「緊急調査対策プロジェクト」の立ち上げと告発選手による声明文公表
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「女子柔道強化選手への暴力問題」の記事における「「緊急調査対策プロジェクト」の立ち上げと告発選手による声明文公表」の解説
一方JOCは、「緊急調査対策プロジェクト」を立ち上げて被害を訴えた選手への聞き取りを全柔連の立会いなしで実施することに決めた。 2月4日には選手側の代理人を務める弁護士の辻口信良と岡村英祐が記者会見を開いて、「全日本女子ナショナルチーム 国際試合強化選手15名」名義の声明文を代読した。 全文は以下のとおり。 皆さまへこのたび、私たち15名の行動により、皆さまをお騒がせする結果となっておりますこと、また2020年東京オリンピック招致活動に少なからず影響を生じさせておりますこと、まずもって、おわび申し上げます。私たちが、JOC(日本オリンピック委員会)に対して園田前監督の暴力行為やハラスメントの被害実態を告発した経過について、述べさせていただきます。 私たちは、これまで全日本柔道連盟(全柔連)の一員として、所属先の学校や企業における指導のもと、全柔連をはじめ柔道関係者の皆さまの支援を頂きながら、柔道を続けてきました。このような立場にありながら、私たちが全柔連やJOCに対して訴え出ざるを得なくなったのは、憧れであったナショナルチームの状況への失望と怒りが原因でした。 指導の名の下に、または指導とは程遠い形で、園田前監督によって行われた暴力行為やハラスメントにより、私たちは心身ともに深く傷つきました。人としての誇りを汚されたことに対し、ある者は涙し、ある者は疲れ果て、またチームメートが苦しむ姿を見せつけられることで、監督の存在におびえながら試合や練習をする自分の存在に気づきました。代表選手・強化選手としての責任を果たさなければという思いと、各所属先などで培ってきた柔道精神からは大きくかけ離れた現実との間で、自問自答を繰り返し、悩み続けてきました。 ロンドン五輪の代表選手発表に象徴されるように、互いにライバルとして切磋琢磨し励まし合ってきた選手相互間の敬意と尊厳をあえて踏みにじるような連盟役員や強化体制陣の方針にも、失望し強く憤りを感じました。 今回の行動をとるにあたっても、大きな苦悩と恐怖がありました。私たちが訴え出ることで、お世話になった所属先や恩師、その他関係の皆さま方、家族にも多大な影響が出るのではないか、今後、自分たちは柔道選手としての道を奪われてしまうのではないか、私たちが愛し人生をかけてきた柔道そのものが大きなダメージを受け、壊れてしまうのではないかと、何度も深く悩み続けてきました。 決死の思いで、未来の代表選手・強化選手や、未来の女子柔道のために立ち上がった後、その苦しみはさらに深まりました。私たちの声は全柔連の内部では聞き入れられることなく封殺されました。その後、JOCに駆け込む形で告発するに至りましたが、学校内での体罰問題が社会問題となる中、依然、私たちの声は十分には拾い上げられることはありませんでした。一連の報道で、ようやく皆さまにご理解を頂き、事態が動くに至ったのです。 このような経過を経て、前監督は責任を取って辞任されました。 前監督による暴力行為やハラスメントは、決して許されるものではありません。私たちは、柔道をはじめとする全てのスポーツにおいて、暴力やハラスメントが入り込むことに、断固として反対します。 しかし、一連の前監督の行為を含め、なぜ指導を受ける私たち選手が傷つき、苦悩する状況が続いたのか、なぜ指導者側に選手の声が届かなかったのか、選手、監督・コーチ、役員間でのコミュニケーションや信頼関係が決定的に崩壊していた原因と責任が問われなければならないと考えています。前強化委員会委員長をはじめとする強化体制やその他連盟の組織体制の問題点が明らかにされないまま、ひとり前監督の責任という形をもって、今回の問題解決が図られることは、決して私たちの真意ではありません。 今後行われる調査では、私たち選手のみならず、コーチ陣の先生方の苦悩の声も丁寧に聞き取っていただきたいと思います。暴力や体罰の防止はもちろんのこと、世界の頂点を目指す競技者にとって、またスポーツを楽しみ、愛する者にとって、苦しみや悩みの声を安心して届けられる体制や仕組みづくりに生かしていただけることを心から強く望んでいます。 