先天性ミオパチーとは? わかりやすく解説

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先天性ミオパチー

学名congenital myopathies

名のごとく乳幼児早期からの筋力筋緊張低下があり、多く歩行獲得しますが、以後筋力低下持続する疾患です。本症は進行性がなく、予後良好であると考えられ以前教科書には先天性進行性ミオパチーと「非進行性」の言葉つけられいました。しかし、多く患者さんを長期フォローする緩徐ですが進行性のものが多く、また呼吸不全に陥り易いなどから「非進行性」の言葉今は取り除かれています。

a.病因病態病理
本症は病理学的特徴からいくつかの型に分けられています(表3)。
ネマリン
ミオパチー
セントラル
コア
ミオチュブラー
ミオパチー
CFTD *1
その他の
ミオパチー *2
筋肉特異構造
示さないもの *3
遺  伝
常染色体優性
常染色体劣性
連鎖劣性


















発育発達の遅れ
筋力低下
外眼筋
顔面筋
咽頭・舌・頸筋
近位優位
























筋 病 理
筋線維大小不同
タイプ1線維優位
小径タイプ1線維


















+*4
重症例の存在

*1先天性筋線維タイプ不均等症,*2 Fingerprint,multicore,reducing body,sarcotubular myopathy など,
*3 minimal change myopathy ともいわれる,*4 タイプ1,2線維とも小径,筋原線維配列乱れ
表3:先天性ミオパチーの臨床病理


ネマリンミオパチーnemaline myopathy)はその中で最も頻度が高い病気です。常染色体劣性優性遺伝報告されています。筋組織をGomoriトリクローム変法染色でみると、糸くずnemaギリシャ語で糸の意味のような封入体をみることから、この病名つけられました(図26)。
図26:ネマリンミオパチーの病理正常筋(左)とネマリンミオパチー(右)の生検筋のGomoriトリクローム変法染色筋疾患診断には最も大切な染色
簡単で30以内結果が出る)。
本症では筋線維内に赤黒色に染まる糸状ないし顆粒状物質多く認め、それが診断的意義をもつ。
26:ネマリンミオパチー病理
この封入体(ネマリン小体)は電子顕微鏡でみると、横紋筋の横じまの一番濃いZ線と同じ濃さをしています。またこの封入体生化学的にZ線が持つαアクチニン蛋白持ってます。どうしてこの病気ではZ線蛋白過剰に作られるのか、分かっていません。さらに驚くべきことに、ネマリン小体の量と病気重症度の間には全く関係がないのです。ネマリンミオパチーで、いままで分かっている遺伝子変異筋線維収縮弛緩するときに関係がある構造蛋白トロポミオシンアクチン、ネブリン)をコードするものです。トロポミオシン変異優性遺伝をとるもの、アクチン変異主として重症型に、ネブリンの変異患者さんが最も多い常染色体劣性遺伝をとる良性先天型多くみられています。

セントラルコア病(central core disease)は主に常染色体優性遺伝をとると考えられています。その遺伝子座は第19染色体にあって、リアノヂン(ryanodine)受容体遺伝子変異がみられています。筋線維中心部筋小胞体ミトコンドリアがなく酸化酵素染色(NADH-TRなど)で中央部果物core)をみるように染色されないのが特徴とされています(図27)。
図27:セントラルコア病の病理正常の骨格筋をNADH-TR染色する濃く染まるタイプ1線維タイプ2線維モザイクをなしてみられる(図16参照)。
セントラルコア病ではほとんど全ての線維が、濃染するタイプ1線維で、筋線維中心に酵素活性無く果物コア)のように見える。
27:セントラルコア病病理
ミオチュブラーミオパチー(myotubular myopathy)は比較良性の経過をとる常染色体優性劣性もある)と、乳児期から重篤症状をとるX連鎖劣性遺伝をとるものが知られています。発生途上にある筋管細胞myotube)に構造似ているので上記の名が与えられました。この病気では筋細胞中心にあるので、中心核病(centronuclear myopathy)と呼ばれることもあります乳児重症型では筋線維胎児筋肉のように未熟のままです。乳児重症型ではX連鎖劣性遺伝をとるものが大半で、遺伝子クローニングされていて、責任蛋白はミオチューブラリンと名付けられています。この蛋白はtyrosine phosphatase属しますが、この酵素欠損するとなぜ、筋の未熟性がくるのか、よく分かっていません。
先天性筋線維タイプ不均等症congenital fiber type disproportion)は上記のような筋線維内の異常な封入体構造異常がなく、タイプ1赤筋線維タイプ2白筋線維より12%以上のをもって小径である場合診断名です。もちろん患者さんは乳児期から筋緊張低下筋力低下があり、発達遅れてます。
上記何れの疾患でも共通な重要な病理学的所見タイプ1線維タイプ2線維より小径で、タイプ1線維の数が正常上限55%以上を占める(タイプ1線維優位type 1 fiber predominance)ことです。さらに、筋線維径は全体細く未熟未分化なものが多く存在します筋線維タイプ分布の異常と未熟性が筋力筋緊張低下原因考えられています。

