棒銀
矢倉棒銀
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/21 15:29 UTC 版)
矢倉模様から後手が単純棒銀で速攻を目指すのもあり、谷川浩司などが得意としていた。△6五歩の突き捨てで角筋を絡め攻める。現在では受け方が確立しているが、定跡に明るくない級位者の将棋では相矢倉と共によく見られる。。 初手から▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩の矢倉模様の出だしに対し、5手目▲6六歩が早くも岐路。古くは5手目は▲7七銀が主流だったが、中央が薄くなる面があり、後手の矢倉中飛車など中央から動く指し方に対しては損と見て▲6六歩も指されるようになったので、それを逆用する指し方がある。 ▲6六歩以下△8五歩▲7七銀と飛車先を決めてから△7二銀(第4-1a図)と原始棒銀にするのがその指し方で、相矢倉の出だしであるため、急戦矢倉の一分野の扱いを受けており、後手居玉棒銀と呼ばれることも多い。 △ なし ▲ なし第4-1a図 △7二銀まで △ なし ▲ なし第4-1b図 △8六歩まで 湯川博士『奇襲大全』(2016年、マイナビ将棋文庫 ISBN:978-4-8399-5787-2)によると、この棒銀戦術は1980年に連盟静岡支部新年会で国持英規があみだした原始棒銀を指導に来ていた青野照市にみせたところ、青野はこんな戦法はだめだとしたが、少し駒を動かすと考えこんでしまったものであるという。その後同年5月のテレビ東京早指し将棋選手権で後手番をもって採用したもので、その時の相手は谷川浩司であった。局面は第4-1b図のように進み、以下▲3三角成△同桂▲8六歩で 8六同銀は▲8三歩から歩の連打で▲6六角があるので、後手△2七歩としておき、▲同飛に△8六銀と進む。以下▲同銀△同飛▲8七銀△8二飛▲8六歩に△2六歩▲同飛△4四角▲7七角△2六角以下、先手のミスもあって後手が快勝している。 △ なし ▲ なし第4-1c図 △6四歩まで △ 歩 ▲ 歩第4-1d図 ▲5八飛まで 受け方の手順は、第4-1a図以下▲7八金△8三銀▲7九角△8四銀▲6八角△6四歩(第4-1c図)。先手は角を転換して飛車先を数の受けで受けるが、後手は6筋の歩を突いていく。ここで▲2六歩などと攻め合いにいくと、以下△6五歩▲同歩△9五銀で、▲9六歩と追い返そうとしても△8六歩▲同歩△同銀▲同銀△9九角成がある。 先手の対処法としてはこの場合、第4-1c図以下、先手は▲5六歩と突き、△6五歩▲同歩△9五銀には▲5五歩と突き出して△同角の時に▲5八飛(第4-1d図)と中央を制して受ける。ただしこれでも後手棒銀はかまわず△8六歩▲同歩△同銀と突進し、以下▲5五飛△7七銀不成▲同桂△8九飛成で、確実に先手も受けきるには難がある。 △持ち駒 なし ▲持ち駒 なし第4-2a図 ▲1五歩まで △持ち駒 なし ▲持ち駒 歩第4-2b図 ▲1八飛まで △持ち駒 なし ▲持ち駒 なし第4-2c図 ▲3五歩まで 矢倉戦法/相矢倉においても、棒銀は非常に重要な位置を占める。 通常の矢倉での棒銀では▲4八 - ▲3七 - ▲2六と進めるのが普通(第4-2a図)。玉側の端歩は玉の退路を広げるのに非常に重要であるが、ここを安易に突くと矢倉棒銀の第一の狙いである端攻めからの棒銀速攻の餌食となる。突き合ってしまうと、第4-1a図から▲1五歩△同歩▲同銀△同香▲同香△1三歩▲1七香△1二銀▲1八飛と強襲を受け、敗勢となってしまう(以下△2四歩▲1三香成といった展開。第4-2b図)。 また棒銀側はは第4-2c図のような早繰り銀の要領で5七にいた銀を4六に繰り出して▲3五歩とし、△同歩▲同銀~▲2六銀~▲1五歩、を狙う順がある。