住民基本台帳ネットワークシステム 住基ネットに対する反対運動の発生から消滅まで

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住民基本台帳ネットワークシステム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/24 10:05 UTC 版)

住基ネットに対する反対運動の発生から消滅まで

住基ネットは既存のインターネットと同一の技術で構成されていながらも、かなりの精度で孤立したコンピュータネットワークとなっているが、導入に前後して、セキュリティプライバシーの懸念から批判的にばかりクローズアップされた。田中康夫長野県知事は「ネットワークへの侵入実験を実施し、侵入可能である」と公表したが、実際に侵入できたのは住基ネットに接続されている庁舎内ネットワークからで当然のことであった。しかし、以後もネガティブな印象が先行し[16][17]、法的に関連する個人情報保護法関連五法が成立するまでは施行を「違法」ととらえ接続しない自治体が発生し、反対運動も起きた。最終的には未接続の自治体も順次接続していき、2015年(平成27年)3月30日に福島県東白川郡矢祭町が住基ネットにまつわるセキュリティ事故はほとんど起きていないことを認め、マイナンバー制度に対応するために接続したのを最後に、全自治体の接続が完了した[18][19]

  • 住民票の写しの取得は頻繁に利用されるようなサービスではなく、全国共通にするシステムを構築するメリットがあるか。住基ネット導入後は全国どこでも住民票の写しを取得できるとされるが、遠隔地から住民票を取得できることがメリットとなり得るか。
    • 住基ネットのメリットは住民票の写しの取得に限定されたものではない。出張や転勤、引っ越しなど、他自治体へ移住・転居をする場合に導入の恩恵がある[10]
  • 住基カードは市町村単位の発行であるため、転居時などに転出元への返還・転入先での新規取得を要した。そのため、住居異動の多い人にとって住基カードは、パスポート運転免許証と違い、一度取得しても移住ごとの更新手続きの必要性があったため、身分証明書としてのメリットが少なかった[20]
    • 総務省はこの批判に応え、2009年(平成21年)1月、一度取得すれば、転出入の際に内容と住所表記を書き換えることによって全国で通用するよう、法令を改める方針を決めた[20]。更に2012年(平成24年)7月9日より、転入届を提出した日の90日以内に所定の窓口に提出し、住所表記を書き換えることで、従前の住基カードを引き続き使用できるようになった。


以下のような事件(主に運用面)が起きている。

  • 2002年(平成14年)12月26日、福島県岩代町(現在の二本松市)でバックアップ用の個人情報と住民基本台帳システム稼働用のプログラムの一部が入った磁気テープの盗難事件が発生した。総務省によれば、暗号化された情報を解読・利用するのは不可能であり、個人情報被害は無かった。
  • 2006年(平成18年)10月21日に、東京都足立区が住基ネットの取り扱い窓口業務16種類を、足立区の独自の判断で、民間の人材派遣会社にアウトソーシングさせる予定だったことが判明した。総務省はこの対応に対し「民間委託は想定外だ」とし、厚生労働省 はこの扱いについて足立区に対し説明を求め、検討の段階で民間委託を中止させた[21]
  • 2008年(平成20年)12月京都府京都市在住の当時17歳の女子高生が、住基カードの交付申請書に当時同居していた19歳の姉の名前や生年月日を記入し、写真添付欄に自分の写真を張って、身分証明として顔写真のない保険証で同市東山区役所の窓口に提出することで成り済まして住基カードを取得し、同市祇園クラブで、ホステスとして働いていたことが、翌2009年(平成21年)12月になって判明。京都府警は、この女子高生を有印私文書偽造・同行使などの容疑で逮捕したが、同市では顔写真のない本物の保険証を身分証明証として提出出来る年齢の近い同性の人物が、必要書類を揃えて申請に来た場合、防ぎようが無いとしており、新たな問題点として浮上している。京都市の担当者は、「家族や同居人による不正は想定外で、見分けるのは困難」とコメントしている。総務省は「本人確認を徹底する以外に無い」としており、住基カード作成時に必要となる身分証明を顔写真のある免許証やパスポートに限定して保険証を除外する策は取らないとしている[22][23]
  • 兵庫県加古川市において、同市の環境部の40代運転士と50代主査、現総務部嘱託と元市教委職員ら4人が探偵業者に2011年度と2012年度から6人分の計7件の住民基本台帳に記載された住民情報を探偵業者に漏洩して、現金を受け取っていたことを2013年(平成25年)を明らかになった。警察は地方公務員法違反で捜査を開始し、市は運転士と主査らを懲戒処分する方針を示した[24]

