性交と死
『怪談牡丹燈籠』(三遊亭円朝)8 お露の死霊が萩原新三郎と抱き合うさまを、隣家の伴蔵がのぞき見て、人相見の白翁堂に知らせる。白翁堂は「死者は陰気盛んで邪に穢れている。たとえ百歳の長寿を保つ命も、幽霊と契れば精血を減らし、必ず死ぬ」と説き、新三郎の相を見て「20日以内の命」と告げる。新三郎は死霊退散の御札を貼るが、伴蔵がそれをはがしたため、新三郎はお露の死霊に取り殺される。
『西鶴諸国ばなし』(井原西鶴)巻3-4「紫女」 伊織の閑居を美女が訪れ、2人は夜な夜な契りを交わすが、20日もせぬうち伊織は痩せ衰えていく。友人の医師が「このままでは命も長からず」と診断し、わけを聞いて「それは紫女という狐の化身だ」と教える。伊織は女を追い払い、供養をして危うい命を助かる。
*雄狐が、人間の姫君の命を損なわないよう遠慮して、性交を断念する→〔狐〕2aの『玉水物語』(御伽草子)。
『忠五郎のはなし』(小泉八雲『骨董』) 足軽の忠五郎は、異類の女と交わりを重ねて死病におかされる。医者が診察して「この人には血がない。血管の中は水ばかりだ」と驚く。女の正体は蝦蟇で、若い男の血を好み、これまでにも何人かが殺されていた→〔蛙〕2a。
『南総里見八犬伝』(滝沢馬琴)第6輯巻之5下冊第60回 庚申山の妖猫が、赤岩一角の妻・22歳の窓井が美貌ゆえ、これを犯そうと、一角を殺して彼に化ける。窓井は妖猫を夫と思って枕を重ね、男児を産むが、次第に精気が衰え、30歳足らずで死ぬ。その後に偽一角が置いた妾たちも精気を吸い取られ、1年以内に死ぬ者が何人もあった。
*→〔性器(女)〕6の『耳袋』(根岸鎮衛)巻之1「金精神(こんせいじん)の事」・〔蛇婿〕5の『聊斎志異』巻12-463「青城婦」。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第5章 イオカステ(あるいはエピカステ)と結婚したライオス王に、神が「男子をもうけてはならない。生まれた男子は父殺しになるであろうから」と託宣する。しかしライオス王は酔って妻と交わり、オイディプスが生まれる。王は後年オイディプスに殺される。
『マハーバーラタ』第1巻「序章の巻」 パーンドゥ王が、森で交尾する鹿を弓で射る。しかしそれは聖仙キンダマが、鹿の姿となって妻の牝鹿と交わっていたのであった。キンダマは「お前も、愛する者と交わる時死ぬのだ」と、パーンドゥ王を呪う。王は禁欲生活を送るが、ある春の日、森へ遊びに出かけ、情欲に負けて妃マードリーを抱き、妃の身体の上に乗ったまま死んだ。
*仏罰を受けて、性交中に死ぬ→〔雨宿り〕1cの『日本霊異記』下-18。
*性交中に殺される→〔物語〕9aの『氷の微笑』(ヴァーホーヴェン)。
『ヒョウ風』(谷崎潤一郎) 日本画家の直彦は24歳の暮れに初めて吉原へ行き、相方の女に溺れて衰弱する。彼は、しばらく女から遠ざかって心身の健康を回復させようと、6ヵ月の禁欲を自らに課して、東北地方を放浪する。直彦は禁欲を守り通し、半年ぶりに吉原の女のもとへ戻るが、性交の後、極度の興奮から脳卒中で死ぬ。
『短命』(落語) 伊勢屋の1人娘に婿を取っても、相次いで若死にし、3人目もまた死んでしまった。不思議がる八五郎に、隠居が「あの娘はとびきりの美女だから、房事過多で婿は衰弱死するんだ」と教える。納得して家に帰った八五郎は、女房の顔をつくづくと見て「ああ。おれは長命だ」。
『世説新語』「豪爽」第13 王処仲は高潔な人だったが、かつて女色に溺れ、荒淫の末に身体をこわしてしまったことがあった。左右の者に諌められた彼は非を悟り、奥の間の扉を開いて、小間使いや妾たち数十人を解放し、各自の行きたい所へ行かせた。
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