寂しいと淋しいの意味の違いと使い分け
読み方:さびしい・さみしい
「淋しい」は、人が孤独を感じているニュアンスで用いられる語です。
「寂しい」「淋しい」の意味・読み方
「寂しい」と「淋しい」には、ともに以下2つ意味があります。
(1)あるべきものが欠けていて、物足りない、物悲しい気持ち。
(2)人の気配がなく、心細いほどにひっそりしている。
ここから展開し、「家族になかなか会えなくて淋しい」「財布が寂しい」「撤退とは寂しい話だ」「寂しい山里」など様々な使い方で用いられています。
また、「寂しい」「淋しい」の読み方ですが、どちらも「さびしい」「さみしい」の二種類の読みがあります。
ただし、古い文章では「さむしい」と読んでいる例もあります。
・二郎、御前が居なくなると、宅は淋(さむ)しい上にも淋(さむ)しくなるが」(夏目漱石「行人」)
「さびしい」の語源・言葉の成り立ち・由来
「さびしい」は古文では「さびし」ですが、元は「さぶし」と発音していました。797年に完成した歴史書「続日本紀」には、「佐夫之岐(さぶしき)」という当て字の表記があります。771年2月22日の項です。
この「さぶし」は、心が満たされず、楽しくない状態を表す形容詞です。例えば、「万葉集」の434番の歌に、この「さぶし」が登場しています。
・見れどもさぶし亡き人思へば(いくら見ても物寂しい、故人を想うと)
そばにいるはずの人が死んでしまい、喪失感にとらわれている心境が良く表されています。
この「さぶし」が平安時代以降、「さびし」と音が変わり、江戸時代になると、「さみし」という発音と併用されるようになりました。
「寂しい」の「寂」の字義
音読み:ジャク・セキ
訓読み:さび(しい)・さび(れる)・さび
「静寂」のように、静かで音がない様子を表す字です。 その静かさから受け取る印象に意味が広がり 、さびれている様子やさびしい心境も表します。
また、仏教では人が死ぬことを婉曲的に言い表すのに「寂」の字が用いられ、「入寂」「寂滅」のような熟語があります。他にも、中世以降では、古びて枯れた趣のことを「寂び」と言い表すようになりました。よく「侘び寂び」というセットで使われています。
常用漢字表に含まれています。
「淋しい」の「淋」の字義
音読み:リン
訓読み:さび(しい)
サンズイが付いている通り、水に関わる漢字です。水を注いだり、ふりかけたりする様子、また、水が流れる様子をいいます。例えば、汗の滴る様子 を「淋汗」といいます。
この字を使用する熟語の例に「淋病」という性病があります。淋病は膿が流れ出る病気であり、 西洋でも、尿道粘膜に炎症が起きて膿が流れ出る様子から、rhei(流れる)の要素を含む「gonorrhoeae」と命名されています。ですから、「淋」の字の持つ「水」「流れる」のイメージに基づく病名であるとうかがえます。
水が流れることを意味していた「淋」の字が、江戸時代に入ってから、「淋しい」と読むようになり、日本独自の意味を与えられることになりました 。1760年に刊行された、新井白石の文字研究書「同文通考」の「国訓」の項に「淋(サビシ):寂寥なり」と紹介されています。
日本でだけ、この字に「さびしい」の意味や読みが生まれた理由としては、本義の「流れる」から、涙が流れる様子を連想したことが考えられます。日本語には、「袖を絞る」「枕を濡らす」「涙の雨」のように、涙の量で悲しみの深さを想像させる言葉がたくさんあるからです。
なお、「淋」の字は常用漢字表外の漢字で、人名用漢字です。
「寂しい」と「淋しい」の使い分け、例文のニュアンスの違いは?
