連邦の場合
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「最低賃金 (アメリカ)」の記事における「連邦の場合」の解説
連邦最低賃金は、公正労働基準法の改正により行われる。改正は、上下院での過半数の獲得と大統領の署名によって発効する。具体的な手続きは以下のようになっている。 法案提出と法案番号付与 下院議会委員会での議論、パブリック・ヒアリング、修正、委員による投票 下院議会での議論と修正、下員議員による投票 議会予算局 (CBO) による調整 上院議会委員会での議論、パブリック・ヒアリング、修正、委員による投票 上院議会での議論と修正、上員議員による投票 大統領による承認 公布、施行 しかしながら、他のイギリスややドイツのように毎年ないし数年ごとに改定することを定めておらず、実際に2009年以降改正は無い。また、水準に関しても、消費者物価指数に連動するなどといった明確な基準もない。 今日まで、共和党と民主党の政治的な駆け引きによって決められており、他の国のように、労公使3者による審議会などで決められておらず、連邦労働省も関与していない。特に、大統領が強い拒否権をもつことから、たとえ両院議会で最低賃金の改定が可決したとしても最終的な決定にはならない可能性すらある。 また、アメリカの最低賃金はG7の中で最低であり、その理由に前述した政治的駆け引きのみで行われているだけでなく、国民間で自由な市場経済を標榜する風潮があることも指摘されている。 最低賃金額改定には以下のエピソードがある。 1938年の制度創設当初 1時間当たり25セントに設定されたが、この際には以下のような経緯があったとされる。 最初の原案では時間当たり 40 セントという水準が示されたが、議会での審議の過程で経過的に段階をつけて最低賃金が決められることとなった。創設当初の水準を25セントとし、次の6年間は30セント、満7年を経過した後に40セントとすることになった。 なお、40セントという水準は別にはっきりした根拠があって決められたものではないとする。当時の時間当たり平均賃金が 62.4 セントであったので、だいたい3分の2の水準であった。 直近の改定(2007年) 民主党のクリントン政権下 (1993年1月 - 2001年1月) において、それまでの4.25ドルから1996年4.75ドル、1997年に5.15ドルと引き上げた。しかし共和党のブッシュ政権下になってからは、改定の動きは停止した。民主党議員が度重なり最低賃金の改定法案を議会に提出したが改定は2007年まで実現することがなかった。 ブッシュ政権下の2007年に改定が実現したのは、2006年の秋の中間選挙で被用者や労働組合を支持基盤とする民主党が躍進し、上下両院とも過半数を制したことが大きく影響している。 そして、2007年の引き上げと2008年と2009年に予定されている引き上げは、「2007年米軍整備、退役軍人支援、カトリーナ復興支援、イラク責任予算法」の8102条において、1938年公正労働基準法の規定を改訂する形で行われた。 なお、企業寄りの議員には、最低賃金引き上げによる中小企業の負担緩和策も行うべきという見解が寄せられ、中小企業を対象とした減税策と一緒にした法案に修正された上で審議されることとなった経緯もある。 2009年以降は、オバマ政権では2014年にホワイトハウスが連邦議会に対して最低賃金引上げを促す声明をうけた民主党議員による法案提出、2016年大統領選挙時の民主党予備選挙、バーニーサンダース候補による15ドル賃金の政策提言があったが、連邦最低賃金は現在まで変更されていない。 しかし、2019年1月19日、バージニア州選出下院議員であり、連邦下院議会、教育・賃金委員会委員長のボビー・スコットが賃金引上げ法案「the Raise Wage Act(H.R.582, S.150)」 を190人の民主党議員の署名をもって下院議会に提出した。法案は2024年までに段階的に最低賃金を現行の7.25ドルから15ドルに引き上げるとともに、7.25ドルよりも低く抑えられているチップを受け取るレストラン等の労働者の最低賃金を標準的な労働者の最低賃金とそろえることを提案している。同年3月6日に連邦下院議会、教育・賃金委員会(Education and Labor Committee)の決定により、下院本会議の審議に移ることになった。連邦下院議会、教育・賃金委員会は賛成多数で法案を下院議会に送ることを可決した。 2019年7月18日、下院で連邦の最低賃金を当初法案より1年遅らせた2025年まで段階的に時給15ドル(約1600円)に倍増させる法案が賛成多数で可決された。何故なら、2018年11月の中間選挙の結果を受けて、連邦下院議会および下院議会委員会は、賃金引上げ法を支持する民主党が多数派となったからである。現在は(3)の段階を通過したにすぎない。しかしながら、可決時点での上院では引き上げに反対の考えを持つ共和党が多数派である為、法案成立の見通しは難しい。 しかしながら、民主党としては2020年の大統領選と同日に行われる上院議員選挙で主要経済政策の一つとしてアピールをして、有権者の支持拡大による、上院の多数派獲得と、大統領を民主党出身に変えようと目指した。そして、その両方を実現したことで最低賃金引き上げの可能性が高くなった。 そして、前述したように「米国救済計画」に連邦最低賃金を15ドル引き上げることを含めたが、最終的に削除されて可決されている。しかしながらこの法案とは別に、個別に時給15ドルを引き上げる法案を提出することは可能であるが、議事妨害(フィリバスター)を阻止するためには60議席以上の上院議員を必要とし、共和党議員の一部の協力が無ければ、法案成立を諦めざるない状況となる可能性がある。 更に、前述したように、ホイヤー下院院内総務より、5年かけて15ドルへ引き上げる法案の審議を近い将来始める認識を示している。一方、民主党議員の中には引き上げに慎重な者もおり、慎重派の1人であるジョー・マンチンは、15ドルでなく11ドルへの引き上げを主張している。 他方、共和党上院議員の中には、引上げに賛成するものの、民主党の慎重派議員と同様、引き上げ目標額を引き下げるよう反対する者が一部おり、共和党上院議員であるミット・ロムニーとトム・コットンは時給15ドルではなく、時給10ドルへの引き上げに賛成しており、2021年2月23日には、「Higher Wages for American Workers Act(アメリカ労働者のための高賃金法案)」 を発表している。またこの法案の内容は、従業員20人未満の企業の10ドルまでの段階的に引き上げる年数を20人以上の企業より1年遅らせるほか、若年者時給を4.5ドルから6.0ドルへの引き上げ、不法移民労働者の取り締まりの明記等、前述の賃金引上げ法案「the Raise Wage Act(H.R.582, S.150)」との乖離が大きい法案となっている。
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連邦最低賃金については公正労働基準法(FLSA)に基づき、最低賃金制度履行のための調査官をおいている。また、州や市、郡の最低賃金制度はそれぞれの自治体で取り締まる為、連邦としては管轄してない。 公正労働基準法(FLSA)は、最低賃金制度の履行確保における連邦労働省の担当部局、及び監督業務を行う調査監督官の設置と役割について規定している。 連邦労働省は、最低賃金制度について履行を監督する部局として「賃金・労働時間局(Wage and Hour Division)」を設置し(FLSA 4 条(a))、賃金・時間局・局長(Administrator, Wage and Hour Division)に賃金、労働時間その他の労働条件に関するデータ収集及び事業所の調査、臨検の権限を与えている(FLSA 11条(a))。また、調査、臨検の担当者として調査官を設置することを規定している(FLSA11条)。 賃金・労働時間局は全米各地、200箇所に事務所があり、2015年現在で調査官の人数は995人となっている。なお、労働長官は、FLSAに関連した業務について、議会への年次報告書を提出する義務を負っている(FLSA 4 条(d))。 調査官は、以下の方法で、最低賃金法の取り締まりを行っている。
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