公判が神戸地方裁判所で開かれた。2人とも起訴内容を認め、検察は2人共に懲役4年を求刑し、弁護側は執行猶予付き判決を求めた。H被告は「先輩も(虐待行為を)やっているし、いいかと安易に思った」と述べ、T被告は「感覚がまひしていた」と述べた。また2人共、虐待行為をストレスのはけ口であったとした。9月25日、神戸地方裁判所は両被告に対し、懲役2年の実刑判決を言い渡した。この事件で初めての実刑判決となった。裁判所は、「看護師としての使命に反し、患者の人間としての尊厳を踏みにじった」としたほか、2人は「積極的に関与していて服役により責任を果たさざるを得ない」とした。 2020年9月10日 - 神戸市市民福祉調査委員会が、9月10日、精神保健福祉専門分科会を開き、今回の虐待事件に関して、再発防止策などを協議した。委員からは「市が人選に関与すべきだ」「解体的な出直しが必要」などと厳しい批判が出た。 2020年10月22日 - 神戸市は、10月22日の市会福祉環境委員会にて、今回の虐待事件に関し、当院の院長の精神保健指定医の指定取り消しを求め、国に報告する方針を固めたことを明らかにした。当該院長の精神保健指定医の指定取り消しについては今後、厚生労働省の審議会の答申を踏まえて判断することとなる。2021年2月に当該院長が退任し、後任の院長も退任、同6月1日付で外部(兵庫県立ひょうごこころの医療センター)より招へいした医師が院長に就任した。 神出病院虐待事件における加害者元看護職員への判決被告職種及び年齢性別求刑判決(確定)W被告(主犯格) 看護助手、27歳 男 懲役7年 懲役4年 T被告 看護師、33歳 男 懲役1年6ヵ月 懲役1年6月(執行猶予3年) F被告 看護師、33歳 男 懲役3年 懲役3年(執行猶予4年) S被告 看護師、42歳 男 懲役1年6ヵ月 懲役1年6月(執行猶予3年) H被告 看護師、27歳 男 懲役4年 懲役2年 T被告 看護師、35歳 男 懲役4年 懲役2年 類似例2013年11月 - 千葉県社会福祉事業団:職員5人が入所者の男性に虐待を加え、死亡させた事件がある。被害者は死亡少年以外に9名。 2020年3月 - 国立病院機構米沢病院:地元紙の取材によって2人の患者それぞれに6人、5人の看護職員が虐待に関与していたことが報道される。病院側はそれまで事実を公表していなかった。
※この「神出病院虐待事件(2020年)」の解説は、「神出病院」の解説の一部です。
「神出病院虐待事件(2020年)」を含む「神出病院」の記事については、「神出病院」の概要を参照ください。
- 神出病院虐待事件のページへのリンク