ふくやまがた‐せんてんせいきんジストロフィー【福山型先天性筋ジストロフィー】
読み方:ふくやまがたせんてんせいきんじすとろふぃー
脳形成不全を伴う重症の先天性筋ジストロフィー。常染色体劣性遺伝の疾患で、男女に発症する。日本人に特異的に多く、海外ではまれ。歩行機能を獲得できず、多くは10代で死亡する。病名は発見者である小児神経学者福山幸夫に由来。FCMD(Fukuyama-type congenital muscular dystrophy)。
[補説] 日本では先天性筋ジストロフィーの中で最も多く、小児の筋ジストロフィーではデュシェンヌ型進行性筋ジストロフィーに次いで多い。発症頻度は10万人に2〜4人で、日本人の約90人に1人が保因者と推計される。9番染色体上にある原因遺伝子の異常によって、ジストログリカンに糖鎖が正常に付加されず、その結果、筋細胞膜が脆弱になって筋肉が破壊されたり、脳の基底膜に破綻が生じて精神遅滞を起こしたりすると考えられている。この遺伝子変異は、2000〜3000年前に一人の祖先に生じた遺伝子の突然変異に由来する。
福山型先天性筋ジストロフィー
a.病因、病態、病理
2,000ないし3,000年前にあたる日本人の祖先に突然変異が起こり、それが日本全体に広がったと考えられています。第9染色体長腕(9q31)に遺伝子座があります。常染色体劣性遺伝をとり、日本人10万人に対し1ないし2人の患者さんがいると計算されています。また日本人の約80人に一人は遺伝子変異をもっている(保因者)と推定されています。東京大学医科学研究所(現:大阪大学大学院)の戸田達史先生らのグループにより、遺伝子はクローニングされています。それはcDNAで7,349bp、それがコードしているのは461 個のアミノ酸からなる蛋白でフクチン(fukutin)と名付けられています。患者さんではフクチン遺伝子の3'非翻訳領域に3kbのレトロトランスポゾンが挿入されています。一部の患者さんではこの挿入変異と他の変異(点変異など)の組み合わせもあります。このフクチンは正常人では神経細胞の胞体の中にあります。その機能はまだよく分かっていません。
中枢神経系の異常は局所性の多小脳回(polymicrogyria)とよばれているものです。脳回はうんと小さくなっていますから、その異常な場所は肉眼的では平坦で無脳回様にみえます。(図17)。そのほか、白質の髄鞘化遅延、錐体路の低形成がみられます。
![]() | 脳を後ろからみたところで上の部分が大脳、下の小さいのが小脳。 横の部分(側頭部)(星印)の大脳表面にはしわがなく、つるつるしている。 この部を顕微鏡でみると小さな脳回から出来ている(多小脳回)ことがわかる。 |
図17:福山型先天性筋ジストロフィーの脳病理 |
![]() | 正常(左:N)に比較して、福山型(右:FCMD)では筋線維は細い。 筋線維と筋線維の間が大きく空いているのは、結合組織が増生した結果である。 福山型では病早期から結合組織の増生が強いのが特徴的である。 |
図18: 福山型先天性筋ジストロフィーの筋病理 |
生下時から呼吸不全、哺乳力低下をみるものもありますが、多くは発育、発達の遅れで気付かれるのです。頚定(くびが座る)は平均8カ月といわれています。多くの方では2歳前後で座居まで獲得できますが、歩行を獲得するものはきわめてまれです。剖検例の報告から推定すると、平均寿命は12歳前後ですが、中には長命の方もおられて、私が知っている人は40歳です。
全身の筋力、筋緊張低下があり、乳児期は身体が柔らかく、いわゆるフロッピーインファント(floppy infant: 身体が柔らかくぐにゃぐにゃした赤ちゃんのことです)です。顔面筋罹患があるのが特徴です。すこし表情に乏しく、口をぽかんと開けていて、よだれ(流涎)を多くみます。頬は仮(偽)性肥大のため、ふっくらとしています。睫毛が長く、キラキラとした美しい目をしています(図19、20)。口の中をみると高口蓋が認められます(この高口蓋は顔面罹患があるとみられます。福山型以外では、先天性ミオパチー、先天性筋強直性ジストロフィーという病気でもみられます)。
![]() | ![]() | 図19、20:福山型先天性筋ジストロフィー。 多くの患者さんは座ることはできるが、歩く人はまれである。顔面筋が弱いので口をポカンと開けていることが多い。 頬は偽性肥大のためふっくらとしていて、目はさわやかに輝いている。足の関節に拘縮がある。 バンザイをするように頼んでも筋力低下があるため十分にあげられない。 | |
図19:福山型先天性筋ジストロフィー | 図20:福山型先天性筋ジストロフィー | ※写真掲載の許可を得ています。 |
中枢神経症状は本症には必発です。全例に中−高度の知的発達遅滞をみます。知能指数(IQ)が50以上を越えるお子さんは少ないです。多くは単語のみがしゃべれて、きちんと文章までしゃべれる方はまれです。有熱性ないし、無熱性(てんかん性)痙攣を約半数にみます。でもこのけいれんは薬でコントロールし易く、難治性てんかんはまれです。
c.検査所見
血清クレアチンキナーゼ(CK)値はデュシェンヌ型よりは低いのですが、数千単位の高値を示します(通常の10−30倍)。脳CT/MRIで多小脳回、小脳内の小嚢胞、白質髄鞘化の遅延をみます。筋電図は筋原性で、末梢神経伝導速度は正常です。
福山型先天性筋ジストロフィー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/06/15 21:38 UTC 版)
福山型先天性筋ジストロフィー(ふくやまがたせんてんせいきん - 、Fukuyama type congenital muscular dystrophy; FCMD)とは、先天的に筋力低下が見られる先天性筋ジストロフィーの1つ。日本では先天性筋ジストロフィーの中で最も多い疾患である。
- ^ Fukuyama, Y.; Kawazura, M.; Haruna, H. A peculiar form of congenital progressive muscular dystrophy: report of fifteen cases. Paediat. Univ. Tokyo 4: 5-8, 1960.
- ^ Toda T, Yoshioka M, Nakahori Y, Kanazawa I, Nakamura Y, Nakagome Y (1995). "Genetic identity of Fukuyama-type congenital muscular dystrophy and Walker-Warburg syndrome". Ann. Neurol. 37 (1): 99-101.
- ^ 神戸大、筋ジストロフィー「福山型」治療に道 日本経済新聞 2011年10月8日閲覧
- ^ Pathogenic exon-trapping by SVA retrotransposon and rescue in Fukuyama muscular dystrophy Mariko Taniguchi-Ikeda, Kazuhiro Kobayashi, Motoi Kanagawa, Chih-chieh Yu, Kouhei Mori, Tetsuya Oda, Atsushi Kuga, Hiroki Kurahashi, Hasan O. Akman, Salvatore DiMauro, Ryuji Kaji, Toshifumi Yokota, Shin’ichi Takeda7 and Tatsushi Toda: Nature 10/8/2011
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固有名詞の分類
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