ゆうし‐ぶんれつ〔イウシ‐〕【有糸分裂】
有糸分裂
有糸分裂
有糸分裂
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/04/20 03:04 UTC 版)
有糸分裂(ゆうしぶんれつ、英: mitosis)は、真核細胞の細胞周期の一部を構成する過程であり、複製された染色体が2つの新たな細胞核(娘核)へ分離される過程である。有糸分裂による細胞分裂によって、核に内包されていた遺伝物質は均等に分配され、元々の細胞と染色体の総数や遺伝的構成が同一な2つの細胞(娘細胞)が生じる[1]。DNAの複製は有糸分裂に先立って間期のS期に行われ、有糸分裂に続いて行われる細胞質分裂によって細胞質、細胞小器官、細胞膜は2つの細胞へほぼ均等に分割される[2]。有糸分裂は各娘細胞が同一な染色体セットを受け取るよう保証する過程であり、この過程によって細胞の世代を超えた遺伝的安定性が維持される。有糸分裂は複数の段階からなるが、それらをまとめて分裂期(mitotic phase、M期)と呼ぶ[3]。
有糸分裂の過程は、分裂準備期(植物のみにみられる)、前期、前中期、中期、後期、終期の段階に分けられる。有糸分裂時には、間期に既に複製されて2コピーとなっている各染色体は凝縮して紡錘体に接着し、紡錘体は染色体を細胞の両極へ引っ張ることで各染色体は1コピーずつに分離される[4]。その結果、遺伝的に同一な2つの娘核が生じる。核以外の部分も細胞質分裂によって分割され、2つの娘細胞が形成される[5]。有糸分裂の各段階は、ライブセルイメージングによってリアルタイムで可視化することができる[6]。
有糸分裂のエラーによって、2つではなく3つ以上の娘細胞が形成される場合がある。こうしたエラーは、胚が着床に失敗し、生存できなくなる要因となる場合がある[7]。有糸分裂時のエラーは分裂期崩壊やアポトーシス(プログラム細胞死)の誘導をもたらすほか、変異が生じる原因となる場合もあり、特定の種類のがんの発生の原因となっている場合がある[8]。
有糸分裂の形式は、生物種によって差異がみられる[9]。一例として、動物細胞の有糸分裂は一般的にはopen mitosisと呼ばれる形式で行われ、染色体分離の前に核膜の解体が生じる。一方、真菌細胞は一般的にclosed mitosisと呼ばれる形式をとり、完全な状態の細胞核の内部で染色体分離が行われる[10][11]。また大部分の動物細胞では分裂期球形化と呼ばれる細胞形状の変化が生じ、有糸分裂の開始時にはほぼ球形の形態となる。ヒト細胞の大部分は有糸分裂による細胞分裂によって生み出されるが、重要な例外が配偶子、すなわち精子と卵であり、これらは減数分裂によって生み出される。原核生物(細菌や古細菌)には細胞核は存在せず、二分裂と呼ばれる異なる過程によって細胞分裂が行われる[12]。
発見
18世紀から19世紀にかけて細胞分裂に関して多くの記載がなされたが、これらの正確性はさまざまであった[13]。1835年、ドイツの植物学者フーゴー・フォン・モールは緑藻の一種カワシオグサCladophora glomerataの細胞分裂を記載し、細胞が分裂によって倍加すると述べた[14][15][16]。1838年にマティアス・ヤーコプ・シュライデンは植物における細胞の倍加の原則は細胞内部での新たな細胞の形成であると主張したが、その後のロベルト・レーマクらの貢献によってモールのモデルが支持されるようになった[17]。
動物細胞では、ドイツの動物学者オットー・ビュッチュリによって1875年に細胞核の分裂の段階が同定され、また同時期にはポーランドの組織学者Wacław Mayzelも角膜細胞の有糸分裂について観察していた[18]。
有糸分裂を意味する"mitosis"という語は1882年にヴァルター・フレミングによって用いられ[19]、この語は縦糸を意味するギリシア語μίτος(mitos)に由来する[20][21]。同時期にはこの過程を指す名称として他にもいくつかの語が用いられており[22]、1878年にW. Schleicher によって"karyokinesis"(核分裂)という語が導入され[23][24]、1887年にはアウグスト・ヴァイスマンによって"equational division"(均等分裂)という語が提唱された[25]。有糸分裂(mitosis)という語は、核分裂過程だけを指して用いられる場合も、核分裂と細胞質分裂を合わせた広義の語として用いられる場合もある[26]。また均等分裂という語は現在では、減数分裂の第二分裂を指して用いられることの方が一般的である[27]。
