核分裂反応 核分裂反応の概要

核分裂反応

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/10/08 03:41 UTC 版)

原子核物理学
CNO Cycle.svg


放射性崩壊
核分裂反応
原子核融合
核分裂反応 中性子を吸収したウラン235が、クリプトン92とバリウム141に分裂した例。この分裂の際、平均2 - 3個の高速中性子が放出される。この中性子が別のウラン235に再び吸収され、新たな核分裂反応を引き起こすことを核分裂連鎖反応という。核分裂連鎖反応は指数関数的英語版に反応する[1]
この連鎖反応をゆっくりと進行させ、持続的にエネルギーを取り出すことに成功したのが原子炉である。一方、この連鎖反応を高速で進行させ、膨大なエネルギーを一瞬のうちに取り出すのが原子爆弾である。

概要

不安定核は主に次の3つの過程を経て別の原子核に変わる。

  1. 電子もしくは陽電子を放出して僅かに軽い核になる。
  2. He核(アルファ粒子)を放出して少し軽い核になる。
  3. He核より重い大きな核(重荷電粒子線)を一つ以上放出してかなり軽い核になる。

このうち 1, 2 は一般には原子核崩壊(それぞれベータ崩壊アルファ崩壊)といい、この核崩壊を起こす原子核は放射線を出す能力を持つ(放射能)。原子核分裂というと 2, 3 になるが、一般的には 3 の事を指す事が多い。

核分裂性物質の原子核が中性子を吸収すると、一定の割合で 3 の過程で核分裂を起こし、合わせて中性子を放出する。この中性子が別の核分裂性物質の原子核に吸収されれば連鎖反応が起こる。また、この崩壊過程は発熱反応である。この連鎖反応と発熱反応の性質を利用して一度に大量のを生成する事が出来る。これが原子力発電原爆の基本原理である。

ウラン原子の核分裂

天然ウランには、核分裂を簡単に起こすウラン235と起こさないウラン234、ウラン238が含まれている[注 1]。ウラン235に中性子を一つ吸収させると、ウラン原子は大変不安定になり、二つの原子核と幾つかの高速中性子に分裂する。

代表的な核分裂反応としては下記のようなものがある。なお核分裂反応は確率的に起こるため、他の核種を生成することもあり、下記の反応はあくまで一例にすぎない。

{}^{235}{\rm U} + {\rm n} \rightarrow {}^{95}{\rm Y} + {}^{139}{\rm I} + 2{\rm n}

この反応ではイットリウム95 とヨウ素139 が生成されるが、上式で元素記号の左肩に示した質量数原子核の中に存在する陽子中性子の和であり、右辺と左辺の核子数は等しいことがわかる。すなわち核分裂反応では反応の前後において質量数(質量とは異なる)は厳密に保存する[3]

しかし、質量数はあくまで陽子と中性子の総和であって質量ではなく、実際の原子核の質量は一般に質量数である陽子と中性子の質量の総和よりも小さい。この質量差を質量欠損と呼ぶ。質量欠損の実体は、特殊相対性理論の帰結である質量とエネルギーの等価性 E=mc² で質量に換算される原子核内部の核子の結合エネルギーに他ならない。

核子1個あたりの結合エネルギーを表したグラフ。x軸が質量数、y軸が結合エネルギーである。核子とは陽子中性子という原子核を構成している主要な物質の事であり、これをつなぎ合わせているのが結合エネルギーである。核子の一つである陽子はプラスの電荷を持っていて、ちょうど磁石の同じ極同士が反発するように、クーロン力で反発する。陽子だけであったらバラバラに砕け散ってしまう核子同士をつなぎとめている接着剤としての役目が中性子にはある。とくに陽子が多くなりすぎるとクーロン力が強まるから、原子番号が大きい(=陽子が多い)核種ほど中性子も多くなる。ところが中性子が多すぎてもバランスが悪くなってしまい、陽子と中性子のバランスが悪い核種は放射能を持っている。陽子と中性子が結合すると、つなぎとめている力がエネルギーに変わって、少し軽くなる。これが質量欠損のエネルギーであり、実質上結合エネルギー=質量欠損であり、これが小さいほど核反応が起こりやすく、大きいほど核反応が起こりにくい。ちょうど鉄のあたりで結合エネルギーが最大値を示している事がわかる。鉄より質量数が小さい原子核は核融合反応を起こしやすく、逆に鉄より質量数が大きい原子核は核分裂反応を引き起こしやすいと言うわけである。本文にもあるように、核反応が起こって反応の前後で質量欠損が変化すると、特殊相対論による質量とエネルギーの等価性によってその分のエネルギーが解放されるわけで、それを利用したのが核兵器や原子力、核融合というわけである。

