連鎖反応 (核分裂)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/11/15 18:56 UTC 版)

連鎖反応(れんさはんのう、nuclear chain reaction)とは、核分裂性物質が中性子を吸収することで核分裂反応を起こすと同時に新たな中性子が飛び出し、さらに別の核分裂反応を引き起こして[1]、単位時間当たりの反応回数が一定もしくは指数関数的に増加する状態である。
十分に多量(臨界量以上)の核分裂性物質の中で、制御されない状態の下で連鎖反応が起きると、エネルギーが爆発的に放出される。これが核兵器の動作原理になっている。連鎖反応は十分に制御された状態でエネルギー源としても用いられる(原子炉など)。
いくつかの核分裂反応で生じる中性子数とエネルギーの平均値は以下の通りである。
この反応式の右辺では、我々が利用することができず検出も困難なニュートリノの運動エネルギー分約 10 MeV は除かれている。
重い原子核が核分裂を起こすと、2個またはそれ以上の核分裂片が作られる。これらの分裂片は元の重い原子核よりも質量の小さな原子核からなる。分裂片の質量の和は、反応で生じるニュートリノのエネルギーを計算に入れたとしても元の原子核の質量に正確には一致しない。この質量の差は、反応で放出される中性子の質量と運動エネルギー及び反応前後の原子核の結合エネルギーの差に相当する。核分裂で放出された中性子は高速で飛び去り、中性子捕獲と呼ばれる過程によって別の重い原子核と衝突してさらに核分裂を起こす場合もある。しかし、原子核は極小なため、この核分裂が起こる確率は極めて低いと言える[要出典]。このような過程が連鎖反応の元になっている。
平均世代時間
核分裂によって中性子が放出されてから別の原子核に捕獲されるまでの平均的時間を平均世代時間 (average generation time; mean generation time) と呼ぶ。核分裂で放出された中性子は、約10cm というオーダー(臨界量の核分裂性物質が持つ典型的サイズ)の非常に短い距離しか移動しない。中性子の平均速度は約 10,000 km/s 前後の値をとる。よって核分裂の反応の時間尺度は 10ns のオーダーである。この時間の長さをシェイク(shake)という単位で呼ぶ場合がある。
中性子増倍率
実効中性子増倍率 (effective neutron multiplication factor) k は新たな核分裂を引き起こす中性子の数の平均値である。核分裂で放出された中性子の中には、次の核分裂を起こすことができなかったり、原子核と衝突せずに系から出て行くものもある。核分裂が起きている2つの物質を合わせた場合の全体の k の値は、常に個々の物質の k よりも大きくなる。場合によっては、個々の物質の k の和が合体後の物質の k に等しくなることもある。これらの違いの程度は、核分裂性物質同士の配置だけでなく、両者の速度や距離にも依存する。核分裂性物質でできた「弾丸」で、弾丸と同じ形の窪みを持つ核分裂性物質の標的を撃つような場合や、核分裂性物質に開けた小さな穴の中を核分裂性物質からなる小さな球が通過するような場合には、特に k の値は大きくなる。
核分裂の連鎖反応は k の値によって次の場合に分けられる。
- k < 1(臨界量未満): 1回の核分裂から始まったとすると、その後の核分裂回数の合計は平均で 1/(1 − k) となる。連鎖反応は始まったとしても急速に停止する。
- k = 1(臨界量): 1個の自由中性子から始まったとすると、これから生じる中性子の数の期待値はどの時刻でも 1 である。時間とともに、開始した連鎖反応が停止する確率は減っていき、これを補償するように、複数個の中性子が存在する確率が増加する。
- k > 1(臨界量を超過): 1個の自由中性子から始まったとすると、中性子が次の核分裂を起こさない確率もしくはいったん開始した連鎖反応が停止する確率が無視できない値で存在する。しかし、いったん自由中性子の数が数個以上になると、非常に大きな確率でこの数は指数関数的に増える。系の中に存在する中性子の数(すなわち核分裂が自発的に起こる確率)と反応が始まって以来の核分裂回数の総計は、ともに