「寂しい」と「淋しい」は、書き手が好みで選んでいる側面もあります。しかし、さびれた町や人通りの少ない道の様子を言うなど、静かで心細い情景を表現する使い方のときには、「寂しい」の字を使う方が多いようです。
・昔使っていた住居(すまい)のほうは源氏の目に寂しく荒れているような気がした。 (与謝野晶子「源氏物語」)
・道は川のそばだのあまり家のこんでいないところだのでずいぶん寂しかった。(大杉栄「自叙伝」)
ですから、「寂しい路地裏」という表記が自然に感じられるのに対し、「淋しい路地裏」と書かれると違和感が生じます。
一方、「淋しい」の例文も見てみましょう。
・「私は淋しい人間です」と先生はその晩またこの間の言葉を繰り返した。(夏目漱石「こころ」)
・二人は声を立てて笑ったけれども、笑ったあとが、すごく淋しくなった。(太宰治「斜陽」)
こちらは心理的な孤独の意味での「淋しい」であることがよく分かります。
ただし、これらの文を「私は寂しい人間です」「笑ったあとが、すごく寂しくなった」と書き直しても、意味や印象は大きく変わりません。「淋しい」表記よりも、「寂しい」表記の方が、幅広い意味を表せるといえます。
また、常用漢字なのが「寂」であることもあって、公的な文書などでは、「寂しい」表記が使われることが一般的です。
・老人の孤独感や寂しさが犯行に影響したことがうかがえる(2014年版犯罪白書、法務省法務総合研究所)
「さびしい」と「さみしい」はどちらの読み方が正しい?
「さぶし」から「さびし」と音が転じた語なので、「さびしい」が本来の発音です。そのため、テレビ・ラジオなどの放送では「さびしい」の方が優先的に使われています。
しかし、「さみしい」も今日では広く使用されており、辞書にも両方の見出しがあります。
実は、「さびしい」「さみしい」に限らず、バ行とマ行の交替現象はよく起こります。
「煙」…けぶり・けむり
「眠たい」…ねぶたい・ねむたい
「頰被り」…ほおかぶり・ほおかむり
こうした交替現象が起こるのは、発音の仕方が似ているからです。
バ行……唇を軽く合わせた状態にしてから、口を開けて息を通し、その息で唇を震わせる
マ行……唇を軽く合わせた状態にしてから、口を開けて息を通す
唇の震えの有無だけなので、発音が混じってしまうわけです。
まとめ:「寂しい」と「淋しい」の区別を一言で
「寂しい」は古来、物足りなさ、ひとけのなさ、孤独感などの意味で、あらたまった文章も含めた幅広い文章で使われる。
「淋しい」は江戸時代以降、孤独という意味の際に使われるようになった漢字表記で、小説や歌詞、個人的な想いの吐露などの文脈で用いられる。
「寂しい」と「淋しい」の意味の違い
「寂しい」は、物足りなさ、ひっそりした様子、孤独感などの幅広い意味を表す語。「淋しい」は、人が孤独を感じているニュアンスで用いられる語です。
「寂しい」「淋しい」の意味・読み方
「寂しい」と「淋しい」には、ともに以下2つ意味があります。(1)あるべきものが欠けていて、物足りない、物悲しい気持ち。
(2)人の気配がなく、心細いほどにひっそりしている。
ここから展開し、「家族になかなか会えなくて淋しい」「財布が寂しい」「撤退とは寂しい話だ」「寂しい山里」など様々な使い方で用いられています。
また、「寂しい」「淋しい」の読み方ですが、どちらも「さびしい」「さみしい」の二種類の読みがあります。
ただし、古い文章では「さむしい」と読んでいる例もあります。
・二郎、御前が居なくなると、宅は淋(さむ)しい上にも淋(さむ)しくなるが」(夏目漱石「行人」)
「さびしい」の語源・言葉の成り立ち・由来
「さびしい」は古文では「さびし」ですが、元は「さぶし」と発音していました。797年に完成した歴史書「続日本紀」には、「佐夫之岐(さぶしき)」という当て字の表記があります。771年2月22日の項です。
この「さぶし」は、心が満たされず、楽しくない状態を表す形容詞です。例えば、「万葉集」の434番の歌に、この「さぶし」が登場しています。
・見れどもさぶし亡き人思へば(いくら見ても物寂しい、故人を想うと)
そばにいるはずの人が死んでしまい、喪失感にとらわれている心境が良く表されています。
この「さぶし」が平安時代以降、「さびし」と音が変わり、江戸時代になると、「さみし」という発音と併用されるようになりました。
「寂しい」の「寂」の字義
音読み:ジャク・セキ
訓読み:さび(しい)・さび(れる)・さび
「静寂」のように、静かで音がない様子を表す字です。 その静かさから受け取る印象に意味が広がり 、さびれている様子やさびしい心境も表します。
