主な研究事例
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 01:50 UTC 版)
北海道大学の水野忠彦、大森唯義は1996年に、常温核融合の正体は原子核が他の原子核に変化する「核変換」現象だったという、当初考えられていた常温核融合に対する解釈とはまったく異なる内容の論文を発表している。これは反応により電極の表面にホウ素, ケイ素, カリウム, カルシウム, チタン, クロム, 亜鉛, 臭素, 鉛などの多くの元素が生成され、その同位体比率が天然のものと異なるというものである。これをフランスの研究者が再現試験を行い、その結果をインターネット上で公開している。同様な核変換事例はアメリカ・イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のジョージ・マイリー(en:George H. Miley)など多くから報告されている。 東京工業大学の岡本眞實らは電解実験で使用した5本のPd陰極のSIMSによる分析データを公表している。電流値を大きく変動させたサンプルの3本中3本全てから電解中に中性子を観測しているが、このサンプルからはトリチウムが検出されている。また電解中に中性子も発熱もなかったサンプルの内の1本の高温になった熱履歴が残るものがあり、死後の熱を経験したサンプルと考えられる。このサンプルのデータにはLiの同位体比異常が記録されており、電極内部から 6Liが生成されていることを明らかにしている。 岩村康弘(当時・三菱重工、2021年現在・東北大学特任教授)は、2001年にパラジウム、酸化カルシウムの多層基板上にセシウムをつけて重水素ガスを透過させセシウムからプラセオジムへの核変換が生じたと発表した。同様にストロンチウムからモリブデンへの核変換も報告した。この実験系の再現性は100%と言われ多くの追試がなされており、大阪大学、静岡大学、イタリア国立核物理学研究所(INFN it:Istituto nazionale di fisica nucleare)で再現実験に成功したと報告されている。 1990年代前半にNTT基礎研究所でパラジウムの板(3×3×0.1センチ)にマンガン酸化物を片面に被覆して重水素ガスを吸収させた後、冷却してからもう一方の面に金を200オングストロームまで被覆し、重水素が抜け出ないように処理してからその試料に電流を流すと、突然発熱し、サンプルが曲がり、ヘリウムとHTのガスが放出され、4.5〜6メガエレクトロンボルトのα粒子と3メガエレクトロンボルト以下の陽子の放出が確認された。 荒田吉明(大阪大学名誉教授)は、特殊加工されたパラジウムの格子状超微細金属粒子内に、重水素ガスを取り込ませることで凝集し、これにレーザーを照射することで、通常の空気中の10万倍のヘリウムの発生を観測した。この現象の発見は、2002年12月7日の毎日新聞、毎日新聞電子版、大阪読売新聞などで報じられた。この方式は荒田方式と呼ばれ、多くの追試がなされており、2007年の第13回国際常温核融合会議においてフランス・マルセイユ大学、イタリア・フラスカチ大学、ロシア・ノボシビルスク大学、トムスク大学から荒田方式による過剰熱発生の報告があった。 しかし、その後第15回国際常温核融合会議において、荒田らは上記実験によるヘリウム発生量が発表よりもはるかに少なく、ニッケルを加えたZrNiPd粉末サンプルで遥かに多いヘリウム生成と過剰熱を報告している。しかし、報告書を見るとHe/22Ne比が大気より大きいことを理由にヘリウム生成を主張しているが、全ての実験サンプルで比率が同じであり、実験に使用したガスのHe/22Ne比を測定しているように見える[要出典]。 イスラエルのエナジェティクステクノロジー、アメリカのスタンフォード大学・リサーチ・インスティテュート(SRIインターナショナル)、イタリアENEAの合同チームは表面処理をしたパラジウム電極を用いた重水電気分解でスーパーウエーブと呼ばれる波形の電圧入力や超音波照射などを組み合わせることにより入力の10倍以上の過剰熱を2007年時点で再現性60%で発生させたと発表している。最大の例では平均0.74ワットの入力時に平均20ワットの熱出力が17時間継続したと報告している。 2007年にアメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)で行われた常温核融合国際会議で発表された試算では、世界中で3,000件の論文で追試されているといわれる。多くの研究で再現されてはいるものの、結果にばらつきがあることが問題視されている。 2008年5月22日、上述の荒田吉明・大阪大学名誉教授により大阪大学で公開実験が行われ、同年5月23日の日経産業新聞および日刊工業新聞で報道された。新聞報道によれば、レーザー、電気、熱等を使わずに、酸化ジルコニウム・パラジウム合金の格子状超微細金属粒子内に重水素ガスを吹き込むことだけで、大気中の10万倍のヘリウムと30kJの熱が検出されたものである(日経産業新聞)。生成されたヘリウムは一度金属内に取り込まれると数百度の熱を加えないと放出されないためサンプル再生が課題となるとしている(日刊工業新聞)。同内容の論文は高温学会誌Vol34「固体核融合実用炉の達成」で発表されている。しかし、論文のタイトルにあるような原子炉が工業的使用に耐える有用なエネルギー源として稼動したという意味ではない。 2008年6月11日には、北海道大学大学院で水野忠彦が水素と炭素を加熱することで、自然界には1%程度しか存在しない炭素13が大量に発生し、窒素と過剰熱を検出したと北海道新聞に報道された。大阪大学の時と違って、パラジウムや重水素が関わってこない。その代わり、フェナントレンを使用している。30回の実験すべてで過剰熱を確認していることから、再現性が非常に高いことが分かると主張している。 2014年3月21-23日にアメリカ・マサチューセッツ工科大学 (MIT) で開催された、常温核融合学会(The 2014 LANR/CF Colloquium)において、日本からは水野忠彦(水素技術応用開発株式会社、元・北海道大学)と岩村康弘(東北大学特任教授、当時・三菱重工)が研究発表している。水野は、「75ワットの過剰熱を35日以上連続で発生した。」 と発表した。また、岩村は、「元素変換はマイクロ(100万分の1)グラム単位で確認できた。」と報告した。 2021年現在では様々な原理仮説があるが、基本的には、原子核間のクーロン斥力を遮蔽する観点から、リュードベリマターなど、高密度原子核特有の現象、あるいは、原子核近傍に数フェムトメートル程度の深い電子軌道がある、深い電子軌道の理論が発表されている。
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