三間飛車とは? わかりやすく解説

三間飛車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/17 05:15 UTC 版)

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三間飛車(さんけんびしゃ・さんげんびしゃ、: 3rd-file Rook[1])は将棋の戦法の一つ。振り飛車戦法に分類される。飛車を先手ならば7筋、後手ならば3筋に振る。

概要

名前の由来は、飛車を振った場所がそれぞれの視点で左から3列目に当たることである。

角道を止めてから飛車を動かす従来の振り飛車は、居飛車穴熊の攻略が困難であるがため相手に穴熊に囲われると勝率が低かった。三間飛車の場合は攻め駒の活用はしやすいものの、穴熊から飛車が遠いことから、四間飛車党の棋士からは敬遠されるようになっていた時代がある[2]。ただし、この時代にも中田功小倉久史など、三間飛車のスペシャリストと呼ばれるプロ棋士が活躍しており、両者の中田功XP・コーヤン流三間飛車、下町流三間飛車は対居飛車穴熊でも高い勝率を上げていた。三間飛車の場合、左銀を5七にも6七にも使えるため、持久戦にも急戦にも対応できるとされている[3]

急戦に対しては四間飛車よりも強く、先手三間飛車に対しては急戦なしという格言がある。急戦では一手の差が大きいため、先手番・後手番で戦い方が全く異なる。大山康晴は後手番では対中飛車急戦の対策等で三間飛車に振り直す他は、ある日を境に後手三間飛車を用いることはほとんどなかったという話がある[4]。その一方で、ある時期から重要な場面でのエース戦法のような扱いになっていたという評価もある[5]

角道を止めないうちに7五歩と突く攻撃的な石田流という指し方もある。角交換をしない持久戦型と角交換も辞さない早石田に大別される。早石田戦法はハメ手の要素が多かったが、升田幸三実力制第4代名人が升田式石田流を発案したことで、プロ間でも見直され本格的な戦法として発展していった[6]。『振り飛車には角交換』の常識が見直されたこともあって、三間飛車における居飛車穴熊対策の主流の指し方の一つになっていた。

その後、居飛車側がミレニアム囲いや穴熊での四間飛車対策を進めていたことに加え、elmo囲い急戦が大流行した結果、プロ棋戦での四間飛車の勝率が低下した。また、中飛車も同時期に超速などの居飛車の対策に苦戦し、2018年頃よりゴキゲン中飛車の利用が減少し、先手中飛車も勝率が落ち込んだ。

その結果、elmo囲い急戦に強く[7]、持久戦にも急戦にも対応できるノーマル三間飛車の使用率が2018年頃より大幅に上がり、プロ棋戦においても振り飛車の主力戦法となった。

特徴

以下では、振り飛車側を先手として説明する。

四間飛車に対する長所としては、角や左銀の活用がしやすいことが挙げられる[8]。四間飛車では飛車が▲6八にあるため、角が▲6八や5九に引く活用や左銀を▲5七に展開する際には、飛車が邪魔になってしまっている。このため四間飛車は左銀を▲7八→6七と活用するのに対して、三間飛車は▲6八→6七や6八→5七と活用できる幅が広い。また中飛車と比較しても、金を5八に使えることから金の活用の自由度でも優っている。

居飛車急戦において、相手居飛車が棒銀4六銀右戦法左戦法にきた際には四間飛車より1手得をすることがある。これは、飛車の移動にかかる手数による[9]。棒銀や4六銀戦法は主に四間飛車相手に利用される戦術であるが、その対策には角交換の他には三間飛車へ振ることが往々にしてあるためである。

三間飛車に対する居飛車の主な急戦策には4五歩早仕掛け三歩突き捨て急戦の他には、四間飛車同様4六銀戦法、棒銀などがある。このうち4六銀戦法や棒銀など7筋から攻めてくる戦法に対しては、最初から戦いが起こる筋に飛車を振っているので四間飛車より手得している[10]

なお、4五歩早仕掛け模様の場合に、下図のように▲6八銀型(△4二銀型)の場合ならば8筋(後手番なら2筋)に振って仕掛けを封じたり、6七銀型で仕掛けられた際には主に6筋(後手番なら4筋)に、振り直して反撃することが多い。ただし三間飛車側が6七銀型で美濃囲いが完成している図のようなケースで、先に△6五歩とせず、△7三桂から6五歩と、居飛車側が右桂を跳ねての仕掛けであれば、三間飛車側も▲7五歩と反撃することができる。これは「ツバメ返し」と呼称されている。

