聖貝祭
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/13 06:10 UTC 版)
聖貝祭(Miatungusu)はサアロア族特有の祭儀であり、第2次世界大戦後は1951年に一回しか行わなかった。1993年にまた復活したが、時代に合わせて式次第は変化した。本来は2年或いは3年に一度、農産物を収穫後に行われる祭りだった。現在では伝統や精神を忘れないよう、毎年2月下旬または3月上旬に行われるようになった。昔、祭りの期間は各部落は6日間連続して行ったが、現在はほぼ1日だけになり、「濃縮」されている。祭場と日程は2つある。1日目は桃源里四社部落祭場で雁爾社の聖貝祭を先に行ってから、2日目は高中里美蘭部落祭場で美壠社と排剪社の聖貝祭を続いて行う。サアロア族にとって最大の宗教儀式である。 昔々、サアロア族の祖先は東方にある「Hlasʉnga」と呼ばれる土地に、「kavurua」と呼ばれる小人族と一緒に暮らしていた。小人族kavuruaは、サアロア族に色々な知識を伝授してくれる存在であり、両者は仲良く暮らしていた。だがサアロア族の人口が増加するにつれ、「小人族の生活の妨げになってはいけない」との考えから、サアロア族はやむを得ず、東方の地を離れることにした。小人族は別れを惜しみ、自らが大切にしていた「聖なる貝」(takiarʉ)をサアロア族に授けた。12個ある「聖なる貝」には、それぞれ別々の神様が宿るとされ、サアロア族を守る貝に感謝の気持ちを込め、開催する祭りは聖貝祭(Miatungusu)である。 12名聖なる貝の神様 勇猛の神様 Pava’asu 勇敢な戦士になれるように 狩猟の神様 Paumala Papa’a 捕獲が上手くいくように 健康の神様 Pamahlatʉra 無病息災 食べ物の神様 Paumala A’anʉ 豊かな食べ物が食べられるように 魔除けの神様 Hlalangʉ Ihlicu 悪霊が来なく、憑依できないように 勤勉の神様 Patama’iiarʉ 勤勉に働けるように 無事の神様 Pamavahlaʉvaʉ 無事になれるように 怠け癖を直す神様 Kupamasavaʉ やる気満々になれるように 状元の神様 Paumala Ngahla 必勝祈願 守りの神様 Pamaia Tuhluhlu 部族の人を守っている 早く賢い神様 Papacʉcʉ Pʉngʉ 聡明になれるように 風雨の神様Sipakini Varatʉ Hlauhlahlʉ 五風十雨になれるように 通常は頭目(rahli)が保管し、 小さな水甕(kapua)の中に安置し、家の後ろの土中に埋めている。不思議なことに、聖なる貝は魔術を使い、甕の中から「外出」し、故地である東方の地に里帰りするという。しかし、聖貝祭の10日前、 祭典の準備が始まる時に頭目が水甕を調べれば、聖なる貝はちゃんと戻ってきているという。 サアロア族のうち、美壠社の先祖が最後に東方の地から離れた。そのため、小人族に聖なる貝を授けられたのは彼らのみであり、聖なる貝は美壠社のみに伝えられ、祀られていた。排剪社と雁爾社の者はそれを羨ましがり、こっそり数個の貝を盗み、美壠社を真似て聖貝祭を開催した。そのため排剪社と雁爾社の聖貝祭では、公開的に聖なる貝を見せない、聖なる貝を投げ、拾う儀式もない。 かつてある老人は聖貝祭を面倒くさがり、布切れで聖なる貝を包んで川に捨てた。だが聖なる貝は流されないばかりか、川の流をも変えてしまった。老人は驚き、聖なる貝への不敬を恥じたということである。 伝統的な聖貝祭(Miatungusu)6日間の日程: 1日目 mariara’uhla 神様を迎える祭儀:夜明け前、男性陣は集会所(tapuhlaihlia)に集合する。祭司と助手祭司の2人は集会所の外で祖霊に酒を捧げ、神迎え(makuakuaihlicu)を執り行ってから、集会所の中に戻る。 miavavutau 甕開け:初祭(malalalangʉ)がここから始まる。助手祭司は酒の甕の蓋を開け、一方、祭司は獣肉を1枚ずつ切る。男性陣は初祭の歌(lualikihli)を唱える。 pitatamu 灌祭:祭司は人差し指を酒に浸し、酒の滴を振り撒いて「tamu'u!」(ご先祖様!)と呼ばわる。 mailiili 祭司肉嘗祭:祭司は肉を持ち、助手祭司に食べさせるふりをして、自分が肉を食べる。そして、祭司は肉を持ち、自分が肉を食べるふりをして、助手祭司に食べさせる。これを4回繰り返す。 paruacuru 男衆肉嘗:肉を配り、男性陣が肉を頂く。 