夢と現実
『ドグラ・マグラ』(夢野久作) 「わたし」は目覚めた時、一切の記憶を失っていた。「わたし」は自分が何者であるかについての説明を聞き、文献を読むが、そのうちに、今自分が現実の世界にいるのか夢を見ているのか、わからなくなった→〔謎〕5。
*自分は蝶なのか? 荘周なのか?→〔蝶〕3の『荘子』「斉物論篇」第2。
*毎日、昼は妻と交わり、夜は夢の中の女と交わって、どちらが夢か現実か、わからなくなる→〔二人妻〕7cの『子不語』巻24-738。
『硝子戸の中』(夏目漱石)38 「私(夏目漱石)」は子供の頃、2階で昼寝をしていて、変な夢を見たことがある(*→〔不眠〕3)。「私」は他人の金銭を多額に消費してしまい、それを償うことができず、苦しんで、階下の母を大声で呼んだのだ。母は2階へ上がって来て、「心配しないでいいよ。御母(おっか)さんがいくらでもお金を出してあげるから」と言ってくれた。「私」は安心して、すやすや寝てしまった。この出来事が全部夢なのか、半分だけ本当なのか、「私」は今でも疑っている。
★2a.夢と現実を等価と見る。
『パンセ』(ブランシュヴィック版)第6章「哲学者たち」386 ある職人が毎晩12時間、「自分は王様だ」という夢を見るとしたら、その職人は、毎晩12時間「自分は職人だ」という夢を見る王様と、同じくらい幸せであろう。
*起きている12時間はジエキル博士、眠っている12時間はハイド氏→〔眠り〕5の『シャボン玉物語』(稲垣足穂)「ジエキル博士とハイド氏」。
『列子』「周穆王」第3 老下僕が、昼間は主人尹氏にこき使われるが、夜の夢では国王になって安楽に暮らす。彼は「人の寿命が百年として、昼と夜は半分ずつ。昼は下僕だが夜は王様だから、怨みはない」と言う。一方、主人尹氏は、昼は俗事に悩み、夜は下僕になる夢を見て、昼夜休まる時がない。
*昼も夜も働く夢を見て目覚めると、昼も夜も働かねばならぬ現実が待っていた→〔夢オチ〕2の『不眠症』(星新一『ボッコちゃん』)。
『幸福』(中島敦) 島の長老に仕える下僕が、毎晩「長老になった夢」を見るようになった。痩せて病気がちだった下僕は、「長老になった夢」を見るうちに、肥って健康になった。長老は逆に、毎晩「下僕になった夢」を見るようになった。肥満していた長老は、「下僕になった夢」を見るうちに、痩せ衰えてしまった。ある日、下僕と長老は互いの夢を語り合い、それが一致することを知る。下僕は満足げに微笑し、長老は妬(ねた)ましげに下僕の顔を眺めた〔*パラオのオルワンガル島の昔話。オルワンガル島は80年ほど前に海没し、今は無い〕。
『鸚鵡七十話』第30話 懐妊中のマンドーダリーは、国王愛玩の孔雀を殺して肉を食べ、そのことを友人に打ち明ける。友人はマンドーダリーを裏切り、孔雀を食べた話をもう1度させて、それを王の家来に聞かせる。マンドーダリーは話の終わり頃に、誰かが聞いていることに気づき、「その時、夜が明けて太陽が昇り始めた。この夢はどんな意味だったのだろう」と言いつくろう。
『じゃじゃ馬ならし』(シェイクスピア)「序劇」 酔っ払いの鋳掛け屋スライが眠っているのを、領主が見て、御殿の寝間に運ばせる。目覚めたスライに従者たちが「殿様」と呼びかけ、「15年間、悪い夢を見ていらっしゃったのです」と説明するので、スライは「では自分は殿様なのか」と思う。従者は「御病気本復を祝し、喜劇をご覧に入れましょう」と言って、『じゃじゃ馬ならし』の芝居を見せる。
*大金を拾ったのに、夢にされてしまう→〔三題噺〕3の『芝浜』(落語)。
*目覚めた娘に、老人が「これは夢なのだ」と言う→〔眠る女〕6cの『山羊またはろくでなし』(チェーホフ)。
