描かれた厳島神社
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 00:20 UTC 版)
美術作品だけでも、厳島神社や安芸宮島/安芸の宮島(あきのみやじま)を描いた二次元表現物は数多く、ここに挙げるものはほんの一部に過ぎない。戦国乱世のささくれだった風潮が払拭されない江戸時代前期が過ぎ、太平の世が深まって大衆文化が隆盛する中期になると参拝・参詣と物見遊山(観光)の機運が芽生え、後期に差し掛かる前にいよいよ機運は“沸騰”する。そのようななかで山陽道の安芸宮島が「行ってみたい憧れの参詣地」として屈指の画題になったのは当然のことであった。宮島でもとりわけ厳島神社、厳島神社でもとりわけ大鳥居は、この地域を象徴する画題として分かりやすく、そして人気が高かった。葛飾北斎の名所浮世絵揃物『富嶽三十六景』における富士山さながらに、明治時代には厳島神社の大鳥居を連作の画題として描くものまで現れた。 一方で、江戸時代前期以前に描かれたものは他の神社仏閣並みに特段多くはなかったと思われ、確定的なことだけを言うなら、描かれていたとしても現在まで伝えられたものは極めて少ない。 1. 絵巻物『一遍聖絵』(いっぺんひじりえ) 『一遍聖絵』は、正安1元年(1299年)、一遍の弟子にあたる聖戒が詞書を起草。絵は画僧・法眼円伊による。清浄光寺本(旧歓喜光寺本)の巻第十には、弘安10年(1287年)に執り行われた臨時祭の時の厳島神社を描いた1図が含まれている。『一遍聖絵』は国宝で、指定日は1952年(昭和27年)3月29日。指定名称は「絹本著色一遍上人絵伝」。所有者は神奈川県・清浄光寺。 ■画像もある「#一遍上人絵伝に描かれる厳島神社」節にて詳説する。 2 3 4 5 6 2. 長沢芦雪 『絹本淡彩宮島八景図』(けんぽん たんさい みやじまはっけいず) 水墨画。この画像は1帖8図中の1図。寛政6年(1794年)款記。国指定重要文化財で、指定日は1965年(昭和40年)5月29日。所有者は国(文化庁)、保管施設は東京国立博物館文化庁分室。 3. 歌川国貞 『紅毛油絵風 安芸の宮島』(こうもうあぶらえふう あきのみやじま) 文政8年(1825年)刊行。横大判錦絵。紅毛油絵(欧米の油彩画)に倣って描かれた名所浮世絵揃物『紅毛油絵風』中の1図。 4. 歌川広重 『六十余州名所図会 安芸 巌島祭礼之図』(ろくじゅうよしゅうめいしょずえ あき いつくしま さいれいのず) 嘉永6年(1854年)刊行。縦大判錦絵。板元は越平(越村屋平助)。名所浮世絵揃物『六十余州名所図会』の第50景。旧暦6月17日の夜に行われる船神事「管絃祭(かんげんさい)」の一幕で、足元を大潮に洗わせる大鳥居を、見切れた画角で近景として描いている。中景の管絃船は大鳥居前の儀を斎行している。管絃船とは管絃を奏しながら航行する船のことで、本図が描かれた幕末初頭におけるこの祭礼では船3艘を横に繋げた御座船であった。鳳輦に乗って厳島神社本殿を出御した祭神は、大鳥居前で待っていた管絃船に既に乗り換えている。大鳥居前の儀を終えると、管絃船は各所を巡幸し、大鳥居をくぐって客神社祓殿前から枡形を廻った後、本殿へ還御するのであるが、この時代の管絃船は航行の安全を期して阿賀・江波2村の船団に曳航させている。本図には取り巻きの船が6艘描かれており、儀式が終わり次第これらの船の代表が曳航を始めることになっている。なお、大鳥居の儀が斎行される時刻は、今も昔も暮れ六つ(すなわち薄明〈日が落ちた直後の仄暗い頃、トワイライトタイム〉の直後)と決まっており、すなわちそれは夜の帳(とばり)が陽の光の名残まで消し去った時であるが、広重はこの点も正確に描いている。 5. 歌川広重 団扇絵『日本三景 安芸 厳島』(にほんさんけい あき いつくしま) 嘉永5年-安政4年(1852-1858年)中に刊行。 6. 2代目 歌川広重 『諸国名所百景 安芸宮島汐干』(しょこくめいしょひゃっけい あきのみやじま しおひ) 安政6年(1860年)刊行。縦大判錦絵。板元は魚栄(魚屋栄吉)。名所浮世絵揃物『諸国名所百景』の1図。桜の咲く季節の明け方、引き潮時の大鳥居を近景に宮島を描く。鳥居に近づく人々もいれば、鹿もいる。題名にもあるとおり、潮干狩をする人々も見える。 7 8 9 10 7. 月岡芳年 『大日本名将鑑 毛利元就』(だいにっぽんめいしょうかがみ もうりもとなり) 1879年(明治12年)2月刊行。縦大判錦絵。絵師の名義は大蘇芳年。武者絵揃物『大日本名勝鑑』の1図。厳島の戦いの一場面を描く。 8. 月岡芳年 『月百姿 いつくしまの月 室遊女』(つきのひゃくし いつくしまのつき むろのあそびめ) 1886年(明治19年)刊行。縦大判錦絵。板元は滑稽堂(秋山武右衛門)。月に材を取った浮世絵揃物『月百姿』の第21図で、『平家物語』巻5の「室泊遊君歌事」に基づいて描かれたもの。 9. 小林清親 『日本名勝図会 厳島』(にほんめいしょうずえ いつくしま) 1896年(明治29年)刊行。縦大判錦絵。板元は大黒屋平吉(5代目松木平吉)。全国各地の名勝を題材とした名所浮世絵揃物『日本名勝図会』の第3景。手前は大鳥居のわずかに俯瞰の図、奥は本社等の社殿の俯瞰図という、2画面構成になっている。満潮時の大鳥居の周りには客を乗せた3艘の高瀬舟が見える。 10. 川瀬巴水 『旅みやげ 第二集』「晴天の雪(宮嶋)」(たびみやげ だいにしゅう せいてんのゆき みやじま) 1921年(大正10年)刊行。縦大判多色摺版画。名所絵新版画『旅みやげ 第二集』の1図。版元は渡邊版画店(渡邊木版美術画舗)。 11. 平山郁夫 『月華厳島』(げっかいつくしま) 1993年(平成5年)発表。第78回院展出展作品。日本画。夜の青い帳(とばり)に包まれた満潮時、柔らかな月明かりを受ける厳島神社の社殿は仄かに形を浮かび上がらせている。釣灯籠(つりどうろう)の灯りは回廊を点々と連なって、奥へ奥へと続いている。夜の帳の青色は「平山ブルー」と呼ばれる深い群青色で描かれている。
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