予言
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)162「子供と烏」 生まれてまもない子供が、「烏に殺される」と予言されたので、母親は大きな箱に子供を入れて守る。蓋を開け閉めして食物を与えていたが、ある時、箱の烏鉤(かぎ)が子供の脳天に落ちかかり、子供を殺した。
『オイディプス王』(ソポクレス) コリントス王の息子として育てられたオイディプスは、アポロンから「父を殺し母と交わるであろう」との神託を得る。オイディプスは予言の実現を恐れ、父母のもとを離れて旅に出る。しかしコリントス王は育ての親に過ぎず、オイディプスの真の父親はテーバイの王ライオスだった。それを知らぬオイディプスは、恐ろしい運命から逃れようとしてテーバイへ向かい、かえって神託どおりの運命を招く。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章 「娘の産んだ子供に殺されるだろう」との神託を得たアクリシオスは、娘ダナエを青銅の部屋に閉じこめ、男が近づかないようにする。しかし、大神ゼウスによってダナエはぺルセウスを産み、後年、ぺルセウスの投げた円盤に当たってアクリシオスは死ぬ。
『ニーベルンゲンの歌』第25章 グンテル王やハゲネらの率いるニーベルンゲンの勇士たち、1千人の騎士と9千人の兵卒が、エッツェルの国へ向かう。ドナウ河で水浴する水の乙女たちが、「王室司祭以外は生きて帰れない」とハゲネに予言する。ハゲネはこの予言を無化すべく、司祭を船から投げ落として殺そうとする。しかし、ろくに泳げぬ司祭が無事に岸に帰り着いたので、ハゲネは死の運命が避けられぬことを悟る。
『マクベス』(シェイクスピア)第1~2幕 マクベスはグラミスの領主で、スコットランド王ダンカンに仕えていた。ある時、3人の魔女が荒野でマクベスを待ち受け、「いずれは王ともなられるお方!」と呼びかけた。マクベスは魔女たちの予言を実現させるべく、ダンカンを暗殺して、自らがスコットランド王となった〔*マクベスは魔女の予言を頼るが、ダンカンの忠臣マクダフに討たれた〕。
『百喩経』「婆羅門が子を殺した喩」 婆羅門が予知力を世人に示すべく、子供を抱いて「我が子はあと7日で死ぬ」と哭泣する。人々が「寿命は予知できぬもの」と慰めると、婆羅門は「私の予言ははずれたことがない」と断言し、7日目に自ら子を殺して自説を証明する。人々は子供が死んだと聞いて感嘆し、婆羅門を敬う〔*→〔観相〕5の『近世畸人伝』(伴蒿蹊)巻之3「相者龍袋」も、予言の人為的実現に近いところがある〕。
★2a.死の予言を無視して、命が助かる。
『捜神記』巻18-25(通巻437話) 鼠が現れて、「お前は某月某日に死ぬ」と、王周南に告げる。しかし彼はとりあわない。予告された日に再び鼠は現れ、「お前は昼に死ぬ」と繰り返すが、王周南はやはりとりあわない。真昼になると、鼠は「お前が返事をしないなら、おれはもう何も言わぬ」と言い、ひっくり返って死んだ。
★2b.死の予言をそのまま受け入れて、命が助かるばあいもある。
『生まれ子の運』(昔話) 「18歳の時に桂川の主(ぬし)にとられる」と予言された息子が、その年、大水の桂川へ仕事に出かける。親はあきらめて、家で葬式の準備をする。息子は途中で出会った娘に餅を御馳走するが、その娘が、実は川の主だった。おかげで、餅の返礼に、息子は寿命を61歳までのばしてもらえた(兵庫県美方郡)。
『ちきり伊勢屋』(落語) 易者白井左近が、質屋ちきり伊勢屋の若主人伝次郎の人相を見て、「来年2月15日の九刻(ここのつ)に死ぬ運命だ」と占う。伝次郎は来世の幸福を祈り、財産を困窮した人々に施して、死を待つ。しかし時刻が来ても死なない。白井左近が見直すと、人助けをしたため死相が消え、80歳以上の長命の相に変わっている。伝次郎は、駕籠かきをして人生の再出発をし、以前施しをして救った家の娘の婿になり、ちきり伊勢屋を再興する。
★3.予言の真の意味がわからず、誤った受け取りかたをする。したがって、意想外の形で予言が実現する。