△ 持ち駒 なし
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△ 持ち駒 なし
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△ 持ち駒 なし
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その他、三間飛車は相手居飛車のコビンを直に狙えているのも特徴のひとつであり、相手の飛車先を守る自陣の角が移動すれば、飛車先がコビンを直通することになる。特に居飛車側が持久戦策の場合に玉側に駒が集中すると、仕掛けのすきが生じる。

△持駒 なし
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△持駒 なし
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△持駒 歩
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図1のような居飛車側左美濃の場合で三間飛車側▲5六歩-4七歩型の陣であると、三間飛車側から▲7五歩△同歩で飛車先交換と▲6八角~4六角とのぞく仕掛けが生じている。

図2の場合は、三間飛車側には角を除く順はないが、居飛車陣△5四銀としたので▲5九角が生じる。以下△7二飛と飛車先を切らさないようにすれば、今度は▲8六歩△同歩▲8八飛と動く仕掛けがある。以下△8二飛に▲8六飛のぶつけが生じる。このとき△同飛▲同角△8八飛には▲7七桂と逃げて次に三間飛車側は▲8三飛の打ち込みで、相手の桂香をとる策と▲4二角成からの飛車のす抜きの狙いが生じている。

図3のような陣ならば今度は▲7五歩から▲9五角の手が生じている。△5二金等と角成を防いでも▲7五飛で、△7三歩には▲7三角成や▲7四歩と合わせ△同歩▲同飛からの6四飛などが生じている。

