【AH-1】(えーえいちわん)
Bell209(AH-1) Cobra(コブラ)
アメリカのベル社が1960年代に開発した、世界初の実用攻撃ヘリコプター。
何度も近代化改修を繰り返されため、バリエーションが非常に多い。
元々は同社製の汎用ヘリコプター・UH-1の改良計画として開発がはじめられたが、開発中に対地攻撃能力を要求されて大きく設計変更されたため、UH-1の面影はあまりない。
前面投影面積を抑えるため、胴体は幅1m未満にまで細長く絞られ、コックピットはタンデム複座式となった。
武装は機首前方、及び胴体横のスタブ翼にハードポイントを設けて設置されている。
これらの特徴は、以降の攻撃ヘリコプターにも一般的な構成として定着している。
当初の運用者であったアメリカ陸軍では、後継のAH-64に置換され退役したが、アメリカ海兵隊では現在でも最新型のZ型が運用されている。
また、日本や韓国・イスラエルなどの同盟・友好国軍でも用いられている。
開発の経緯
開発が始まった1960年代当時、アメリカはベトナム戦争の渦中にあった。
当時のベトナムは、道路も鉄道もほとんど未整備であり、機械化部隊の投入が困難であった。
このため、アメリカ軍は機動力の不備を補うためにヘリボーン戦術を採用し、兵員や資材を運ぶ輸送ヘリコプターの護衛や火力支援には、UH-1などの多用途ヘリに機関銃やロケット弾を搭載した「ガンシップ」と呼ばれる武装ヘリコプターを投入していた。
しかし、多用途ヘリを転用したガンシップにはさまざまな問題点があることが判明し、専用の攻撃ヘリコプターが必要とされるようになった。
1960年代半ば、アメリカ陸軍は「AAFSS(新型空中火力支援システム)」という名称で攻撃ヘリコプターの開発を決定、各社に競争試作を呼びかけた。
これに応じたロッキード社の案がAH-56「シャイアン」として一度は制式採用されたが、AH-56は、メーカーの技術的未成熟などに由来する金の壁から実用化が頓挫。
そのため、陸軍はインドシナ戦線に即時投入できる機体の競争試作を改めて実施する事となった。
「既存の機体をベースにしたものであること」という条件で出されたこの競争試作に、ベル社はUH-1Cをベースとした「モデル209」を提示。
他の数社から提示された機体と共に選考にかけられた結果、モデル209が制式採用され「AH-1"コブラ"」と命名された。
当初、本機はAH-56が配備されるまでの一時的な代替機として配備されていた。
しかし、AH-56の実用化が断念されたため、現代に至るまで長きに渡って使われ続けている。
スペックデータ
乗員 | 2名(前席:射撃手、後席:操縦士) |
全長 | 16.18m |
全高 | 4.09m |
主ローター直径 | 13.41m |
回転円盤面積 | 141.2㎡ |
空虚重量 | 2,993kg |
最大離陸重量 | 4,536kg |
エンジン | ライカミング T53-L-703ターボシャフト(推力962kW)×1基 |
速度 | 123kt(最大) |
海面上昇率 | 494m/min |
実用上昇限度 | 3,710m |
ホバリング高度限界 | 3,720m(IGE) |
航続距離 | 275nm |
兵装 | M134 7.62mm機関銃×1門またはM129 40mmグレネードランチャー×2門(AH-1G) M197 3砲身20mm機関砲×1門(AH-1S) TOW対戦車ミサイル×最大8発 JM261 ハイドラ70ロケット弾ポッド(ロケット弾19発)×2基等 |
バリエーション(陸軍型)
- ベル209:
AH-1Gの原型機。
エンジンやトランスミッションなどはUH-1から流用している。
また、民間向けとして販売された機体(森林警備用として販売)にもこの型番が使われている。
- AH-1G"HueyCobra(ヒューイコブラ)":
初期型。ベトナム戦争における対ゲリラ戦闘に対応した兵装が搭載されていた。
- YAH-Q:
Q型の試作機。
- AH-1Q:
旧東側(ワルシャワ条約機構)各国軍(ソ連軍・東ドイツ軍など)との対戦車戦闘向けに改修された型。
TOW対戦車ミサイルの運用能力を有し、機関砲をターレット状に変更している。
- AH-1R:
G型のエンジン出力向上型。S型のテストベッド機。
- YAH-1S:
AH-1Sの試作機。Q型ベース。
- AH-1S:
AH-1Qの改良型。
エンジンやトランスミッションが強化された他、風防形状の変更や搭載機器の改良等の改修が行われた。
新規生産のほか、一部のAH-1GとAH-1Qが改修された。
- AH-1P:
AH-1S準拠の新造機で、キャノピーと計器を改善した。旧称「量産型AH-1S」
- AH-1E:
機関砲と照準器をターレットに装着して攻撃の自由度を強化した型。
旧称「アップガンAH-1S」
- AH-1F:
赤外線抑制装置の追加やレーザー測距器、火器管制装置を搭載して隠密性を向上させるなどした型。
旧称「近代化AH-1S」
- AH-1F C-NITE:
AH-1Fに暗視照準器を追加した夜間戦闘対応型。通称「コブラナイト」
- AH-1S(陸上自衛隊仕様):
実質的にはAH-1EまたはAH-1F C-NITEに相当するモデル。富士重工業でライセンス生産された。
武装を20mmM197三砲身ガトリング砲・TOW対戦車ミサイル・JM261ハイドラ70 2.75inロケット弾ポッドに置換。
- TH-1S:
S型をAH-64の操縦士訓練用に改修した練習機型。
- YAH-63:
ローターブレードを4枚化するなどした発展型試作機。AH-64に破れ不採用。
- QAH-1:
アメリカとカナダが共同開発した無人機モデル。
- ベル309"KingCobra(キングコブラ)":
AH-1の実験機。エンジンはT-55-L-7Cを搭載。
バリエーション(海兵隊型)
- AH-1J"Sea Cobra(シーコブラ)":
海上飛行を考慮してエンジンを双発にし、出力の増加を行った海兵隊モデル。
- AH-1T:
エンジン出力の強化やBGM-71「TOW」対戦車ミサイル発射機能の付加、胴体を延長して燃料搭載量が増加した型。
- AH-1W"SuperCobra(スーパーコブラ)":
エンジンをUH-60やAH-64と共通のT700にした型。
AIM-9「サイドワインダー」、FIM-92「スティンガー」、AGM-122「サイドアーム」対レーダーミサイル、AGM-65「マーベリック」空対地ミサイル、AGM-114「ヘルファイア」対戦車ミサイルの運用が可能。
- AH-1Z"Viper(ヴァイパー)":
AH-1Wの改修型。
ローターを4枚ブレードにして飛行能力を強化、MFDや新型照準器(AN/AAQ-30「ホークアイ」目標照準システム(TSS))の搭載などにより戦闘力の強化が行われている。
- AH-1P:
AH-1Wのトルコ軍での呼称。
運用国
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