このため「矢倉囲いに端歩を突くな」という格言があるほどで、▲3七(△7三)に桂馬が跳ねる、角が来るなどで棒銀が出来なくなってからでないと通常は端歩を突けない。またそのため、相手に端を突き越されることが多い。 △ なし ▲ なし第4-3図 ▲9六歩まで 但し、第4-3図のようなケースもある。これは1998年4月の王座戦予選、先手有吉道夫×後手深浦康市戦で、先手の矢倉加藤流に対し後手が△5三銀型で守勢を取ったところ。後手は先手の棒銀からの端攻めを警戒して1筋の端歩を受けていない。一方で、先手は相手の角が7三にきたので9筋の端歩を受けた。 以下△6四銀▲4六銀△7五歩▲同歩△同銀▲7六歩△8四銀(第4-4図)と機敏に棒銀に組み替える。後手はすでに攻撃態勢が整っているが、先手は桂馬を跳ねておらず、1九の香車が角筋から避けるなど、攻撃体制に手数が多く掛かり出遅れている。 △ 歩 ▲ なし第4-4図 △8四銀まで 第4-4図以下、攻め合いを目指して▲3七桂だと、以下△9五歩▲同歩△同銀▲同香△同香▲9七歩(第4-5図)。途中の△9五同銀が攻めを繋げる有名な手筋。香車を残すほうが端攻が続く。△9五同香だと一歩を持つ代わりに香車が宙に浮き、後続の攻めが無い。盤面の状況によっては同香の場合も無いわけではない。 △ 香歩二 ▲ 銀第4-5図 ▲9七歩まで 以下、持ち駒の香を9筋(△9一または△9三など)に投入する、飛車を9筋に回す、角を6四に移動させる、などで9七の地点には最大で4枚の駒が投入できるため、仮に▲9八銀と打っても受けきれず、9筋は突破される。 △持ち駒 なし ▲持ち駒 なし第4-6a 図 △4二銀まで △持ち駒 桂歩4 ▲持ち駒 なし第4-6b 図 ▲3九香まで この他、第4-6a図の局面も昔からある定跡形で、2011年の順位戦C級1組先手村中秀史後手牧野光則戦。先手が早くに▲3七桂としているので後手は△1四歩としているが、ここから先手が▲3八銀と繰り出し、以下△3三銀▲2七銀△1一玉▲2六銀△2二銀右▲1五歩△同歩▲同銀△1四歩▲2六銀△9四歩▲2四歩△同銀▲2五桂△5三角▲3五歩△同歩▲1三歩△同歩▲1三歩△同香▲4五歩△同歩▲1三桂成△同桂▲3九香(第4-6b図)と先手が棒銀にきりかえて猛攻する手段がある。図から△3六歩に▲1四香△1二歩▲3六香△3四歩▲2五歩△3三銀引▲3五歩として先手が快勝している。 このように、棒銀には特有の端攻め攻撃が生じるので、棒銀側対棒銀側双方、その局面局面で駒組から陣形等、その都度様々な駆け引きが生じる。 第4-7a図は後手対棒銀側の△6四角ののぞきに棒銀側▲4六角で対抗したもの。この場合では△4六角と取ってしまって攻撃を緩和する策もあるので、▲6五歩と角を追ってから▲2六銀と進める場合もある。また第4-7b図のように ▲1七香として、▲1八飛から▲2六銀~▲1五歩をみる手段もある。この場合後手陣としては角の利きを確保して▲1八飛のときに△3七角成▲同桂△2七銀~△3六銀成などの手段を狙うなどの対処法がある。 第4-7c図は後手△5三銀としたのは▲3五歩△同歩▲同角を警戒したもの(それでも▲3五歩△同歩▲同角には△4五歩からの反撃が利く)。第4-7c図から第4-7d図なると後手陣の角の効きがないので▲1八飛が実現している。この先手棒銀側の狙いは▲2六銀~▲1五歩△同歩▲同銀といった端突破の他、△2二銀と悪形にさせるなどがあるが、後手側からも△7三角に構え▲1五歩△同歩▲同香△1三歩▲同香不成に△同桂で、▲同角成なら△2二金や、放置しておくと△2五桂~△2七香▲3七桂△2八香成などの反撃筋もある。 △持ち駒 なし ▲持ち駒 歩第4-7a図 ▲2六銀まで △持ち駒 なし ▲持ち駒 歩第4-7b図 △7三桂まで △持ち駒 なし ▲持ち駒 歩第4-7c図 △5三銀まで △持ち駒 なし ▲持ち駒 歩第4-7d 図 ▲1八飛まで 矢倉棒銀の第2の狙いは、弱体化を狙って相手守備陣の銀と棒銀側の銀交換や角の総交換がある。