b.臨床症状
先天性ミオパチーはどの病気でも、乳児重症型良性先天型成人発症型の3型分けられています。上記疾患ネマリンミオパチーとかセントラルコア病とか)は病理学的に互いに明らかに所見異なり、また遺伝子座異なっているのに、臨床症状きわめてよく似てます。たとえばネマリンミオパチー患者さんと先天性筋線維タイプ不均等症患者さんをみても、よく似ていて臨床的に鑑別が困難です。

1)乳児重症型severe infantile form)
最もよく知られているのはネマリンミオパチーミオチュブラーミオパチーです。ネマリンミオパチーでは多くは、常染色体劣性遺伝をとると考えられています。重症型の10%位にアクチン遺伝子変異あるようです。前に述べたように、ミオチュブラーミオパチー場合X連鎖劣性遺伝をとるので、ほとんどが男児です。
新生児期からの呼吸困難哺乳低下があり、人工換気経管栄養を必要とします細長く表情のない顔をしていて、高口蓋認めます手足動きはほとんどみられません。手、足関節拘縮先天性股関節脱臼をしばしばみとめ、腱反射消失してます。予後不良で、大多数1歳までに死の転帰とります

2)良性先天型benign congenital form
先天性ミオパチーの大半患者さんはこ良性先天型属します乳児期発達の遅れがあり、筋力筋緊張低下したいわゆるフロッピーインファントfloppy infant)のことが多いです歩行開始も遅れ、1歳半を過ぎることが多いです歩行開始後も走れない、階段昇降手すりがいるなど筋力低下持続しますなかには症状がほとんどなく、よほど専門的な知識を持つ医師でしか診断できないような軽症例もあります筋力低下は非進行性か、あるいは進行してもとても緩徐です。
筋力低下全身ありますが、頸部屈筋が弱い(寝ていて頭がもちあがらない)のが特徴的です(図28)。顔面罹患ありますので、細長い顔で表情乏しく高口蓋あります。ただし、セントラルコア病では顔面筋罹患少なく、正常と変わらないことが多いです
図28:ネマリンミオパチー良性先天型歩行は可能であるが、走れない、階段昇降困難を認めて診断のため来院した

呼吸筋弱く、さらに寝た位置から引き起こしても頭がついてこない頸部屈筋筋力低下)があるので先天性ミオパチーを疑われ筋生検し、診断確定された。
28:ネマリンミオパチー良性先天型
咽頭筋の筋力低下があり、燕下困難を認めることもまれでありません四肢筋に比較し呼吸筋(特に横隔膜)が強く侵されることが多いので、定期的に呼吸機能チェックする必要があります心筋はほとんど侵されません。
関節拘縮はしばしば病初期から認めますセントラルコア病では四肢筋の筋力低下軽度なのに、強い脊柱変形側彎)をみることがあります
検査所見では、疾患特異的異常はありません。血清クレアチンキナーゼCK)値は正常ないし軽度上昇筋電図正常ないし筋原所見示します