段階
概要
有糸分裂と細胞質分裂によって、親細胞のゲノムは2つの娘細胞へ移行する。ゲノムはいくつかの染色体から構成されており、染色体はDNAがヒストンなどのタンパク質とともに高次構造を形成している複合体である。DNAには細胞が正しく機能するために重要な遺伝情報がコードされている[28]。各娘細胞が親細胞と遺伝的に同一なものとなるためには、親細胞は有糸分裂の前に各染色体のコピーを作製しておかなければならない。この過程は間期のS期の間に行われる[29]。染色体の複製によって形成された、同じ遺伝情報を有する2つの染色分体は姉妹染色分体と呼ばれ、両者はセントロメア領域においてコヒーシンタンパク質によって連結されている。
有糸分裂が開始されると染色体は凝縮し、顕微鏡下で観察可能な状態となる。動物など一部の真核生物では、DNAを細胞質から隔離する役割を果たしていた核膜は小胞へと解体される。また、核内でリボソームの組み立てを担っている核小体も消失する。細胞の両極から投射された微小管は染色体のセントロメア領域に接着し、染色体を細胞の中心部に整列させる。その後、微小管は収縮し、各染色体の姉妹染色分体は引き離される[30]。この時点で姉妹染色分体は娘染色体と呼ばれるようになる。細胞の伸長に伴って娘染色体は細胞の両極へ向かってさらに引き離され、後期の終盤に最も凝縮された状態となる。細胞の両極に位置する娘染色体の各セットの周囲に新たな核膜が形成され、染色体は脱凝縮して娘核が形成される。
有糸分裂の進行時、一般的には後期の開始後であるが、細胞質分裂が生じる。動物細胞では、形成中の2つの娘核の間の領域で細胞膜が内側に向かって狭窄する。植物細胞では、2つの娘核の間に細胞板が形成されることで細胞質は分離される。細胞質分裂は常に有糸分裂とともに行われるわけではなく、多核体では細胞質分裂を伴わない有糸分裂が行われる。
間期
細胞周期において、間期はM期と比較してかなり長い期間を占める段階である。間期は細胞が分裂過程に備える段階であり、さらにG1期(gap 1)、S期(synthesis)、G2期(gap 2)の3段階に分けられる。これら3つの段階全てでタンパク質の産生や細胞質の細胞小器官の形成による細胞の成長が行われる一方で、染色体の複製はS期にのみ行われる。すなわち、G1期に細胞は成長し、S期には成長が継続するとともに染色体の複製が行われ、G2期に細胞はさらに成長して有糸分裂に備え、そしてM期に分裂が行われて新たな細胞周期のサイクルが開始される[29]。これら全ての段階において、サイクリンやサイクリン依存性キナーゼ、その他の細胞周期タンパク質によって高度な調節が行われている。各段階は厳密な順序に従って進行し、細胞が次の段階へ移行するかどうかの指示を出す細胞周期チェックポイントが存在している[31]。また、細胞は一時的もしくは永久に細胞周期を停止し、G0期に移行して分裂を行わない状態となる場合がある。細胞が過密状態になった場合(密度依存性増殖抑制)や、ヒトの心筋細胞や神経細胞のように特定の機能の発揮のために分化した場合にこうした変化が生じる。G0期細胞の一部では、状況の変化に応じて再び細胞周期の進行を開始する能力が保持されている。
間期には、主に2種類の機構によってDNAの二本鎖切断が修復される[32]。第一の過程は非相同末端結合(NHEJ)と呼ばれるもので、間期のG1期、S期、G2期に2つのDNA切断末端の結合が行われる。第二の過程は相同組換え修復(HRR)と呼ばれ、NHEJよりも正確に二本鎖切断を修復することができる。HRRには2つの相同配列が必要であるため、DNA複製が部分的に終了しているS期や、完結したG2期に行われる。