pialakngahlu 衆人礼酒飲み:男性陣は順番に共用のコップで酒を飲む。 tumahliasasangaru 慰労:歌い踊る。司祭はリーダーとして皆を率い。男性陣は団結を表すため、黄藤の茎で作った輪を持って円陣を組み、躍りながら、palitavatavali(人数を数える歌)やmiatungusu(聖貝祭)の歌を唄う。祭司は若い世代に、サアロア族生活圏の地名を教えあげる。先祖代々受け継がれてくれた土地を忘れないようにするためである。 puasipi 火付け:囲炉裏に炭火を熾す。makinikuli’i 豊猟祈願:木の摩擦熱による発火法で火種を作り、豊猟を祈願する。 2日目 祭司と助手祭司は、一世帯ごとに、薪や油や米など祭りの開催に必要な物を徴収する。 papaci taruramʉalʉisa(papaci taruramʉ)猪を刺し殺す祭:頭目(rahli)家族出身の男の子は、集会所の屋根の上に座り(putaliri)。男性は黄藤の茎で作った輪を持って円陣を組み、躍りながら歌っている時、頭目が男の子を屋根から背負って下げ、男の子は弓で矢を射って、側にある男性2人は槍で猪を刺し殺す。続いてtaruramu Hlasʉngaという神様に捧げる歌を唄う。猪の頭部を切断し、集会所の中にある大黒柱に吊り、神様に捧げる(ungu'umaungu/maunguvungu'u tapuhlaihlia)。papaci taruramʉalʉisaが終了する。女性はそれぞれ持参した竹切れを刺殺された猪の血に浸した上で、竹筒に挿す。これは出席を表すもので、ここで女性陣は祭場に入り、祭りへの参加を許される。 3日目 maasuhlin takiarʉ 聖なる貝を酒に浸す:祭司は聖なる貝を小さな水甕から取り出す(ruapuhlu takiarʉ)。そして、聖なる貝を酒に浸して洗い、その色の変化を観察し、赤色に変化したら貝の神様が酔い、満足しているという。祭司は未婚の少女と共に、赤い生地に包まれた12個の聖なる貝を投げ出し、男性は一斉に押しかけ、聖なる貝を奪い合う。拾えたら幸運が授かるという。未婚の少女は一つ一つの輪を男性に配り、男性は人と人の間に、輪を持って繋がり、踊り唄う。続いて女性も加わり皆で踊り唄う。祭司はアカザ(kuarʉ)の実を持ち、祈ってから一人ずつに配り、頭の上に載せ、アカザで無病息災を願う(maakuarʉ)。 4日目 助手祭司は糯米の飯と酒を祭司に差し出し、祭司に食べさせる。 kavuvuru 戦の祭:男性は首狩り(maruvuungu)をする。首を持ち帰り、cakʉarʉという茅で建てた低い祠に安置し、首の持ち主だった者の魂が不運を持ち来ないように祭司は祈る。男性は一人ずつ、首に指で酒を付け、掛け、「tamu'u!」と呼び、首に敬意を表す。男性陣は囲んで弓を持ち、踊りながら、musuahlaという戦果を報告する歌を唄う。 ✽現代はもちろん首狩りの慣習は無い。代わりにプラスチック製の首を使う。 5日目 paria’i ’ihlicu 悪霊を追い払う:火矢を四方に射る。女性は集会所の囲炉裏から取り出した炭火の粉を撒く。男性は弓で一軒ずつの家の入り口の柱や壁を叩いて魔除けをする。 6日目 takuahluahlupu 団体狩猟:男性は皆で山に行き、猟をする。獲物の有り無しを問わず早めに帰り、女性が用意した餅や酒など頂く。狩った動物の頭は全て慰謝料として祭司に贈り、肝臓は聖なる貝の神様に捧げる。 ✽現代のMiatungusuは過疎化と近代化のため、かなり簡略化されている。 聖貝祭で守るべき忌みと規則: 1.サアロア族の集会所(tapuhlaihlia)は男性限定、女性禁制。前にある祭場で聖貝祭を行う。茅葺の高床式建築で、邪気払いとして屋根にセッコク(石斛、着生植物、ラン科、ラアロア語:vahlituru)wo飾る、最も神聖的な空間である。カラムシ(ʉrangʉ)は御守り(hlalangʉ)として屋内に掛けられる。教育や会議や祖霊迎えなどはここの中で行なう。 2.儀式中、大騒ぎや無駄話、くしゃみ、放屁の禁止。 3.サアロア族は全員参加すべきである。欠席は禁じる。 4.男性集会所の囲炉裏にある火を消してはいけない。 5.飼っている動物は、祭場に入れない。 6.身に着けている帽子や衣装や飾り物などが地に落ちると命を失う。 7.子供は勝手に祭場に入れない。 8.聖貝祭の期間、魚を食用するのは禁止。仮に魚を食せば、蓄えた食料は川の流れのように流れて消えてしまう。
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