3)成人型adult onset form
ネマリンミオパチーミオチュブラーミオパチー中心核病)での報告あります良性先天型幼少期にはきわめて症状乏しく成人になって急性増悪したものと、成人発症2型があると考えられています。成人発症のものは病理所見だけで診断されていますので、良性先天型のような遺伝性はないのでしょう原因炎症中毒などが考えられています。

先天性ミオパチー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/12/30 07:01 UTC 版)

先天性ミオパチー (せんてんせいミオパチー、: congenital myopathy) は、フロッピーインファント(ヒポトニア英語版)を起こす疾患の一種として知られる疾患群である。先天性ミオパチーは非進行性で、筋病理で特徴ある所見を得る。

フロッピーインファントの分類

フロッピーインファントは筋力低下があるもの (paralytic) と筋力低下を伴わないもの (nonparalytic) に分類される。筋力低下を伴わないものは、脳性麻痺精神遅滞異染性白質ジストロフィー、セロイドリポフスチン症などの中枢神経変性疾患と、ダウン症候群プラダー・ウィリー症候群などの染色体異常があり、中枢神経系の異常が原因疾患である場合が多い。筋力低下を伴うものは神経原性と筋原性に分類される。神経原性は、ウェルドニッヒ・ホフマン病、先天性髄鞘形成不全ニューロパチーなどがある。筋原性は広義の先天性ミオパチーと称され、糖原病ミトコンドリア病先天性筋ジストロフィー(特に福山型が有名)と、狭義の先天性ミオパチーに分類される。

狭義のミオパチーは病理学的な特徴により、ネマリンミオパチー、セントラルコア病、重症乳児型ミオチュブラーミオパチー、中心核病、先天性筋線維タイプ不均等症 (CFTD)、その他のミオパチー (fingerprint, multicore, reducing body, sarcotubular myopathy)、筋内特異構造を示さない minimal change myopthy、などに細分される。

先天性ミオパチーの共通点

多くの先天性ミオパチーは臨床像、病理像に共通点がある。臨床像の病型は3分類される。

重症乳児型 (severe infantile form)

新生児期から呼吸障害、嚥下障害を認め、多くは1歳以下で死亡するタイプである。セントラルコア病では稀である。

良性先天型 (moderate cogenital)

乳児期早期から筋緊張と筋力低下があり、発育、発達の遅れなどから異常を発見する。処女歩行も遅れ、歩行開始後も走れない、転びやすい、階段昇降困難など歩行の異常が持続する。顔面筋罹患があると表情は乏しくなり、外眼筋が侵されると眼球運動障害を認める。ほとんど全ての症例で高口蓋を認め、関節拘縮、脊柱管異常も合併しやすい。筋力低下が遠位優位な場合もある。先天性ミオパチーの大半はこのタイプで、非進行性ないし緩徐な進行を示す。

成人発症型 (adult onset)

病因は、良性先天型が極めて緩徐であった場合と、成人になって急速に進行して筋力低下が顕著となる場合もある。

筋病理では疾患分類が可能な特徴的所見もあるが、先天性ミオパチーの共通所見も知られる。共通所見はタイプ1線維優位で、タイプ1線維(赤筋)がタイプ2線維(白筋)よりも小径である。

先天性ミオパチーの各論

ネマリンミオパチー

gomoriトリクローム変法で紫から黒赤色のネマリン小体が認められる特徴があるが、ネマリン小体は特異的所見ではない。HE染色はネマリン小体の見逃しが多い。アクチンフィラメントに関連する蛋白の遺伝子変異の所見が多い。

セントラルコア病

常染色体優性遺伝で、リアノジン受容体遺伝子の変異を90パーセント (%) 以上で認める。乳幼児で死亡する重症例の報告はなく比較的軽症で、高口蓋を認めない症例もある。悪性高熱症で常染色体優性遺伝を示すもので、本症と同様の遺伝子変異を認める。

中心核病

顔面筋罹患が多く、約30%の症例で眼球運動障害や眼瞼下垂を認める。他の先天性ミオパチーに比して、中枢神経症状の合併が多く、10%で精神遅滞が認め、てんかんを伴う症例報告がある。

関連項目

参考文献




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