間期は細胞が有糸分裂に備え、分裂を行うかどうかの指示が行われる段階であり、細胞のDNAが損傷していたり、重要な段階が完結していない状態で有糸分裂への移行が起こらないよう、注意深い監視が行われている。有糸分裂が首尾よく完結するかどうかは間期が正常に進行したかどうかに依存しており、間期の重要なタンパク質群による誤ったシグナルはがん細胞の形成をもたらす可能性がある[33]。
有糸分裂
分裂準備期(植物細胞)
植物細胞では、前期に先立って分裂準備期と呼ばれる段階が存在する。植物細胞は大部分を液胞が占めているため、有糸分裂の開始前に核を細胞の中心へ移動しておく必要がある。この過程は、フラグモソームの形成を介して行われる。フラグモソームは将来的な細胞分裂面に沿って細胞を二分するシート状の細胞質である。分裂準備期はフラグモソームの形成以外にも、微小管とアクチンフィラメントによるリング(分裂準備帯)が将来的な紡錘体の赤道面の周囲に形成されることで特徴づけられる。この帯は最終的な細胞分裂部位の標識となる。高等植物(顕花植物など)の細胞は中心小体を欠いているが、核の表面で微小管は形成され、核膜の解体後に染色体自身によって紡錘体が組織化される[34]。前中期に核膜が解体され紡錘体が形成される間に、分裂準備体は消失する[35]:58–67。
前期
前期はG2期の次の段階であり、細胞が染色体を高度に凝縮し、紡錘体形成を開始することで分裂に備える段階である。間期の間は核内の遺伝物質は緩く詰め込まれたクロマチン状態で存在しているが、前期の開始時にクロマチン繊維は高倍率の光学顕微鏡で観察可能な染色体構造へと凝縮され、細長い糸状となる。各染色体は2つの染色分体からなり、両者はセントロメア領域で連結されている。前期には遺伝子の転写は停止し、後期からG1期の序盤まで再開されることはない[36][37][38]。前期の序盤には核小体も消失する[39]。
動物細胞の核の近傍には中心体と呼ばれる構造体が存在する。中心体は一対の中心小体とそれを緩く取り囲むタンパク質群(中心体マトリックス)から構成されている。中心体は細胞の微小管の形成中心となる。細胞は分裂時に中心体を1つ受け継ぎ、新たな有糸分裂が開始される前に複製されることで2個の中心体が生じる。中心体はチューブリンを重合することで紡錘体の形成を補助し、その後モータータンパク質によって微小管に沿ってそれぞれ細胞の両極へと押される。中心体は微小管の組み立てを補助するものの、植物細胞には存在しない構造体であることからもわかるように紡錘体の形成に必要不可欠であるわけではなく[34]、また動物細胞の有糸分裂においても絶対に必要であるわけではない[40]。
前中期
動物細胞の前中期の開始時には、核ラミンのリン酸化によって核膜は小胞へと解体される。これによって、微小管は核内の空間へ進入できるようになる。こうした形式の有糸分裂はopen mitosisと呼ばれ、一部の多細胞生物で行われる。真菌や一部の原生生物(藻類やトリコモナスなど)はclosed mitosisと呼ばれる形式で有糸分裂が行われ、紡錘体は核内に形成されるか、もしくは微小管は完全な状態の核膜を貫通する[41][42]。
前中期の終盤には、一部の微小管は染色体のキネトコアを探索して接着する[43]。こうした微小管はキネトコア微小管(動原体微小管)と呼ばれる。キネトコアは前期の終盤に染色体のセントロメア領域に形成される、タンパク質性の微小管結合構造である[43][44]。極微小管と呼ばれる微小管は細胞の反対側に位置する中心体から発せられた極微小管を見つけて相互作用することで、紡錘体を形成する[45]。キネトコアの構造と機能は十分には理解されているわけではないが、分子モーターを形成するタンパク質が含まれていることが知られている[46]。微小管がキネトコアと連結されるとモーターは活性化され、ATPのエネルギーを用いて中心体へ向かって微小管上を這うように進む。このモーター活性は微小管の重合・脱重合と共役しており、後の段階において2つの染色分体を分離するために必要な力をもたらしている[46]。
中期