よって、分裂前と分裂後の質量の差は結合エネルギーの差であり、核分裂を起こすとこの質量の差に相当するエネルギーが外部に放出される。上記の過程の質量差をエネルギーに換算すると、ウランの核分裂反応で放出されるエネルギーはウラン原子一つあたり約 200 MeV となり、ジュール J に換算すると 3.2×10-11 J となる。1グラムの単一の物質に含まれる原子数はアボガドロ定数NA を質量数A で割ることで与えられるから、

\frac{N_A}{A} = \frac{6.02\times10^{23}\;\mathrm{mol}^{-1}}{235\;\mathrm{g/mol}}=2.56\times10^{21}\;\mathrm{g}^{-1}

より、1グラムのウラン235の中には 2.56×1021 個の原子核が含まれることがわかる。この1グラムのウラン235が全て核分裂を起こすと

(3.2\times10^ {-11}\;\mathrm{J}) \times (2.56\times10^{21}\;\mathrm{g}^{-1}) = 8.2\times10^{10}\;\mathrm{J/g}

とおよそ 8.2×1010 J のエネルギーが生まれる事になる。

原子力発電におけるウランの核分裂

ウラン235が1個核分裂を起こせば 3.2×10-11 J のエネルギーを放出することは上に述べたが、1ワットのエネルギーを生み出すには1秒間に約300億個のウラン235が核分裂を起こさねばならない[4]。実際、

(3.2\times10^{-11}\;\mathrm{J}) \times (3\times10^{10}\;\mathrm{s}^{-1}) = 0.96\;\mathrm{W} \approx 1\;\mathrm{W}

である。電気出力100万キロワットの原子力発電では熱効率を考えれば熱出力は3倍すなわち300万キロワットは必要であり、これを続けるには、1日あたりに 8×1024 個のウランを核分裂させる必要がある[4]。すなわち、300万キロワットを出力するのに必要な1秒あたりの原子数を求めれば

(3\times10^{9}\;\mathrm{W}) \times (3\times10^{10}\;\mathrm{s^{-1}W^{-1}}) = 9\times10^{19}\;\mathrm{s}^{-1}

となるから、1日(= 86400秒)核分裂反応を継続させれば

(9\times10^{19}\;\mathrm{s}^{-1}) \times (86400\;\mathrm{s/day}) \approx 8\times10^{24}\;\mathrm{day}^{-1}

である。1グラムのウラン235の原子数は 2.56×1021 であったから、これは

\frac{8\times10^{24}\;\mathrm{day}^{-1}}{2.56\times10^{21}\;\mathrm{g}^{-1}} = 3125\;\mathrm{g/day}

と100万キロワット級の原発では1日にウラン235を約 3 kg 使用していることとなる[4]。広島に投下された原子爆弾は 1 kg が核分裂を起こしたとされているため、100万キロワット級の原発では1日3発(8時間に一発)の割合で広島原爆を燃焼させつづける事に相当しているのである[4]

またウラン235が1個、核分裂反応を起こせば中性子が平均2.5個放出されるが、このうち1.5個をウラン235以外の物質で吸収させ、1回の核分裂につき1個の中性子が、他のウラン235に当たって再び核分裂を引き起こしていくといった連鎖反応を起こすのが出力が一定となった状態の原子力発電であり、核分裂に使われる中性子が1個をわずかでも上回れば短い時間で(たとえ1万分の1秒であっても)たちまち指数関数的に反応が増大して暴走してしまう。原子力発電では出力の調整は根本的困難が常につきまとい、これが実際に起こってしまったのがチェルノブイリの例である[4]

核分裂生成物

原子力発電所において熱中性子によってウラン235とプルトニウム239、およびトリウム燃料サイクルにおいてウラン233が核分裂反応を起こした場合の核分裂生成物の収率のグラフ。x軸が質量数であり、y軸が収率(どのぐらいの割合で生成されるか)である。赤がウラン235、青がプルトニウム239、緑がウラン233の収率をそれぞれ表している。

