在野の学としての日本民俗学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 05:07 UTC 版)
「民俗学」の記事における「在野の学としての日本民俗学」の解説
戦後学問としての民俗学の体系がおおよそ完成し、大学などにおける研究が盛んになったが、民間における研究活動が収縮したわけではなく、「在野」と「アカデミズム」が混在または並立する日本民俗学独特の研究体制が存在する。 「在野」においては、戦前から日本各地に地方学会と呼ばれる学会、研究会が組織され、地域に根ざした研究活動がなされており、日本民俗学の大きな一角を担っている。会名に都道府県名を冠した団体が多い。石仏(石造物)、特定の宗派などの専門特化した研究団体も多く設立され、地域、分野など様々な切り口で研究がなされており、自治体誌編纂や文化財調査にも活躍している。 大学においては、民俗学関係の大学院教育が充実さを増し、國學院大學、筑波大学(1975年)、成城大学(1973年)、神奈川大学(1921年アチック・ミューゼアム(日本常民文化研究所)の移設)などが著名である。また、1950年代に正規の学科、研究科のほかに学生や卒業生、教職員などを対象にした研究会、学生サークルが多く設立された。正課授業などと連携して研究や教育が積極的に行なう方法や(國學院大學、成城大学などの学生サークル)、民俗調査(民俗採集)や資料収集に特化するなど、形式、目的は様々だが、いずれも民俗資料収集や研究者養成に大きく貢献するなど、日本民俗学界において重要な地位を占めている。 研究団体の多くは、入会に際して職業、学歴、住所等を問われないのが一般的であり、日本民俗学会も民俗学に興味がある、会費納入などの一般的な条件を除いては会員資格を特に定めていない(ただし、会員による紹介と理事会の承認が必要とされている)。これには、会員資格を特に定めないことにより、民俗事象に関心があるという以外に共通項がない者同士の横のつながりを持たせるという機能がある。研究を行う者の職業は、民俗学の研究を職業としている者のほかには、会社員、公務員、自営業、主婦、農業、無職(定年退職した者など)など様々であり、学生や大学等の研究者の中には民俗学を専門にしていない(まったく関わりが無い分野)者もいる。これにより、学会などでの発表や会合で名乗る肩書きは、在住都道府県名と氏名を名乗ることが慣習として行なわれてきたが、最近では在籍研究機関名を名乗る者も出てきている。ちなみに研究機関に所属していない研究者が在職の会社名を名乗ったり、無職、主婦などの職業名で名乗ることはあまり無い。 研究職以外の者が研究を続けるには、本人の意志、家族の協力、経済的余裕(研究費用は原則自己負担になる。特に民俗採訪の際の交通費や滞在費、資料の購入費がかさむ)、時間的余裕などの一定の要件が必要になってくる。サラリーマン(特に公務員)では、兼職や副業と誤解されたり、“趣味にかまけている”といった評価を受けたりしないためにも、場合によっては勤務先の理解も必要な場合がある。 「民俗学研究者」の定義もあいまいになる。日本民俗学の中心的な機関は日本民俗学会であり、本格的研究を行なっている者はほぼ会員になっている(同学会の歴史に柳田が大きく関わっているため“反柳田”的な研究者の中にはあえて入らない者もいる)が、事実上、日本民俗学会会員=民俗学者という構図が暗黙の了解として存在していた。これ以外には、地元の源義経や弘法大師の伝説などが実話であることの証拠や資料探しに奔走している者や、いわゆる郷土史家と呼ばれる者の中には民俗学研究者を名乗る者がたまにあり、誰でも“研究者”を名乗れてしまう問題もある。なお、同学会の会員では、会員名簿の情報の範囲において、近年は大学等の研究者、博物館学芸員、文化財関係者などの割合が増えている。また、現在の同学会の役員は、ほぼ全員が大学等の研究者であり、必然的に大卒以上の学歴を所持している。 研究を始めるきっかけも様々で、単純に自らの住む地域の文化・風習に興味を持ったというものから、他分野(社会学・歴史学・経済学・農学等)の研究者・出身者が隣接分野として興味を持ち始めるもの、民俗事象に関連がある趣味(歴史散策、旅行、鉄道、登山、神社仏閣めぐりなど)を通じて興味を持ち始めるものなど多種多様である。民俗学自体が他の諸学問などと密接に、有機的に関わりがあることを表している。また、大学生が民俗学関係の大学・研究室・サークルに入った理由としては、「田舎が好き」、「妖怪や都市伝説に興味がある」、「民謡、昔話が好き」、「博物館に就職したい」などを挙げる者が多く、入学当初に学問体系としての民俗学自体に関心がある者は比較的少ない。 民俗学界において在野性やアカデミズムに関する議論は、職業などによる区別(差別)、日本民俗学史上の多くの民間研究者の功績などの問題があるためあまりされてこなかった(最近では2005年の第57回日本民俗学会年会において「野の学問とアカデミズム」がテーマとして取り上げられた)。議論を間違えると、学歴や職業によって対立が起こりかねない。また、大学等の研究者の中にはこの在野性を嫌うものもおり、これらを排除して大学などに所属する職業民俗学者のみを民俗学研究者とする「普通の学問」にすべき、考古学や天文学のように民俗学者と民俗学ファンといった形でたとえ緩やかにでも区分すべきという論調も見られる。 在野性を帯びるという特性から、大学関係者を除いて上下関係や師弟関係もほとんど無く、他分野の研究者からは自由な学風と評されることも多い。しかし反面、“みんなで研究”という雰囲気や、特に地方学会において学術研究的思考や論文執筆に不慣れな者が多いことから、情緒的、趣味的と揶揄されたり、妖怪や方言、民謡、昔話といった“素人受け”をする分野を抱えることなどから、民俗学を非科学的なイメージで捉える者も少なからずいる。また、他の学問分野や諸趣味、海外の民俗学界などと連携や共有できる部分が多くあるものの、これまではあまり積極的にされてこなかった。日本民俗学界は、これからは社会の変化に対して民俗学がどうあるべきかといった議論はもちろん、こうした他分野や社会とどういった関わりを持つことが出来るのか模索していくことになる。
※この「在野の学としての日本民俗学」の解説は、「民俗学」の解説の一部です。
「在野の学としての日本民俗学」を含む「民俗学」の記事については、「民俗学」の概要を参照ください。
- 在野の学としての日本民俗学のページへのリンク