非ステロイド性抗炎症薬 禁忌

非ステロイド性抗炎症薬

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/17 13:01 UTC 版)

禁忌

分娩直前(妊娠末期)では、胎児動脈管の閉鎖を引き起こすため、絶対に服用してはならない。また、手や指で部位を塗布した場合、犬や猫などの愛玩動物が、何らかの経緯で中毒を起こし、健康を害したり死亡させる事例が確認されている。

副作用

大量に消費されているため、副作用も多く出現する。最も多いのは胃腸炎で、軽い胃部不快感から、治療に長期間を要する、重篤な出血を伴う潰瘍までが起こりうる。胃潰瘍は通常、非ステロイド性抗炎症薬を中止するとすぐに治癒し始める[10]

  • 気管支喘息(アスピリン喘息)
  • 肝障害
  • 腎障害(特に降圧剤との併用には注意[11]

NSAIDsの注意点としては、消化管潰瘍の副作用、喘息患者に合併するアスピリン喘息、また各種アレルギー反応、腎障害というものがあげられる。ニューキノロン薬との併用、妊婦への投与は製剤を選べば副作用回避が可能ともいわれているが、用いない方が無難とされている。 イブプロフェンピコノール 他の副作用としては骨折の治癒を阻害する、心血管系では血小板機能を阻害し出血を止まりにくくする。また、腎機能障害や、腎のプロスタグランジンを阻害し、血圧調整機能を障害する。以上の理由で、慢性心疾患、腎機能障害、血圧異常の患者にNSAIDsは慎重に使用する必要がある。NSAIDsは、身体の障害によって産生されるプロスタグランジンの合成を阻害することにより効果を発揮するが、プロスタグランジンは、炎症と疼痛をもたらすだけではなく、胃内膜などの再生に関わるなど、必要な役割もある。

胃腸障害

ロキソプロフェンナトリウムによる急性胃潰瘍

NSAIDsの胃腸障害作用は用量依存性であり、多くの場合致命的となる胃穿孔や、上部消化管出血を起こす。概ねNSAIDsを処方された患者の10〜20 %に消化器症状が現れ、アメリカでは年間に10万人以上が入院し、1万6500人が死亡している。また、薬剤が原因の救急患者の43 %をNSAIDsが占めている。このような事態の多くは本当は避けられたとする研究結果もある。ある研究によると、NSAIDsを処方された患者の42 %は、実際は不必要な処方であった[12]

毎年アメリカ人の1万6500人が死亡というのは1999年の統計を米国人口に当てはめて推計したもので、後に過大評価との指摘もあり、2004年には1990年代の死亡率データから3200人としているが、実際にはこの推計は異なる時期の異なる患者集団を元にしており、より適切な臨床試験がなければ正確な評価は困難である[7]

腎障害

NSAIDsによるプロスタグランジン産生抑制
→腎血管収縮による腎血流量減少+ヘンレループでのナトリウム再吸収増加+抗利尿ホルモン作用亢進 →尿量減少
となり、腎血流量低下と尿量減少から腎機能低下例では腎不全に至ることがある[13]

RAS系阻害薬と利尿薬を併用していると腎血流量は低下する。この2剤に加え3剤目にNSAIDsを服用すると高率に急性腎障害を発症するため注意を要する。これら三剤の併用は組み合わせは「Triple Whammy(三段攻撃)」[14]と呼ばれており、避けるようにする[15][16][17][18]

連用障害

連用した場合は薬物乱用頭痛を引き起こす。英国国立医療技術評価機構は、アセトアミノフェンアスピリンNSAIDsを単独または併用の服用が月に15日以上ある状態が3ヶ月以上続く場合、薬物乱用性頭痛の可能性が疑われるとしている[19]

NSAIDsの分類

NSAIDsはさまざまな種類が知られている。NSAIDsの選択において重要なのは、その使い分けが治療に本質的な差を生むことはなく、副作用のコントロールのためと考えて行うことである。患者のQOLを考慮した技術にすぎない。

