消費問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/16 06:08 UTC 版)
ボトルウォーターは安全な水道水よりお金がかかり、低所得者層にとってはより負担が重くのしかかる。飲料水の安全性問題や水道水の汚染に対する単純な恐怖からボトルウォーターへの需要があるが、貧困などの層にとってボトルウォーターを買うことは経済的な困難を伴う。 2011年3月、パシフィック・インスティテュート(英語版)はカリフォルニア州のセントラル・バレーの硝酸塩で汚染された飲料水のコストを調査したが、危険な水道水を避けるコストは汚染によって甚大な影響を受けている低所得などの家庭にとってより負担が重い。調査した結果、家庭における水の平均総コストは平均世帯収入の4.6%でアメリカ合衆国環境保護庁(EPA)が推奨する飲料水費用の3倍だったと述べた。また、汚染のある水を飲むことによって医療費がよりかさむという事実は確認されなかったとし、追加コストの大半はボトルウォーターか家庭用フィルターの購入によるものだったとしている。 M.H.ゴアリック、L.グールド、M.ニムマー、D.ワグナー、M.ヒース、H.バシール、D.C.ブラッソーによる詳細な研究では安全な水が飲める地域において、アフリカ系アメリカ人、ポーランド系アメリカ人、ラテン系アメリカ人の親達が子どもたちにボトルウォーターを与える量は非ラテンの白系児童と比べて3倍多いが、これはボトルウォーターがより安全な上綺麗で味がよく便利だと考えているからと思われる。これの経済的な意味はまた、世帯収入の割合において白人の場合はボトルウォーターを購入する費用の割合の中央値が0.4%だが、アフリカ系やラテン系の場合は2倍になっているという深刻な不公平を露呈しているとしている。また、「世帯収入に対する水費用のかなり印象的なレベルに関する我々の研究は貧困層にとってボトルウォーターの使用は他の健康に関する需要に応じた可用性の少ない供給源になっている可能性があることを示唆している。」とも述べている。世界的な視野で見れば発展途上国におけるボトルウォーター市場は汚染された水道水、自治体の未整備な水道システムへの恐怖から急成長しており、一部のボトルウォーターメーカーの売り上げも増加しているとされる。とくにインドの一部、メキシコ、中華人民共和国でのボトルウォーターの売上が急激に伸びている。 ボトルウォーターは水道水など他の水供給源のより安全な代替と認められていて、綺麗な水道水を提供できている各国においても飲料量が増えている。これは消費者が水道水の味を嫌うか自身の持つ味覚によるものだとしている。この現象のもう一つの要因として、ボトルウォーターの市場的成功が言われている。1990年代初め、ボトルウォーター業界は広告に約4300万ドル投じたとされ、ペリエのボトルウォーターがステータスシンボルに転換した市場の成功例がある。消費者は体に良いという理由でボトルウォーターを選ぶ傾向があり、水道水の問題が発生した地域においては特にボトルウォーターの消費量が高い。国際飲料協会のガイドラインによれば、ボトルウォーターメーカーはマーケティング活動で自社製品と水道水を比較することは出来ないとされる。消費者はまた特定ブランドに関する記憶の影響を受けていて、例としてコカ・コーラはイギリスにおいて法的基準値を超える臭素酸が検出されたとしてダサニを回収したが、イギリスにおいてこの問題が消費者の持つダサニのイメージになったからである。 ボトルウォーターの売上は、基本的に白人と比べて収入が低いアフリカ系アメリカ人、アジア系、ヒスパニック系が特に高いが、複数の仮説によればこの違いは民族の地理的な分布が原因だと言われており、民族別のボトルウォーター消費量の違いは都市、郊外、農村地域間の水道システムの品質の違いを反映している(Abrahams et al. 2000)。また貧困地域における水道システムの欠陥による過去の問題の記憶を引きずっている可能性がある(Olson 1999)とされている。フランスでは、1970年代初めの同種の地理学研究において、ボトルウォーターの消費は都市部で特に高いことが判明しており(Ferrier 2001)、この発見はフランスの都市にある鉛管が古いために悪い状態になっていてそれ故に都市部の水道水の質が悪い理由になっているとされるが、それにも関わらず、都市部の貧弱な水道水に嫌気が差した大衆は代替の水を探すようになったとしてもそれだけでは必ずしもボトルウォーターの高い消費に繋がるわけではないとされる。 複数の調査では「ボトルウォーターはこれまで水道水の代わりとされてきたが、実はアルコール飲料や伝統的なソフトドリンクの代替として主に飲まれている可能性があることが判明した(e.g. AWWA-RF 1993; FWR 1996)が、水質汚染で深刻な健康リスクを引き起こし、水道水関連企業への信頼が非常に揺らいだからという異論も出ている(e.g. Lonnon 2004)。ボトルウォーターが好まれるようになった別の理由として、「良くない環境での純粋かつ自然的なボトルウォーターの消費は象徴的な浄化行動を示している。」とされる。 多くの低所得家族は水道水を飲むことを避けているが、病気の原因になるのではないかと恐れているためである。しかし、ボトル詰めやフィルターに通された水の過剰消費はコストが掛かり、さらに歯の治療費がかさむ可能性があるとされる。ボトル詰めやフィルターに通された水の消費はアメリカ合衆国において過去と比べて劇的に増加していて、ボトルウォーターの売上は年約4億ドルと3倍に増えている。アメリカ合衆国民の50%以上がボトルウォーターを飲んでいる。25%から40%のボトルウォーターは単純に水道水を詰めたものと幅広く信じられているのにもかかわらず、人々は水道水を飲むことと比べてボトルウォーターを1ガロンあたり240倍から10,000倍以上消費している。ボトルウォーターを1日グラス8杯のペースで1年間飲み続けると約200ドルの費用がかかるとされ、同じペースで水道水を飲むと0.33ドルで済む。一般的に、女性は男性と比べてボトルウォーターを好むとされるが、ヒスパニック系女性が民族の中で最もボトルウォーターを好むとされる。 ボトル詰めの水、フィルターを通した水、水道水も全てアメリカ合衆国においては大部分で安全である。実際、アメリカ環境保護庁の規定では水道水はアメリカ食品医薬品局が定めるボトルウォーターの規定より厳しいとされる。オハイオ州シンシナティにおける飲料水の研究で、ボトルウォーターの細菌数は水道水より多い例が頻繁にあり、フッ化物の濃度と一致しないことが判明している。 世界的には、ボトルウォーターの消費による著しい環境的変化があり、ボトルウォーターの世界的な消費の急上昇に対し、世界自然保護基金やグリーンピースがボトルウォーターのプラスチック容器による大規模な環境負荷を警告している。 また、ボトルウォーターは生産や輸送に大量のエネルギーを必要とするため、オーストラリアのニューサウスウェールズ州にある町では環境問題を理由にボトルウォーターを禁止した。2001年にWWFは「Bottled water: understanding a social phenomenon」という研究論文で多くの国においてボトルウォーターは水道水と比べて安全でもなければ体に良いわけでもないのに、1000倍の価格で売られていると警鐘を鳴らしている。また、市場の活況ぶりはプラスチックのリサイクルに対する厳しい障害となり、埋立処分場はプラスチック容器の山で埋まってしまうとも非難している。さらにこの研究で消費者によるボトルウォーターの購入水量よりボトルウォーターの生産に使われる水量が多いことも発見している。 シドニーに本社を置く飲料会社がニューサウスウェールズ州にあるバンダヌーンという町に採水プラントを稼働させたが、住民はボトルウォーターの販売を非合法化、現在も町は会社と法廷で係争中である。
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