★3b.「すばらしい夢からさめて、みじめな現実に戻った」と絶望するが、それこそが夢であり、「すばらしい夢」と思っていたことが現実だった。
『顧りみれば』(ベラミー) 19世紀のボストンに生まれた「私(ジュリアン・ウェスト)」は百年以上も眠り(*→〔催眠術〕5a)、西暦2000年に目覚める。そこは、すべての人が平和に幸福に暮らす理想社会だった。「私」はイーディスという美しい恋人も得た。ところが、ある朝目覚めると「私」は、貧困と喧騒の町、19世紀のボストンへ戻っていた。「すべては夢だったのか」と、「私」は絶望する。しかし「19世紀のボストン」は、ただの悪夢だった。「私」は再び目覚めて、自分が現実に西暦2000年に生きていることを知った。
『人の世は夢』(カルデロン) ポロニア(=ポーランド)国王の息子セヒスムンドは、生まれるとすぐ、岩山の牢獄に閉じ込められた。彼は成長後、国王の命令で麻酔薬を飲まされ、宮殿に運ばれて、王子としての待遇を受ける。しかし乱暴をはたらいたため、彼は再び眠らされ、岩山へ戻される。彼は「宮殿での出来事は夢だった」と思う。後に彼は現実に国王となるが、「人間は、『生きている』という夢を見ているにすぎない。死ぬ夢を見て、はじめて目覚めるのだ」と考える。
『不思議な少年』(トウェイン) 1590年のオーストリア。村の少年である「わたし(テオドール)」たちの前に、1人の美少年が現れる。美少年は「ぼくは天使で、名前はサタン」と言い、超能力を用いてさまざまな不思議を見せる。彼は「神も人間も宇宙も実在しない。すべて夢だ。このぼくも、君の夢が作り出したものだ」と、「わたし」に教える。「君の身体もない。存在するのは、空虚な空間と君の思惟だけだ。果てしない空間を、君は友もなく、一片の思惟として永遠にさすらう運命だ」。
『カター・サリット・サーガラ』「マダナ・マンチュカー姫の物語」5・挿話11 ウシャーは夢の中で美しい男と結婚する。目覚めると男の姿はなかったが、夫婦の契りを結んだしるしが見られたのでウシャーは驚く。神通力を持つ侍女チトラレーカーが、男は6万由旬彼方のドヴァーラヴァティー城に住む、ヴィシュヌ神の孫アニルッダであることを知り、2人の仲を取り持つ。ウシャーとアニルッダは、ドヴァーラヴァティー城で幸福に暮らす。
『源氏物語』「葵」 六条御息所は、「左大臣邸の葵の上の所へ行って荒々しく打ちかかる」などの夢を何度も見る。左大臣邸では、葵の上を苦しめるもののけを退散させるため、加持の僧たちが芥子を焚く。六条御息所は、自らの身体に芥子の香がしみついていることに気づき、着物を替え髪を洗うが、香は消えない。
『不思議の国のアリス』(キャロル) 「あの娘の首をはねよ」と廷臣たちに命ずる女王にむかい、アリスは「あんたたちなんか、ただのトランプじゃないの」と言う。そのとたん、トランプたちは空に舞い上がり、アリスの上にひらひらと落ちて来る。アリスが悲鳴をあげて目覚めると、姉が、木からアリスの顔に落ちて来た葉を払いのけているところだった。
『夢判断』(フロイト)Ⅰ-C-1「外的(客観的)感覚興奮」 フランス革命の恐怖政治時代、ある人が有罪の宣告を受けて断頭台へ上がる。ギロチンの刃が落ち、彼は首が胴体から離れるのを感じて、目を覚ます。するとベッドの板が落ちて、ちょうどギロチンの刃のように、彼の頸椎に当っていたことがわかった〔*他に、教会の鐘が鳴る夢や、幾枚もの皿が床に落ちて砕ける夢を見て目覚めると、目覚し時計が鳴っていたなど、多くの例があげられている〕。
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