核分裂の過程で原子核が分裂してできた核種を核分裂生成物という。核分裂片ともいう。通常は二等分になることはなく、一方が重く(質量数140程度)、一方は軽い(95程度)核になる。これは、分裂するときに魔法数に近い安定な原子核になろうとするためだと解釈されている。

核分裂生成物がどの核種になるかはある確率で決まる。この確率を収率という。核分裂する核種によって異なる収率分布をもっているので、核分裂生成物を分析すれば核反応を起こした親核種が判る。

例えばウラン235が核分裂を起こした場合その核分裂生成物は80種類程度生じ、質量数は72から160と広範囲に分布している。これらは質量数90と140付近のピークを中心として鞍型の分布をなしている[5]。右図も参照せよ。

核分裂生成物は様々な核種の混合物であるが、総じて陽子数と中性子数との均衡を欠いており放射能を持つ。これらの放射性同位体は、陽子と中性子の均衡が保てるところまで放射壊変(主にベータ崩壊)を繰り返す。

核分裂生成物の中には中性子を良く吸収してしまう物質が含まれる。このような物質は、原子炉に蓄積して核分裂連鎖反応を阻害してしまうため、毒に例えて中性子毒あるいは単に毒物質と呼ばれる。原子炉を停止したり出力を変えた場合、放射性の毒物質の存在量は時間とともに変化するため、原子炉の挙動を不安定にしてしまう要因となる。

これらの崩壊速度は様々で、数秒から数ヶ月でほぼ崩壊しつくす短寿命の核種、100年単位の中寿命の核種、そして半減期すら20万年を超える長寿命の核種がある。放射性物質は基本的には寿命(ここでは半減期とほぼ同義語と捉えて良い)が短いほど少量でも放射能が強いものの短期間ですぐに減衰するが、逆に長寿命であれば放射能は少量ならば弱い(大量にあれば当然強い)が、時間が経ってもなかなか減らないという性質を持っている。比放射能も参照せよ。

短・中寿命核種は盛んに放射線を放って崩壊するため少量でも放射能が大きく、例えば1945年原子爆弾で攻撃された広島市長崎市では、被爆者だけでなく家族や知人の行方を捜すため爆心地周辺に後日立ち入った人々が重篤な放射線障害を受けている。

一方、長寿命核種は放射能は小さいが、原子炉の使用済み核燃料のように大量に存在すると、人間社会の尺度では半永久的に放射線を放ち続けるやっかいな廃棄物となり、半減期の数倍から数十倍(つまり100万年単位)の期間、厳重に遮蔽して保管し続けなければならない。

このように多数の核種から構成されている核分裂生成物であるが、核分裂が起こってからt分経過した後の全ての核分裂生成物の合計の放射能の強さの減衰は一定であり、

A(t)=A_{0}t^{-\alpha}

で与えられる。ここでA0t = 0 つまり核分裂が起こった時点の放射能の強さ、αは定数であり1.2である。これをハンター・バロウの法則(Hunter Ballou's law)という[6]




  1. ^ ウラン235は、天然ウランに0.72%、原子炉で使用するウラン燃料に3% - 5%、原子爆弾に使用する高濃縮ウランには90%以上、含まれている。
  1. ^ 河添健 『微分積分学講義I』、数学書房、2009年、218頁。ISBN 978-4-903342-12-2
  2. ^ 小田稔ほか編、『理化学英和辞典』、研究社、1998年、項目「nuclear fission」より。ISBN 978-4-7674-3456-8
  3. ^ 山本義隆 『新・物理入門 増補改訂版』 駿台文庫、2004年、319頁。ISBN 978-4-7961-1618-3  C7342
  4. ^ a b c d e 佐高信・中里英章編、『高木仁三郎セレクション』、岩波書店、〈岩波現代文庫〉、2012年、78-79頁。ISBN 978-4-00-603244-9 C0140
  5. ^ 三宅泰雄 『死の灰と闘う科学者』、岩波書店〈岩波新書B107〉、1972年、用語解説の3頁。
  6. ^ 三宅泰雄 『死の灰と闘う科学者』、岩波書店〈岩波新書B107〉、1972年、用語解説の4頁。
  7. ^ 日本アイソトープ協会編 『アイソトープ手帳11版』 丸善、2011年、126-127頁。ISBN 978-4-89073-211-1 


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