僧
『ささやき竹』(御伽草子) 左衛門の尉夫婦が14歳の姫の良縁を願い、67歳の西光坊が毘沙門の法を行なって祈祷する。ところが西光坊は姫の美貌に愛欲の心を起こし、左衛門の尉夫婦をだまして、姫を長櫃に入れて鞍馬へ連れ去る。途中、関白が姫を救い出し、櫃の中へ牛を入れておくので、西光坊は、「姫が牛に化した」と驚く。西光坊は天罰で雷電に身体を裂かれ、姫は関白の妻になった。
『志賀寺上人の恋』(三島由紀夫) 女犯の罪を犯すことなく高齢に達した志賀寺上人が、美貌の京極御息所を見て恋に落ちる。上人は御息所の御所の庭に、杖にすがって1日1夜立ち尽くす。御息所が上人を御簾の前へ招くと、上人は御息所の手を押しいただき、しばらくの後に、手をほどいて立ち去る。数日後、上人が草庵で入寂した、との噂を御息所は聞く〔*『俊頼髄脳』では、志賀寺上人は90歳であったとする。『浄瑠璃十二段草子』(御伽草子)では83歳とし、御息所は懐妊して、顔が6つ・手が12本ある子供を産んだ、と記す〕。
『大和物語』第105段 近江の介中興の娘が病み、浄蔵大徳が加持祈祷をするうちに、2人は情を通じてしまった。この娘は、親が大切に育て、皇子や上達部の求愛も退けて、帝に奉るつもりだったが、このことがあったため、親も世話をしなくなった〔*『今昔物語集』巻30-3に類話〕。
★2.僧と遊女。
『小袖曽我薊色縫(こそでそがあざみのいろぬい)』(河竹黙阿弥) 極楽寺の僧清心は、大磯の遊女十六夜(いざよい)と情を通じ、十六夜は清心の子を宿す。女犯の罪が発覚して清心は寺を追われ、十六夜とともに稲瀬川に身投げをする。しかし死にきれず、2人はいったん別れ別れになり、後にまた再会する→〔心中〕1。
『撰集抄』巻9-8 江口の里で時雨にあった西行が、晴れ間を待つ間の宿りを請い、主の遊女に拒まれる。西行が「世の中をいとふまでこそ難からめ仮りの宿りを惜しむ君かな」と詠むと、遊女は「家を出づる人とし見れば仮りの宿に心とむなと思ふばかりぞ」と返し、中へ入れる〔*『新古今集』巻10に贈答歌あり〕。
『たけくらべ』(樋口一葉) 15歳の藤本信如は龍華寺の跡取息子、14歳の美登利は遊女大巻の妹で、ともにやがては僧となり遊女となる身の上である。2人は同じ育英舎に通うが、互いを意識するようになってからは、めったに口もきかない。ある霜の朝、美登利の家の格子門に水仙の造花が差し入れてあり、その翌日、信如は僧林へ旅立った。
*僧が、遊女の長者(=娼家の女主人)を訪れる→〔遊女〕4aの『撰集抄』巻6-10。
★3a.僧がこの世に遺した物への執着心によって、死後、蛇の身を受ける。
『今昔物語集』巻13-42 六波羅蜜寺の僧講仙は、僧坊の前に橘の木を植え、二葉の頃から枝葉が繁り花咲き実のなるまで、大切に世話をした。死後、彼は愛執の過ちにより、小蛇となって木の下に住んだ。
『今昔物語集』巻13-44 定法寺の別当は博打や酒色を好み、三宝を敬わなかった。年月積もって彼は病みついて死に、後に大毒蛇の身を受けて苦しんだ。
『今昔物語集』巻14-1 比叡山の無空律師は、葬儀の費用に銭1万を僧坊の天井に隠して置いた。臨終時にそのことを弟子達に告げることができず、彼は死後、蛇となって銭にまといついた。
『夜窓鬼談』(石川鴻斎)上巻「蛇妖」 某住職の弟子が、金貨20枚余りを寺庭の石の下に隠し、常にその金貨のことを気にかけていた。ある時、昼寝をする弟子の魂が、蛇の形となって身体から抜け出、石の上にとぐろを巻く。住職が碁笥の蓋を投げつけると、蛇は逃げる。その時、弟子は「美しい山に遊び、大きな石の上に座っていたところ、車輪ほどの板を投げつけられる」との夢を見ていた。
『奇談異聞辞典』(柴田宵曲)「桜が池」 比叡山の阿闍梨皇円は、源空上人(浄土宗の開祖)の師である。皇円は言った。「長寿を得るには、蛇身となるのがもっとも良い。私は蛇身となって、弥勒の出世(56億7千万年後)を待つ。遠州の桜が池は深いと聞くので、そこに住もう」。臨終に及んで皇円は、桜が池の水を掬(きく)し、彼の死と同時に池水が大きく波立った。今もなお、静かな夜には、池の辺に鈴の音が聞こえる(『諸国里人談』巻4)。
★4.悪僧。
東尋坊の伝説 越前国・平泉寺(へいせんじ)の東尋坊は強欲で乱暴な悪僧だったため、皆、困り果てていた。1182年4月5日、寺侍・真柄覚念が東尋坊を三国海岸見物に誘い出し、酔いつぶして、絶壁から海へ突き落とした。以来、毎年4月5日前後に海が荒れるので、絶壁の上で供養が行なわれ、海は静まった。この出来事が語り継がれる内に、いつの頃からか、この地を「東尋坊」と呼ぶようになった(福井県三国町)。
★5.兵士が僧になる。
『ビルマの竪琴』(竹山道雄)第2話「青い鸚哥(インコ)」~第3話「僧の手紙」 ビルマ戦線で戦ったわれわれの部隊は、捕虜収容所で1年ほど過ごした後、日本へ帰還することとなった。しかし水島上等兵はビルマにとどまり、僧になった。「山野に放置された無数の日本兵の死体を埋葬することが、自らの使命だ」と考えたのである。別れの時、水島は無言のまま、竪琴(*→〔琴〕6c)を激しくかき鳴らした。われわれは口々に、「おーい、水島。いっしょに日本へ帰ろう」と叫んだ。しかし水島は背を向けて歩み去った。
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