また、仏教では人が死ぬことを婉曲的に言い表すのに「寂」の字が用いられ、「入寂」「寂滅」のような熟語があります。他にも、中世以降では、古びて枯れた趣のことを「寂び」と言い表すようになりました。よく「侘び寂び」というセットで使われています。
常用漢字表に含まれています。
「淋しい」の「淋」の字義
音読み:リン
訓読み:さび(しい)
サンズイが付いている通り、水に関わる漢字です。水を注いだり、ふりかけたりする様子、また、水が流れる様子をいいます。例えば、汗の滴る様子 を「淋汗」といいます。
この字を使用する熟語の例に「淋病」という性病があります。淋病は膿が流れ出る病気であり、 西洋でも、尿道粘膜に炎症が起きて膿が流れ出る様子から、rhei(流れる)の要素を含む「gonorrhoeae」と命名されています。ですから、「淋」の字の持つ「水」「流れる」のイメージに基づく病名であるとうかがえます。
水が流れることを意味していた「淋」の字が、江戸時代に入ってから、「淋しい」と読むようになり、日本独自の意味を与えられることになりました 。1760年に刊行された、新井白石の文字研究書「同文通考」の「国訓」の項に「淋(サビシ):寂寥なり」と紹介されています。
日本でだけ、この字に「さびしい」の意味や読みが生まれた理由としては、本義の「流れる」から、涙が流れる様子を連想したことが考えられます。日本語には、「袖を絞る」「枕を濡らす」「涙の雨」のように、涙の量で悲しみの深さを想像させる言葉がたくさんあるからです。
なお、「淋」の字は常用漢字表外の漢字で、人名用漢字です。
「寂しい」と「淋しい」の使い分け、例文のニュアンスの違いは?
「寂しい」と「淋しい」は、書き手が好みで選んでいる側面もあります。しかし、さびれた町や人通りの少ない道の様子を言うなど、静かで心細い情景を表現する使い方のときには、「寂しい」の字を使う方が多いようです。
・昔使っていた住居(すまい)のほうは源氏の目に寂しく荒れているような気がした。 (与謝野晶子「源氏物語」)
・道は川のそばだのあまり家のこんでいないところだのでずいぶん寂しかった。(大杉栄「自叙伝」)
ですから、「寂しい路地裏」という表記が自然に感じられるのに対し、「淋しい路地裏」と書かれると違和感が生じます。
一方、「淋しい」の例文も見てみましょう。
・「私は淋しい人間です」と先生はその晩またこの間の言葉を繰り返した。(夏目漱石「こころ」)
・二人は声を立てて笑ったけれども、笑ったあとが、すごく淋しくなった。(太宰治「斜陽」)
こちらは心理的な孤独の意味での「淋しい」であることがよく分かります。
ただし、これらの文を「私は寂しい人間です」「笑ったあとが、すごく寂しくなった」と書き直しても、意味や印象は大きく変わりません。「淋しい」表記よりも、「寂しい」表記の方が、幅広い意味を表せるといえます。
また、常用漢字なのが「寂」であることもあって、公的な文書などでは、「寂しい」表記が使われることが一般的です。
・老人の孤独感や寂しさが犯行に影響したことがうかがえる(2014年版犯罪白書、法務省法務総合研究所)
「さびしい」と「さみしい」はどちらの読み方が正しい?
「さぶし」から「さびし」と音が転じた語なので、「さびしい」が本来の発音です。そのため、テレビ・ラジオなどの放送では「さびしい」の方が優先的に使われています。
しかし、「さみしい」も今日では広く使用されており、辞書にも両方の見出しがあります。
実は、「さびしい」「さみしい」に限らず、バ行とマ行の交替現象はよく起こります。
「煙」…けぶり・けむり
「眠たい」…ねぶたい・ねむたい
「頰被り」…ほおかぶり・ほおかむり
こうした交替現象が起こるのは、発音の仕方が似ているからです。
バ行……唇を軽く合わせた状態にしてから、口を開けて息を通し、その息で唇を震わせる
マ行……唇を軽く合わせた状態にしてから、口を開けて息を通す
唇の震えの有無だけなので、発音が混じってしまうわけです。
まとめ:「寂しい」と「淋しい」の区別を一言で
「寂しい」は古来、物足りなさ、ひとけのなさ、孤独感などの意味で、あらたまった文章も含めた幅広い文章で使われる。
「淋しい」は江戸時代以降、孤独という意味の際に使われるようになった漢字表記で、小説や歌詞、個人的な想いの吐露などの文脈で用いられる。
さみし・い【▽寂しい/×淋しい】
さみしい
「さみしい」の例文・使い方・用例・文例
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