競技者が、安心して競技に打ち込める環境が整備されてこそ、真の意味でスポーツ精神が社会に理解され、2020年のオリンピックを開くにふさわしいスポーツ文化が根付いた日本になるものと信じています。 この声明文でも触れられていたロンドン五輪の代表選手発表における問題とは、2012年5月13日にロンドンオリンピック代表を発表する記者会見の場において、全柔連の許可を得てその模様を放映したフジテレビが、発表に見入る男女のオリンピック代表選出選手と落選選手の表情を交互にアップで映し出した見せ物のような演出を指す。 2月5日には全柔連の臨時理事会が開かれて、この問題を解決するために外部有識者を招いて調査委員会を設置することに決めた。さらに、女子選手の相談を受け持つ支援ステーションの拡充とともに、女性理事や女性監督の登用にも理解を示す姿勢を見せた。加えて、全柔連理事の山下泰裕は「選手に申し訳ない。プレーヤーズファーストを大事にしないといけない。」と述べると、全柔連副会長の佐藤宣践も「(全柔連の)倫理規定に、体罰はルール違反だと書いてある。体罰はドーピングと同じことだ。」との見解を示した。 さらに、前日の声明文で名指しされていた前強化委員長であり園田の監督続投を強力に推進していた全柔連強化担当理事・吉村和郎が辞任を表明するに至った。この際に吉村は、強化合宿における暴力行為に関して「私は一回も見ていない。そういうことがあれば何かの措置を取ったと思う。」と釈明した。加えて、女子コーチの徳野和彦も5日に遠征先のブルガリアから緊急帰国すると、選手に対する暴力行為を認めて引責辞任することになった。選手側代理人である弁護士の辻口は吉村全柔連強化担当理事の辞任に一定の評価を示した。 2月6日に弁護士の辻口は「暴力行為を告発した15名がずっと匿名でいることは理屈の上ではおかしいと分かっているので、名前を公表するか再協議する」と発言した。さらに、この件でJOCが設置した「緊急調査対策プロジェクト」のメンバーでJOC理事でもある橋本聖子が、「プライバシーを守る観点から告発選手が表に出てこないのは問題だ」と発言するものの、後に氏名を公表すべきという趣旨で発言したのではないと釈明した。一方、JOC女性スポーツ専門部会の部会長・山口香は氏名公表は時期尚早との見解を示した。 さらに、山口は告発選手をサポートしていたことを公表した。山口によれば、園田に暴力を振るわれた選手が2012年10月の世界団体で活躍した際に、『厳しく指導したのがつながったんだ』と暴力の反省もせず、肯定するかのような発言を園田がしたことを聞き及び、それに憤怒を覚えて全柔連に園田の辞任を求めたという。一方、選手には色々アドバイスを与えたものの、それ以上のことはせず、一連の告発への直接の関与は否定した。 2月7日になると弁護士の辻口は、選手の不安が大きいので選手名は公表しない見解を示した。 2月8日には男子のオリンピック出場選手が女子選手から聞いた話として、園田らが強化合宿後の打ち上げの酒の席に女子選手を強制的に出席させてお酌をさせていたと語った。 同日、全柔連は公式サイトに「この度の柔道女子ナショナルチームにおける暴力ならびにパワーハラスメント問題につきまして、国民の皆様に大変なご心配をおかけしていますことを心よりお詫び申し上げます。」と謝罪文を掲載した。 さらに、全柔連会長である上村はグランドスラム・パリ大会に出向いて、IJF会長のマリウス・ビゼールに今回の一件を詳しく説明するとともに、謝罪することになった。ビゼールは今回の件を改めて非難するとともに、全柔連とともに合同調査を行うことを発表した。 2月12日に全柔連は相次いで辞任した吉村和郎、園田隆二、徳野和彦の3名を今後IJF主催の試合や国際合同合宿から締め出すことに決定した。さらに、IJFもその決定を了承して、それ以上の処分を課すことはないとの認識を示した。また、3月18日の全柔連理事会において調査委員会からの提言を受け、その結果をIJFに報告する意向も示した。 またこの日から、JOCの「緊急調査対策プロジェクト」メンバーである橋本聖子や荒木田裕子ら理事4名と弁護士が告発した選手への聞き取り調査を始めた。また、橋本は告発選手の氏名を明らかにすることはないことを改めて強調した。
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