戦法

石田流
石田検校が考案した三間飛車の駒組み。
早石田
石田流の形で角道を止めないうちに仕掛ける乱戦。
升田式石田流
升田幸三が考案した先手番での石田流。升田は名人戦などでこの戦法を使用し、アマチュア間でも人気となった。
楠本式石田流
アマ強豪楠本誠二考案。角を玉側(先手であれば▲3七角)に展開し、相手飛車のコビンを狙う。
新・石田流
早石田で悪手とされていた飛車先交換を鈴木大介が研究し直した戦法。第32回升田幸三賞受賞。
3・4・3戦法
後手番で安全に升田式石田流に組むための戦法。いきなり三筋に振ると角交換からの▲6五角が厳しいので、△3五歩とした後一度四間飛車にしてから振り直す。歩を3四にとどめる工夫がなされた戸辺流4→3戦法も存在する。
鬼殺し
ハメ手の奇襲戦法。米長邦雄による改良型である新鬼殺しも存在する。
中田功XP
中田功考案。対居飛車穴熊戦法。
初手▲7八飛
別名「猫だまし戦法」。門倉啓太が多用している。
2手目△3二飛
今泉健司考案。第35回升田幸三賞受賞。
4手目△3二飛
2013年に菅井竜也が公式戦で初めて指した、初手▲2六歩に対する後手用の角道オープン石田流戦術。初手▲2六歩であると2手目△3二飛ができず△3四歩が生じ、常に先手の▲2二角成~▲6五角からの馬つくりを狙われるため4→3戦法や3・4・3戦法のように石田流にするのに△4二飛と途中下車が必要であったが、かまわず▲6五角を打たせて、乱戦に持ち込む狙い。
ゴキゲン三間飛車
菅井竜也が2017年第58期王位戦七番勝負で羽生善治王位からタイトルを奪取し一躍注目となった角道オープン+▲5六歩型(△5四歩型)の三間飛車。菅井流△5四歩型三間飛車などとも呼ばれるほか、ゴキゲン中飛車の出だしから六手目に飛車を△5二飛(先手なら▲5八飛)とせす△3二飛としたのでゴキゲン三間飛車や、中飛車にするところをうっかりミスって指したのではということで、「うっかり三間飛車」とも呼ばれるようになる[11]。△5四歩が既に突いているので、4手目△3二飛のときと違って先手の▲2二角成~▲6五角からの馬つくりが防がれている仕掛け。
大野流三間飛車
大野源一が愛用していた、銀を▲5七(△5三)に配置する三間飛車。下図のような構えから居飛車△6五歩の仕掛けには▲6八飛ではなく、▲5五歩△同角▲5六銀△6六角▲6八飛の手順を愛用していた。
神吉流三間飛車
神吉宏充が考案した、先手でなら銀を▲5七から▲4六に繰り出し、3八の地点をあけておき▲3六歩~3五歩~3八飛と袖飛車に構えてから玉を穴熊に囲う。
△持駒 なし
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△持駒 なし
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△持駒 歩
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位取り三間飛車
石田流のように浮き飛車にせず、先手▲7六(後手△3四)の地点に銀を配置する。大山康晴大内延介内藤国雄などが愛用していた。
下町流三間飛車
東京下町に住み将棋教室を開いていた小倉久史が考案。おもに対居飛車穴熊に対して先手では腰掛銀から玉頭銀もしくは▲4六銀+▲5八金型石田流や、角交換に備え▲7八金型石田流に構える。玉頭銀に△5五歩から△8四飛には飛車を5筋に移動して▲5六歩から反撃する。
カナケンシステム
アマ強豪の金澤健一、通称かなけんが考案した穴熊対策として知られる。腰掛銀から先手の場合で▲7四歩から6五銀と、銀を飛車先に進撃させる。左銀を腰掛銀から棒銀のように活用するが、こうした手順はかつてツノ銀中飛車で居飛車側が玉頭位取りの際に、その対策として中飛車から5筋の歩交換から左銀を5六に構え、三間に振り直して戦う形式で使われていた。ただし図のように居飛車穴熊△4四歩型で効力を発揮する。△4四銀型であると図から△5五銀と出られ、▲7四銀には△7七歩から△6六銀があるので注意。
△持駒 なし
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△持駒 なし
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△持駒 歩
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真部流
真部一男考案。居飛車穴熊側の右銀が囲い側にあって中央が薄くなる四枚穴熊に対する三間飛車+先手4筋位取り(後手6筋位取り)の高美濃囲い型。上記の大野流から先手であれば高美濃囲いから右桂を跳ねず、▲5七銀から▲4五歩と位をとり、▲4六銀と構える。基本的には端からより5五歩から仕掛ける中央志向であるが、△5三銀型(▲5七銀型)や△7四歩(居飛車側先手なら▲3六歩)と飛車コビンを突いていないと、威力が半減。
三間飛車藤井システム
元々四間飛車の戦法である藤井システムを三間飛車に応用したもの。久保利明や佐藤和俊が用いている。
トマホーク
5筋不突の居飛車穴熊に対し玉頭銀・端桂を繰り出していく。

参考文献

脚注

  1. ^ Kawasaki, Tomohide (2013). HIDETCHI Japanese-English SHOGI Dictionary. Nekomado. p. 43. ISBN 9784905225089 
  2. ^ 藤井猛は「いまの居飛車党は三間飛車に対しては穴熊さえ知ってれば対応できる」と発言したことがあるという(勝又『最新戦法の話』232頁)
  3. ^ 『コーヤン流の極意』(中田功)、『三間飛車戦記』(小倉久史)、将棋列伝(藤倉)
  4. ^ 『現代に生きる大山振り飛車』56頁
  5. ^ 『大山中原全局集』
  6. ^ 勝又『最新戦法の話』208頁
  7. ^ 杉本和陽『さわやか流疾風三間飛車』
  8. ^ 中田功『コーヤン流三間飛車の極意 急戦編』12頁
  9. ^ 石川陽生中田功安西勝一『振り飛車党宣言2』
  10. ^ 中田功『コーヤン流三間飛車の極意 急戦編』13-14頁
  11. ^ 将棋世界2017年12月号「最新定跡探査 振り飛車編 角頭歩戦法と菅井流ー時代を変える新構想」ほか

関連項目


三間飛車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/16 01:45 UTC 版)

相振り飛車」の記事における「三間飛車」の解説

後手側での採用例が多い、相振り飛車代表格戦型一つ金無双主流時代には石田流に組むのが一般的であったが、矢倉囲い相手には相性悪く、現在は引き飛車主流となっている。

※この「三間飛車」の解説は、「相振り飛車」の解説の一部です。
「三間飛車」を含む「相振り飛車」の記事については、「相振り飛車」の概要を参照ください。

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