水質浄化対策
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"水の都"を自負する水戸市においては、親しまれる河川・湖沼づくりを環境目標のひとつにあげ、千波湖の水質改善に行政、市民団体が取り組んでいる。その取り組み例は以下のようなものである。 浚渫 アオコの発生原因となるリンを多く含んでいる底泥を浚渫によって取り除く事業が水戸市が主体となって1989年度から1992年度にかけて行われた。千波湖全域を浚渫船を使い湖底から深さ約40センチメートルを浚渫するという、総事業費が10億円の千波湖史上かってない本格的な浚渫であった。この事業により、約12万立方メートルの泥が浚渫された。 那珂川からの導水(千波湖導水事業) 水戸市渡里町に在る渡里揚水機場で取水した那珂川の水を渡里農業用水路を利用して桜川に導水し、更に桜川から千波湖に導水し、桜川と千波湖の水質浄化を図る事業である。1988年10月15日の通水式から始まり2020年現在も継続して行われている。施設整備は県と市が共同で行い、予算は7億8千万円であった。那珂川からの取水量は1日最大75600立方メートルで、千波湖には1989年度から2014年度間の平均で年間1295万立方メートルが導水されている。千波湖の水質浄化対策面では、この事業実施前の1987年度の千波湖の年度平均COD(ミリグラム/リットル)は、東側44.3、西側31.0であったのが、事業実施年度の翌1989年度では東側6.7、西側7.0と大きな効果が出た。なお、導水で渡里農業用水路を利用するのは霞ヶ浦導水事業が完成する迄の暫定利用、との扱いである。 2020年現在の導水のルートは次のとおり。 渡里台地土地改良区が持つ渡里揚水機場で那珂川から取水。 取水水は渡里農業用水路を利用し南流。 市営河和田住宅近くの桜川と渡里農業用水路の交差点の分水施設で桜川に導水。 桜川緑地の分水施設で桜川の西側を併流する水路に導水。 偕楽園公園拡張部内の新坂橋上流の取水施設で取水。 取水水は偕楽園公園拡張部内の暗渠を通り、同園内の月池に導水。 月池から出た水は千波湖西駐車場内の水路を抜けた後、以下に4分岐し千波湖に導水される。好文茶屋裏の池に流入後、千波湖に導水。(※水の一部は、池からの別の水路(=春雨川)で桜川に環流する。) 暗渠を抜けた後、好文茶屋近くの岸辺から千波湖に導水。 光圀像のある広場下の暗渠を通り、D51近くの岸辺から千波湖に導水。 光圀像のある広場下の暗渠を通り、ふれあい広場近くの岸辺から千波湖に導水。 上記4つの箇所の位置は地形・地質節の「図(千波湖水流入出状況図)を参照 3.桜川分水施設(河和田)画像左上流部 4.桜川分水施設画像右はラバーダムで堰き止められた桜川上流部 5.千波湖取水施設画像左上流部 7:西駐車場の水路画像奥上流部 好文茶屋裏の池からの千波湖導水部 D51近く岸辺の導水水噴出箇所 流動促進装置の設置 超音波とオゾンでアオコを殺藻しつつ水流発生装置(=ジェット・ストリーマー)により湖沼内の流動を促進させる装置を10基置き、水質の改善を図った事業を1997年12月から開始しており、2020年現在も継続実施されている。 この装置は長崎市の環境設備等メーカーのマリン技研が開発・設置したものである。同社が1997年8月20日に特許出願・取得したものであり(発明の名称:水域浄化装置 特許番号:特許3267904/公開番号:特開平11-057699)、"アオコキラー"との商品名がつけられている。装置の仕組みは、ジェット・ストリーマーにより水中のアオコを筒体に吸入し、筒体内で超音波を照射しアオコを殺藻、更にオゾン空気を混入させアオコの毒性を分解・軽減させ、筒体から吐出させる、というものである。これによりアオコの殺藻を行いつつ、水の流動を促進させて殺藻したアオコが湖沼底に沈降する(沈降したアオコはヘドロ化し湖沼汚濁の要因となる)のを防ぐ効果が出る。 千波湖内ジェットストリーマー(流動促進装置) ジェットストリーマー(流動促進装置)の位置 流動促進装置(湖南東側) 事業発足当初、この装置一式はスワンボート型のボディを上に被せた状態で浮かべられていた。その為、無人のスワンボートがいつも湖面に点々と浮かんでいる、という光景が長らく千波湖にあった。2018年に水戸市はヨシなどの水生植物を植栽した人工の浮島で装置を覆うという、従来より自然を模した見た目に改めている。 噴水の設置 流動促進装置に加え水の流動を更に促進させる為、大噴水1基が西側に、小噴水が南側と東側にそれぞれ1基、計3基が設置されている。大噴水は打ち上げ高さ約20メートルで散水範囲直径約50メートルの能力を持ち、小噴水は打ち上げ高さ約6メートルで散水範囲直径約18メートルの能力を持つ。2010年2月18日に完成記念式典が行われた。