接続反対した自治体とその後

  • 神奈川県横浜市は、将来は段階的に住基ネットに参加することを前提にする市民選択制度をとっていた。しかし、2006年(平成18年)5月10日、住基ネットの総合的な安全性が確認できたとして、2006年(平成18年)7月から全ての住民の本人確認情報を住基ネットに送信する全面参加に移行することを発表した。
  • 兵庫県宝塚市は、2006年(平成18年)4月の市長選で「住基ネット凍結」を主張していた元衆議院議員阪上善秀が当選したことから、同市が住基ネットを切断するのではないかと言う見方があったが、結局、市長当選後も離脱しなかった。
  • 長野県は、当時の知事であった田中康夫が費用対効果や安全性に対して疑問を主張し接続していなかった。その後、知事が村井仁に交替し、2008年(平成20年)1月7日、市町村からの要望などを踏まえ、32の法律に係わる事務処理のうち、5つの法律に係わるものから利用を開始。最終的に利用状況を見ながら事務の利用の拡大を計り、導入された。
  • 2010年(平成22年)1月、愛知県名古屋市の河村たかし市長(当時)が「住基ネットの安全性に対する懸念を理由に、名古屋市を離脱させる意向である」との主張が報じられ、1月19日原口一博総務大臣(当時)に対し、ネット切断を含めた対応を検討中であることを伝えたが、同年2月2日には1年間かけて安全性などを検証・議論し、離脱はしない方針を表明した。
  • 裁判までは起こさなかったが、プライバシー侵害について、神奈川県藤沢市と東京都目黒区個人情報保護審査会では選択制の導入などを求める答申が出された。ただし答申だけで、その後に住基ネットは導入された。
  • 東京都杉並区 は、山田宏区長(当時)が個人情報保護法の成立後に横浜方式の市民選択制度を求めていたが実現しなかったため、法の下の平等に反するなどとし、2004年 (平成16年)8月24日 に国および東京都に対して訴えを起こした。2008年(平成20年)7月8日、区が国に求めていた「区民選択方式」の上告が最高裁判所 で却下され、区の全面敗訴が確定した。これを受けて、杉並区は住基ネットへの全面参加を明らかにし、2009年(平成21年)1月5日から業務を開始した。これにより、東京都国立市福島県東白川郡矢祭町の2自治体のみが不参加となった。
  • 東京都国立市が接続していないことに起因する市の経費支出について、国立市民が市長に対する住民訴訟を起こしており[25]2011年(平成23年)2月4日、東京地裁は、住基ネットからの離脱は違法と指摘した上で、一部経費の支出差し止めと支出の一部を市に返還することを市長に命じた[26]。2012年(平成24年)2月、国立市が約9年間ぶりに再接続した。これにより、不参加の自治体は矢祭町のみとなった[27][28]
  • 2015年(平成27年)3月30日、住基ネットに13年間で唯一未接続だった矢祭町は「セキュリティに関する不安が完全に払拭されたわけではないが、住基ネットにまつわるセキュリティ事故はほとんど起きていない。住基ネットは、マイナンバー制度施行後に町が行う法定受託事務の前提になる。接続しないという選択肢はなかった」と住基ネットへ接続。これをもって全ての自治体が住基ネットワークに接続することになった[18][29]

注釈

  1. ^ 加給年金額、加算額、加給金など加給年金額などを受け取る人(受給権者)の「生計維持確認届」と「障害状態確認届」については従来通り、はがきなどの返信方式で行う。
  2. ^ 住民基本台帳法第30条の7第3項の規定に基づき社会保険庁が行う。
  3. ^ 年金受給権の現況を誕生月の末日までに社会保険庁が把握できない、または各種の現況届に記入漏れがあった場合は、年金の支給が一時止まることがある。
  4. ^ また「年金受給権者現況届」(現況届)が送付され返信しなければならないのは次のような場合:住基ネットに加入していない市区町村へ転出、他の市区町村に転入したが転入手続きを行っていない、外国へ転出したなど。

