古代研究と文字学とは? わかりやすく解説

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古代研究と文字学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/05 16:43 UTC 版)

字統」の記事における「古代研究と文字学」の解説

白川ははじめ漠然と日本古代考えたい思っていた。そして、古代歌集である『万葉集』惹かれ、これと中国の『詩経』との比較文学的な研究興味深い課題であると考えた当時日本の古典研究では、柳田國男折口信夫民俗学的な研究魅力的で、その民俗学方法すぐれている思った。だが、どうにも対象密着しすぎており、外からの視点乏しいと感じこのような観点から白川研究中国古代志向しのである中国の古代研究 日本の文化形成は外からの大きな刺激影響よるものであることは明らかであり、日本古代考えるには東アジア的な世界からの視点が必要で、そのためには中国古代社会と文化その歴史的展開というものを詳しく知らなければならない考えた。そこで、清代考証学成果出発点として、その代表的な著述である王念孫の『経義述聞』(けいぎじゅつぶん)と段玉裁の『説文解字注』とを読み始めた。それらは考証学的、訓詁学研究としては殆んどその限界極めたといえるほどのものであったが、本質的な点で白川に満足を与えるものではなかった。それは、分析する科学的な立場自覚されていないという方法問題であるが、一に資料問題でもあった。 甲骨文・金文との出会い そこへ日本亡命中の郭沫若が、昭和8年1933年)に『卜辞通纂』(ぼくじつうさん)、昭和10年1935年)に『両周金文大系考釈』(りょうしゅうきんぶんたいけいこうしゃく)を刊行した白川は、「この両書の出現は、私にとって大きな驚きであり、また喜びであった。この未知資料が、やがて私に新し模索の道を与えてくれるであろうという予感が、私を勇気づけた。」との感想述べている。卜辞とは甲骨文のことで、金文よりも古く古代王朝形成期のものであり、清朝学者参照していない最古漢字字形を示す資料である。清朝考証学学びならがも新たな方法論探って甲骨文金文出会ったのである。早速白川研究殷周時代遡ることになったが、「郭氏の考釈はなお簡略であり、その十分な解読研究には、容易ならぬものがあるよう思われた。」と、白川は郭の研究満足せず、こうして以後50年間の文字との縁が生まれたのである漢字の背景 文字の初形を伝え甲骨文用いた文字学はどうあるべきか。それには甲骨文生み出した古代王朝生活習慣民俗学的に可能な限り把握する努力をしなければならない白川はいう。そして、文字研究通して中国古代社会構造明らかにし、漢字背後にある闇に包まれていた中国古代社会宗教性満ちた実態生き生き現出したのである例えば、「男」は田と力(鋤の形)とを組み合せた形で、田畑を耕すことを表し、昔は農地の管理者意味した。また「加」は力と(さい)を組み合せた形で、祝詞によって農具祓い清め収穫量増加を祈る儀礼(加の儀礼)を意味する農耕用具は、休閉期にすべて社の神庫収めておき、その出し入れのときに厳重に祓い儀式をした。それは秋の害虫をなす蠱が器具付着しているのを防ぐためである。それで加の儀礼ときには鼓を用い、その鼓声をもって蠱を祓った。それが嘉の字である。出生のときに嘉・不嘉という語を用いるように、力は新し生へ呪力象徴するものであった。 これは一例にすぎないが、中国古代社会において、文学もちろんのこと思想制度風俗もすべてが存在していたのである。 さい 白川文字学ポイントは(さい)の提唱(#さいの提唱参照)にある。古代人は、多く時間エネルギーを「邪気」を祓う呪術のために消費していた。白川の説はそこから始まる。 古代中国における戦いはまず呪術による攻防として行われ、その呪術的な戦い言葉によって展開した。そして、その言葉のもつ呪的な機能定着し永久化するために文字作られた。呪術攻撃防禦は、文字の呪能を託され祝詞の器のに対して加えられる。よって、には様々な武具防禦のために用意された。に鉞を加えた「吉」(呪能を守ること。詰めるが原義)、に盾を加えた「古」(呪能を長い間保持すること)、「古」をさらに厳重に守るために外囲加えた「固」(呪能を守り固めること)などはその祝詞の呪能を保全するための防禦方法である。一方、敵の防禦攻撃して破るためにはを汚す文字用いられる。「舎」(すてる)と「害」(そこなう)は、いずれも長いをもって突き通す形であり、そのような方法で呪能は失われる考えられた。また、「沓」(けがす)は、が少し開いた(曰(エツ))にをかけて祝詞を汚すことで、これも呪能を奪う方法であった。 『説文解字以来学者たちの誤解のもとは、このを口の単なる象形解し文字映像におけるその象徴的意味把握しえなかった点にある。よって、この基本形であるの系列属す数十基本字と、またその関連字とはすべて解釈改めなくてはならないのである書写効力 白川トレーシングペーパー甲骨文書き写しをした。「カメラコピーではいけない。甲骨文トレーシングペーパー載せ、上からなぞっていくことに意味がある。手で覚え肉体化されたものは、いわば未分全体を含む。手で写して新しく得た資料は、すでにある資料感じあい、重畳し、互いに意味づけをしてゆく。そういう過程のなかで、私が写しつづけた文字は、皆自らの素性明らかにしてきた。(趣意)」と、トレーシングペーパーでなぞるうちに古代人どのような思い甲骨文書いたかがわかったという。 文字学の歩み古代文字研究は、まず甲骨文金文研究から出発しなければならない。しかし、説文学従来成果についても無視すべきではない。多く先学所説にも耳を傾け、その是非を考え今日知見を以てその訂すべきを訂し、ついで自説提示する方法をとった。」と、白川は文字学の研究姿勢このように述べている。そして、「許慎が『説文解字』を書いた時には甲骨文金文地下埋もれていたが、それであれだけ体系立てたというのは、やはり偉大であったと思う。もし許慎今生きておれば、おそらく僕と同じ仕事をして、同じ結論達したと思う。(趣意)」と、自らの研究成果自負している。

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