酸性NSAIDs

サリチル酸
アスピリンエテンザミドジフルニサルが含まれる。不可逆的な血小板抑制作用がある。アスピリン特有の合併症にはアスピリン喘息ライ症候群がある。喘息患者の10 %にアスピリン過敏性があり、アスピリン過敏性がある患者は他のNSAIDsにも過敏である。
フェナム酸
メフェナム酸
フェニル酢酸
ジクロフェナクスリンダクインドメタシンフェルビナクエトドラクトルメチンなど。坐剤があるため即効性の高いジクロフェナクやインドメタシン(塗り薬や湿布薬としても)がある。
プロピオン酸
静注可能なフルルビプロフェンや強力な鎮痛作用を持つロキソプロフェンイブプロフェンナプロキセンなどがこれに含まれる。強力な鎮痛作用に加えて白血球抑制作用も知られ、その影響から消化管への副作用もアスピリンよりは少ない。イブプロフェンピコノールのような外用剤もある。
アントラニル酸
ウフェナマートが外用剤として用いられる。
COX-2阻害薬(コキシブ)
オキシカム
シクロオキシゲナーゼの非選択的阻害剤で、ピロキシカムおよびそのプロドラッグであるアンピロキシカムテノキシカムドロキシカムロルノキシカムメロキシカムといった薬が知られている。ピロキシカム、アンピロキシカムは血中半減期が他のNSAIDsに比べて非常に長いため1日1回投与で十分となる(多くは1日3回投与)。メロキシカムのみCOX-2を選択的に阻害する。

塩基性NSAIDs

2017年4月現在、日本で薬事承認されている塩基性NSAIDsはチアラミドのみである[20]。鎮痛効果が低いがアスピリン喘息の患者にも投与可能ともいわれている。しかし喘息を誘発したという報告もあり用いない方がよいとされている。

その他

ピリン系ピラゾロン系)
厳密にはNSAIDsではない。スルピリンイソプロピルアンチピリン総合感冒薬頭痛薬の一部製品に配合)などが含まれる。解熱鎮痛作用はあるが消炎作用はない。
非ピリン系(アニリン系)
厳密にはNSAIDsではない。アセトアミノフェンが含まれる。解熱鎮痛作用はあるが消炎作用はない。ライ症候群予防のため小児ではよく用いられる。日本では小児用バファリン、世界的にはタイレノール(日本では2000年に市販開始)が有名。日本国内では、ノーシンアラクス)、カロナールあゆみ製薬)などが有名。処方箋医薬品としてはアセトアミノフェン単剤として「カロナール」をあゆみ製薬が製造販売している[注 4]
総合感冒薬
NSAIDsの他に抗ヒスタミン薬カフェインが含まれている。PL顆粒などが含まれる。
その他
ナブメトン

COX-2

前述のようにCOX-1/2をともに阻害すると消化管の障害が出現するため、COX-2選択性の高い薬剤が開発された。セレコキシブが選択的COX-2阻害薬であり、エトドラクやメロキシカムやナブメトンはCOX-2選択性が高いがCOX-1にも作用すると考えられている。血小板凝集抑制作用のあるプロスタサイクリンがCOX-2阻害により減り、相対的にトロンボキサンA2の働きが強まり、血栓傾向が高まり心血管事故が増えることがわかり、全米で3万件近い訴訟が起こるなど一大問題となった。メルクが開発したロフェコキシブ(商品名: Vioxx)は自主回収になった。

COX-3

2002年にシモンズらがアセトアミノフェン(パラセタモール、商品名 タイレノールなど多数)に関連する新たなアイソザイムを発見したと発表した。COX-3は、主に中枢神経系に存在するCOX-1の変種(スプライシングバリアント)で、アセトアミノフェンなどの鎮痛消炎剤によって阻害されるとされ、チャンドラセクハランらにより構造が決定、発表された。

ただしその後、COX-3の存在を疑問視する研究結果も発表されている[21]