前中期に微小管がキネトコアに接着すると、2つの中心体は染色体を細胞の両極へ引っ張るようになる。その結果生じる張力によって、染色体は紡錘体赤道面の中期板(2つの中心体の中間に位置する仮想的な面、おおよそ細胞の中心面と一致する)上に整列する[45]。有糸分裂の終結時に染色体が確実に均等に分離されるよう保証するため、キネトコアが紡錘体に正しく接着し、染色体が中期板上に整列しているかどうか、紡錘体チェックポイントによる監視が行われている[47]。紡錘体チェックポイントの通過に成功した場合には、後期へと進行する。
後期
後期Aと呼ばれる段階では、姉妹染色分体を連結しているコヒーシンが切断され、2つの同一な娘染色体が形成される[48]。そしてキネトコア微小管の短縮によって、新たに形成された娘染色体は細胞の両極へ引っ張られる。後期B段階では、極微小管が互いを押し合い、細胞は伸長する[49]。後期の終盤には染色体凝縮が最大レベルに達し、高度な凝縮は染色体の確実な分離と核の再形成に役立っている[50]。大部分の動物細胞では後期Aから後期Bの順で生じるが、一部の脊椎動物の卵細胞では逆の順序で生じることが示されている[48]。
終期
終期には、前期や前中期のイベントの逆の過程が進行する。極微小管は伸長を続け、細胞はさらに伸長する。核膜が解体されている場合には、親細胞の古い核膜由来の小胞から新たな核膜が形成される。新たな核膜は分離された娘染色体の各セットの周囲に形成され(ただし中心体は膜に内包されない)、核小体が再出現する。各染色体セットは新たな核膜に囲まれ、脱凝縮を開始する。有糸分裂は完結し、各娘核には同一な染色体セットが含まれた状態となる。この時点で細胞分裂が起こるかどうかは、生物に依存する。
細胞質分裂
細胞質分裂は有糸分裂の一段階ではなく、細胞分裂を完結するために必要な別の過程である。動物細胞では、中期板が存在していた部位に収縮環を含む分裂溝が形成され、分離された娘核の間で細胞を縊りきる[51]。動物細胞と植物細胞の双方において、ゴルジ体由来で微小管に沿って細胞の中心部へ移動した小胞も細胞分裂を駆動する[52]。植物細胞では、この構造がフラグモプラストの中心部で細胞板と合体し、2つの娘核を分離する。フラグモプラストは高等植物に典型的な微小管構造であり、これに対し一部の緑藻では細胞質分裂時にファイコプラストと呼ばれる微小管列が利用される[35]:64–7, 328–9。各娘細胞には親細胞のゲノムの完全なコピーが受け継がれ、細胞質分裂の終結によってM期は終結する。
有糸分裂と細胞質分裂が同時ではなくそれぞれ個別に行われる細胞は多く存在し、こうした場合には多数の核を有する細胞が形成される。真菌、粘菌、多核藻類で最も顕著に生じるが、他のさまざまな生物でもこの現象は観察される。動物においても、ショウジョウバエの胚発生の特定の段階など、細胞質分裂と有糸分裂が独立して生じる場合がある[53]。
多様性
有糸分裂の形式の多様性
真核生物の細胞の有糸分裂過程は全て類似したパターンで行われるものの、主に3つの細かい点で多様性がみられる。有糸分裂のclosed mitosis、open mitosisと呼ばれる形式は、核膜が完全な状態で維持されるか、それとも解体されるかという点が異なる。核膜が部分的に解体される中間的な形式はsemiopen mitosisと呼ばれる。中期の間の紡錘体の対称性という観点では、紡錘体がおおよそ軸対称性を有する形状となるものはorthomitosisと呼ばれ、左右対称性を有するものの偏心している紡錘体が形成されるpleuromitosisと区別される。分類の3つ目の基準は、closed pleuromitosisのケースでの中央紡錘体の位置であり、細胞質(核外)に位置するものはextranuclear、核内に位置するものはintranuclear型に分類される[9]。
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closed
intranuclear
pleuromitosis -
closed
extranuclear
pleuromitosis -
closed
orthomitosis -
semiopen
pleuromitosis -
semiopen
orthomitosis -
open
orthomitosis