持ち駒に角銀を持つと後手矢倉囲いであれば5二や4一に角や銀を打って崩す手筋や3三の地点が開くと▲2五桂から▲3三歩△同桂▲1三桂成などの筋が生じる。但し陣形によって棒銀側も相手からの角銀を使った、特に飛車に対しての反撃を受けるので、注意が必要。 そして、棒銀の繰り出し方もいくつかあり、先手からみて▲1五銀と出る1筋から▲2四歩といく手段、▲3五歩として3筋の歩交換から▲2四歩にいく手段、1歩もって▲2四歩△同歩▲2五歩と継ぎ歩で迫る手段や▲2四歩に△同銀なら▲2五銀と進出する手段などが考えられる。 1筋から迫る棒銀は、端の付き合いがない状態で先手棒銀側が▲1五銀と出て▲2四歩からの交換を迫る指し方で、このとき△1四歩という反発なら▲2四歩とはせずに棒銀側も▲2六銀と引いておけば、前述の端攻めが可能になる。また場合によっては▲2四歩と先に突き捨て、同歩や同銀に▲1五銀と出ていく手段もある。第4-8a図は、後手が△4五歩と4六にいた角を追い払ってから△9二飛と雀指しの攻勢をみせたので、先に▲4五桂△4四銀▲2四歩と仕掛けたもの。以下△同歩▲2三歩△同金▲1五銀~▲2四銀、がその進行例。角交換まで出来れば、相手からの攻撃が緩和され、また相手の矢倉が弱体化する。 3筋からは相手玉が矢倉に入城していない際に▲3五歩といくケースで、△同歩▲同銀と進めたとき△3四歩▲2四歩のとき△3五歩と銀を取ることができないからで、また▲3五歩を放置すれば▲3四歩から相手の金か銀を釣り上げて陣形を崩すことも可能な局面で使用される。第4-8b図がそれで、△同歩▲同銀と進めて総交換を約束させ、敵陣を弱体化させられる。したがって後手も△同歩と取らずに△7五歩などと攻め合いを目指すが、以下▲3四歩△同銀▲3五銀△同銀▲同角もしくは▲3五銀に△4五銀▲6八角から▲2四歩△同歩▲2二歩△同玉▲2三歩△3一玉▲2四銀△3四銀が進行例。 この局面で3筋から進めるのは、玉が矢倉に入城していない状態で▲1五銀からの場合、相手が△2二銀とする場合もあるからで、こうされたときは棒銀側は▲2四歩△同歩▲同角と角交換を迫る指し方もある。このとき通常後手側は交換に応じるよりも△3三桂と桂馬を跳ねて防ぐことが多い(第4-8c図)。 △持ち駒 なし ▲持ち駒 歩第4-8a 図 ▲2四歩まで △持ち駒 なし ▲持ち駒 なし第4-8b 図 ▲3五歩まで △持ち駒 歩 ▲持ち駒 歩第4-8c 図 △3三桂まで こうして棒銀はその攻め手順によって3筋の歩交換が生じるケースもあるので、先手なら▲3五歩△同歩▲同銀△3四歩▲2六銀と収まれば、そこから▲3七銀 - ▲3六銀と繰り替えることも可能ではある。しかしながら通常の▲3七銀型で▲3五歩△同歩▲同角から▲3六銀とする順に比べて手損であり、また相手方も素直には応じず、▲3五歩の瞬間に反撃する順も十分に考えられるので注意が必要。 第4-8d図から第4-8e図は田中寅彦が愛用していた飛車のこびんを開けずに3八~2七~2六と繰り出す矢倉棒銀の1例。4-8e図では後手が△3五歩▲同歩△同角と動いてきたもので、△7四銀の理想形を目指すこの局面での常套手段。但しここで棒銀側に1歩持たせるので、4-8e図で後手が△2二銀として攻撃をかわそうとしても、以下▲2四歩△同歩▲2三歩△同銀▲2四銀という守りと攻めの銀交換が実現し、棒銀側の攻めが有効に働いてくることになる。 △持ち駒 なし ▲持ち駒 なし第4-8d図 ▲3八銀まで △持ち駒 歩 ▲持ち駒 歩第4-8e図 ▲1五銀まで
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