無冠詞の慣用表現
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/06 09:16 UTC 版)
可算名詞の単数形には限定詞が付くのが原則であるが、慣用句・決まり文句などにおいて、冠詞が付かないことがある。 施設・建物・場所などの機能が重視される場合には冠詞を使用せず、例えば、I'm going to school.(「今から学校に行くところなんだ」)、She goes to church every Sunday.(「彼女は毎週日曜に教会に行く」)、The guy went to prison.(「あいつは監獄入りしたんだぜ」)、My friend is in hospital.(「友人が入院してるんです」)などと言う。 機能が重視されるケースとしては、交通手段や通信手段も挙げられる。例えば、by car(車で)、by train(電車で)、on foot(徒歩で)、by fax(ファックスで)、by e-mail(メールで)など。それぞれ、具体的な施設や物を指す場合には定冠詞などの限定詞を用いる。例えば、this school、the hospital、my car など。これらは(on foot を除き)「by」以外の前置詞の後に来る(その前置詞の補部になる)場合は可算名詞であるため、限定詞が付く。 同様に、bed の通常の機能を表す場合には無冠詞で、He is lying in bed.(「彼はベッドに横たわっている」)、They went to bed.(「彼らは就寝した」)などと言う。具体的な物体としてのベッドを指示する場合は、Stop jumping on the bed!(「ベッドの上で飛び跳ねるのは止めなさい!」)、I need to buy a new bed.(「新しいベッドを買わなきゃ」)、My bed is pretty big.(「ボクのベッドは結構大きいんだよ」)のように限定詞を用いる。 名詞が官職・地位・役割など、人間の属性を表す場合は、無冠詞である。例えば、Lucy is director of the kindergarten.(「ルーシーはその幼稚園の園長さんです」)、We elected Jim (as) captain.(「僕たちはジムをキャプテンに選んだ」)、Linda has turned traitor.(「リンダは裏切者となった」)など。ただし、「リンダは裏切者だ」のような具体例を指す場合には Linda is a traitor. となる。 breakfast、lunch、dinner など、日常の食事名は無冠詞で表される。例えば、She usually has breakfast around seven.(「彼女は通常、7時頃に朝食をとります」)、I had lunch at McDonald’s.(「マクドナルドで昼食をとりました」)、I’ll be back for dinner.(「夕食には戻ります」)など。しかし、形容詞などの修飾語句が付いて、食事の状態・様子が強調される場合には可算名詞として扱われる。例えば、We ate a big breakfast this morning.(「今朝はたっぷり食べました」)、I had a quick lunch at McDonald’s today.(「今日のお昼はマクドナルドでさっとすませました」)、The dinner he cooked was delicious.(「彼が作った夕食はおいしかった」)など。 「last」(この前の...、先...)や「next」(この次の...、来...)+時間の単位を表す名詞の場合、無冠詞となる。例えば、last year(去年)、last week(先週)、next month(来月)、next week(来週)など。しかし、過去のある時を基準にする場合は定冠詞が付く。例えば、the next day(その翌日、次の日)など。 「man」が総称的な「人間」を指す、つまり mankind や the human race(人類)と同義になるか、または男性の総称として用いられる場合、無冠詞である。同様に、「woman」が女性の総称として用いられる場合にも無冠詞となる。しかし、これらは硬い表現である。 対句では、各名詞の意味よりも句全体の意味が意識されているため、無冠詞となる。例えば、day and night(昼も夜も)、young and old(老いも若きも)、hand in hand(手に手を取って)、face to face(面と向かって)、from cover to cover(本の始めから終わりまで)、from father to son(先祖代々)など。Like father, like son.(「この親にしてこの子あり」)ということわざもある。 2つ以上の名詞を「and」でつなぐ場合、それが1セット(ひとまとまり)であれば、冠詞は最初の名詞にのみ付ける。例えば、a father and son(父と息子)、a brother and sister(兄妹、姉弟)、a cup and saucer(受け皿つき茶わん)、a knife and fork(ナイフとフォーク)など。また、名詞が等位接続されている限り、必ずしも1セットではなくとも、冠詞を省くことができる。例えば、「ナイフとフォークとスプーンが必要ですよ」と言いたい場合、You need a knife, a fork, and a spoon. も You need a knife, fork, and spoon. も可である。 名詞+数詞の語順で部屋番号・問題番号などを表す際には無冠詞である。例えば、room 47(47号室)、gate 31(31番ゲート)Please open page 29.(「29ページを開いて下さい」)など。 性質の違いに重点が置かれる場合、例えば She is more sister than friend to me.(「彼女は友達というより姉妹のような存在なの」)などと無冠詞で言う。 原則として、唯一の存在を指す際には定冠詞が使用されるが、無冠詞で大文字で始まる形、つまり固有名詞扱いになっている名詞もある。例えば、一神教、特にキリスト教の神は、the god とは言わず、God として固有名詞扱いされる。また、mother/mom (mum)(母親)および father/dad(父親)が単数形の普通名詞として使用される場合は冠詞を伴うが、自分の親を指す場合には、無冠詞で大文字の Mother/Mom (Mum)(母さん/ママ)および Father/Dad(父さん/パパ)とすることがある。例えば、Mother is not at home.(「母は留守です」)、I'm going to call Dad.(「パパに電話しようっと」)など。 天体のうち、大文字で始まる古典語名(固有名詞扱い)には「the」を付けない。例えば、Mars(火星)、Venus(金星)など。 同一人物が複数の職業・役割を兼任している場合、a teacher and author(教師兼作家)、an actor, writer and director(俳優兼脚本家兼監督)のように、2つめ以降の名詞には通常、冠詞は付かないが、兼任しているという事実を強調したい場合、He is an actor and a director.(「彼は俳優で、しかも監督までやってるんですよ」)と言うこともある。 相手に呼びかける際には冠詞を使用しない。例えば、Come here, boy!(「こっちへおいで、ぼうや」)など。 スポーツチームの名称は、通常の文章では定冠詞「the」を伴うが(#定冠詞の語法を参照)、記事の見出しやチーム一覧など、簡潔さ・見易さが求められる場面では省略される。例えば、Ravens win emotional Super Bowl against 49ers や Romo, Giants avoid arbitration with two-year deal など。いずれも、記事の本文においては、Ravens、49ers、Giants に定冠詞、two-year deal などに不定冠詞が付いている。また、MLB.com の球団一覧ページでは球団名に冠詞が付いていないが、そこからリンクしている各球団の公式サイトのタイトルには The Official Site of The Boston Red Sox のように定冠詞が付いている。 外国語に由来する慣用表現のいくつかに、冠詞が全く使用されていないものがある。例えば、Long time no see.(「久しぶり」)、Nice boat.(「素晴らしい船だな」)など。これらは誤訳または外国人の話者を連想させるものである。
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