『現代の英雄』(レールモントフ)第2部「運命論者」 死期は運命によってあらかじめ定められているか否か、議論が起こり、ヴーリッチ中尉とペチョーリンが賭をする。ペチョーリンはヴーリッチの顔に死相を見て、「君は今日死ぬ」と予言する。ヴーリッチは銃を額に当てて引き金を引くが、不発だった。しかしそれから30分後、酔ったコサック兵にヴーリッチは斬り殺された。
『史記』「秦始皇本紀」第6 燕人盧生が鬼神の告げとして奉った録図書(未来記)に「秦を滅ぼすものは胡なり」とあったので、始皇帝は胡国を討伐した。しかし「胡」は秦の2世皇帝胡亥のことであった。
『史記』「陣渉世家」第18 陣勝と呉広が秦に対する反乱を起こそうとして、まず占ってもらう。卜者が「鬼神に託することになろう(=汝らは死んで鬼となろう)」というのを、陣勝・呉広は誤解して「衆をおどせとの教えだ」とうけとり、喜ぶ。
『白鯨』(メルヴィル)117章・135章 老船長エイハブは、ピークォド号で白鯨モービーディックを追い続ける。それは命をかけた追跡だった。乗組員の1人である拝火教徒が、「ロープだけがお前さんを殺せるのだ」と予言する。エイハブは「絞首台のことか」と思って笑う。しかし、エイハブが白鯨との死闘の最後に銛を撃ちこんだ時、銛についているロープが輪となって首にまきつき、エイハブを殺した。
『歴史』(ヘロドトス)巻9-33 「大きな勝負に5回勝つ」との神託を得たテイサメノスは、これを「体育の勝負に勝つ」と誤解して5種競技の練習をするが、優勝できなかった。後に「戦争に勝つ」との神託であることがわかり、テイサメノスはスパルタに多大の貢献をした。
*→〔あり得ぬこと〕2の『マクベス』(シェイクスピア)第4~5幕。
『炎天』(ハーヴィー) 画家と石屋が、それぞれの仕事を通して、無意識のうちに、互いに相手の近未来の運命を描き出した。8月の炎暑のある日、画家は、犯罪を犯して被告となった石屋の絵を描き、石屋は、墓石に画家の名前を刻んだ(*→〔絵〕6・〔墓〕7)。その夜、暑さで気が変になった石屋は、発作的に鑿(のみ)で画家を殺した。
『修禅寺物語』(岡本綺堂) 夜叉王は面(おもて)作りの名人で、彼が打った面は「生けるがごとし」と賞賛された。しかし源頼家の似顔の面に限り、幾度打ち直しても魂のない死人の相になるので、夜叉王は自らの技のつたなさを嘆く。しかし、それからまもなく源頼家は暗殺された。夜叉王は「神ならではわからぬ人の運命が、まず我が面にあらわれたのだ」と納得し、「『技芸神に入る』とはこのことよ」と、自讃する。
『過去』(志賀直哉) 昔、「私」は自家の女中・千代を恋し、結婚しようと思った(*→〔身分〕1bの『大津順吉』)。千代は田舎育ちで教養もなかったので、「私」は千代を教育する必要があった。ある時、「『秋の日は釣瓶落とし』という言葉がある」と教えると、千代は「『男心と秋の空』ってね」と言った。「私」はがっかりした。その後、「私」は千代と別れた。「私」をがっかりさせた言葉が本当になったのだ。
『ボルヘス怪奇譚集』「セキリアの物語」 人妻セキリアが、姪の結婚についての予言を求め、寺院へ行く。セキリアは椅子にすわり、姪は立って、予言を待つ。疲れた姪が「すわりたい」と言ったので、セキリアは「私と替わるといいわ」と言う。この言葉が予言となった。まもなくセキリアは死に、姪がセキリアの夫と結婚したのである(キケロ『予言について』)。
★6.宇宙のすべての原子の、現時点での運動(その方向と速度)を知れば、未来の任意の時点における全原子の位置は、正確に計算(=予知)できる(過去についても同様である)。
『確率の哲学的試論』(ラプラス)「確率について」 宇宙の現在の状態は、それに先立つ状態の結果であり、それ以後の状態の原因である。ある知性(いわゆる「ラプラスのデモン」)が、宇宙の中の最も大きな物体の運動から、最も軽い原子の運動まで、すべての存在物の状況を知っているならば、この知性にとって、不確かなものは何一つない。その目には、未来も過去と同様に現存することであろう。
*未来はすべて決定済み、ということにもなる→〔未来記〕3の『スローターハウス5』(ヴォネガット)。
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