呪い
『古事記』上巻 ホヲリ(=山幸彦)は、失った鉤(つりばり)を兄ホデリ(=海幸彦)に返す時、海神から教えられたとおり、「この鉤は、オボ鉤(ち)、スス鉤、貧(まぢ)鉤、ウル鉤」と言って、後ろ手に渡した。その後、ホデリはしだいに貧しくなった〔*呪いの言葉は、『日本書紀』巻2・第10段本文では「貧鉤」、一書第1「貧窮(まぢ)の本、飢饉(うゑ)の始、困苦(くるしび)の根」、一書第2「貧鉤、滅(ほろび)鉤、落薄(おとろへ)鉤」、一書第3「オホ鉤、ススノミ鉤、貧鉤、ウルケ鉤」、一書第4「貧鉤、狭狭(ささ)貧鉤」〕。
『七羽のからす』(グリム)KHM25 男児ばかり7人の子供を持つ夫婦に、待望の女児が誕生した。父親の言いつけで、7人の息子が女児の洗礼用の水を汲みに行く。しかし、いつまでも帰って来ないので、父親が腹を立てて、「ぼうずども、みんな烏になっちまえ」と怒鳴る。たちまち7人の息子は7羽の烏に変じ、飛び去ってしまった→〔太陽と月〕11。
『人魚コーラ』(イタリアの昔話) 1人の母親が、コーラという名前の息子と住んでいた。コーラは朝から晩まで、海に入って泳いでいた。母親が「陸へ上りなさい」と言っても、コーラはますます遠くへ泳いで行くばかりだった。ある日、母親は「お前なんか魚になってしまえ」と叫ぶ。するとコーラは半人半漁の身体となり、2度と陸へ帰らなかった。
*→〔言霊〕4の『眠れる森の美女』(ペロー)・〔性交と死〕2の『マハーバーラタ』第1巻「序章の巻」。
『異苑』巻9-15 水田作りの監督者・沐堅は、人々をこき使い、苦しめた。人々は恨み、沐堅の姿をした人形をこしらえ、刀や矛で切り刻んで呪った。沐堅はたちまち病気にかかり、ひどく苦しんで死んだ。
『しんとく丸』(説経) 信吉(のぶよし)長者の後妻は、「自分が産んだ子を嫡子にしたい」と望み、継子しんとく丸を呪って、清水寺の生木や諸神社の格子などに、合計136本の釘を打つ。しんとく丸は両眼がつぶれ、癩病者となる。後妻は夫信吉長者に「しんとく丸を追い出すか、私を離縁するか」と迫り、信吉長者はしんとく丸を天王寺に棄てる〔*清水観音のおかげで、しんとく丸の病気は治る〕。
『宇治拾遺物語』巻14-10 法成寺の門の下、土を5尺ほど掘ったところに、御堂関白道長を呪う物が埋めてあった。土器を2つ合わせ、黄のこよりで十文字にからげたもので、土器の底には朱砂で一文字が書かれていた。しかし飼い犬が知らせたので、道長は呪物の上を通らずにすみ、無事だった。
『古事記』中巻 兄・秋山の下氷壯夫(したひをとこ)は、弟・春山の霞壯夫(かすみをとこ)に、約束した賭物を与えなかった。母は怒り、出石川(いづし)河の石を取って塩をまぶし、竹の葉に包んで竈の上に置いた。そして霞壯夫に呪いの言葉を教え、下氷壯夫を呪わせた。そのため下氷壯夫は8年間、竹の葉のごとく萎れ、塩のごとく乾き、石のごとく病み臥した。
★5.呪いのビデオ。
『リング』(中田秀夫) 山村貞子は、念じるだけで人を殺す超能力を持つ少女だった。彼女は、伊熊博士によって井戸に突き落とされて、死んだ。それから40年。貞子の霊は今なお鎮まることなく、彼女の呪いは1本のビデオテープに念写された。そのテープを見た者は、1週間後に死ぬ。助かる方法はただ1つ。テープをダビングして、1週間以内に誰か別の人に見せることである。そうすれば、その人が代わりに死んでくれる。
*死の運命を他人に移す物語→〔運命〕3b・〔性交〕3aに記事。
★6.家にこもって物忌みされると呪いが効かないので、相手を外へ出すことが必要である。
『宇治拾遺物語』巻10-9 ある男が陰陽師を使って、算博士小槻茂助を殺そうとする。茂助は危険を察知し、物忌みをして家にこもる。男は「大事な用だ」と言って、茂助の家の門を叩く。茂助は、遣戸から顔だけ差し出す。その時、陰陽師がしっかりと茂助の顔を見、声を聞いて、力の限り呪う。3日後に茂助は死んだ〔*『今昔物語集』巻24-18に類話〕。