細菌や古細菌は核を持たないため、核分裂は真核生物の細胞でのみ行われる過程である。細菌や古細菌もさまざまな形式で分裂を行う[54][55]。Closed mitosisのみがみられる単細胞のエクスカバータを除いて、真核生物の各スーパーグループ内ではclosed mitosisだけでなくopen mitosisもみられる[11]。真核生物における有糸分裂の形態について次に示す[9][56]。
- Closed intranuclear pleuromitosisは、有孔虫、プラシノ藻の一部、キネトプラスト類の一部、オキシモナス類の一部、略胞子虫類、真菌類の多く(ツボカビ類、卵菌、接合菌、子嚢菌)、放散虫の一部(スプメラリア、アカンタリア)に典型的である。最も原始的な形式であると考えられている。
- Closed extranuclear pleuromitosisは、トリコモナス類や渦鞭毛藻類にみられる。
- Closed orthomitosisは、珪藻、繊毛虫、微胞子虫の一部、単細胞性の酵母、一部の多細胞性真菌にみられる。
- Semiopen pleuromitosisは、アピコンプレックス門の大部分に典型的である。
- Semiopen orthomitosisは、アメーバの一部(ロボサ)や緑藻の一部(ラフィド藻やボルボックスなど)で様々な種類にみられる。
- Open orthomitosisは、哺乳類やその他の後生動物、そして陸上植物に典型的である。原生生物の一部にもみられる。
有糸分裂のエラーとその他の多様性
有糸分裂時にはエラーが生じる場合があり、ヒトでは特に初期胚発生時に生じやすい[57]。有糸分裂の各段階には、有糸分裂が正常に行われるよう制御するチェックポイントが存在している[58]。しかし、稀ではあるものの時として誤りが生じることがある。有糸分裂時のエラーによって、1つまたは複数の染色体のコピー数が正常よりも多いまたは少ない異数体細胞が形成される場合があり、こうしたケースはがんと関連している[59][60]。ヒト初期胚やがん細胞、感染細胞では、3つ以上の数の娘細胞が生じる異常な分裂が行われることがあり、こうした場合には染色体セットに重大なエラーが引き起こされる[7]。
染色体不分離は、後期の姉妹染色分体分離に失敗した状態である[61]。こうしたケースでは、分離されなかった姉妹染色分体の双方を一方の娘細胞が受け取り、もう一方の娘細胞は1つも受け取らないこととなる。その結果、前者の細胞では特定の染色体が3コピー存在するトリソミー と呼ばれる状態となり、後者の細胞では1コピーしか存在しないモノソミーと呼ばれる状態となる。染色体不分離が生じた細胞では、細胞質分裂が完結せず、双方の核が1つの細胞内に保持されて二核細胞が生じる場合がある[62]。
後期遅滞は、後期に1つの染色分体の移動が妨げられた際に生じ[61]、紡錘体の染色体への接着が正しく行われなかったことが原因となっている可能性がある。移動が遅滞した染色分体は双方の核から排除されて失われる。そのため、娘細胞の一方はその染色体に関してモノソミーとなる。
核内倍加は、染色体の複製は行われるもののその後の細胞分裂が行われないことで生じる。その結果として多倍体細胞が形成されたり、染色体が繰り返し複製された場合には多糸染色体が生じたりする[61][63]。核内倍加は多くの生物種で観察され、正常な発生過程の一部となっているようである[63]。核内分裂(endomitosis)は核内倍加の一形態であり、染色体はS期に複製され、有糸分裂は開始されるものの早期に終結する。そのため複製された染色体は2つの娘核へ分配されるのではなく、もともとの核内に保持される[53][64]。細胞は再びG1期、そしてS期に移行し、再び染色体が複製される[64]。この過程は複数回行われる場合があり、染色体複製と核内分裂が起こるたびに染色体数は増加する。血小板を生み出す巨核球は、細胞分化時にこうした核内分裂を行う[65][66]。
診断マーカー