運転時間は8時から22時までで、大噴水→南側小噴水→東側小噴水の順にそれぞれ10分づつ運転される。日没からはライトアップもされ、夜の千波湖を引き立たせている。 噴水の位置については詳細節地図上のNo.2、3、4を参照 千波湖内噴水 大噴水 小噴水(南) 湧水の導水 水戸はその地形地質特性から、湧水が湧き出ている箇所が市内に多くある。千波湖近くの逆川緑地も湧出地の一つで、笠原水道水源の湧水の他、緑地内数ケ所から湧水が湧き出ている。その逆川緑地内の湧水を千波湖に導水し水質改善を図る事業が1985年から始まり現在も行われている。逆川緑地内湧水の2020年現在の導水ルートは2つあり、ひとつは千波湖南側のハナミズキ広場奥の人工の滝から流れ出て「ハナミズキ広場ビオトープ」を通って千波湖に注ぐもの、ふたつめは茨城県近代美術館の庭園内に造られた人工の川から発し湖東端近くに注ぐもの、である。ハナミズキ広場奥からの導水は1985年4月22日の通水式から開始され、翌1986年に2箇所目からの導水が始まった。事業発足時の導水量(日量)はハナミズキ広場からの導水は約3000立方メートルで、湖東側は600立方メートルである。 湧水の落ちる滝の位置については詳細節地図上のNo.15を参照 2箇所の湧水流入位置は地形・地質節の「図(千波湖水流入出状況図)を参照 ただ、湧水は清浄である一方、湖沼の富栄養化を促進させる窒素を多く含んでおり、アオコ発生要因のひとつにもなってしまっている。この解決策としてビオトープの造成が成されている。 ビオトープの造成 千波湖に流れ込む湧水は清浄である一方、湖沼の富栄養化を促進させる窒素を多く含んでおり、アオコ発生要因のひとつにもなってしまっている。そこで、植物による窒素の吸収効果が期待できるビオトープが湖南岸に造成されている。 ビオトープの位置については詳細節地図上のNo.16を参照 最初のビオトープは2012年10月21日に千波公園内のハナミズキ広場の湧水が入っていた既存の池に造られた。面積は約130平方メートルで、セキショウ、ハナショウブ、ホタルイ等が植栽された。このビオトープ造成前後に行われた水質調査では総窒素(T-n)が28.7パーセント削減の測定結果が出て、ビオトープの効果が実証された。そのデータは下表のとおり。 千波湖ハナミズキ広場ビオトープ総窒素(T-n)検査結果表(mg/L)測定日測定場所ビオトープ入口 ビオトープ出口 2012年10月9日(=造成前) 5.46 5.61 2013年1月7日(=造成後) 5.50 3.92 またこのビオトープにおいては、造成前の生態系調査(2012年10月9日調査)ではスジエビのみが観測されていたのが、造成後調査(2013年1月7日調査)はスジエビに加え、ヨシノボリ、ウキゴリ、テナガエビ、ヌマエビの4種が新たに観測されていたり、2013年の春にはビオトープ内を泳ぐワカサギの群れが観測される等、生物多様性の促進効果も出ている。 2013年10月27日に2箇所目のビオトープが湖南岸の湖内に造られた。造られた場所は元々ビオトープとして整備されていたが、放置されておりアオコが発生する場所になっていた。事前に整地がされた後、当日はガマ、セキショウ、ハナショウブ等が植栽されビオトープとして再生した。そのビオトープ内の水質は、造成前の総窒素が136mg/L、総リンが11.8mg/Lであったのが、造成後は総窒素がおよそ1.8mg/L、総リンがおよそ0.6mg/Lに、また、ビオトープ外側の千波湖水質と比較しても、造成前は総窒素、総リンとも外側の数値を大きく上回っていたのが造成後は半分以下となるなど、水質改善の効果が認められた。 2014年10月25日には3箇所目のビオトープが前年造成ビオトープ西側のさくら広場前に造られた。以後も毎年ビオトープの造成、整備活動が行われ、2019年6月2日の活動時点で総延長約300メートルのビオトープが千波湖南岸に存在している。 これらのビオトープ造成・整備活動は行政と市民が協働する「新しい公共」での事業として、市民団体である千波湖水質浄化実行委員会の主催で行われた。実際の活動は水戸市と茨城県環境管理協会が協働で行っている「千波湖環境学習会」の参加者によって行われた。 千波湖ビオトープ ハナミズキ広場ビオトープ 南岸ビオトープ さくら広場前ビオトープ これら事業によっても千波湖の水質改善は充分では無い。そこで国土交通省が進めている霞ヶ浦導水事業では、那珂川と霞ヶ浦をつなぐ導水路から桜川への導水が行われるのに併せて、桜川から千波湖への導水も行うことで、千波湖の更なる水質改善を図ること事業内容の一つに挙げられている。2018年時点で霞ヶ浦導水事業は2023年の完了を予定している。
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