武雄温泉以東の整備方式の再検討
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 16:36 UTC 版)
「九州新幹線 (整備新幹線)」の記事における「武雄温泉以東の整備方式の再検討」の解説
上述のように、フリーゲージトレインの採用が断念されたことを受けて、武雄温泉以東の整備方式について再検討が行われているが、利便性・速達性が向上するとしてフル規格(標準軌新線)による整備を求める長崎県と、時間短縮効果がほとんどないにもかかわらず多額の負担を要求されるため、県内のフル規格整備に反対する佐賀県との間で対立が生じている。 2018年(平成30年)3月30日、国土交通省は同日開催された与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム九州新幹線(西九州ルート)検討委員会にて、「九州新幹線(西九州ルート)の整備のあり方について(比較検討結果)」を報告すると同時に、対面乗換開業時・FGT・ミニ新幹線(単線並列と複線三線軌の2パターン)・全線フル規格の場合の所要時間の試算をそれぞれ公表した。 費用・投資効果・収支採算性等について整備方式対面乗換開業時フリーゲージトレイン(FGT)ミニ新幹線フル規格単線並列複線三線軌駅の設定- 新鳥栖・佐賀・肥前山口・武雄温泉 新鳥栖・佐賀市附近(佐賀)・武雄温泉 整備延長- 約50 km 約51 km 追加費用- - 約500億円 約1,400億円 約5,300億円 開業見込み(想定工期)- 2027年(令和9年)度(約9年) 2032年(令和14年)度(約10年) 2036年(令和18年)度(約14年) 2034年(令和16年)度(約12年) 所要時間(短縮効果)博多 - 長崎間約1時間22分 約1時間20分(△約2分) 約1時間20分(△約2分) 約1時間14分(△約8分) 約51分(△約31分) 新大阪 - 長崎間約4時間00分 約3時間53分(△約7分) 約3時間44分(△約16分) 約3時間38分(△約22分) 約3時間15分(△約45分) 博多 - 佐賀間約35分 約33分(△約2分) 約33分(△約2分) 約30分(△約5分) 約20分(△約15分) 新大阪 - 佐賀間約3時間13分 約3時間6分(△約7分) 約2時間57分(△約16分) 約2時間54分(△約19分) 約2時間44分(△約29分) 投資効果 (B/C) - - 3.1 2.6 3.3 収支改善効果(年平均)- △約20億円 約9億円 約2億円 約88億円 ^ 費用、工期等は、今後の精査、関係者間の調整により、変更となる可能性がある。 ^ 単線で列車運行しながら施工した場合。工事期間中、列車の所要時間の増加や本数の減少などの影響がある。工事期間中に列車影響が生じないよう、仮線設置により列車を通常通り複線で運行しながら施工した場合の投資効果は、単線並列2.1、複線三線軌2.0となる。 ^ FGTの場合はアプローチ線等が整備の対象となる。 ^ FGTによる整備以降に必要となる費用。価格は2017年(平成29年)4月時点のもの。 ^ フル規格、ミニ新幹線の整備は、環境影響評価手続きを考慮し、2023年(平成35年)度着工を想定。FGTについては、2019年(平成31年)度着工を想定。なお、FGTについては、今後、耐久性の確認等が必要となり、技術開発がすべて順調に推移したとしても、導入は早くとも2027年(平成39年)度半ばとなる見込み。ただし、JR九州は、技術評価委員会の評価結果を踏まえ、コスト面で収支採算性が成り立たないため、西九州ルートへの導入は困難と表明している。 ^ 各区間の最速達タイプによる時分を表記。所要時間は、需要予測等のための想定であり、開業後の運行ダイヤは営業主体が決定する。 ^ a b c d 単線区間での行き違い時間を含む。 ^ 新鳥栖 - 武雄温泉間について、2022年(平成34年)度の対面乗換方式での開業からの費用を用いて、山陽新幹線(新大阪駅)への乗り入れのための新たな取組みが実現した場合の便益を考慮して算出(新たな取組みに要する費用は含んでいない)。 ^ 現行(在来線特急)と整備後の収支を比較して算出したものであり、貸付料計算の参考になる。 この比較案を元に、佐賀県は全線フル規格で整備した場合の負担額について独自に試算。国の交付金措置等を考慮しない歳出予算ベースで約2400億円と、佐賀県よりも利便性が向上する長崎県の負担割合(約1000億円)を上回り、ルールどおりであれば佐賀県の負担が大きすぎるとの見解を示した。 佐賀県の試算に対し、与党プロジェクトチームでは佐賀県の求める「追加負担ゼロ」は現実的ではないとしつつ、JR九州との貸付料交渉と長崎県による協力により、佐賀県の費用負担をどれだけ減らせるか検討した上で、佐賀県に提案する予定であるとしている。