出典

  1. ^ マイナンバーと住基ネットの関係って何?”. マイナンバーの基礎知識|マネーフォワード クラウドマイナンバー (2015年9月11日). 2021年3月21日閲覧。
  2. ^ 千葉市. “住民基本台帳ネットワークシステム”. 千葉市. 2020年5月19日閲覧。
  3. ^ 神奈川県. “住民基本台帳ネットワークシステム”. 神奈川県. 2020年5月19日閲覧。
  4. ^ 埼玉県. “住民基本台帳ネットワークシステム”. 埼玉県. 2020年5月19日閲覧。
  5. ^ すぎなみ区役所. “住民基本台帳ネットワークシステムとは”. 杉並区公式ホームページ. 2020年5月19日閲覧。
  6. ^ 住基ネット 習志野市ホームページ”. www.city.narashino.lg.jp. 2020年5月19日閲覧。
  7. ^ 住民基本台帳ネットワークシステム | 高崎市”. www.city.takasaki.gunma.jp. 2020年5月19日閲覧。
  8. ^ 住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット) - 茅野市ホームページ”. www.city.chino.lg.jp. 2020年5月19日閲覧。
  9. ^ 総務省|住基ネット|住基カードについて知りたいのですが。”. 総務省. 2020年5月19日閲覧。
  10. ^ a b c マイナンバー制度の本質と今後の展望 - Fujitsu 富士通総研経済研究所 榎並利博
  11. ^ 「住基ネット」って何?”. 総務省. 2014年9月8日閲覧。
  12. ^ a b c その他のFAQ”. 総務省. 2014年9月8日閲覧。
  13. ^ a b c d e f g h 「住民基本台帳ネットワークシステム」の概要”. 住民基本台帳ネットワークシステム全国センター. 2014年9月8日閲覧。
  14. ^ JLIS 住民基本台帳ネットワークシステム”. 地方公共団体情報システム機構. 2020年6月18日閲覧。
  15. ^ 電子政府・電子自治体における住基ネットの役割
  16. ^ 佐々木俊尚 (2004年1月21日). “「住基ネット侵入実験」をめぐる総務省と長野県の知られざる暗闘”. INTERNET Watch. 2014年9月8日閲覧。
  17. ^ 日経クロステック(xTECH). “住基カードには,いったいどんなメリットがあるのか”. 日経クロステック(xTECH). 2020年5月19日閲覧。
  18. ^ a b 清嶋 直樹 (2015年5月11日). “マイナンバーで遂に住基ネット接続、国に反旗を翻した東北の町の13年”. ITpro (日経BP). https://xtech.nikkei.com/it/atcl/watcher/14/334361/050100262/ 2015年5月14日閲覧。 
  19. ^ “住基ネット、最後の未接続自治体が30日接続へ”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2015年3月20日). http://www.yomiuri.co.jp/national/20150320-OYT1T50015.html 2015年3月20日閲覧。 
  20. ^ a b 『住基カード、転居後もそのまま 総務省、法改正へ』 2009年1月19日 アサヒコム
  21. ^ 読売新聞2006.10.25 住基ネット窓口の民間委託、足立区が来年度実施を断念
  22. ^ 不正住基カード:女子高生、姉名義を入手 祇園でホステス 毎日新聞 2009年12月10日
  23. ^ 『姉装い住基カード、祇園のホステスに…女子高生逮捕』読売新聞社、2009年12月10日。
  24. ^ 兵庫県加古川市:職員が探偵業者に住民情報漏えい 処分へ 毎日新聞 2013年5月28日
  25. ^ 「住基ネット離脱 是非再燃――「共通番号制度」めぐり」(日本語)『朝日新聞』2011年1月27日付夕刊、第3版、第15面
  26. ^ 「国立市の住基ネット離脱に違法判決 東京地裁」(日本語) asahi.com 2011年2月5日。
  27. ^ 住民基本台帳カード(住基カード)の発行、平成24年2月1日からサービス開始をします 国立市 2012年(平成24年)1月27日
  28. ^ 2012年2月1日 接続再開 住基ネットを再接続 9年間にわたり離脱の東京・国立市 産経ニュース 2012年2月1日
  29. ^ “住基ネット、最後の未接続自治体が30日接続へ”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2015年3月20日). http://www.yomiuri.co.jp/national/20150320-OYT1T50015.html 2015年3月20日閲覧。 





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