注釈

  1. ^ アメリカ英語発音: [nɑːn stɪˌrɔɪdəl ˌæntaɪɪnˈflæməˌtɔri drʌg] ナ(ー)ンスティイドォー・アンタイインフ(ー)マトゥリ・ドゥ
  2. ^ 英語発音: [ˈɛnˌsɛd] ヌセ(ッ)ドゥ、[ˈɛnˌseɪd] ヌセイドゥ
  3. ^ Rofecoxib. 日本未承認。
  4. ^ 「カロナール」は2024年1月に第一三共ヘルスケア商標使用を許諾し、同社から処方箋医薬品の錠剤品と同一処方である一般用医薬品(第2類医薬品)として「カロナールA」が発売された

出典

  1. ^ a b c d e non-steroidal anti-inflammatory drug”. www.Lexico.com. Oxford English Dictionary (2022年). 2022年2月4日閲覧。
  2. ^ a b Non-steroidal anti-inflammatory drugs, 英国国民医薬品集 (BNF), 英国国立医療技術評価機構 (NICE), (2022), https://BNF.NICE.org.uk/treatment-summary/non-steroidal-anti-inflammatory-drugs.html 2022年2月4日閲覧。 
  3. ^ a b “Studies of local anesthetic action on natural spike activity in the aortic nerve of cats”. Anesthesiology (Ovid Technologies (Wolters Kluwer Health)) 66 (2): 210–3. (February 1987). doi:10.1097/00000542-198702000-00016. PMID 3813081. "Non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) are the competitive inhibitors of cyclooxygenase (COX), the enzyme which mediates the bioconversion of arachidonic acid to inflammatory prostaglandins (PGs)." 
  4. ^ NSAID (Cambridge Dictionaries Online)
  5. ^ NSAID (Collins "American English Dictionary")
  6. ^ 川口善治「腰痛徹底対策 ぎっくり腰」、『きょうの健康』2017年11月号、NHK出版、 60頁。
  7. ^ a b Krueger, Courtney (2013). “Ask the Expert: Do NSAIDs Cause More Deaths Than Opioids?”. Pain Treatments 13 (10). https://www.practicalpainmanagement.com/treatments/pharmacological/opioids/ask-expert-do-nsaids-cause-more-deaths-opioids 2019年6月8日閲覧。. 
  8. ^ "Up to 140,000 heart attacks linked to Vioxx". New Scientist. 25 January 2005. 2023年12月17日閲覧
  9. ^ "Origins and impact of the term NSAID" (Buer 2014)Inflammopharmacology, vol. 22, no 5, 2014, p. 263-7. (PMID 25064056, DOI 10.1007/s10787-014-0211-2) オンライン読む(アーカイブ))
  10. ^ Peptic Ulcer” (英語). Harvard Health (2018年12月10日). 2022年8月9日閲覧。
  11. ^ [1]
  12. ^ "Understanding NSAIDs:from aspirin to COX-2";Gray A. Green; Clin.Cornerstone 3(5):50-59, 2001.
  13. ^ J Clin Pharm Ther. 2019 Feb;44(1):49-53.
  14. ^ https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/pds.4866
  15. ^ Nefrologia. 2015;35(2):197-206.
  16. ^ Kidney Int. 2015 Aug;88(2):396-403.
  17. ^ BMJ. 2013 Jan 8;346:e8525.
  18. ^ 薬学雑誌.2019;139(11):1457-62.
  19. ^ CG150 Headaches (Report). 英国国立医療技術評価機構. July 2012. chapt.1.2.7.
  20. ^ "ペントイルなど、4月から薬価収載対象外に テルシガン、テラナス、ジヒデルゴット、ヒデルギンなども対象外に". 日経DI Online. 日経BP. 24 April 2017. 2023年12月17日閲覧
  21. ^ Kis, Bela; Snipes, James A.; Busija, David W. (2005-10). “Acetaminophen and the cyclooxygenase-3 puzzle: sorting out facts, fictions, and uncertainties”. The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 315 (1): 1–7. doi:10.1124/jpet.105.085431. ISSN 0022-3565. PMID 15879007. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15879007. 






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