辞書・事典類
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『アップルトンのアメリカ人名事典』 1887年から1889年にかけて出版された全6巻の『アップルトンのアメリカ人名事典』は、アメリカ史上最初の本格的な人名事典として、研究者や学生に愛用されていた。しかし出版されてから30年後の1919年、植物学者のジョン・バーンハートがこの事典の信頼性に疑義を呈する論文を発表する。バーンハートはその論文で、この事典に記載されている何人かの植物学者が架空の人物である可能性を示唆した。これをきっかけに調査がはじまり、その結果、200以上の記事が実在しない人物に関するものだと判明した。その多くは、19世紀に新大陸を調査したとされるヨーロッパの架空の科学者だった。虚構記事を多数含むことが判明したのち、この事典は多くの図書館から撤去された。1968年にはゲイル・リサーチ・カンパニー (Gale Research Company) がこの事典を再版したが、この際にも虚構記事はそのままにされ、虚構記事を多数含むことを知らせる注意書きも付け加えられなかった。虚構記事を執筆した人物については知られていないが、恐らく原稿料を水増しするために記事をでっち上げたのだろうと推測されている。 ズズクスジョアンウ(英語版) 1903年に出版された『音楽愛好者のための事典』には「ズズクスジョアンウ」 (Zzxjoanw) という項目が掲載されており、これはマオリ語で太鼓を意味するとされていた。この記載は1950年代の版まで続いたが、マオリ語にはそもそも Z, X, J で転写される音素が存在しないことから、これが虚構記事であることが判明した。 リリアン・ヴァージニア・マウントウィーゼル 代表的な1巻本百科事典として知られる『新コロンビア百科事典』の1975年版には、「リリアン・ヴァージニア・マウントウィーゼル」(Lillian Virginia Mountweazel) という架空の人物記事が含まれている。記事によると、マウントウィーゼルは1942年、オハイオ州生まれの噴水デザイナー兼写真家だった。田舎の郵便受けの写真を撮り続けた事で知られ、1973年に雑誌『可燃物』に依頼された仕事中に爆死したとされていた。 『ニューグローヴ音楽大事典』 1980年版『ニューグローヴ音楽大事典』の第1刷には、虚構記事が2項目含まれていた。ひとつはイタリアの架空の作曲家「グリエルモ・バルディーニ」(Guglielmo Baldini) についてのものであり、もうひとつは「ダグ・ヘンリーク・エスロム=ヘレロプ」(Dag Henrik Esrum-Hellerup) というデンマーク出身の実在しない作曲家の記事だった。フルート奏者、指揮者でもあったエスロム=ヘレロプは、クリスチャン9世に仕えた宮廷音楽家を父とし、1850年に作曲されたオペラ(現在では散逸)はスメタナにも激賞されたとしていた。「エスロム=ヘレロプ」という姓は、コペンハーゲンにある二つの鉄道駅の名前からとられたものだった。この版ではもうひとつの虚構記事「ラザーニェ・ヴェルディ」(Lasagne Verdi) も計画されており、編纂者の間では原稿が回覧されていたが、印刷所に回される直前に撤回された(「Lasagne」とはラザニアのことである)。日本語版では、編纂者の間で虚構記事の存在が周知され、慎重に取り除かれたといわれている。 アポプドバリア 1986年にドイツで出版された『新パウリー古代百科事典』には、「アポプドバリア」(Apopudobalia) という古代ローマに存在したとされる架空のスポーツの記事が含まれていた。記事によるとこのスポーツは現代のサッカーに似ており、ローマ軍団の間で人気を博し、それがやがてグレートブリテン島に伝わったとされていた。 石ジラミ(英語版) 1983年にドイツで出版された医学辞典『シレンベル臨床辞典』には、「石ジラミ」(Steinlaus, 学名は Petrophaga lorioti)という架空の生物に関する記事が掲載されている。この生物はもともと、漫画家のヴィッコ・フォン・ビューロウ (Vicco von Bülow) が1976年に考案したもので、学名はビューロウのペンネームである「Loriot」から付けられている。設定によるとこのシラミは、1日あたり28キログラムの石を食い荒らすとされている。石ジラミの記事は1996年にいったんは削除されたが、読者からの要望で翌年には復活し、その際にはベルリンの壁崩壊との関連を述べた節が追加されている。 エスキヴァリエンス 『新オックスフォード米語辞典』の2001年版には、「esquivalience」(エスキヴァリエンス)という見出し語の虚構記事が含まれていた。これはCD-ROM版の著作権を守るために混入されたもので、編纂者の一人であるエリン・マッキーンもこれが虚構記事であることを認めている。この語の意味は、「意図的に自分自身の公的責任を逃れること」と説明されている。 酢豆腐 かつて日本の多くの国語辞典には、「酢豆腐」に「生豆腐に酢をかけた食品」というまったく誤った語釈を与えていた。これは、他の辞書編纂者が無検証のまま転載したためで、『広辞苑』の初版(1955年刊行)あたりで指摘されるまでいくつかの辞書に同様の記述が見られた。本来の酢豆腐は落語ネタ『酢豆腐』の若旦那に由来し、半可通を意味する言葉であり酢豆腐という食べ物も実在しない。 なお『広辞苑』では第二版(1969年)から正しい内容に修正されているが、現在でも『角川国語辞典 新版』(1969年)など、語釈が誤ったままの辞書もある。 『いちばんくわしい日本妖怪図鑑』 1972年出版の子供向けの妖怪図鑑でベストセラーにもなったが、伝承として確認できない妖怪も複数掲載されている。塗仏を「びろーん」の名前で紹介、ぶよぶよした体で人の顔や首を撫で、塩をかけると消え去るとしているが、元より塗仏は名前と姿以外の概要は不明である。名前についても著者の佐藤有文は江戸か平安の絵巻に書かれていたものと発言しているが、彼の創作であると指摘されている。同書は解説している妖怪と関係のない絵画が掲載されていたり、映画に登場した妖怪の項目もあり、スチル写真を掲載している。ただ、こういった妖怪本は当時としては他にもみられたことだった。
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