組織病理学においては、さまざまな種類の組織試料において分裂指数が診断のためや腫瘍のaggressivenessを特定するための重要なパラメーターとなる。一例として、乳がんの分類においては核分裂像の計数が一般的に行われている[67]。計数はその活性が最も高い領域で行う必要があるが、非常に活発に分裂を行っている腫瘍ではこうした領域を目で見て特定することは困難である[68]。計数の再現性と精度の改善のために、ディープラーニングベースのアルゴリズムによる自動画像解析法が提唱されている[69]。しかしながら、こうしたアルゴリズムが通常の診断において利用可能となるにはさらなる研究が必要である。
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がん細胞における正常・異常な形態の有糸分裂。A: 正常な分裂、B: クロマチンブリッジ、C: 多極型の分裂、D: 環状の分裂、E: 分散型の分裂、F: 非対称な分裂、G: 遅延型の分裂、H: 小核。H&E染色。
関連する細胞過程
細胞の球形化
動物組織では、大部分の細胞は有糸分裂時にほぼ球形となる[70][71][72]。上皮や表皮では、球形化過程の効率性は紡錘体の整列の正しさ、そしてその後の娘細胞の配置の正しさと相関している[71][72][73][74]。さらに、球形化が強く抑制された場合には、紡錘体の欠陥、主に紡錘体極の分裂や、染色体の捕捉の失敗が生じる可能性があることが明らかにされている[75]。そのため、有糸分裂時の細胞球形化は、有糸分裂の正確性を保証する保護的役割を果たしていると考えられている[74][76]。
球形化のための力は、F-アクチンとミオシン(アクトミオシン)が均質な収縮性の細胞皮質へと再編成されることでもたらされ、細胞周縁部は硬くなるとともに[76][77][78]、細胞内の静水圧の形成(最大で間期の10倍)が促進される[79][80][81]。細胞内圧の形成は特に組織内のような拘束された条件下で特に重要であり、こうした状況では球形化を行うために周囲の細胞や細胞外マトリックスに対して外向きの力を生み出す必要がある。圧力の形成はフォルミンを介したF-アクチンの核形成や[81]、Rhoキナーゼ(ROCK)を介したミオシンIIの収縮に依存しており[77][79][81]、どちらもCDK1活性を介したRhoAやECT2シグナル伝達経路による上流支配を受けている[77][78][81]。こうした有糸分裂における重要性のため、分裂期の細胞皮質の分子的構成要素やダイナミクスは活発な研究領域となっている。
有糸分裂時の組換え
分裂によって増殖している細胞が細胞周期のG1期にX線照射を受けた場合には、主に相同染色体間の組換えによるDNA損傷の組換え修復が行われる[82]。G2期に損傷を受けた場合には、姉妹染色分体間の組換え(姉妹染色分体交換)による優先的修復が行われる[82]。組換えに従事する酵素をコードする遺伝子に変異が生じた場合、さまざまなDNA損傷因子に対する細胞死感受性が増大する[83][84][85]。
進化
真核生物の有糸分裂において重要な分子(アクチン、チューブリンなど)は全て原核生物にもホモログが存在する。有糸分裂は真核生物に普遍的にみられる性質であるため、真核生物の系統樹の基部で生じたものと考えられる。有糸分裂は減数分裂よりも複雑性が低いため、減数分裂は有糸分裂の後に生じたものである可能性がある[86]。しかしながら、減数分裂が関与する有性生殖もまた真核生物の原始的特徴の1つである[87]。そのため、減数分裂と有糸分裂は原核生物の祖先的過程から並行して進化したものである可能性もある。
細菌の細胞分裂においてはDNA複製後に2つの環状染色体が細胞膜の特定の領域に接着するのに対し、真核生物の有糸分裂では多数の線状の染色体が存在し、これらのキネトコアが紡錘体の微小管に接着することが特徴である。有糸分裂の形式との関係においては、 closed intranuclear pleuromitosisが細菌の分裂との類似性がより高い形式であり、最も原始的な形式であると考えられている[9]。
ギャラリー
分裂中の細胞は、蛍光標識抗体や蛍光色素を用いて染色することで顕微鏡下での観察が可能である。
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前期の序盤: 現時点では完全な状態の核の周囲に、緑色で線状に示されている極微小管がマトリックスを形成している。青色で示されている染色体は凝縮を開始している。赤い点はセントロメアである。