2018年7月19日に行われた与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム九州新幹線(西九州ルート)検討委員会の会合で、フリーゲージトレインの導入を正式断念する一方で、2018年夏までに一定の結論を出すとしていた、全線フル規格かミニ新幹線方式かの整備方法決定について、佐賀県の財政面での見解を受けて、結論を先送りすることを決めた。 2019年(平成31年)4月26日、九州新幹線西九州(長崎)ルートの与党検討委員会において、佐賀県知事山口祥義が「新幹線整備を求めたことはなく、現在も求めていない」「これまで、関係者間で合意されているのは武雄温泉〜長崎間の新線整備と、新鳥栖〜武雄温泉間は在来線を利用することだったはず」「佐賀県の負担ゼロでも建設は認めない」「短時間での解決は無理」といった内容の発言を行った。しかし与党検討委員会は同年8月5日、未着工区間(新鳥栖 - 武雄温泉間)について事業費や時短効果を考慮し、フル規格で整備すべきだととの方針を決定、与党検討委員会の山本幸三委員長が8月6日、佐賀県議会で桃崎峰人議長と面会し、フル規格での整備が適当とする基本方針を決めたことを伝えた。また8月27日には与党プロジェクトチームも検討委員会の示したフル規格で整備するよう求める方針を確認、関係者(国・長崎県・佐賀県・JR九州)の協議を見守った上で、2023年度(令和5年度)の着工を目指すとした。 この方針に佐賀県は強く反発。国や長崎県の働きかけを牽制する状態が続き、2023年度着工の目安となる「2020年度環境影響評価(アセスメント)着手」が難しくなってきたことから赤羽一嘉国土交通大臣が調整に乗り出す事態になり、2019年10月28日には山口佐賀県知事と面会。山口知事は「フル規格ありきではなく5案(スーパー特急方式、フリーゲージトレイン、リレー方式、ミニ新幹線、フル規格)を時間をかけて幅広く議論すべき」との見解を示し、両者は引き続き「幅広い協議」として話し合いの場を持つことで一致した。一方で、「2023年度工事着手」を実現させたい国は、先行して環境影響評価に着手したいとして、2020年6月には5案全てに対応できる環境影響評価の手続きを実施したいとの異例の提案を行う も、佐賀県側がこれを拒否。県の見解として「整備はもとより、ルート、着工時期、開業時期について決まったことや関係者で合意したものは一切ない」との考えを公表し、2023年度工事着手は困難になったと考えられている。 一方、佐賀県内でも全線フル規格での整備を求める声がある。フル規格を求める議員有志は2019年6月25日、佐賀市内でシンポジウムを開き、衆議院議員今村雅弘(比例九州)が講演して、知事が懸念する未着工区間の財源負担について説明した。国の試算によると、フル規格で整備した場合、佐賀県の実質負担は約450億から660億円とされ、30年償還で考えれば年間負担は15億から22億円となると述べた。地元の経済効果などを考慮すれば、対応できる額であると主張した。着工から開業までは10年以上かかるとし、「早く方向付けをしなければ、結果的に佐賀県が通せんぼをすることになり、県民は肩身の狭い思いをする」と語った。 また、整備方式を議論する与党検討委員会のメンバーである衆議院議員古川康(比例九州ブロック、前佐賀県知事)は、「(以前は)佐賀県の負担を考え、ミニ新幹線がいいと思ったが、フル規格は災害に強い。新しく整備するなら、大雨が降っても使い続けられる方が望ましい」と述べ、フル規格化の必要性を訴えた。自民党佐賀県議団は2020年8月に開いた総会で、「フリーゲージトレイン開発など在来線の利用を模索しつつ、フル規格で整備した場合を想定して議論を進める」とする今後の方向性を取りまとめ、フル規格での整備も容認しうることを示した。 2021年5月26日、与党PTはフル規格での整備を前提として佐賀県の財政負担を軽減し、並行在来線(長崎本線・佐世保線)をJR九州の運営のまま維持すべきとする方向性でJR九州などと議論を進めることを確認。一方、同年5月31日に行われた国と佐賀県の「幅広い協議」の中で、佐賀県から、県がフル規格での整備を容認したわけではないとした上で、フリーゲージトレインやミニ新幹線の可能性を引き続き十分に模索しつつ、仮にフル規格での整備を検討する場合には、 長崎本線・佐世保線に沿って佐賀駅を経由するルート案(現在の案) 長崎自動車道沿いに佐賀市北部を通過し、佐賀駅を経由せずに新鳥栖と武雄温泉を直結するルート案 筑後船小屋駅から佐賀空港付近を経由して武雄温泉を結ぶルート案 の3案を国が検証するよう提案が行われた。
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