日本の寄付文化
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律令制以前から日本には、神の代理人である首長に初穂料、初尾料として収穫物・生産物を捧げる習俗があった。首長が大和朝廷に服属したのちには、祭祀の最高統括者である天皇へ初穂料を納める形となり、律令制以後は祖や調に変化した。10世紀の税制改革の結果、神への寄進という名目は無くなり地税に一本化されたが、その後も「上分」と呼ばれる神仏への寄進は行われた。 奈良時代の頃から、利水・治水や橋・道路建設などの公共事業のため、仏教僧が民間から奉加(ほうが)と呼ばれる寄付を集める勧進が行われていた(奉加者一覧が「奉加帳」)。中世は自力救済の時代であったが、民衆の間に頼母子講などの相互扶助が始まった。これは集団で金銭を貯蓄し貧困者などに順番で供与するという、寄付と同様の機能を持った相互扶助であった。近世に入っても相互扶助の伝統は継承された。 また、中世には「金持ちは道徳的に優れている、また優れていなくてはいけない」という「有徳思想」が生まれ、有徳人と呼ばれた富豪たちは富を社会に還元することを期待された。有徳人が供出した富を有得銭・有福銭と呼ぶが、米などの現物で充てる場合もあった。有得銭は主に寺社への喜捨として供出されたが、鎌倉時代以後は飢饉の救済など、より世俗的な用途に使われるようになった。 江戸時代の大坂(大阪)には、「きたのう貯めて、きれいに使う」という精神が美徳としてあった。そのため、大阪の八百八橋は皆町人の寄付で作られたといわれる位である。この「きたのう貯めて、きれいに使う」の言葉の意味は、一言で言えば、商売上の勘定と、公共への支出の勘定は別であるという意味である。つまり、商売上はきたないといわれる程に無駄を省いて、倹約に倹約を重ねて資本を蓄えるのが商人の美徳だが、しかし、商売から離れれば、人として、世のためや人のためにはできるだけの事をやるのが美徳であるとの価値観のことである。 この様な精神は明治以後にも続き、中ノ島公会堂の公共施設や美術館、小学校などが市民の寄付で作られた。しかし、第二次世界大戦で大阪が灰燼に帰し、商業の中心が東京へ移ると、このような精神も「お上中心」の消費都市である江戸文化の延長の東京では「下らぬ」ものとなり、日本全体には広がらなかった。 明治になり社会構造が大きく変わると、相互扶助に代わって寄付が盛んになっていった。第二次世界大戦以前は、皇室や財閥などによる寄付が寄付総額の30%に上るなど、福祉のかなりの部分を寄付が担っていたが、大戦後は福祉国家が理想とされるようになると、福祉は政府が責任を持つという意識が広がり、寄付の相対的地位は低下していった。それでも1995年の阪神・淡路大震災の際は、未曾有の災害状況に多数の義捐金が寄せられたが、被災者への公平配分を原則とする中、被災者の全体像の把握に時間を要し、全額の配分には約1年半を要した(災害義援金はまず赤十字と中央共同募金会で構成される「義援金配分委員会」にプールされ、一人当たりの支給額が決定された上で交付される。なお、日本における寄付総額が前年の2倍に増加した)。2000年頃からは、ゆるやかな連帯による社会の再構築が日本各地で模索され始めた。そうした運動を支えるNPOへの寄付が、現実的な寄付金の必要とされる人への交付という点からも注目されるようになっている。 2003年には、大賀典雄ソニー名誉会長(当時)が退職慰労金16億円を長野県軽井沢町へ全額寄付しようとしたが、贈与税の問題などから、手取り分12億1699万円で事業主として軽井沢大賀ホールを建設、完成後に町に無償供与するという形を取らざるを得なくなるという事態が発生した。この事例は、贈与税が日本における寄付の阻害要因となっている典型的な例である。 2010年12月以降、漫画『タイガーマスク』の伊達直人などの架空のキャラクターの名義で、素性を明かさずに児童養護施設などに寄付を行う「タイガーマスク運動」が起きているが、その根本に密かに慈善を行う事を美徳とする照れの文化と、逆に欧米のような素性を明かした寄付は「売名だ」と非難される点が指摘されており、根本が改善されない限り、この運動は一過性の祭り・流行に終わるという指摘もある。 2020年3月13日、政府は、天皇が即位したことに伴い、天皇が社会福祉事業へ1億円以内の寄付ができるようにするため、国会に提出する日本国憲法第8条の規定による議決案を閣議決定した。この議決案は、3月26日、衆議院本会議において全会一致で可決され、3月31日、参議院本会議において全会一致で可決され国会の議決がされた。2020年4月6日、宮内庁は、天皇の即位にあたり、天皇自らが社会福祉事業のための2団体に計1億円寄付すると発表した。
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