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前中期の序盤: 核膜が解体されたばかりであり、凝縮中のセントロメア上に組み立てられたキネトコアと微小管との相互作用が可能となる。
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中期: 中心体が細胞の両極に移動し、紡錘体が確立される。染色体は中期板上に集合する。
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後期: キネトコア微小管が染色体を引き離し、極微小管は伸長して染色体セットをさらに細胞の両側に引き離すように押す。染色体の凝縮は最大レベルに達する。
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終期: 核膜の再形成など、前期や前中期に生じたイベントの逆の過程が生じ、有糸分裂が完了する。
出典
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関連項目
外部リンク
- A Flash animation comparing Mitosis and Meiosis
- Khan Academy, lecture
- Studying Mitosis in Cultured Mammalian Cells
- General K-12 classroom resources for Mitosis
- The Cell-Cycle Ontology
- WormWeb.org: Interactive Visualization of the C. elegans Cell Lineage – Visualize the entire cell lineage tree and all of the cell divisions of the nematode C. elegans
有糸分裂
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/05 16:26 UTC 版)
S期の始まりから有糸分裂の終盤まで、ジェミニンは複製因子Cdt1を阻害し、複製開始前複合体(英語版)の組み立てを防いでいる。G1期の初期には、後期促進複合体はユビキチン化を介してジェミニンの分解を開始する。RNAiによるジェミニンの阻害は、多くのがん細胞株において次の細胞周期でのDNA複製の障害を引き起こすが、そうした細胞周期の欠陥は初代培養細胞や不死化細胞株では観察されない(Cdt1のレベルはこれらの細胞でも低下している)。 このように、ジェミニンは各細胞周期に1度だけ複製が起こるよう保証する重要な因子である。
※この「有糸分裂」の解説は、「ジェミニン」の解説の一部です。
「有糸分裂」を含む「ジェミニン」の記事については、「ジェミニン」の概要を参照ください。
「有糸分裂」の例文・使い方・用例・文例
- これらのイラストは有糸分裂の進行を示している。
- 後期として知られる有糸分裂の段階に関連するまたはそれの
- 有糸分裂の、有糸分裂に関する、または、有糸分裂を経た
- 有糸分裂または減数分裂の間の細胞の核の分割の、あるいは、有糸分裂または減数分裂の間の細胞の核の分割に関する
- 有糸分裂の間スピンドルが付属する染色体の濃密な特殊化した部分に関係する
- 有糸分裂中に染色体が分裂する、2つの同一ストランドのうちの1つ
- 有糸分裂の間、中心体を囲む放射線上の繊維を持つ細胞の細胞質に形成される星状構造
- 染色体は有糸分裂と減数分裂において紡錘体によって分配される
- 染色体が核紡錘体の反対端に近づく減数分裂か有糸分裂の段階
- 有糸分裂または減数分裂の間の細胞の核分裂からなる有機プロセス
- 有糸分裂の第2段階
- 減数分裂もしくは有糸分裂の段階
- 有糸分裂の最初の段階
- 有糸分裂の最終段階
- 有糸分裂を引き起こす因子
- 有糸分裂という細胞分裂
有糸分裂と同じ種類の言葉
- 有糸分裂のページへのリンク