★7a.呪いが自分の身に返る。
『宇治拾遺物語』巻2-8 蔵人の五位が、相婿である蔵人の少将を妬み、「少将を呪い殺してくれ」と陰陽師に依頼する。陰陽師は鳥(式神)を放ち、鳥は飛んで少将に糞をかける。安倍晴明が「あの鳥は式神だ」と見破り、加持祈祷をして少将の身を守る。式神は陰陽師のもとへ戻り、陰陽師自身が式神に打たれて死んだ。五位は追放された。
*義父が毒蛇を放って娘を殺そうとするが、毒蛇は戻って来て義父を噛んだ→〔毒蛇〕2の『まだらの紐』(ドイル)。
★7b.呪いが自分の身に返ることを承知の上で、人を呪い殺す。
『発心集』巻8-9 受領の愛人である女が、受領の北の方を恨み、貴布禰への百夜(ももよ)参りを始める。女は「どうか、北の方を亡き者にして下さい。そのためには、私は命もいらない。もし私が生き続ける運命なら、現世で乞食になり、死後は無間地獄へ堕ちてもよい」と祈願する。女の呪いによって、満願の百日にならないうちに北の方は死ぬ。その後、女は、自らの言葉どおり、落魄して物乞いの尼となり、年老いていった。
★8.期限つきの呪い。
『カター・サリット・サーガラ』「ムリガーンカダッタ王子の物語」2 父バラモンの分の果実を、息子シュルタ・ディが食べてしまったので、父バラモンがシュルタ・ディを呪い、「お前は枯れ木になれ。月夜にはお前に花が咲き実がなる。お前が果実で客人たちを満足させる時、お前は呪詛から解放されるだろう」と言う。時を経て、旅のムリガーンカダッタ王子の一行が通りかかり、果実を食べる。枯れ木のシュルタ・ディは人間の姿に戻り、王子の旅の供をする。
『シャクンタラー』(カーリダーサ)第4幕 ドゥルヴァーサス仙人がシャクンタラーの庵を訪れるが、その時シャクンタラーの心はドゥフシャンタ王への思慕でいっぱいだったため、彼女は仙人の接待を怠る。仙人は怒り、「王はお前を忘れるだろう」とシャクンタラーを呪う。「ただし、王がシャクンタラーに与えた記念の指輪を見る時、呪いは消える」と付け加えて仙人は去る。
『美女と野獣』(ボーモン夫人) 意地悪な仙女が、美しい王子を醜い野獣に変える。それは、誰か美しい娘が彼と結婚するのを承諾する時まで、という期限つきだった。父の命を救うため野獣の宮殿に来たベルが、醜い姿の奥の善良な心を知って求婚に応じ、野獣は王子に戻ることができた。
『経帷子の秘密』(岡本綺堂) 老婆から「この家は2代とは続かせない」と呪われて以来、子が育たず、代々養子を取らねばならぬ家があった。ある娘がそれを承知でその家に嫁ぎ、1年余の後に男児を産んで、直後に自害した。生まれた男児は無事成長して子も孫もでき、一家は繁盛した。娘が命を棄てて、家にまつわる呪いを消滅させたのだと、子孫は感謝した。
*家代々のたたりを終わらせるため、女性が命を棄てる→〔たたり〕4の『長町女腹切』(近松門左衛門)。
『マタイによる福音書』第21章 イエスが空腹を感じ、いちじくの木のところへ行ったが、その木には実がなかった。イエスが「今後いつまでも、お前には実がならないように」と言うと、いちじくの木はたちまち枯れたので、弟子たちは驚いた〔*『マルコ』第11章では、翌朝早く、木が枯れているのを弟子たちが見る〕。
『列王記』下・第2章 神の人エリシャが道を上って行くと、町から小さい子供たちが出て来て、「はげ頭、上って行け」と嘲った。エリシャは振り向いてにらみつけ、主(しゅ)の名によって彼らを呪う。森から2頭の熊が現れ、子供たちのうちの42人を引き裂いた。
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