残されたメモ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 14:59 UTC 版)
捜査本部はその後、Oが残した多くのメモや文書を調べ始めている。公園で逃走時にOが投げ捨てたリュックサックには13枚のメモが入っており、学校教育全体への不満、人生への不安、自殺をほのめかす記述、更に「自分が日野小の事件をやった」との趣旨の文言も記されていた。 メモは日記風に心情を吐露したものとみられ、横書きの手書きで、犯行声明文と同様、書き損じを塗り潰した箇所が複数あり、平仮名書きが目立った。学校教育への不満が記された箇所では、「僕が高卒がいらないと強く言えば、学校はごまかした教育をへらす方向にかなりけっこう進むと思う」「少し判断ミスっただけで卒業のままだと大きく人生がかわりそうだ。少しのミスくらいで人生が変わるとは思えない」、「教育がこうしたんだという恨みがある。唯一の恨みかな」「ちゃんと単位を取って卒業したかったのに、単位が十分でないにもかかわらず無理に卒業させられた」「まちがいと学校に思わせることで、もっとていねいに教えようとすると思う」などといった記述があった。また、「社会のひずみが高校に現れて、それが僕に来て、それが日野小の児童にいった」「中学や小学校も高校に加担している」という文言もあった。 中には「日野小事件の犯人は私です」「この髪の毛を調べてもらえればわかります」とのメモもあった。文言に対応する毛髪はリュック内に入っていなかったが、捜査本部は「あとで手紙を書きます」などとした犯行声明に対応する告白ではないかと考えている。 一方、「神が速度を急がした」「他人にどんどん影響をおよぼすことが大事」など、意味のわかりにくい記述もあった。そして、何故日野小を選んで児童を殺害したのかに関する説明も、日野小との関連を示す記述もなかった。 そのほか、リュックサックからは宛名の記された20通以上の封書も見つかっており、日野小宛のものや、伏見区内の小・中・高校宛のものがあった。切手が貼付されて封もされ、投函するだけの状態となっていたため信書扱いとなり、捜査本部は検証令状を取るなどの手続きを経て開封している。その結果、封書の大半はOが通った伏見区内の小・中・高校の全ての担任と、関わりのある教師に宛てたものであることが判明。Oの小学校時代の教師で、日野小に当時勤務していた教師宛てのものも含まれていた。 「動機について述べさせていただきたい。僕が考える重大な結論にもなります。以前、京都府立の高校に通っていました。中退したいと考えていました。卒業後、高卒を取り消してもらうように頼んだ。話し合った。でも、納得できる妥協案が出なかった。卒業のままでいると、今回のような虚しい結果になります」というものや、「暴力と自殺を計画して暴力を決行しました。私はこの手紙を出して自殺を決行しようと考えています」「ごく普通の子を狙っていた。女の子はできるだけ避けようと思っていた」というものもあったほか、犯行後に記された「被害に遭った子のご家族には本当に申し訳ないことをしてしまいました。ご家族が愛情を込めて育てた子供と考えています。命の大切さは計り知れない。僕はどこまで許してもらえるか」というものもあった。 また、手書きのメモを自室のワープロに打ち込んで整理していた形跡や、事件後の新聞記事を集めていた形跡もあった。ホームセンターを訪れた際の、防犯カメラに映った自分の姿が新聞などに出たことには驚いたようで、「さすがにあの写真にはびびった」などと感想を記している。また、被害者男児Aの姉が現場に居合わせていたことを知って、悔いていると受け取れる記述もあり、「あとの報道で姉が一緒にグラウンドにいたみたいで、それを知っていたら、ためらっていたかもしれません」「姉に現実の悪い(きたない)部分を見せてしまいました。ご両親や姉が辛い思いをしているならと重大に受けとめています」などと記していた。 3月11日までに、犯行声明にあった「てるくはのる」は、Oの自宅にあった名言集『すぐに役立つ名言名句活用新辞典』(あすとろ出版)の索引にある格言の末尾の文字を、左から並べて繫ぎ合わせただけのものであることがわかった。自殺当日に家宅捜索した捜査本部が押収したメモに、殴り書きのような字で「名言名句416ページ」とあり、2月17日に行われた2回目の捜索で名言集も押収した。 体が食物によって成長する~ ヘルダー……298 身体から病気をおいだすことの~ エピクロス……286 完全なるホームを作るは~ 内村鑑三……139 カンとは頭のはたらきではなく~ 中村寅吉……345 艱難に会って初めて真の友を知る キケロ……93 甘美なイメージを甘美なものとして~ 伊藤整……89 — 現代言語研究会『すぐに役立つ名言名句活用新辞典』(1993年、あすとろ出版) 出典が判明すると野田正彰教授は、「自分の名前のコード名に意味を持たせないことは、〈若者文化圏〉の世界では違和感がなく、一般が知っているイメージを利用したグリコ・森永事件の『怪人21面相』のコード名とは、明らかに世代文化の違いがある」と述べたほか、上智大学の福島章教授(犯罪心理学)は「一番大事なメッセージなのに、自分で考えずに人の本からの引用しかできず、独創性が欠如しているように思える。長いこと引きこもりをしていて、独創的な発想やみずみずしい豊かな考え方ができなくなっていたのではないか」とした。 また、防犯登録の際に使用した偽名「山室学」も、別々の知人の姓と名を組み合わせたものであったことが判明している。
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